私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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…たまーにお祭りとか行きたくなるんですけど、基本人混みが苦手な私は、結局行かないんですよね。
え、浴衣姿のゼシカが付き合ってくれる!?
行きますねぇ!


………。
では、どうぞ。


第三十九話 私と彼と散るための花と

「ただいま」

 

「おかえりなさーい」

 

玄関から届く待ちわびた人の声。

静かに響いて来る足音。あぁもう、待ちきれない。

駆け出しそうになる気持ちをグッと堪えて、彼を待つ。

テーブルの上に用意された夕食と、手にした珍しい物と一緒に。

 

「ただい…」

 

「おかえりなさい!」

 

「ちょ、どうしたのゼシカ?」

 

「ふふ、疲れてるのにごめんなさいね。でも、つい」

 

彼がドアを開けた瞬間、私は抱きついてしまった。もちろん、すぐに離れたけど、戸惑う彼の顔が可愛いくて、もう一度飛びつきたくなっちゃう。

 

「それは大丈夫だけど、それは…?」

 

「あら、気づいちゃった?」

 

私が右手に持っている、中が透けて見えるちゃうくらいの袋。

絵本ほどの厚さは無くても、魔道書よりも縦幅があるこれは。

 

「花火よ」

 

「花火?」

 

「そ、花火」

 

いまいちよくわかっていなさそうな彼。

それもそうだ。私たちの知ってる花火は、空に打ち上げられる大きな花だけ。初めてこれを見つけた時私も同じくらい混乱したし。

 

「凄いわよね。

今までは大切な行事とかお祭りとかじゃないと出来なかった花火が、今は家でも出来るのよ!」

 

「え!?み、見せて!」

 

「えぇ、もちろん!」

 

花火の袋を渡すと、彼は少し真剣な顔をして注意深く観察し始める。

まるで、ダンジョンなんかで見つけた不思議な石碑とかを調べるように。

 

「…なるほど。火薬を包んで、先に火を着けるんだ。花火の筒…棒?毎に色が変わってたりするから、その色が出るのかな?」

 

独り言のようにこぼす彼は、次は袋を開けて中身を取り出そうとしはじめる。

 

「もー、今はそういうのいいでしょ?解かなきゃ出来ないわけじゃないんだし」

 

流石にそれを許すわけにはいかない。

これ以上エスカレートする前に、ストップをかけた。

作りがどうなってるのかは気になるけど、それだとロマンに欠けるから、やり終わってる明日までその好奇心は取っておいてほしい。

 

「ん。ごめん、そうだった。

ダメだね。ついつい気になっちゃって」

 

「ま、気持ちはわかるわ。これ、魔法とかほとんど使われてないみたいだし」

 

「へぇ、珍しいね」

 

「そ、だから思わず買っちゃった。

ご飯終わったらやりましょ!」

 

「そうだね。

じゃ、早速荷物置いて来るよ」

 

笑顔で頷いた私を見ると、彼は道具袋とかを置きに二階に上がっていった。

 

「さてと、私もサクッと用意おわらせちゃいましょうか!」

 

独り口にして、中断していた料理の仕上げに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからか、フクロウの鳴く声がする。

きらきら輝いている空の海は、今日に限っては暗く感じる。

月でさえも。

 

「ホント、綺麗ね」

 

「うん。

楽しいね」

 

「えぇ、なんでもっと昔からなかったのか悔しくなるくらい楽しいわ」

 

家の横。ソファなんかが置いてある部屋の外で、二人でベンチに腰掛けて地面を照らす眩い光を眺める。

私の持つのはシュゴゴゴと音がして横に持ってもあまり落ちずに真っ直ぐ輝く花火で、彼のは筒が少し柔らかくて横にするとすぐ下に落ちてしまうけれど色が綺麗な花火。

部屋のカーテンを閉めているせいか、周りは暗い。けど、私たちのところだけが、照らされたように明るい。

なんていうか、不思議な感覚。

 

