今回は久し振りのあの人が登場します。
では、どぞー
ここは、歩き慣れた道。
生まれてから引っ越すまで、ずっと親しくしていた場所。
幼い頃はそこが世界の全てで、村の外に広がるのは一つの町とリーザスの塔、それと、木々だけだと思ってた。
だけど、旅をしていろんな世界があることを知って、全てが終わって帰ってきた時には『やっぱり、ここしか無いなぁ』なんて思っていたのに。
「本当、久し振りだね。里帰りするの」
「…うん」
彼と結婚して、家を出て、二人だけで住むようになって、子を成して。それから二人を育て始めての今日。
リーザス村に足を踏み入れるのは、約七年振り。
家並みを見て、実家を見た時に感じたのは…懐かしさ。
帰ってきて当然の場所だと思ってた私の家は、もう、私の心の中では過去の場所になっていて。
彼と、子供たちのいる今の家が、私の帰る場所になっていた。
ちょっとだけ寂しいと思って、けど、どこか嬉しくて。
凄く、不思議な気持ち。
「どうしたの、母さん」
「泣いてるー?」
側を歩いてた二人に心配されてしまう。
確かに、私は泣いているのかも。でもそれは悲しいとか辛いとかじゃなくて…
「んー?泣いてないわよ〜。喜んでるんだから」
とっても穏やかで、優しい気持ちが溢れてるだけだ。
「さ、みんな行きましょ。おばあちゃんが待ってるわ」
「わわっ!」
「ちょ、お母さん!!」
目尻を拭ってウェーナーとルイーサの背中を押しながら小走りになる。
いきなり押された二人は慌てて足を回転させ文句を言いながらも、嬉しそうに駆けてる。
後ろで彼が笑うのを感じながら、一気に丘の上の実家まで登っていった。
少しも変わらない内装。嗅ぎなれた匂い。心なしか小さく感じられる空間。
見えるもの、感じられるもの全てに湧き上がる寂しさ。
けど、一番胸を締め付けるのは。
「お帰りなさい、ゼシカ。五年振り、かしらね」
「…ただいま、おかあさん。あの時はありがとね。
ようやく色々落ち着いたから、帰ってきたわ」
玄関で挨拶を交わすのは、私の母のアローザ・アルバート。
二年前、ウェーナーとルイーサが同時に高熱を出してしまった時に、一緒に看病をしてもらった日以来の再会。
…五年の歳月は、無視出来そうにない。
以前にも増した白髪やシワの数。…覇気のない、声。
「こんにちは、アローザ叔母さん」
「こんにちはー!」
「えぇ、こんにちは」
お母さんのもとへと駆け寄り、元気に挨拶する二人。
お母さんは屈んで膝をつけると、薄く微笑んで二人の頭を撫でる。
「ご無沙汰してます。お義母さん」
「彼のまとまった休みが取れたから、少しの間こっちにいるわ」
暗い気持ちに支配されそうになるのを拒み、努めて明るく振る舞う。
そうよ。今日から三日間、おかあさんにはウェーナーとルイーサとたっぷり遊んでもらうんだから。出だしで落ち込んでじゃダメよ。
「あら、そうなの。
でしたら、その間は夫婦水入らずで過ごすといいわ。この子たちの面倒は、私と他のメイドたちで見ますから」
立ち上がってそう告げると、二人の前におかあさんは両手を差し出す。
「ウェーナー、ルイーサ。二階に座るところがあるからそこまで行きましょうか。
もしよかったら、あなた達のお話をおばあちゃんに聞かせてくれますか?」
にこり、と瞳を閉じておかあさんは笑いかける。
二人は顔を見合わせると、すぐに頷き合い。
「「うん!」」
大きく返事をして、その手を握った。
「では、私たちはいつもの所でお喋りを楽しんでいますから、ゼシカたちは荷物を置いてきたりしてきなさい。
お夕飯の時間になればいつも通り声をかけますから」
「えぇ、分かったわ。じゃ、その子たちのことよろしくね」
「お願いします」
短く会話を終えて、ウェーナーとルイーサに手を引かれながらお母さんは二階へと登っていった。
階段を上がりならも何かを会話している後ろ姿は、見ているだけで心が温かくなってくる。
「ふふ、おかあさんったら、だいぶテンション上がってるみたいね」
「うん。凄く嬉しそう」
お互いに、あんな姿のお母さんを見るのは初めてだから少し驚いてる。
「邪魔しちゃ悪いし、少ししてから部屋に行きましょうか」
そう聞くと彼は頷き。
「じゃあ、一階を見て行こうか。
メイドの人たちも、ゼシカに会いたいだろうし」
「…そうね。会いたいかどうかは分からないけど、見て回りましょう」
そう言って頷き、彼の手を握った。
「それでね、それでね!」
「えぇ、ちゃんと聞いてますから、慌てないの」
「はーい」
お皿とフォーク・ナイフのこすれる音が小さく響く。
テーブルに並ぶ料理を更に美味しくするのは、キラキラ輝いて聞こえる子供達の声。
「それで、えっとね、お兄ちゃんの前でユリィちゃんがコケちゃったの」
「まぁ、それは大変。そのあと、どうなったの?」
「えっと、父さんから教えてもらったホイミを使って、治してあげたんだ。
そしたら、『私の方が年上なのに、ウェーナー君の方がお兄ちゃんみたいだね』って驚かれちゃった」
「だって、お兄ちゃんだしね!」
「あら、確かにそうでしたね」
得意げなルイーサと、照れ臭そうに笑うウェーナー。おかあさんは、うんうん、と頷いてずっと二人の話を聞いている。
食事を始めてからずっとそんなだから、あまり自分の食事ができていない。
「ほら二人共。アローザ叔母さんがご飯食べれてないでしょ?
