すごい好き(語彙力の欠如)
では、本編をどうぞ。
「ねぇゼシカ」
「なに?あなた。はい、あーん」
最近の定位置ーーー彼の真横に座る私は、一口サイズの大きさに分けられた料理を彼の口に運ぶ。
「あーん。うん、美味しい。
…じゃなくて」
「なに?」
どこか辛そうな表情で口を開く彼。
どうしたのだろうか。
「あの、言いづらいんだけどさ」
「それなら無理して言わない方がいいわよ。
はい、あーん」
私は彼の口を塞ぐようにして料理を運ぶ。
「あーん。…なにこれ、いままで食べたことない味だ」
「あら、気付いちゃった?それはね、この前ゲルダさんに教わった料理なの。
ヤンガスの好物らしいわ」
「へぇ….珍しい味だね。ちょっと変わってて、また美味しいよ」
「えへへ、よかった。
何度か作ったけど、ちょっと難しくてね。ようやくあなたに出せるくらいには上手になったんだ」
そう言って私は微笑んだ。
彼がケガをして帰ってきた日から幾日か経った。
完治するまで仕事はおやすみで、トイレ以外は殆ど私がつきっきり。
ケガをしている彼には悪いけど、常に彼の傍にいれる事はこの上なく幸せだ。
このままそんな日々がずっと続いて欲しくてたまらない。
けれど、その時は突然訪れる。
「ゼシカ…あのさ」
「んー?」
次の料理を彼の口に運ぼうとしていると、妙に重たい雰囲気になったことに気づく。
事態の深刻さ…という程ではないだろうけれど、フォークとスプーンで運ぼうとしていた料理を取り皿に一旦置い彼に向き直る。
「えっとさ、その…実はね、腕…治ったんだ…
腰も…」
「えっ!?」
「ほら、若干筋肉は落ちたけど難無く動かせるよ」
そう言って彼は、手を握ったり開いたり、腕を軽く回したりして完治した事を教えてくれる。
「な、なーんだ!それなら早く言ってくれればいいのに!
よかったぁ!」
「…本当?」
訝しげに問う彼。
「あったり前じゃない!
愛しい旦那様のケガが治ったんだから嬉しくないわけないわ!」
少しだけ大袈裟に喜んで見せる。
当然、本心からの言葉だ。
嬉しいに決まっている。
今でこそ見なくなったけど、初めの頃の、彼に痛み走る度にうずくまる姿を見ると、とても一緒に居られることに喜びなんか感じていられなかった。
「ならもし、今すぐ『あーん』ってするのをやめて、前みたいな位置に座ってって言ったらどうする?」
「そ、それは…もももも、勿論やめるし、移動するわよ!」
言いながら椅子を以前の位置、つまり彼とテーブルを挟んで向かい合う形に戻す。
「もしかして、僕の世話をするのは嫌…だったかな…」
悲しそうに俯く彼。
もしかしてもなにも、嫌なはずがない。
彼の力になれるならどんなに辛い事だってやり通す自信がある。
だって、彼が好きだから。
でももし、ここで弱い心を出したなら…
「嫌!…って程じゃないけど、大変だったのは間違い無いわね」
胸の下で腕を組んでそんな事を言う。
嘘だ。
大変どころかもっとお世話をしてあげたい。
けれど、そんな事を言ったら彼に嫌われるかもしれない。
そんな女々しい姿を見せたら、きっと…。
「そっか…
じゃあ僕は、ゼシカにちょっとは嫌われちゃったのかも」
「なっ!!」
「だってほら、旅をしてる時だったらきっと『男のくせに甘え無いの!』ってくらい言ってたのに、ケガをした日から今日までそれらしい言葉を一つも聞かなかったからさ…
怒る気も無くしたのかな…って」
しまった…。
彼に余計な心配をさせてしまった。
だめだ、彼の身体がみるみる内に小さくなっていく…ように見える。
「うっ!た、確かに、昔はそんな風に言ったりもしたけど…
あれはなんと言うか、その、私なりの激励だったって言うか…えぇと…」
今更なんと言い繕っても綻ぶだけとはわかっている。
けれど、そうでもしなければ…
「ねぇゼシカ」
「は、はい!?」
「もしも僕が君の事を今すぐ抱きしめたいって言ったらどう思う?」
急に彼は何を言い出すのだろうか。
そんなの私からお願いしたいくらいなのに。
けれど、そうは言えない。
「そんなの、食事が終わってからに決まってるでしょう?
