私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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続きです。

では、どうぞ。


第四十一話 一つの不安と三つの花と

遠くでカラスの鳴く声が聞こえる。

はっとして見渡せば日が暮れ始めていた。

 

「ミーティ…」

 

探し疲れ、その場に座り込んでしまうユリィ。

無理もないわ。彼と別れてからざっと四時間。ずっと探し詰めだもの。むしろ、よくもった方。

 

「ユリィちゃん、少し休まない?」

 

「…いや」

 

身体は疲れて動かないはずなのに、少女は頑として探すことを止めようとしない。けれど、ここのままじゃユリィが倒れてしまう。それでは妹のミーティが見つかったところで意味がない。

 

「…ごめんなさい、おねぇちゃん疲れちゃったの。だから、少し休憩したいんだけど…」

 

「…そういう、ことなら…」

 

不満そうに俯くも頷いて私の近くに来て座るユリィ。

昔からポルクやマルクの相手をしていたからか、このくらいの歳の子がどうすれば言うことを聞いてくれるのかがなんとなくわかる。

もちろん、子供によってはダメだったりするんだろうけど…。

ユリィのように優しい子なら、ああ言えばきっと休んでくれると思った。

 

「…少ししたら、すぐに行こう。おねぇちゃん」

 

「…うん、ごめんね」

 

「だいじょうぶ」

 

ユリィは私に身体を預け、目をこすりながらそう言う。

それから少しもしないうちに、ユリィは夢の中へと落ちていった。

 

「…やっぱり、大切なのよね。

本当、どこにいるのかしら。ミーティ…」

 

私たちが今いるのは滝つぼの洞窟のある一角の外周部分の東側。

ユリィが言うにはこの辺りで離れ離れになったらしいのだけど。

 

「魔物どころか、獣の一匹もいないなんて逆に変よね。

鳥くらい、見かけてもいいはずなのに」

 

周りを見渡しながら異様なまでに静かな辺りに不気味さを覚える。これなら、悪い魔物の一匹も出てきた方が安心できる。

 

「ゼシカ!」

 

そんな中現れたのは大きな声で私を呼びながら走って戻ってきた私の旦那様。

 

「あ、ごめん。寝てたんだ…」

 

「うん。

でも、結構しっかり眠ってるみたいだら大丈夫だと思うわ」

 

「それなら良かった」

 

「それより、今までどこにいたのよ」

 

ユリィが起きないよう声を潜めて彼を問いただす。いくらなんでも四時間近くピクニックのセットをしまうのに時間がかかったとは思えない。

それと同じくらい、彼がサボっていたとも思えないから不思議なのだけど。

 

「ごめんごめん。合流するっていったけど、二手に別れた方がいいかなって思って。

ついさっきまで反対側を探してたんだ」

 

苦笑いして後ろを指差す姿を見てなるほど、と頷く。確かに、時間制限があるなら二手に別れて探した方が効率的だ。

でも、出来るなら私たちに伝えてから行って欲しかったというのが本音。要らないとは思いつつも、少しは心配したわけだし…。

そんな不満が顔から漏れていたのか、彼は申し訳なさそうに頬を掻く。

 

「僕も途中で言えばよかったって気がついたんだけどね、ついつい探す方を優先しちゃって…」

 

「ううん、大丈夫。いまはミーティを見つける方が大事だから。…まぁ、ちょっとくらい言って欲しかったっていうのはあるけど…

それで、なにか手がかりになりそうなものはあった?

