今回はちょっとだけ真面目なお話です。
では、どぞー
実家で過ごす最終日。
今日はどこかに出かける予定は無くて、屋敷の中を彼がウェーナーとルイーサを案内している。
その間、私はおかあさんに呼び出されていた。
「それで、貴女はこの家に戻ってくる気はありますか?」
「…一応」
おかあさんの部屋で、冷えつつある紅茶の乗ったテーブルを挟んでのお話。それは、いずれ継ぐことになるだろう[アルバート家の使命]について。
「そんな曖昧な態度では困ります。
私たちアルバート家は代々この村を守り、次の世代へ受け継がせるために力を注いできました。サーベルトが亡くなった今、この家を継ぐに相応しいのは貴女しかいないのです。それを分かっているの?」
「分かってるわよ、そのくらい…」
睨み殺すなかったくらいのキツい視線を受け、身体が萎縮してしまう。
そんなこと、おかあさんに言われるまでもなく理解してる。私だって、生まれ育ったこの村が大好きだ。争いがなくて、悪いことをする人もいなくて、のんびりして穏やかで心の休まるこの村を守るおかあさんのことを尊敬してるし、憧れてもいる。
だけど…
「いいえ、分かっていません」
ピシャリと、斧を振り下ろすくらいにバッサリと言い切られる。
「ここに手鏡があるから自分の顔をよく見てみなさい」
差し出された取ってのついてる丸い鏡を受け取り、顔を映す。
「本当にわかっているなら、そんな顔しないでしょう」
そこに写っているのは、迷いに溢れた不安な表情。自分がしているのに、その顔を見ているだけでもっと不安になっていく、そんな、最悪な顔。
でも、仕方ないじゃない。
以前彼は『二人なら出来る』って言ってくれた。その言葉は私に勇気をくれた。けど、そうじゃないの。それだけじゃダメなの。
村のみんながおかあさんを慕ってるのは、昔からある名士だからとかそんな安っぽい理由じゃなくて、おかあさんが村の人たちを思って常に行動してるからだって今の私は知ってる。
…私には、それが出来るかわからない。彼や、ウェーナーやルイーサの力を借りれば、おかあさんの事を真似することはできると思う。でも、きっと出来るのは真似だけで、おかあさんと同じくらいだとか、よりも、だとかは多分できない。
…だって、私は自分勝手にこの村を出てった放蕩娘なんだから。
それに………
「はっきりなさいゼシカ。
貴女の取り柄なんて、キッパリ物事を決めることくらいしかないでしょう」
真っ直ぐ、私を見据えるおかあさん。
決して張り上げていないはずのその声は、けど、私の頬を引っぱたいたように強烈な一言だった。
「私は、貴女に[継げ]と言っているのではありません。[戻る気はありますか]と尋ねているのです。
結婚式の日にも言ったでしょう?私はもうあなたたちの生き方に口を出すつもりはない、と」
紅茶を口に運び、穏やかに言ったおかあさんは、もう一度私の目を見る。
「…貴女は、村の方々からよく思われていないと感じているかもしれませんが、それは大きな間違い。幼少期の貴女を知る者は口を揃えてこう言うのよ。
『とても意志の強い、勇気のある子だ』って」
「…ウソ」
「いいえ、本当です。
貴女の抱く想像は、私や村の方々に対して抱いた負い目からくるもの。現実は、もっと優しいのよ。
だから、貴女がどちらの道を選んだとしても、誰も貴女を恨まないし憎みません。好きな方を選びなさい。ゼシカ」
「…私、は…」
柔らかな視線が私を包む。
おかあさんはウソをつくような人じゃないから、今言ったことは全部本当だと思う。
だけど私は、この村を率いるのに足る心構えを示した家訓を無視して飛び出したような人間だ。
そんな人間が、家族を支えながら村を支えるなんてこと、出来るの…?