お行儀の悪い」
反発するような言葉を返す。
だって、前の私ならそう言うに決まっているから。
「じゃあ、食事中じゃなかったら?」
「それでもだーめ。次はお風呂に入らなきゃ」
「どうして?食事中なのがダメなのはわかるけど、なんでお風呂の前はダメなの?」
「なんでって…汗臭いじゃない」
「僕はそれでも構わないよ?」
「…へ?
「ゼシカは嫌がるかもしれないけど…僕はそう言う部分も含めて全部が好きなんだ。
それでも、ダメかな?」
ダメなわけないじゃない!!!!むしろウェルカムよ!!!
そう叫びそうになるのを必死に我慢する。
そんなの昔の私じゃないもの。
だから、そんな姿を見せるのはダメだ!
「僕は今まで、ククールみたいに仲の良い女の人がいないからわからないけど…」
ふわりと彼の匂いが私の嗅覚全てを覆う。
同時に、彼のがっちりと引き締まった胸板に私の顔があったった。
「好きな人が何かを悩んでいるんだって事くらいなら、僕にだって察しがつく。
それが、ずっと旅をしてきた仲間だったら尚更だ」
彼の手が私の腰に回るのがわかる。
するすると撫でるように優しく伝う。
「相談して、なんて身勝手な事は言わないよ。同じ女性にしか相談できない悩みだってあるだろうし、むしろそのせいでゼシカが苦しむ時だってあるだろうから。
だから、君が相談したくなったらしてくれれば良い」
でも。
彼はそう続けた。
「身体を寄せ合うだけで解決する事だってあると思うんだ。
これから先に誰にも相談出来ない悩みが出来たらなら、まずはこうして欲しい。
その場しのぎだとしても、気持ちは楽になるはずだから」
そうして彼は、私を深く抱擁した。
彼の鼓動、彼の体温、彼の呼吸、彼の想い。
言葉では言い表せない『何か』が私に伝わった時、強がりすぎて突っ張りきっていた心がはち切れた。
「…私は…あなたに嫌われたくない…!
勝ち気で、強がりで、負けず嫌いで、思い込んだら周りが見えなくなる…そんな私があなたは好きなんだと、結婚式を挙げたあの日から今日までずっと思ってた!
だって、そうでもなきゃ説明がつかないだもの…!
あなたが私を選ぶ理由が!」
弱さを晒し続ける私を、それでも彼は抱擁して離さないでくれる。
それは感謝なんて弱い言葉で表現しきれない程に嬉しかった。
「なら、私は演じて見せるしかないじゃない。
昔のままの、あなたの好きな私を!」
とうとう言ってしまった。
何が何でも隠し通すべき一言を。
最低だ。
卑しくて汚くて魔物のような、でも間違いなく私だ。
こんな忌むべき姿はどんな人ですら受け入れられないだろう。
けれど、彼は違った。
「どんなゼシカでも僕は好きだよ。大好きだ」
彼の顔を見上げる私に、にこりと微笑みを返す。
彼は、私の頬を優しく拭うと言葉を繋げた。
「どんなにボロボロになっても絶対に引かない負けず嫌いなところや、相手が屈強な男だったとしても水を頭からかけられる勝ち気な姿。
それに、旅の途中で時々見せた花を愛でる可愛らしい君のどれもが大好きだ。
心の底なんて浅瀬じゃない、もっと深い部分から君を好きだと思ってる。
本当は、それを結婚式に言うべきだったのに、言わなくて…ごめん。
色んな人の手前、すこし、気取ってみたかったんだ。
でも、そのせいで君をこんなにも苦しませた。
僕は、旦那失格だ」
「そんな事ない…そんな事ないわ!」
彼の言葉を遮って続ける。
続けようとした。
でも、もう、言葉が口から出ない。
口を動かしたくても、喉を震わせたくても、脳が邪魔をする。
彼は悪くない。何一つとして悪くない。
そう言いたくて仕方がないのに。
それと同時に、『そう続けたら彼の想いを否定してしまうんじゃないか』と思ってしまったのだ。
「いいんだ、もういいんだ、ゼシカ。
これ以上君が苦しむ必要はない。これ以上君が悩む必要はないんだ。
君は充分に自分を痛めつけてきたんだ。だから、もうそろそろ自分のために生きてもいいと思うんだ」
「…ホント?」
「本当だよ」
「ホントにホントの本当?」
「本当に本当のホント」
「嫌いになったり…しない?」
「なるはずないさ」
「あなたが思っている以上に、私は弱くて甘えん坊かもしれないわよ…?」
「むしろウェルカムさ!
