では、どうぞ。
「………なんで、こんな時間に起きたのかしら」
妙なまでにスッキリとした頭と、すっかり冴えてしまった眼。驚くほど快適な目覚めは、けれど、外の暗さでため息が出てしまう。
時刻は早朝四時。
電気の消えた部屋よりは明るく、外だけを見ればまだまだ暗い時間。
当然、隣で眠る彼は見てて微笑みたくなるような寝息を立てている。
「(寝直すのは…ちょっと無理よね)」
もぞもぞとベッドの上で寝返りを打ちつつ呟く。
ホント、なんでこんなに気持ちいい目覚めなのかしら。毎日こうならいいのに。
「(まぁいいわ。起きちゃったのなら、できることをしましょう)」
恋しい彼の温もりから離れる決意を言葉にし、やっぱり不思議なほど快調な身体を起こした。
「………」
私が動いたせいで、首を少し動かしたけれど、まだ彼は眠っている。
「(早起きは三ゴールドの徳、って聞いたことあるけど、こういうことだったのね)」
薄く笑って、こっちを向いている彼の頬に唇を当ててから、部屋を後にした。
「さてと。起きてきたはいいけど、まず何をしようかしら」
庭で楽しげに鳴く小鳥達の口笛を耳にしながらソファに座る。上から下に降りてきただけなのに、外はさっきよりも明るい。
朝食の準備はいくらなんでも早すぎるし、洗濯物は昨日全部おわしちゃったからない。
他にやることといえば、いつも後回しにしてしまうようなお風呂を洗うことか…思い切って全部の窓を拭いたりだろうか。
「お風呂掃除はまだしも、窓を全部拭くのは気合がいるわね…」
大したことでもないのに本気になって考えてしまう。
…このまま、くだらないことを考えるのに時間を使うのもアリかもしれないわね。
そんなことを考えながら、ふと、今日が何日か気になった。
いつもなら存在すら忘れている物なのに、なぜか今は異様なまでに日付が気になって仕方ない。
何をするのか考えるのをやめ、部屋を見回す。
けど。
「…あれ?この部屋にはなかったんだっけ」
あったと思っていた場所にカレンダーがかかっていなかった。
「おかしいわね。隣の部屋だったかしら」
ソファから立ち上がり、お客用の部屋まで足をのばす。
けれど、やっぱりそこにも無い。
「……?」
まだ半年分くらいは残っているから処分したとは考えられない。というか、そもそも私は捨ててないし、彼が捨てるところも見ていない。
頭を悩ませながら部屋に戻り、再びソファに座りなおす。
「う〜ん?どこかに纏めたりもしてないはずだし…」
魔物か妖精のイタズラくらいしか思いつかない。でも、少なくとも魔物はこの家の中には入って来てないし、妖精だって旅してる間に会ったことがあるのはラジュさんくらいだから考えにくい。
…そう言えば、昨日彼は私より後に寝室に来てたっけ。
「もしかしたら何か知ってるかも。起きて来たら聞いてみましょうか」
自分で考えてわからないなら他の人に聞くのが一番だ。考えることを一旦やめて、とりあえず今できることをしなきゃね。
「…って、もうこんな時間!?そろそろご飯の支度しないと!」
なんとなく確認した時計はもう間も無く六時を示すところだった。
すぐにソファから立ち上がり、台所へ向かった。
「……………。
やっぱり、どこにも無かったわね…。カレンダー」
時刻は間も無く十八時。丁度、カレンダー捜索を辞めた時間と同じだ。
あの後、ご飯を作ったり食べたりしたお陰で、すっかりカレンダーの事を聞きそびれてしまったのが今でも悔しい。
結局今日一日、ずっと消えたカレンダーの事で頭がいっぱいになってしまった。
家事や便利そうな魔法の開発をする間もひたすら考えていたせいで、パッとしないままいろんな事を終わらせてしまったから、変に気持ちが悪い。
それに、何か大事な事を忘れているような気がしてならない。
「で、でも良いわ。そろそろあの人が帰ってくる頃だし、ようやく気分が晴れるわ!」
夕飯を作る今この時でさえ私を悩ませ続けるこの疑問。それがもうすぐ解けるのかと思うと嬉しくなってくる。思わず、料理を盛り付けるのが楽しくなる。
「ただいまー」
「…!
