題名通り、今回は二人っきりのお話です。
では、どーぞ。
寂しいくらいに静かな部屋。
いつもなら、お腹が空いたー、なんて声が飛んできてもいい時間なのに、聞こえることはない。
外は、まだ明るい。当然よね。お昼をどうしようか、ってついさっき話していたんだもの。
「二人だけになるのは、久し振りだね。ゼシカ」
「…うん」
並んで座るソファの上で、改めて今を噛み締める。
決して普段がつまらないわけじゃない。辛いわけじゃない。ただ、種類が違うの。
みんなで一緒にいる時の楽しさと、二人だけでいることの楽しさ。
みんなで話すことの嬉しさと、二人だけで語り合うことの楽しさ。
似ているようで全然違うそんな感情の昂り。
もちろん、泊まりに出かけた二人のことが少し心配だったりもする。
怪我をしていないかな、とか、迷子になってないかな、とか。でも、ヨウイさんが見てくれてるし、そんなことになったとしてもウェーナーとルイーサなら乗り越えられるって、信頼もある。
「今日は何をしようか」
「そうね…
まずは、おおっぴらに出来なくなったキス、かしら」
彼も私と同じ考えなのか、子供たちのことは口にしない。
…うん。そんな心遣いが嬉しい。
今日は、今日だけは、あの頃のように二人っきりの時間を満喫したい。
「わかった」
コクン、と深く頷いて、彼の顔がゆっくり近づいてくる。
優しくて、穏やかで、大好きな人。
…でも、ちょっと焦れったい。
「…っ!?」
「……んふ、ダメよ、あなた。前までみたいに時間が沢山あるわけじゃないんだもの。勿体ぶってたら、すぐタイムリミットが来ちゃうんだから」
私は、彼を押し倒すくらいの勢いで唇を触れ合わせた。
そんな心配はいらないけど…、逃げないようにキツく身体を抱きしめて。広い部屋でするキスの開放感を感じるように、しっかりと。
「…わかった。ゼシカがそう言うなら、僕ももう遠慮しないよ」
少しむっとしたみたいな顔をしてそう言うと、今度は彼が、私がしたように押し倒す勢いで身体を抱きしめ、互いの感情の火照りを寄せ合った。
嬉しい事に、頭の裏を手で抑えられたから、驚いて離れる、なんて悲しいことも起きない。
「…ん、んん…。…は。
そうよ、そうそう。ガンガン来てくれなきゃ。明日になったらまた我慢する日々が続いちゃうもの。今のうちに目一杯しときましょ?」
「あはは。もちろん。
…でも、あんまり夢中になるとそれはそれで一日が終わっちゃうけど、それでもいい?」
ソファの肘おきを枕にして彼の顔を見上げる。
表情から読み取れるのは、ゼシカはどうしたい?ということ。
…私としては、たまには彼に決めてもらいたいなって思ったりもするけど、そこが彼の良いところでもある。
だから、私はそんな彼に甘えてしまうの。
「じゃあ、あと一回したらお昼にしましょう。
このまま一日が終わるのも悪くはないけど、せっかく二人きりなんだから、どこかに出かけたいわ」
そう答えると、彼は微笑んで頷く。
「うん。そうしよっか。
最後の一回は、深いのと柔らかいの。どっちが良い?」
「そうね…。
じゃあ、柔らかくて深くて情熱的なのが良いわ」
ほんのりと温かくなる頬を感じながら答える。
彼は、ただ頷いて、もう一度私をきつく抱きしめた。
心地の良い圧迫感と、布ごしでも感じることのできる彼の鼓動と体温。
さっきまでは触れ合っていただけのお互いの熱は、三度目になってとうとう直に感じ合う。
蠢き合い、練り合い、混ざり合い、溶け合う。
蕩け合うひとときは、二度のキスの時間を合わせても足りないくらい、ずっと続いた。
石畳の上を軽やかに二人で歩く。
城下町に響くのは、出店の店主の呼び込みの声。
目に映るのは、一日じゃ見て回れなさそうなくらいたくさん並ぶお店。
武器や防具といった泥臭い商品を取り扱う店は少なく、代わりにあるのは調味料や食材、あるいは[服]としての機能しか持たない服を売る店ばかり。
「やっぱり、沢山買い物をするなら、サザンビークよね!」
「だね。
でも、しばらく来ない間にこんな事になってたんだ…」
心底驚いた表情で周りを見回し、腕を離してしまえばどこかへ消えていってしまいそうな彼。
昔から、取り敢えず調べないと気が済まなかったもんね。一日で全部は無理だろうけど…いつかは、全て見て回りたい。
…でーも。
「もー、あなた?今日は私の買い物に付き合ってくれるんでしょ?見てる間に、どっか行かないでよね?」
今日は、彼が私の買い物をしようと言ってくれたんだもの。とことん付き合ってもらうんだから。
「だ、大丈夫だよ。
えっと、服が見たいんだっけ?」
汗を飛ばして否定する彼。
なんだか、そんな子供っぽい仕草を見るのが久し振りな気がしてついつい笑ってしまう。
「そうよ〜?
