私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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さてさて、この期に及んでやっぱり書くことがありません。

では、どうぞ。


第四十話 空と大地とお困り事と

ざぱざぱと響く水音。さらさらと流れる川。風が運ぶ水の匂いと草木の香り。

ここはトラペッタ地方にある滝の前。彼とヤンガスが初めて潜ったという洞窟の側。

 

「ん〜っ!久し振りに外で食べると気持ちいいわねー」

 

「うん。旅してる頃はこれが普通だったからなんとも思わなかったけど、今やってみるとスッとした気持ちになるね」

 

「ホントよね。まさかピクニックしたくなるなんて、あの頃は思いもしなかったし」

 

草原の上に正方形の大きな布を引き、その上にお弁当と水筒。

ふとした思い付きからやってみたピクニックだけど、ここまで晴れやかな気持ちになるなんてちょっと驚きだ。

なにせ、一年くらい毎日ピクニックしてたわけだし。

 

「…懐かしいなぁ。ザパンは元気にしてるかな」

 

「あー、そこの洞窟の主だっけ」

 

滝つぼの中に視線を向けて尋ねると、彼は頷いた。

 

「そう。額に水晶玉がぶつかってできた傷があって…なんか、この頃の僕ってとばっちり多いな」

 

「とばっちり?」

 

「ザパンの時もね、僕が水晶玉を投げた犯人にされてさ。勘違いで戦闘になったんだ。

…水責めと火責めをあんなに短い期間で両方受けるとは思わなかったなー」

 

彼の含むような言い方に申し訳ない気持ちになってくる。

言われてみれば、空がリーザス村に来たのはトラペッタでユリマちゃんとライネロさんの件が終わってからだったから、一週間と経たずに私に殺されかけたとになる。

勘違いで殺されそうになった後に、勘違いで殺されそうになったのよね…彼。

 

「あ、あの時は悪かったわよ…。犯人は現場に戻るって聞いてたし…」

 

「ザパンも同じこと言ってた気がする」

 

「うぐっ…」

 

彼にじとっと見られてなにも言えなくなる。

…私が悪いのは間違いないけど、しょうがないと思うのよ。だって、戻ってくると思ってたし…

 

「あはは、冗談だよ冗談。別に気にしてないって」

 

なんて考えていると、楽しそうに笑って空を見上げる彼。

…イジワル。

 

「…あなた、時々性格悪いわよね」

 

「え」

 

「ま、良いわ。パッフィーのお店で一番喜んでたのが実はあなただってこと、まだ忘れてないし」

 

「い、いや、そんなこと…」

 

「冗談よ」

 

冷や汗を垂らして否定する彼。あまりの必死さに思わず笑いそうになる。

やられたらやり返す。やられっぱなしは性分じゃないもの。

 

「さてと、お弁当も食べ終わったし、なにする?」

 

「…なんだろう?」

 

そよぐ風に揺れる髪を感じながら彼の肩に頭を預ける。

子供の頃だったら近くの川や、それこそ滝つぼの洞窟に行ったりして遊ぶんだろうけど、私も彼ももうそんな歳じゃない。

かと言ってご飯食べて帰る、って言うのもなんとなく抵抗がある。

特に思いつきもしないまま、彼と家でも出来る話を続けた。

 

 

 

 

少しして、なんとなく帰ろうか、なんて雰囲気になった頃。

 

「助けて下さーい!」

 

「「!!」」

 

遠くの方から小さな女の子の声が聞こえた。

 

「はぁはぁはぁ。

あの、助けて、下さい!」

 

息も絶え絶えに現れたのは、十歳になるかならないかくらいの小さな女の子。丁度、ユリマちゃんを小さくした感じの見た目の子だ。

 

「どうしたの?魔物…はもういないから、何か、野生の動物に襲われたの?」

 

水筒に入ってるお茶を注いだコップを少女に渡しながら尋ねる彼。

女の子はコップを受け取ると、一息に飲んで大きく息を吐いた。

 

「え、えっと…その、襲われたとか、そういうのじゃなくて…」

 

お茶を飲んで冷静になったのか、私たちを怪しむ感じで交互に見る。

無理もないわね。急いで逃げてきた先に知らない人がいたんだもの。混乱してたせいでどんな人かも確認する余裕がなかったんだろう。

 

「私の名前はゼシカ。あなたの名前は?」

 

「…ユリィ」

 

ぼそりと呟く少女ーーユリィの前で私はにっこり笑って手を差し出す。

ユリィは私の手のひらを不思議そうに覗き込む。

 

「…それっ」

 

軽く拳を握り、すぐに広げる。すると、そこには氷でできた小さなスライムができていた。

 

「す、凄い!どうやったの??」

 

「ヒャド、って知ってる?」

 

「うん!」

 

「私、呪文が得意で、ヒャドなら簡単な形を作れるの。

…ほら」

 

「うわ〜!ドラキーだ!かわいー!」

 

