では、どーぞー
家の外で賑やかに語り合う音々。それは、遊び盛りな子供達にとっては苦虫になるもの。雨。
窓の外を淋しそうに見つめ続けるウェーナーと、嬉々としてテーブルの上に小道具を広げるルイーサ。
コップ、ナイフとフォーク、お皿とその上に乗せられた毛糸で作られた単純な形をした数種類の色球。それぞれ一組ずつがある程度並べられた頃に、ルイーサが口を尖らせた。
「もー!いつまで見てるのよー。今日、雨降ったら相手してくれるって言ったのはそっちなんだからね」
「…分かってる」
肩を落としてため息を吐くウェーナー。正面の窓ガラスに小さな曇りができて、そこに指先で何かを書いてる。
…あはは、[ヤダ]か。
「二人はこれからどうやって遊ぶの?」
渋々テーブルについたウェーナーと、嬉々として毛糸の球をお皿の上に並べるルイーサに、ソファに座って読んでいた本を閉じながら聞いてみる。
昨日、二人が話していたのは今日の天気のこと。
晴れなら外で駆け回ったりしたいとウェーナーが言い、雨なら家の中でおままごとをしたいと話し合っていた。
…正直、羨ましい。
私とサーベルト兄さんはそれなりに年が離れていたし、村を守るために家に居なかったことが多いから、一緒に遊んだ記憶がない。
…そんなサーベルト兄さんの役に立とうと、魔法や剣の勉強をしてたから、他の人とや、一人で遊んだ記憶自体ないのだけれど。
「えっとね、私がお母さんで、ウェーナーがお父さん!」
ルイーサは皿の上に毛糸の玉を乗せる手を止めず満面の笑みを浮かべる。
対するウェーナーは、どこか気が重そうで、外で遊び疲れた時よりもグッタリとした顔をしてる。
「…ルイーサのお父さん像は理想が高すぎて僕には無理だよ…」
テーブルに頬擦りをしたままボソリと呟いた言葉に、ルイーサはしかめ面を向ける。
「えー、これでも我慢してるんだけどなぁ…」
「………ウソだよね?」
まるで信じられないものを見るかのように目を見開くウェーナーに、だけどルイーサはとっても素敵な笑顔を見せる。
「本当!」
「うう…助けて母さん」
捨てられた子犬ににも似た眼差しで助けを訴えられてしまった。
ふふ、しょうがないわね。
なんて、実は少し嬉しかったりする。流石に全くの初めてってことはないだろうけど、物心ついた頃からの記憶だと遊んだ思い出が見当たらない。だから、こうやって遊ぶことができるのはとても嬉しい。
「ねぇ、ルイーサ。お母さんも混ぜてもらえるかしら」
手にしたままだった本をソファの上に置いて立ち上がり、テーブルの方へと歩いていく。
テーブルの上には、もうセットが完成しつつあった。
「えー。良いけど、お母さんの役は私だよ?」
「えぇ、良いわよ。
私は…そうね、娘とかそういうので大丈夫」
最後の確認をしつつ返事をするルイーサに告げると、少し考えた後に、パチン、と可愛らしい柏手を鳴らして私に向き直る。
「じゃあ!お母さんのお母さん!」
「…ま、まぁいいわよ」
「けってーい!」
今にも飛び跳ねそうな感じで喜ぶルイーサを見て、頬が緩む。
こんなに喜んでくれるなら、おばあちゃん役も悪くないか。
…けど、お母さんしか知らない私に出来るかな…?
「出来た!