あなたのために選ぶってところもあるんだから、ピンと来たのはすぐに教えてね?
今日みたいな日のために、やり繰りして、ゴールドを用意しておいたんだし!」
「了解。遠慮せずどんどん言うから、覚悟してね」
「もちろん!そう来なくっちゃ!
じゃ、行きましょうか!」
出店の一番端っこの方を指差し、彼と手を繋いで向かう。
繋ぎ方はもちろん、そうそう離れられない指と指の間に相手の指を挟んでにぎり合う恋人繋ぎ。照れくさい事に、彼からしてもらえた。
少し狭い私の歩幅に合わせて彼が歩いてくれることがすごく嬉しくて、このまま帰る事になってももう、充分満足だったりする。
でも、そうはならない。
今日は、もっともっと嬉しくて、楽しくて、幸せになれる日なんだ。
今まで着る物は、動きやすさと性能だけで選んでた。だってそれが一番効率がいいから。
けど、これからはもう違う。
悪い魔物がいなくなった事によって、服は防具という面よりも着飾るもの…つまりは、オシャレさを第一に考えて作られる事になった。
それは、つまり、大好きな人により綺麗な自分を見せることが簡単になったってこと。
そんな買い物を、真っ先に見てもらいたい人と一緒にできるんだもの。胸がときめかないわけない!
「…ふ、ふふ」
「どうしたの、ゼシカ?」
「んーん、なんでもない」
いつの間にか着いていた洋服の出店の入り口付近で思わず微笑みが溢れる。
不思議に思って聞かれたけど、でも、ナイショ。
だって、鋭いクセにどこか鈍感な彼のことだもの。今この瞬間がどれだけ満ち足りた時間かまだきっとわかってない。
だけど、それを私が教えてしまうのは、ダメ。
彼には後々自分で気づいてもらって、私以上にこの時間を堪能して貰いたいから。
だから。
「あ、これとかどうかしら。胸元がいつもと同じくらい開けてるけど、代わりに…ほら、スカートが膝くらいまでしかなくて、袖がないわ。
それとも、こっちのやつみたいに胸元じゃなくて胸下が大胆になってるのとかどうかしら?」
露骨に話を逸らす。
と言っても、私が手にしている服は店に来た瞬間から、いいな、と思っていた商品。
それを交互に身体の前でかざして、彼の意見を待つ。
「う〜ん。普段、着てる服が似合い過ぎてるから分からないな…」
本当に悩ましげに見比べる彼。
分かるわ。今着てる服は機能性もオシャレ性も抜群だもの。これよりいいのを見つけるのは至難の業。
でも、一人じゃ難しいことでも二人ならきっと出来る。
「…試着とか出来るか聞いてくるね」
ほんの少し、何かに気がついたみたいな間の後、彼は口早に言った。
「ホント!?ありがとう!」
私の返答を聞ききるよりもはやく、彼はくるりと振り返ってしまう。
その理由は、すぐに分かった。
…ようやく気が付いてくれたのね。あなた。
「すぐいってくるね!」
そう言うと、今度は私の返事も待たずに足早に行ってしまった。
「…ふふ、今でアレじゃ、きっともっと大変な事になるわね」
抑えきれない気持ちを抑えて、早速ほかの洋服を探し始める。
その間、傍で考えるのは今夜のこと。
二人っきりの夜だもの。することなんて必然的に決まってしまう。
久しぶりに一緒にお風呂に入って、その後。
お互いがお互いの気の済むまで身を寄せ合う瞬間の、衣装選び。
来る時にした[ような]じゃなくて、本当に[蕩け合う]刹那を得るための重要な、この時間。
「…なんて、張り切り過ぎかしらね」
思わずにやけた時に聞こえてきたのは彼の足音。
その日一日を締めくくるのに相応しい最高の瞬間の想像は一旦やめた、今日一日を満たしてくれる幸せに、全力を注ぐことに集中した。
陽暮れの時まで後数時間。
きっと、夕暮れ後が本番。
今日はまだまだ長そうね!
To be nexst story.
子供ができた事によって、二人のイチャでラブなひとときは大幅に進化いたしました。
具体的にいうならば、付き合ったばかりの中学生レベルから、お互いを諸々知ってる大学生レベルまで、一気に進化したのです。
…だって、原作だと旅中のゼシカは年齢十七歳らしいですし…そう無茶苦茶な事はさせられない…。(ちなみに、主人公君は十八歳らしいです)
…つまり、この世界のゼシカは二十五歳くらいで、主人公くんが二十六歳くらい…!!
それではまた次回。
さよーならー