私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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最愛の人がそばにいるだけでなんでもない日が素敵な一日になる、とはよく聞きますが、実際そうだと思います。
…私の最愛の人は画面の中のままですが。

それでは、どうぞ。


第三十六話 私と彼と特別な日

「…ゼシカ?」

 

ベッドに座る彼の戸惑いの声と視線。

普段よりは遅い朝に、彼も気が抜けていたんだろう。

だとしても、混乱するのは当然だ。

だって、そうなるように私が仕組んだんだもの。

 

「ふふ、どうかしら。たまにはこういうのも良いかと思って」

 

舞踏会に参加したお姫様のようにくるりと回って彼に全身を見せる。

今日のために引っ張り出したんだもの、しっかり見てもらわないと。

 

「…いいんじゃ、ないかな」

 

「あら、本当かしら?」

 

ドレスほどは長くないスカートの裾をつまんで、それっぽくお辞儀をしてみる。すると彼はすぐに視線を逸らした。

もしかして、顔が赤くなってるのかしら。普段と違う服を着ると印象も変わるのね。

 

「ほらあなた。こっちを見てよ。あなたのために着たんだから」

 

逸らした視線の前へ身体を持っていく。

やっぱり、彼の顔は真っ赤で、私の顔を見るや否や驚いた。

そんな仕草が嬉しい。

今日の私が着ているのはシャイニーチュチュ。普段着や私服とは比べ物にならないくらいの派手さと明るさ、そして露出度を誇る衣装のような防具。

それこそ、ステージの上で踊るアイドルのような服装だ。

 

「う、うん。ちょっと待ってね」

 

「ふふ、いいわ、いくらでも待ってあげる」

 

相変わらず恥ずかしいみたいで、私に背を向けてしまう彼。

出来ればもっと見て欲しいし、褒めてもらいたい。

でも、そうしてもらえないのなら…。

 

「……!!ぜ、ゼシカ!?」

 

「どーお?普段触れないはずの肌が触れるのは」

 

彼の首元を両腕で挟むようにして後ろから抱きつく。

これなら、見てもらえなくても意識してもらえるはずだから。

……死ぬほど恥ずかしいのを我慢する必要はあるけど。

 

「………心臓が飛び出しそうなくらい、恥ずかしいけど、嬉しい、かな」

 

「あ、あはは。それなら良かった。なら、もう少しこうしててもいいかしら?」

 

「うん、全然構わないよ」

 

彼の熱を直で感じ、私自身、火照っていくのが分かる。

いっそ、頬擦りでもしてみようかしら。

 

「ねぇ、あなた」

 

「ん?」

 

「今日、なんの日か知ってる?」

 

少しだけ、怖い質問をしてみた。

多分、彼は知らない。初めから意識してなければ忘れていて当然のコト。

それでも、知らないと言われたら、ちょっとだけ悲しい。

期待と寂しさを胸に彼の返事を待つ。

…うん、忘れていても、今日からまた始めればそれでいいの。

諦め半分で思っていると。

 

「僕たちが初めて会った日、だよね?」

 

「…覚えてたんだ…」

 

不安が全て吹っ切れたような喜びか手に力を込める。

そう、今日は彼と初めて会った日だ。

彼がリーザス村に訪れ、リーザスの塔を登り、その頂上で私と会った、覚えていてほしいけれど忘れてしまっても仕方の無い日。

だって、その時は私も彼もまだ好き合ってなかったんだもの。

だから、覚えていてくれたことがこんなにも嬉しい。

 

「ちょっ、ゼシカ!?」

 

「いいじゃない。誤差よ、誤差」

 

喜びのあまりさっき思いついた頬擦りをしてしまう。

見えてないのに、彼の照れて恥ずかしがる顔が手に取るようにわかる。

ふふ、でもダメ。逃がさないんだから。

 

「…なら」

 

「えっ?

んっ………!」

 

擦りあってたはずの彼の頬が急に離れたかと思うと、私の唇に何かが当たる。

……なるほど、反撃ってわけね。

 

「さ、そろそろ下に行こうか。

今日は僕が作るよ」

 

「……えぇ、そうね。行きましょうか」

 

離れていった唇に名残惜しさを感じつつも、彼の言葉に頷く。

出来ればもう少し戦いたかったけど、お腹が減ってるのも事実。

それに、まだ私のターンは終わったわけじゃない。

あなたには、もうちょっとだけ驚いてもらうわよ?