お帰りなさーい!」
玄関の方から聞こえたドアの開く音と彼の声。
ようやくこの悩みから解放されるのね!
途中の料理も気に留めず、急いで手を洗い、拭いながら彼の元へと向かう。
「ねぇあなた。ちょっと気になったんだけど…って、え?」
部屋のドアの前で彼に鉢合わせする。少し身体がぶつかりそうになったけど、驚いたのはそれじゃ無い。
「はい、これ」
彼が差し出して来たのは、布が入っているっぽい大きめの包み。
「え、あ、ありがとう」
「開けてみて」
何が何だか分からないまま、彼に言われた通り包みを開ける。
中に入っていたのは、私がいつも来ている物と同じ服だった。
「……??」
これは、もしかしなくてもプレゼントだろう。
でも、プレゼントを貰える理由がわからず、謎は解けない。
「………もしかして、要らなかった?」
不安げに見つめてくる彼。
私はそれを否定するために首を振る。
「う、ううん。嬉しいわ、嬉しいけど…」
「…ふふ、そっか、まだ気がついてないか」
「へ?」
不安な顔をしていたと思ったら、一変して楽しそうに笑い出す彼。
……そんなにお仕事大変なのかしら。
「ううん。なんでもない。ただ、何か今日までて気が付いたことってなかった?
何か、家の中からなくなってるとか」
楽しそうに質問してくる彼に、私は、えぇ、と答える。
「カレンダーが無かったわ。模様替えしたのかとも考えたけど、ここ一ヶ月ではそんなことしてないし…」
「それ、僕が隠したんだ。ゼシカを驚かせようと思って」
「…どういうこと?」
私が首をかしげると、彼は左腕を持ち上げて、白くて小さな箱を目の前に持ち上げる。
その箱からはほんのりと甘い匂いがした。
「ゼシカ、いつもありがとう。これからも迷惑をかけると思うけど、最後の日まで一緒にいてくれると嬉しいな」
その言葉と、重なる彼の唇で、疑問だったことに答えが出た。
そうだ。どうしてこんなに大切な事を忘れていたんだろう。
今日は、彼との一度目の結婚記念日じゃない。
「………っ」
いつもよりも長いお帰りなさいのちゅー。
まだケーキの匂いが残っているからか、とても甘く感じる。
「ごめんね、驚かせたくて」
「…いつから、隠してたの?」
「一ヶ月半くらい前から、かな」
「そう…。そんなに前から準備してたんじゃ、気がつかないわけだわ」
少しぼうっとした頭で彼からケーキを預かり、食事をしているテーブルの上に置く。
あんまり明るい感じの動きじゃ無かったからか、後ろからついて来ている彼申し訳なさそうに苦笑いした。
でも、そんな態度をとったのは怒ってたからとか、そういうのじゃない。
ただ、嬉しすぎてどうすればいいかわからないだけ。
「…こんなサプライズ、喜ばない人なんていないわよ」
「…それなら良かった」
呟いて、彼は微笑んだ。
それから、作り終えていた料理を二つ彼に渡し、テーブルへと運んでもらい、残りは私が持っていった。
私の作った料理以外にテーブルの上乗っているのは、彼の買ってきてくれたショートケーキ。
いつもよりも心の弾む夕飯。合図は、戴きます。
そこからはいつものような他愛のない会話をしながら食事を楽しんだ。
どこにカレンダーを隠したのかとか、今は作ってないあの服をどうやって手に入れたのかとか、そんな話をしながら。
…どうして、今持ってる服よりも胸のサイズを大きめにしてもらったのか、とか。
私、胸元がキツイ、なんて彼に伝えてたっけ。
メインが終わり、デザートを食べる時。
私は彼に宣言した。
「あなた?明日は覚悟しておいてね。私が負けず嫌いなの、知ってるでしょ?」
彼は、お手柔らかに、なんて笑いながら言ってたけど、私にはそんな気全然ない。
……久々に、バニースーツを着る時が来たみたい。
To be next story.
ゼシカ、可愛いよゼシカ。現実世界じゃ一年以上経ってるけど、君たちの世界ではこの日が記念日なんだよゼシカ。
作者の計画性の無さを怒らないでゼシカ。
それではまた次回。
さよーならー