好きな人に甘えられるのが嫌な人なんて…少なくとも、男にはいないと思うよ!
あのモリーさんだってそうなんだから!」
「ぷっ…ふふふふ、あははは!
そうなんだ、あのモリーさんでもそうなのね!」
「そうだよ。あの、モリーさんですら甘えられるのが好きなんだから」
「へぇ〜、甘える方が好きな感じしかしないモリーさんも甘えられるのも好きなんだ…」
「そうそう、だからねゼシカ」
そう言うと、何故か彼の顔が近くなる。
それはとても近くて、鼻が当たるくらいに近づいて…。
「甘えたくなったらいつでも来てね。
僕もそうするからさ」
何かが私の唇に触れたような気がした。
それは間違いなく彼の唇なのだろう。でも、そうじゃない。そうじゃないのだ。
優しさというか、なんというか…こう、五感で感じることはできても、形で表せはしないもの。
これが多分『安心』なのだろう。
「あ、あ…あな…」
私は旅に出てから今日まで、本当の意味で安心を感じてはいなかったのかもしれない。
一人で旅をしようとしていた時は見るもの全てが敵に見えて。
みんなと旅をするようになってからは『絶対に勝てる』という強い信頼はあっても、内心どこかで裏切られるんじゃないかって怯えていたのかもしれない。
そんな疑う心をラプソーンにつけ込まれたのかもしれない。
「大丈夫だよゼシカ。
これからは、僕が君だけの騎士になる。絶対に誰にも傷つけさせはしないし、絶対に悲しませたりしない。
だから今日はゆっくりと泣いたらいいよ。いくらだって僕が側にいるから」
「う、うう、ううう…グスッ…。うわぁぁぁぁぁ……!」
私は彼の胸に顔を押し当てると、喉が裂けんばかりに声を上げて泣いた。
記憶が飛ぶくらいに涙を流した。
泣いて、泣いて、泣いて、泣き疲れた頃には外は朝焼けへと移り変わっていた。
「ふぐっ…ぐす…」
「落ち着いた?」
「…うん」
「そっか、なら良かった。それじゃあ、何をしようか?
食事の続きか、眠るか…それとももっと別のことをするか。
好きなことを選んでいいんだよ」
「…お風呂」
「へ?」
「一緒に…お風呂はいってちょうだい。
前みたいに、私が服を着たままじゃなくて、互いに裸を見せ合う状態で」
「…よぉし、なら早速お風呂を沸かそうか!」
「…それと、私の身体を洗って欲しいな」
「えっ?」
「…いや?」
「手洗いとアカスリのどっちがいい?」
「…恥ずかしいけど手洗いで…」
「喜んで!」
『ギェェェーーー!!!』
「ふ、ふふふ」
「あは、あはは」
怪鳥・キメラの鳴き声は朝を告げる声。
私たちは、どこか愛嬌のあるキメラの鳴き声を聞いて笑い転げた。
お母さん。
結婚式の少し前、扉を開ける時にお母さんが言っていたことは本当でした。
『彼に限ってそんなことはない』
お母さん、これから私はようやく彼とこの先を歩いて行けそうです。
「それじゃあすぐにお風呂を用意してくるね」
この頼りないけれど、すごく優しい旦那様と。
「…アカスリの方にして貰えば良かったかも…」
なんて事を言いながら、私はテーブルに乗ったままの食事を簡単にまとめて、上から虫除けの網を被せた。
To be next story.
ゼシカ好き。
結婚したい。
ギュってしたい。
お風呂は一緒にはいって、身体を手洗いしあいたい(何の店だ)
欲望ダダ漏れのお話でした。
それではまた次回の更新で。
さようなら。