 

 

 

 

 

「…これ、いつの間に作ったの?」

 

「ふふ、昨日の夜に準備して、今朝早めに起きて整えたの」

 

食事をする部屋に来た彼が最初に目にしたのは、テーブルの上に並ぶ、一口サイズに切られて串に刺された食材と、グルーノさんから譲ってもらったチーズの流れてくる二つの二段の塔。

いわゆる、チーズフォンデュのアレ。

 

「あなたって、苦手そうな顔をすることはあっても、なんでも食べてたじゃない?だから、何が好物なのか分からなくてグルーノさんに聞いたんだけど…。

『竜人族ならチーズじゃ!』って断言されてね、だから用意してみたんだけど、どうかな」

 

「どうだろう。チーズは非常食用としてしか考えてなくて、好きか嫌いかわかるほど食べなかったから、分からない」

 

「あー、そう言えばそうね。

しかも、その非常時に食べようとするとトーポがグルグル唸ってたし」

 

「そうそう。

それに、僕の好物はもう決まってるしね」

 

「えっ!?初耳なんだけど!」

 

驚きの言葉に思わず食いついてしまう。

どうして分かった時に、私に言ってくれないのよ。

 

「あ、いや、今のは忘れて」

 

「何よそれ。言ってよ」

 

知らず知らずのうちに言葉に棘が出てしまう。

でも、仕方ないと思うの。だって、秘密にされてたんだし。言ってくれる気すらないんだもの。

 

「いや、ほら…

僕の好物はゼシカの使ってくれる料理、なんてちょっと言い辛いよ」

 

戸惑い、口籠るも、私の視線で諦めたのか彼は好物を口にした。

答えのようで答えではない言葉で。

 

「…どうしてよ」

 

「どうしてって…、なんて言うか、ちゃんと考えてないように聞こえるし…。それに、そういうことが聞きたいわけじゃないだろうから、言えなかった、かな」

 

「そう。なるほどね」

 

小さく呟いてから、席に着く。不安げな顔をしたか彼も後に続いて椅子に座った。

とりあえず私はフォンデュの塔に魔力を込めて動かす。塔の内部には込められた魔力をメラ系の呪文に変換する魔道具が付いているらしく、固まり気味だったチーズも少しずつ溶けているようだ。

 

「ねぇ、あなた。ご飯を作る時に、いつも考えてることってなに?」

 

「えっ?

え、えーっと…相手が喜んでくれるかどうか、かな」

 

私の差し出した串を受け取りつつ、彼は答える。

 

「そうよね。私もそう思いながら作ってる。

だから、次からはちゃん言ってね?そりゃあ、特にこの料理が好き、って言ってもらえた方が作る側としては良いけど、決められないくらい全部好き、って言われたらもっと嬉しいんだから」

 

自分で口にすると恥ずかしくなる言葉に、顔を晒してしまう。

なによ、私の作る料理は好物、って、そんなこと言ったら、私だってあなたの料理が一番好きに決まってるじゃないの。

 

「…!

わかった!約束する」

 

「あ、だからって、どれが特に好きか、を決めないで良いってわけじゃないからね?

それさえわかれば、次からの記念日とか、迷わなくて済むから」

 

「う、うん。頑張って決めるよ」

 

「だいじょーぶよ。好物の中から大好物を選ぶだけなんだもの、それ以外のがまずいものになるわけじゃないんだし、気軽に言って!」

 

滑らかな滝のように流れ落ちる塔のチーズ。

部屋に充満する匂いは、やわらかチーズといやしのチーズ。辛口チーズも予備にあるから、きっと味に飽きることはない。

 

メインのようなデザートのような食事は、どんな食材を使った料理が好きか、という話題で持ちきりのまま、和やかに続けられた。

…結局、お互いに大好物を決められはしなかったけどね。

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 




シャイニーチュチュとは、リメイク版8にて見た目が変わる衣装として追加された防具です。
正直、破壊力がヤヴァイ。
あれで惚れるなっていうのは無理なお話。
…まぁ、私の場合はその前から好きでしたが!

ではまた次回。
さよーならー
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