それじゃあ始めよっ!よーい、スタートー!」
ずっと弄っていた毛玉の料理たちの盛り付け方にようやく納得いったルイーサは、椅子から降りると、パチン、と手で合図を鳴らした。
「…ただいまー」
「お帰りなさーい!あなた!」
その瞬間、ウェーナーがセリフを言い始める。それは、かなり真に迫った疲労感のある『ただいま』で、対するルイーサの『お帰りなさい』は異様なまでに元気だ。
「今日はおばあちゃんが来てくれてるわよ」
と、急に白羽の矢が立ち、どうするべきか迷う。
…と、とりあえず、お母さんでいってみるしかないわね。
「お帰りなさい、ウェーナー。ずいぶん疲れてるみたいだけど、どうかしましたか?」
「あ、いえ…その、魔力が切れちゃって、隣町までキメラの翼を買いに行ったんですよ」
「そうなの。大変でしたね」
左腕をさすりながら答えるウェーナー。
…あー、そういえば旅したての頃は回復呪文とルーラを天秤にかけてたっけ…。
薬草、青臭かったなぁ。
「じゃあ、あなた!ご飯とお風呂と私どれがいい!」
「…まずはご飯かな。君は最後」
「もぉ〜あなたったらぁ〜」
感慨に耽っている間に話は進んでいき、玄関になっていた、ソファのある客間から二人は仲良く手を繋いでテーブルの所まで歩いていく。
全く、どこであんな言葉覚えて…って、何となく記憶にあるわね、この流れ。
「はい、じゃあ今日のご飯の、ハンバーグ!
それと、最近流通するようになってきたお米って食べ物ね。味見してみたけど、あんまり味がなかったかな。ただ、他の物と食べるととっても美味しいよ!」
「…ルイーサ。手を洗ってもらうのが先でしょう?」
取り敢えず何か言ってみたけれど…思わず目を瞑りたくなる今の状況。どうしたものかしら…。
これ、もしかしなくても一昨日の夜にあったことよね?帰ってきてからリビングに向かうまでの会話といい、夕飯のメニューといい、まるで一緒だもの。
「あ、そうだった!
じゃああなた、洗面所で手を洗ってきてね!すぐ戻ってきてねー」
「はーい」
ニコニコと手を振って送り出したルイーサは、そのまま普段私が使ってる椅子に着く。その姿は、本当に幸せそうで、見ているだけで楽しくなるような姿。
…これ、本当に一昨日の再現だとしたら…みんなにはこういう風に見えてたってことよね。
「戻ってきたよー」
「も〜、遅いよー?じゃ、早速食べよう!」
実際に手を洗って来たらしいウェーナーは、タオルで手をぬぐいつつ、いつも彼が座っている席に着く。
私は…ルイーサの席でいいわね。
「どう?美味しい?」
「うん、やっぱりゼ…母さんの作る料理は美味しいね」
「うふふ!ありがとー!」
オモチャのナイフとフォークでハンバーグに見立てた毛玉を切る真似をし、何も乗ってない…多分、お米の乗ってる設定のお皿を手にして、フォークを使って口に運ぶジェスチャーをするウェーナー。それを、両肘をついて手の上に顔を乗せ満面の笑みのまま見つめるルイーサ。
……そういえば、あの時に彼も間違って名前呼びかけてたもんね…。あー、それに、思わずずっと彼のこと見てたっけ…。
どこまで再現するつもりなのよ、この二人は。
「……ご馳走さまでした」
「はーい!
じゃ、お風呂の準備してくるね!」
「うん。よろしく。
洗い物はしておくねー」
「よろしくー」
思いの外早く終わる夕飯。おばあちゃんがここにいることは完全に忘れられてるっぽいけど、それはまぁいいわ。
問題はこの後。
…二人が着替えの用意をしに行った時話してた事だから流石に聞かれては無いと思うけど…。結構な事を言っちゃったから、もしも聞かれてたとしたら割と問題よね…?