「……そうだ、もしかしてこれ…」

 

「…?急に立ち上がってどうしたの?」

 

「ううん、ちょっと面白いこと思いついたの」

 

私が答えると、彼は更に困った顔をして首を傾げた。

 

「ま、見てて。

……ヒャド!」

 

「えっ!?」

 

花火を体と垂直になるように前へ出し、先端に魔力を込める。

魔力は、普段よりもゆっくりと氷を象り始める。燃えている先端を包むようにして、溶けるよりは速く、いつもよりは遅く。

少しずつ氷が光を覆いはじめる。ゆっくりと、着実に。けれど花が散ることはない。

やがて完璧に凍ると、氷が覆っている部分とそうじゃない部分の二つに別れ、地面に落ちた。

 

「…ふふ、思ってた以上みたい」

 

屈んでそれを覗き込む。

 

「……凄い」

 

それは、氷の中で輝く花の結晶。

思っていたよりも簡単に、想像以上に美しく出来ていた。

 

「…うん、手に持っても大丈夫みたい。冷たくも、熱くもない、丁度いい感じ。

はい、あなた」

 

「ありがとう。

…ホントだ。うん、やっぱり凄い。こんな事できるなんて」

 

「ふふん、当然よ。だって、大魔法使いのゼシカ様よ?このくらいどうって事ないわ」

 

拾い上げられた氷の花を二人で眺める。

中で未だに咲き続けるピンク色の花。思わず息が溢れてしまうほどの鮮やかさ。

 

「これ、どこかに飾ろうか」

 

よっぽど気に入ったのか、彼は手に持ったままずっと花を眺めている。

氷の膜がある分、目に優しいから見つめ続けててもあまり痛くない。

 

「それは…多分無理ね。

中の火薬の入ってる部分が全部燃えたら、消えちゃうと思うわ」

 

「そっか」

 

「…あ」

 

彼と話していた少しの間しか目を離していなかったのに、視線を戻した時にはもう、花はほとんど枯れていた。

 

「…ちょっと、寂しいわね」

 

それから少しもしないうちに花は散ってしまった。

私よりも凄い魔法使いがいたのなら、きっと花火の光を永遠のものに出来たんでしょうね。

そうしたら…

 

「そうだね」

 

彼に、こんな顔をさせなくて済んだのかな。

 

「もう、そんな顔しないでよ。

まだまだ花火はあるんだからいくらでも作ってあげるわ」

 

こんなに楽しい時間を悲しいものに変えたくない。

だから私は、少し無理を言ってみた。あの氷の花は結構魔力を使うからあんまり沢山は作れないけど、でも、彼が笑ってくれるのならどんなに疲れても気にならないわ。

 

「…なら、もう一回作ってほしいな」

 

「お安い御用よ!」

 

頷いて花火を手に取る。

今度は二本取って同時に火を付けて、さっきと同じ要領でヒャダルコを唱えた。

そうして出来上がる大きな氷の花。

中には、一対の花火。

 

「うん、上出来!

今度は長めに氷の中に入れたから、すぐには消えないはずよ!」

 

手渡した対の花を受け取った彼は、嬉しそうな少し寂しそうな顔で「ありがとう」と言って私にちゅーをした。

あんまり唐突だったから驚いたけど…。

一度顔を離した彼の唇を、今度は私から貰いにいったりして、少しの間じゃれあった。

 

 

やがて夜は更けて、星よりも明るく光る輝きは無くなる。

あるのは、家の中の明かりだけ。

星よりも、月よりも、もちろん花火よりも、熱く輝いて見える愛しい人との言の葉の花。

テーブルの上のお皿に置かれた、二つの氷の花と共に。

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 




ちなみに、主人公君が氷の花を気に入ったのはゼシカのお手製だったのもあります。というか、七割がゼシカのお手製アイテムだったからです。
残り三割は好奇心と、花火がいつでも見られるかもしれないという期待です。

さて、それではまた次回。
さよーならー

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