ぜひ最後まで読んでください。
それでは、どうぞ。
私と彼が初めて身体を重ねた日から七年程の時が経った。
それは、あっという間の出来事。
始めの一ヶ月で、私の身体にもう一人の命が宿って。
九ヶ月間、彼にはずっと迷惑をかけっぱなしで。でも、彼は嫌な顔一つせずに毎日私をいたわってくれた。
それから、この子たちが産まれた。
二人とも私に似た赤毛で、男の子と女の子。
男の子…ウェーナーと、女の子…ルイーサ。
双子だったから、産むのも育てるのも本当に大変だったけど、でも、彼と協力して、二人は、私たちが望んだ以上に良い子に育ってくれた。
ウェーナーは彼のように、困ってる人がいたら必ず手を差出せる子で。
ルイーサは…彼が言うには、私のように誰かを思いやれる子で。
とにかく、私たちには過ぎたくらいに出来た二人。
「母さん、なにしてるの?…日記?」
寝室のドアを開けて入ってきたのは、寝癖でボサついた頭の瞼をこするウェーナー。
「あら、起きたのね。そう、日記よ。
待ってて、すぐ朝ごはんにするから。あ、まだ起きてないようならルイーサも起こしてきて」
「うん!わかった!」
頷いたウェーナーは子供部屋の方へと駆けていき、少しもしないうちにルイーサの叫ぶ声がした。
『私は!まだ!寝る!』
「…あはは、おかあさんの言う通りなら、昔の私もあんな感じだったのかしらね…」
いつにも増して悪い寝起きに頭を抱える。
ウェーナーが叩かれないよう助けに行かないと。
っと、その前に私にもすることが一つあった。
「…ほら、起きて。お父さん」
ベッドの上で毛布にくるまったままの彼の耳元で囁く。
僅かな寝返り。その後に、彼は薄く瞼を開く。
「…ん。
おはよう、お母さん」
「…ちょっと、子供が見てたらどうするのよ」
離れていく感触を確かめるように唇に手を当てて、目をこする彼の横に座る。
すると、まだ寝ぼけてるみたいで、私に身体を預けてきた。
「全く。仕方のない人ね。
…二人ともー!お父さんが起こして欲しいってー!」
「えっ!?
ま、待った!待った!僕は起き…うぐっ!」
「父さーん!」
「お父さーん!」
ふふ、流石は私とあなたの子ね。
呼びかけてからこっちに来るまでのはやさが段違い。
そのまま揉みくちゃにされると良いわ。
「起きてー!」
「起きたー?」
「くぅー!やったなー!」
「「きゃははは!!」」
彼のお腹を叩くウェーナーに、抱きつくルイーサ。
そんな二人を、わしゃわしゃと撫でたりして遊んであげてる彼。
見ていて、心の和む光景。
…でも。
「…楽しそうね。
私も混ぜて!」
「ちょ、ゼ、ゼシ…ぐふっ!」
適当なところで止められるようと思ってたけど、三人のあまりにも楽しそうな雰囲気に我慢できなくなる。
つい、私も彼に飛びついてしまった。
………。
……………。
やだ、ちょっとこれ、楽し過ぎる。
「く、ふふ、あはは!ちょ、ちょっとゼシカ…!!くすぐったい…!」
後ろから抱きついたり、くすぐったり、頬擦りしてみたり。色々やってみる。
その度に変わる彼の反応は、次になにをしようか、って考えちゃうくらいに私の中の何かを掻き立てる。
「…フケツ」
「「えっ」」
そんな中聞こえたルイーサの声。
ハッとして彼をいじるのをやめてみると、ウェーナーもルイーサも、いつの間にかベッドの上から降りていて、じゃれあっていたのは私と彼だけになっていた。
向けられる、ルイーサの冷ややかな視線と、ウェーナーと妙に暖かな目。
…これは、教育上良くないものを見せてしまったのかしら…?
「ダメだよルイーサ。父さんと母さんは僕たちの面倒ばかり見てて、最近は全然一緒に遊べてなかったんだから。
このくらいは大目に見てあげようよ」
そう考えているところ飛んできたとんでもない発言。
確かに、ここ何年かは彼と一緒にお風呂、なんてのも出来なくなってたけど…、でも、どうしてそんなことをウェーナーが知ってるのよ。
「イヤよ。だってお父さんは私のものなんだもん。お母さんはもう充分楽しんだんだから、世代交代よ」
その疑問も晴れる前に告げられるルイーサの煽り言葉。
おかしいわね、この子、こんなに生意気だったかしら。
「ダメよ。お父さんは誰にも渡さないんだから」
「ちょ、ちょっと二人とも」
「…なら、勝負しようよ、お母さん。
私の料理と、お母さんの料理。どっちの方が美味しいかお父さんに決めてもらおう!