すこーしずつ募る不安は、ウェーナーの前でもじもじとしているルイーサのせいでどんどんと増していく。
ほんのり染まる頬は恥じらいを持つ乙女のようで、せわしなく動かす指先は不安と期待を入り混じらせたような感じだ。
これは…
「そうだ!久し振りに、二人で入る?お風呂。
…なんちゃって!今日は私が子供たちと入るね!」
思い切って提案するも、恥ずかしさが勝ってしまって出来上がる照れ笑い。
ここまでの一連の動作をした記憶はないけど、発言自体はまんま一昨日言った事と同じだった。
……まさか、聞かれてるなんてね……。
「うん。わかった」
両頬に手を当てて大袈裟に恥ずかしがっているルイーサ。そんな彼女とは対照的に、ウェーナーは素っ気ない態度で返事を返した。
…おかしいわね、この後確か彼は…。
「ただいまー」
「あ!お父さんが帰って来たー!」
「お帰りなさい、父さーん!」
玄関から聞こえて来たのは、愛しい愛しい旦那さまの声。
ほぼ反射的にそっちの方へと二人は駆け行った。
おままごとはこのまま終わりそうね。
「…あ、いけない!夕飯の準備しないと!」
すっかり遊ぶことに夢中になっていたせいで、簡単な仕込みしかしていない事を思い出す。
今日は、あんまり凝った物を作る予定じゃなかったからアレだけど、次からはもう少し時間を気にしていた方がいいわね。
「ねー、お母さーん!今度泊まり行ってもいーい!?」
言いつつ掛け時計を眺めていると、駆け寄っていたルイーサが脚に抱きついてきた。
私を見上げる顔は期待に満ち溢れてる。
「ルイーサ。それだとよくわかんないよ」
声の通り、いまいち状況を掴めていない私は、リビングのドアの方に視線を移す。
そこにいるのは、ルイーサを注意したウェーナーと、道具袋を肩掛けから外して手に持っている彼。
「ただいま、お母さん。
今日、仕事でトラペッタの街に行ったんだけど、その時に偶然ヨウイさんに会ってね。
『また泊まりに来てください』って言ってもらえたんだ。それをルイーサたちに伝えたら、走り出しちゃって」
袋の中から取り出した手紙を渡しつつ彼はそう話した。
「そういう事。
そうねぇ、いつもあっちに泊まってもらってるし、たまには私たちの家にも来てもらいたいけど…」
「断崖だし、何も無いもんね、ここ。
目一杯遊んでも平気っていうのはあるけど、もしもがあったら大変だし…
やっぱり泊めてもらうしかないかな?」
「そうねぇ。もう少し大きくなってからなら、来てもらってもいいかしらね。
…っと、ほらほら、二人とも?お母さんたちは夕飯の用意しちゃうから、早くお風呂洗って来て」
「「はーい!」」
いつものように二人にお願いをすると、頷いて浴室まで軽快な足音を立てて駆けて行った。
その背中がドアの角から見えなくなるまで見送ってから渡された手紙をザッと目を通すと、どうやらヨウイさんからの、お久し振りです、といった内容だった。詳しく読めば、泊まりに来ても平気な日にちとかが書かれてるだろう。
「…ふふ、この前言った事が結構早く出来るかもね、ゼシカ」
「え?
あ、一昨日の」
「うん」
気がつかないうちに、身体と身体が触れ合える距離まで近づいて来てくれた彼の腰に手を回す。
…そうそう、おままごとの最後にウェーナーがした返事は、素っ気ないものだったけれど、実際は違う。
確かに、素っ気ない感じではあるけど、言っていたのは。
「久し振りにゼシカとお風呂に入れるかもね」
そう、今のように優しく言葉にしてくれて、最近では時々しかしなくなったお帰りのキスを、やっぱり今みたいにしてくれたんだ。
「…ふふ、見られてたら大変だから、もう離れましょうか。
夕飯も作らなきゃいけないしね」
「そうだね。
僕も手伝うよ」
お互いに微笑み合い、調理に取り掛かった。
To be next story.
個人的に、幼少期のゼシカは孤独だったのではないのかと思うのです。
別に嫌われていたわけでは無いが、人見知りが災いして他者を深く信用できていなかった。…的なサムシング。
原作でも[いつも兄の裏に隠れていて、探るように周りを見てた]といった風に村人から評価されてましたし。
また、[ゼシカの友人]を名乗る人物はいなかったかと思います。(村で親しげだったのはポルク・マルクを除くとモシャスの女の子くらい?)
まぁ、地主の家の娘で、村を守る英雄の妹ともなれば多少なりとも神聖化されてしまい、一般の人が近寄れなかったのだろうなぁ。と予想しています。
そんな女性を落とした主人公君凄い…凄く無い?
さてさて、ではまた次回。
さよーならー