…ううん。違うわ。
出来る出来ないじゃない。私は、やるんだ。
私は家族を蔑ろにしたくないから、この家に戻ってくるのかどうかを迷ってる。でも、同じくらい、尊敬してるおかあさんの跡を継ぎ村を見守る役目を果たしたいと思ってるから、結論を出さずにいるんだ。
なら、私がすることは一つじゃない。
「おかあさん。私は、貴女の跡を継いで、彼とこの村を…リーザス村を守りたい。
でも、それはまだ出来ないの。ウェーナーとルイーサがもっと大きくなって、独り立ち出来るようになって…
私がこの村の人たちに信頼してもらえてると思えるようになるまで、後を継ぐことは出来ないわ。そんな中途半端な気持ちのままじゃ、それまで村を守ってきてたおかあさんやその前の人たちに顔向け出来ないもの」
どっちもする。これが私の答え。
覚悟は決めた。迷いはもうない。私は、もう二度と、後悔したくないから。
「…わかりました。それが貴女の答えなら、受け入れます。
それに…えぇ、こんな話を持ち出しはしましたが、私もまだまだ若い。貴女が戻ってくるまで、貴女が胸を張れるような母であり続けるわ」
私の意思を受け入れてくれたおかあさんは椅子から立ち上がると、私の横まで歩いてきて手を指し伸ばす。
「そろそろ、貴女の愛しい人達を迎えに行きましょう。…夕飯まで食べていくと言うのなら、話は別ですけど」
立ち上がって、その手を握る。
結婚式以来の手の結びは、なんて言うか…自分の子供の頃を思い出すような、そんな懐かしさを感じた。
「…そうね。もうそんな時間なんだ。
わかった。あの子達に聞いて、食べていくって言ったら、もう少しここにいるわ。
おかあさんが普段、どんな仕事をしてるのかとか知りたいし」
「多くは書類仕事ですよ。時折、訪問者とお話をしたり、村の行事を取り仕切ったり…
まぁ、ゆっくり覚えればいいわ」
部屋の扉まで手を繋いだまま歩き、話をしながら辺りを見回す。
…子どもの頃は殺風景に見えたおかあさんの部屋だけど、こうして改めて見ると必要なものがどこにあって、いつ頃纏められたものなのか、とかが分かりやすく置かれてる。
これ全部が、ってわけじゃないだろうけど、でも、その一部はおかあさんの功績なのよね…。
「…うん。頑張るわ。きっとおかあさんにも負けないくらいみんなに慕われてみせるから」
「ふふ。えぇ、楽しみにしているわ」
扉を開けながらおかあさんは微笑みを見せる。
ちょっと照れくさくなるくらい、優しい笑顔だ。
「あ、ゼシカ。ちょっといいかな…」
扉の向こうの、廊下にあたる場所に立つのは私の旦那様。
何故か、少し困った顔をしてる。
「ん?平気だけど、どうしたの?」
「いや、実はルイーサが…」
苦笑いしながら彼が語るのは、何だかんだ聞き分けのいいルイーサが『まだ帰りたくない』と駄々をこねているんだそうだ。
あまり遅くなるとルーラを使っているてしても危ないからダメだ、と彼は言ったそうだけど、それでも聞かないらしい。
それで、私に言い聞かせるようお願いしに来たのだそう。
ちなみにウェーナーもルイーサに触発されて『まだ帰りたくない』と言い出してしまったらしく、彼だけでは手に負えなくなったわけだ。
「…はぁ。まずは子供達をまとめるのが先みたいね。
いいわ。おかあさんと話して、夕飯を食べてから帰ろうかな?ってなったけど、それはそれ。今そのことを伝えた甘やかしただけになっちゃうもんね」
そう、彼とおかあさんに告げて、駄々っ子の待つ部屋へと向かった。
To be next story.
この話は前々から気になってたことに少し突っ込んでみました。
二人が結婚する、それはつまりアルバート家を継ぐことになるのではないのだろうか、と。
主人公には父も母もいませんし、今更サザンビーク城に戻ってどうのこうのというのも出来ない。なら、彼が取るであろう選択は自身の最愛の人であるゼシカ・アルバートの産まれた家を次の世代まで繋ぐことなのではないか。しかし、そこに発生する問題は、ゼシカが後を継ぎたいと望むのか否か。
旅をしている途中の彼女なら、多分継ぐことはなかったと思います。が、世界を見て回り、子を成し、母の深い愛を理解した彼女ならばどうなのだろう…。
私は、継ぐ、と言うと思ったのです。
一ファンの考えた結果が今回のお話でした。
ちなみに、継がない、とゼシカが言ったならアローザおかあさんは、ポルクとマルクに後を任せるか、自分の代でアルバート家を終わりにするか、のどちらかを選んでいました。
そのため、ポルクとマルクには世界を見て回る旅をさせてます。そうして戻ってきた二人に彼女と似た問答をし、返答でどちらかを選ぶのです。
うーん、やっぱり跡継ぎ問題は難しい…
さてさて。それではまた次回。
さよーならー