 

「足跡とか、そういうのはなかったけど、情報は手に入ったよ」

 

「ホント!?」

 

思いもよらない一言に思わず出てしまった大声。慌ててユリィに視線を送る。

良かった、起きてはいないみたい。

 

「うん。嬉しいことに優しい魔物がいてね、誰かは知らないけど小さい女の子を僕たちが今いるところで見かけたって教えてくれて。

手に花を持ってたって言ってたし、多分その子で間違いないと思う。

あと、これは確実ってわけじゃないんだけど…」

 

「どうしたの?」

 

急に言葉を濁し、難しい顔をする彼に不安を覚える。

 

「…その子の後をバトルレックスが付いていってたって言うんだ」

 

「うそ…。それ、大変どころじゃないわ…!すぐに行かないと」

 

「うん、だけど…」

 

そう言って私の太もも辺りに視線を落とす彼。

ああ、そうだった。私達二人だけならいざ知らず、ここにはまだまだ幼いユリィがいるんだ。考えなしに突っ込むわけにはいかない。

 

「…取り敢えず、僕が見てくるよ。三十分しても帰ってこなかったら、ユリィと一緒に街に助けを呼んできて」

 

「ダメよそんなの!

バトルレックスは私達にしてみても充分強敵だし、それに、ミーティを保護する人と、戦う人に別れないと、その子を無事に助けられる確率が少なくなっちゃう」

 

彼は少しの間考えると、決心したように私たちを見る。

 

「…そうだね。わかった。

行こう、三人で。僕が二人を絶対に守る」

 

そう言って、眠ってるユリィと私の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい感覚が両脇を通り過ぎていく。

虫たちの羽音。小動物たちのささやき。猛獣たちの突き刺さるような視線。それでも、魔物たちの悪意が無い分、歩きやすい。

彼の後に続き、ユリィを抱き抱えて私たちは木々の中を進んでいく。

 

「大丈夫。私たちがいるから、安心して」

 

私の腕の中でふるふると震えているユリィに微笑みかける。

こくん、と力なく頷くも、やっぱりユリィは周りからの小さな音や視線に敏感に反応していた。

 

「(…いた)」

 

先頭を歩く彼が呟き、その場で止まる。

彼の前にあるのは僅かに出来た茂みの隙間。除いて見えるのは、大きな斧を持ったドラゴンタイプの魔物、バトルレックス。

そして、たくさん敷かれた落ち葉の上に横たわるユリィと同じくらいの女の子。

間違い無く、ミーティだ。

 

「(本当に魔物が攫っていったのね…。

…!もしかして、ラプソーンに変わる悪いヤツが出て来たとか…!?)」

 

そうだとしたらミーティが危ない。

 

「(まって、まだ決めつけるのは早いかも。あそこ、よく見てみて)」

 

悠長に構えてる場合じゃないのに…。と思いつつも彼の指差した先を見る。

………アレは、果物と薬草…?

 

「(バトルレックスって、確か肉食よね?それに、ケガもしてないのにどうして薬草なんか…)」

 

「(しっ、動き出した)」

 

彼の言葉とほぼ同時、地面が僅かに揺れる。それは一度や二度ではなく、何度も。

 

「(大丈夫、バトルレックスが歩いてるだけよ)」

 

怯えるユリィの頭を撫でながらも、決してバトルレックスから目は話さない。

歩き出し、果物と薬草の積まれた場所まで歩いていくバトルレックス。食事か、それとも治療か、どちらにしてもミーティが今すぐどうなる言うわけでは

なさそうだけど…。

 

「(…って、え…?)」

 

「(オノを、置いた…?)」

 

どのバトルレックスも戦闘中、力尽きるまで何があっても離さなかったあのオノを、地面に置いている。

それから拾い上げたいくつかの果物と、三つくらいの薬草を持ってミーティらしい子のもとへと再び歩き出す。

 

「(あの魔物、もしかして…)」

 

「(うん、そうだと思う)」

 

彼と顔を見合わせて互いの意思を確認する。

これ、もしも私たちの予想が正しかったら、結構な事件かもしれない。

 

「(え、なになに??)」

 

頷いて、微笑み合う私たちを交互に見て、泣いていいのか喜んでいいのかわからなそうに混乱するユリィ。

 

「(大丈夫。多分、あのバトルレックスは悪い魔物じゃないよ)」

 