で、選ばれた方がお父さんの花嫁さんってことで!」
左腕を突き出して投げられたのは、懐かしい戦闘の合図。
当然、引き下がるはずはない。
「いいわ、受けて立ちましょう!」
「ゼシカ!?」
「父さん、諦めよう。
……骨は、拾うよ」
睨んでくるルイーサを見つめながら、視界の端に映るのは彼の肩に手を置くウェーナー。
何はともあれ、まずは朝食ね。
「お父さんとお母さんは、どうやって知り合ったの?」
それは、勝負…じゃなくて、朝食が終わり、一通りの片付けが済んだ頃。
食後のお茶を用意している私か、それとも、ソファに座ってウェーナーの道具袋を整理している彼に対する質問なのか、どちらかはわからないけれど、ルイーサが口にした質問。
「…そうね、話すと長くなるわよ?」
運んできたお茶を食事をする際に使うテーブルの上に置いて、彼とウェーナーに顔を向ける。
私に見られた二人は、道具袋の整理を中断して、席に戻ってきた。
「僕も興味あるなぁ。
だって、父さんと母さんって、そんなに性格似てないし…なんなら、母さんは父さんみたいな人、あんまり好きじゃなさそうだもん」
ウェーナーの言葉にルイーサが激しく頷く。
…まぁ、否定はしないけど…。
けど、二人にあんなことを話してもいいんだろうか。
彼との出会いは、つまり、私たちの旅の元凶のドルマゲスの事を話さないわけにはいかない。
それは…どう取り繕っても、悲しくて苦しい物語だ。
不安な気持ちのまま、彼を見る。
私たちが…ううん、私が困った時に、いつも答えを教えてくれた彼。
そんな彼ならどうするのか、教えてほしい。
「あはは。
どうするお母さん?僕がゼシカに殺されかけた話でもする?」
……へ?
「「え!?」」
「ちょ、ちょっと!あれは勘違いでしょ!?誤解させるようなこと言わないでよ!」
頼みの助け舟は泥舟だったみたいで、ある意味じゃドルマゲスの話よりもして欲しくない話題に直球を投げ込む彼。
なんでそんなに楽しそうな顔してるのよこの人は!
「そう、勘違いだったよね」
私の焦りも意に返さず、彼は懐かしむように続ける。
その雰囲気は…そう、私が彼に想いを打ち明けた結婚式の日のよう。
「後にも先にも、あれより凄い出会いはなかった。けど、お陰で僕はゼシカのことをもっと知りたいと思ったんだ。
初対面の人をいきなり犯人扱いしてメラ系の呪文を唱えてくる女性だから、気にならない方が変だけどね。
…そして、僕らは一緒に旅をするようになった。女の人の一人旅は危ないから、一緒に行こうって。…ヤンガスおじさんやククールおじさんとかとね。
それから毎日少しずつ、お母さんのことを知っていったんだ。
強気で、明るくて活発で、周りが見えなくなるくらいに一途で。でも、誰よりも人の悲しみに敏感で、それに共感できて、人を思いやることの出来る、とっても優しい人。
それがお母さんだった。
だから、お父さんは思った。
この人と…ゼシカと、一生を過ごせたらどれだけ幸せなんだろうって。家庭を築けたら、どんなに楽しい毎日になるのかな、って」
静まり返る室内。
思えば、こうやって彼の気持ちを聞いたことは初めてかも知れない。いつもは、なんていうか…どこもかしこも好き!みたいな言い方だったけど、今みたいに、詳しく教えてもらった事は、多分、ない。
「…あなた、私のことそういう風に好きになってくれたんだ…」
「うん。
本当はもっと早く…いや、結婚式の時に伝えるべきだったんだろうけど、出来なかった。
その後は…毎日のゼシカとの会話が楽しくて、つい後回しにしちゃったんだ。
…出来ることなら、いつから好きになった、とか言えればいいんだけど…。ごめんね。
僕も、分かんないんだ。気がついたらゼシカのことが好きになってた。もちろん、今でも好きになってる」
微笑む彼を、しっかりと見据える。
彼の瞳に映るのは、頬を赤く染めたわたしの顔。それが、ゆっくりと瞳に吸われていくように近づいていって…。
「ダメー!」
「「「!?」」」
「ダメよ!ダメ!お父さんは、もう私のなんだから!ち、ちゅーなんかしちゃダメー!」
あと少しで彼の温度が感じられるというところで、テーブルをタンタン、と叩くルイーサに止められてしまった。
「あら、ならキスならいいかしら?」
「もっとダメー!」
「ゼシカ!?どうして煽るの!?」
「…父さん、冴えないふりして実はモテモテなんだ…。罪深い人」
「ウェーナー!?」
静寂がウソのように晴れ、賑やかになる部屋。
それは私と彼が望んだもの。
家族みんなが幸せを得られる、祝福された純白の日々。
fin…
…ウソよ。まだまだ私たちの幸せは終わらないわ!
だから…!
To be next story !
…嘘でした。
もうちょっとだけ続けようと思います。
でも、すこーし時間をあけてからの再開です。
第二章・クランスピネル編に、乞うご期待!
それではまた次回。
さよーならー