食べ終わったんだったら、お風呂に入って来ちゃいなさい」
おかあさんとは対照的に、ちゃっかり沢山食べてた二人は少し不満げに返事をすると、そのままテーブルを後にした。
「すっかりデレデレね。まさかおかあさんがこんなに子供好きだったなんて思わなかったわ」
二人の出ていった部屋の扉から視線を戻しつつ、思わずにやける。
私にとっては頭の固くて融通の利かないしかめっ面ばかりの人だったけれど、あの子達に見せるのは穏やかな顔ばかり。
きつい物言いをする姿も知ってるから彼も、食事を始めた頃は結構驚いてた。
「いいえ。そんなことないわ。
今日は来たばかりですから、明日からはもう少し厳しくします」
食事を再開しながら澄まし顔返すおかあさん。
あれだけニコニコしながら話してたら、今のがウソだって誰にだってわかるのに。
「全く。素直じゃないわね」
「貴女の母親ですから」
おかあさんはイヤミっぽく頬を上げると、手にしているナイフとフォークを置いてティーカップに口をつける。
「…年甲斐もなく食べ過ぎてしまったわね」
嬉しそうにそう溢し、ティーカップを皿の上に戻す。
「あの子達には言ってありますけど、ここに滞在する間はサーベルトの部屋をあてました。
あなた達は前回通り、ゼシカの部屋で寝泊りなさい。
…もしも寂しいと言うようでしたら、私の部屋に来させても構わないわ。
私は自室に居ますから。何かあれば言ってください。
では」
「わかった。必ず行くように伝えておくわ。
おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私たちの言葉を聞くと、深めの会釈をした後おかあさんは部屋を後にした。
「ホント、素直じゃないんだから。
自分が話し足りないならそう言えば良いのに」
食後の果物をつまみながら彼に言うと、「そうだね」なんて頷いて、私と同じように果物に手を伸ばす。
「まぁでも、寂しかったのは間違いないでしょうしね。
あの子達も楽しそうだったし、今夜は寝ずに話したりして」
「あはは。案外そうかも」
「お母さーん。出たよー」
「…あれ、アローザ叔母さんもう寝ちゃったんだ」
食事の余韻を楽しみながらの会話はホカホカ湯気を立てた二人の登場で終わりを迎える。
「おばあちゃんなら部屋に戻っただけだから、行ってきたら?
来て欲しいって言ってたし」
そうして再開するのは、一世代を跨いだ音色の園。
「どうするお兄ちゃん?」
「そうだね…行ってみて、ダメだったら部屋に行こうか」
「うん!そうしよっか!」
よっぼとおかあさんとの会話が楽しかったらしく、話し合いうとすぐに駆け出した。
「あんまり遅くまで起きてちゃダメよー」
「あんまり迷惑かけちゃダメからねー」
なんて、彼と一緒に形だけの注意をして、紅茶に口をつける。
「さってと、私たちも部屋に行きましょうか」
立ち上がり、彼に手を差し出す。
彼の感触と温度に包まれる右手が心地いい。
「明日はみんなで出かけるんだっけ。
僕たちも、あんまり夜更かししないように気をつけないとね」
「ふふ、そうね」
短く会話を交わして、部屋を後にした。
To be next story.
ということで、里帰り編が始まります。
やっぱり、アローザさん書くの楽しい。
ではまた次回。さよーならー