そんなユリィに彼は笑顔を向けた。

側から見てる私すら安心してしまうような優しくて頼りになる笑顔を。

 

「(あなた、やっぱりそうみたい。

どうする?このまま見守ってる?)」

 

「(…いや、行こう。バトルレックスの手だとかなり難しいだろうし、手伝った方がいいと思う)」

 

頷いて、すぐに茂みから立ち上がる。

バトルレックスは驚き、手にしていた薬草などを落とす。そして、すぐさまオノのもとへ駆け出した。

 

「待って!僕たちは敵じゃないよ!」

 

彼の言葉に、けれどバトルレックスは拾い上げたオノの柄を固く握る。

突進するように駆け向かってくる巨体。狙いは、私たち二人を守るようにして立つ彼だ。

振り上げられるオノ。それでも、彼は身じろぎひとつせずにバトルレックスの目を見続けた。

 

「グォッ!?」

 

オノが振り下ろされる瞬間、時間が止まったようにピタリと固まるバトルレックス。

僅かな沈黙の後、彼の脳天に向けられた刃は、彼を通る事なく地面に刃跡を作った。

 

「…グガァ…グゴォ…」

 

その場に座り込み、バトルレックスは彼に頭を差し出した。

その頭に彼は手を置いた。

 

「うん、いい子だ。

あの子を助けてあげたの?」

 

「ガァ!ゴォォ!」

 

「…そっか。ありがとう」

 

それは、ユリィにとても不思議な光景に映っただろう。

人の身の丈を平然と超える大きさの魔物が、自分よりも遥かに力の弱いはずの人間に頭を下げて、撫でられているんだから。

 

「す、凄いね!ゼシカおねぇちゃんの旦那様って!あんな怖い魔物を手懐けちゃうなんて!」

 

「ふふ、でしょ?

ほら、あそこよユリィ」

 

「…!!ミーティ!」

 

抱き抱えていたユリィを下ろし、ミーティの横たわっている落ち葉の布団を指差す。

するとユリィは一目散に駆け寄っていった。

 

「ミーティ!ミーティ!」

 

「……?

ユ…リィ…?」

 

「ミーティ!」

 

「ユリィ…重い…」

 

ユリィの呼びかけに目を覚ますミーティ。その途端、ユリィはミーティの上にのしかかるようにして抱きついた。

 

「良かったぁ…良かったぁ!!」

 

「…よくわかんないけど、ごめんね。ユリィ」

 

泣き出してしまったユリィに困惑の表情を見せつつも、よしよし、と頭を撫でるミーティ。

少し、二人きりにしてあげたほうがよさそうね。

 

「それであなた?そのバトルレックスはなんて?」

 

「うん。久し振りだからちょっと自信ないけど…

その子…ミーティが崖に落ちた時にドランゴ…このバトルレックスの名前なんだけど、ドランゴがたまたま通りかかって、崖の下のちょっとした足場で気絶してたミーティをどうにか拾い上げたんだって。

それで、このドランゴの住んでるところに連れてきて治療する途中だったらしい」

 

不安げな面持ちで、でも、ちゃんとした説明に思わず笑ってしまう。

 

「何が自信ない、よ。結構しっかり伝わってるじゃないの」

 

「え?

あ…確かに」

 

こんな軽口が叩けるのもミーティが無事だったから。

ホント、何事もなくて良かった…。

 

「ミーティ!やったねミーティ!」

 

「うん。頑張ったよ、ユリィ」

 

落ち葉のベッドの上で、手にした花を大喜びで見つめるユリィと、自慢げに胸を張るミーティ。

どうやら、二人の探していたお花は手に入れることができたみたいだ。

 

「さてと、そろそろ暗くなりそうだし、トラペッタに行きましょうか。

ここまで来たら、あの子たちのこと、最後まで面倒みましょ」

 

「そうだね。それじゃ、二人のこと呼びに行こうか」

 

「うん」

 

そう言って、楽しそうにしている二人を迎えに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 





次回に続く!

さよーならー
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