今度は反対の手を握り、同じようにしてドラキーを作る。それを見たユリィはキラキラと目を輝かせていた。

小さい頃に遊んだきり、久し振りにやったけど上手くできてよかった。

 

「はい、これはあげる。魔力で作った氷だから溶けづらいけど…ごめんなさい。無くなっちゃうの」

 

「ううん!大丈夫!ありがとう、ゼシカおねぇちゃん!」

 

「うん、どういたしまして」

 

渡した氷のスライムとドラキーを大事そうに手に抱えて喜ぶユリィ。

もう、殆ど使うことはないだろうと思ってた呪文だけど、意外なところで役立つ事が出来た。

たまに小さい子にこうやって配るのも良いかもね。

 

「良かったね、ゼシカおねぇちゃん」

 

「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ」

 

隣で微笑む彼に少し口を尖らせる。

…もしかして、ユリィに相手してもらえなくて妬いてるのかしら。

 

「…ねぇ、ゼシカおねぇちゃん。こっちの人は誰…?」

 

一通り氷のスライムたちを見終えたらしいユリィはわたしの袖に隠れて彼のことを覗き見る。

ぶっ、くくく。ユリィに怖がられて見られてるのがわかって凄い残念な顔してる。

 

「ふふ、大丈夫。この人はね、私の旦那様だから怖い人じゃないわ」

 

「旦那…様?

じゃあ、ゼシカおねぇちゃんはゼシカ奥様!!??」

 

「…おねぇちゃんで良いわ。ううん、おねぇちゃんが良いわ」

 

おままごとで覚えたのだろうか…。急にマダム感のある呼ばれ方をして思わず否定してしまった。

まだ、お母さんほど年取ってないもん。

 

「こんにちは。ユリィちゃん」

 

彼の優しい笑顔に、けれどやっぱり袖に隠れてしまうユリィ。

…可哀想な旦那様。精神に痛恨の一撃が入ってる。

 

「それで、ユリィちゃんはどうして助けを求めたの?」

 

「そ、そうだった!あ、あのねあのね!」

 

本題に入ると、途端にパニックに陥る。かなり緊急を要する事態かもしれない。

 

「えっと、花が、お母さんで、滝が妹で…!」

 

「…????」

 

まるで要領を得ない発言に、けれどとりあえず笑顔で頷く。

花のお母さんに滝の妹…?それでいくとお父さんは地面でユリィちゃんは空だったりするのだろうか…。

 

「…もしかして、お母さんに花を上げようとしたら妹が滝の近くで迷子になったのかな」

 

「そう!」

 

「そうなの…」

 

旅の途中のダンジョンなんかで見せた推理力は健在らしい。見事にユリィの悩みを言い当てた。

よくあんなに脈絡のない話なのにわかったわね。

 

「(ゼシカ、さっきちょっと変なこと考えてたでしょ)」

 

耳打ちをしてきた彼に慌てて違うと答える。

…なんで分かったのかしら。

 

「(旅の時もたまに変なこと言ってたからもしかしてと思ったんだけど…)」

 

「どうしたの?」

 

間に割り込むように顔を覗かせるユリィに驚き、私たちはサッと身体を離す。

そうだった、今は彼と取り留めのない話をしてる場合じゃないんだった。

 

「なんでもないわ。それじゃあすぐ探しに行きましょう」

 

「うん!」

 

立ち上がり、ユリィと手を繋ぐ。

彼女が言うには滝の近くで迷子になったらしいのだけど、それだけだと情報が少なすぎる。

 

「あ、でも…」

 

「どうしたの?」

 

取り敢えずユリィを連れて妹がいなくなった辺りを教えてもらおうとした矢先、ユリィが立ち止まる。

その視線の先にあるのは…。あっ。

 

「これは僕が片付けておくから先に探しに行ってて。あとで合流するから。

もし、僕が来なかったとしたら夕方頃に一旦ここに集合しよう」

 

お弁当や水筒を一つにまとめながらそう言う彼に私は頷く。

 

「わかったわ。悪いけど、お願いね。

行こ、ユリィちゃん」

 

「…でも」

 

「大丈夫、すぐ追いつくから」

 

「…うん!」

 

彼を置いて先に行くのを悪いと思っているのだろうユリィは、けれど彼の言葉に頷き私の腕を引っ張る。

彼の『大丈夫』には、不思議な力があるものね。ああ言われたら本当に大丈夫な気がするもの。

 

「ねぇ、おねぇちゃん」

 

「ん?」

 

少し離れたところ。滝の飛沫が風に乗って飛んできそうな場所まで来るとユリィが嬉しげに笑う。

 

「あのおにぃちゃん、優しいね」

 

「…ふふ、当たり前よ。私の自慢の旦那様なんだから」

 

少女の素直な感想に、私は大人気なく胸を張って言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 

 




続く!


ではまた次回。
さよーならー
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