私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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では、どうぞ。


第五十四話 私と彼と子供達と陽気な風

行き交う人の群れ。

大人も子供もお年寄りもみんなが笑顔でそこを歩いてる。

彼らの御目当ては、今ではすっかり馴染み深いものとなった水上で過ごすひととき。

広大で、見渡す限りの湖だったサザンビーグ領の湖は今ではすっかり人々の溢れる観光地と様変わりしていた。

けれど、感心することに景観が損なわれてはない。ボートに乗るのに必要最低限の設備と、軽食を取れる屋台がいくつか並んでいるだけで、[湖を見に来た]という人も満足のいく風景を見ることができるだろう。

そんなビーク湖に私たちは四人で訪れていた。

 

「ねぇお父さん!これも海?」

 

「これはね、湖って言って、海や川とは別のものなんだ。わかりやすくいうと、しょっぱくない海、かな」

 

「へー!!」

 

おねだりしてしてもらえた肩車のままルイーサは背伸びをするようにして広い湖を見渡す。

周りには今のルイーサを超える背丈の人や障害物がないから、きっと端っこの方まで見えてるわね。

 

「ウェーナーはいいの?お母さんでよければ肩車してあげるけど」

 

「ううん。僕はボートに乗った時に広さを感じたいから、いいんだ」

 

私と手を繋いだまま、ボートのとめている場所をチラチラと見てるウェーナーに聞いてみると、首を横に振って答えた。

こういう、[実際に体験して確かめたい]ってところは彼に似たのかしら。私だったら、ルイーサみたいにすぐ見たくなっちゃうし。

 

「そ。なら、すぐ乗ろっか!」

 

「「うん!!」」

 

二人は大きく頷くと、ウェーナーは私の手を引っ張り、ルイーサは彼のバンダナをハンドルのように動かして、ボート置き場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ、父さん、これどうすれば進むの?」

 

「全然船が動かないよ…?」

 

家族向けの大きめなボートを借り、彼と私で湖の中心部辺りまで漕ぐこと数分。

とうとう我慢の限界にきたのか、ウェーナーとルイーサはうずうずと体を震わせて私たちに、[自分たちに漕がさせて]と言い出した。

もちろん、私たちは二人にオールを渡した。けど、渡したとの真似をして漕ぐも水面を撫ぜるだけで一向に進む気配がない。

 

「あはは。どうしてだろうね。わかるかな、お母さん?」

 

「ん〜。分かんないわ。お父さんは?」

 

「僕も分かんないな〜」

 

三文芝居もいいとこな会話を見せると、頬の膨らんだ真っ赤な顔のルイーサが口を尖らせて言い返してきた。

 

「イジワル!いいもん、お兄ちゃんと頑張るから!ね!!」

 

「うん。やろう、ルイーサ!」

 

子供たちは互いを見つめ合い頷くと、再びオールと水面との戦いに戻る。

予想通りすぎる可愛らしい反応に思わず笑いそうになるけど、ここは我慢。二人の反応を見たかったのもあるけど、やっぱり、こうやってなかなか体験出来ないことをしてるんだもの。自分たちの力で解決して欲しい。

 

「さて、出来るかしらね。あの二人」

 

オールの先端で水面を叩いたり、逆に、目一杯先端を湖の中に沈ませてみたりと、色々工夫を凝らしながら正解を探す二人。

そんな姿を、彼とずっとみてる。

 

「大丈夫だよ。ゼシカと僕の子だもの。きっとすぐに正解を見つけるよ」

 

「根拠としては充分ね」

 

ああやって、答えを必死に探す姿を見ると、旅をしていた昔の頃を思い出す。

いろんなダンジョンで様々な仕掛けを彼は沢山解いてきたわけだけど、時々私たちにも意見を求めることがあった。

私たちはそれぞれ気になったことを口にしただけなのに、彼はそこからヒントを得て解いていた。

おかげで、私たちも観察眼が身について、今では初見の物でもなんとなく解けるようになったくらい。

…ふふ、そろそろそんな頃合いかしらね。

 

「ねぇあなた。あのオールの先端って、どうして持ち手よりも平べったいのかしらね」

 

「うーん…。あ、何か物を載せるとか、かな?」

 

「あー、確かに平らな部分はいっばいのせるのに向いてるわよね」

 

わざとらしい会話をすると、子供たちは私たちの方を向いて少しだけ難しい顔をする。

うんうん。そうよ、よく悩みなさい。答えはそこにあるわ。

 

「…のせる?んーーー??」

 

「平らで、のせやすい…。ん?漕ぐ…?」

 

何かに気がついたらしいウェーナーは、思いつきが正しいか確かめるかのようにオールを手にする。

ちゃぽんちゃぽん、と、オールの先端の平らな部分で水面を触ったり沈めたりして感触を確かめると、それまで曇っていた表情が一気に明るくなる。

 

「そっか、そういう仕組みなんだ!」

 

「え、なになに!?お兄ちゃんわかったの!?」

 

「うん!多分!」

 

答えると、ウェーナーは手にしたままのオールの先端を適度に水の中に沈め、目一杯の力で漕ぐ。

すると、ボートは水上で半回転した。

クラクラと波に揺れるボートの中、ウェーナーは初めての[水を漕ぐ]感触にキラキラと目を輝かせていた。

 

「や、やった!できた!!」

 

「すごぉい!!どうやったの!?」

 

「えっとね、えっとね!」

 

今にも飛び跳ねそうな勢いで喜ぶウェーナーに、隣でまだ悩ましい表情をしていたルイーサが飛びついてもおかしくないくらいで説明を受ける。

 

「ふふふ。やったわね」

 

微笑むと、彼は頷いて。

 

「やっぱり、ゼシカと僕の子だね」

 

なんて口にした。

 

「そーいうのを親バカって言うのよ。

ま、私もそう思っちゃうから一緒なんだけどね」

 

呆れにもにた喜びをこぼすと、くらり、とボートが揺れる。

突然のことだったから体勢を崩してしまい、隣に座ってる彼に体を預ける形になった。

 

「!!!

できた!!!!」

 

体を起こしつつ子供達の方を見ると、それまでずっと難しい顔をしていたルイーサの表情が快晴よりと晴れ渡っていて、どうやら漕げるようになったんだとわかる。

 

「ねぇねぇお父さん、お母さん!私たちでちょっと漕いでもいーい!?」

 

見て取れるほどワクワクと胸を弾ませるルイーサとウェーナー。

私と彼は軽く頷きあってから返事を返した。

 

「えぇ勿論いいわよ」

 

「でも、他の人の迷惑にならないように気をつけてね」

 

「「やったーー!!」」

 

許可をもらうや否やすぐに漕ぎ始める二人。

けれど、タイミングがズレてるせいで真っ直ぐ進まず、右に行って左に行って、と蛇行してしまう。

 

「ふふ、完璧に出来るようになるにはもう少しみたいね」

 

オールを動かす手を止めて再びしかめっ面になる二人をよそに、彼と笑いかける。

その言葉に彼は頷き、口を開く。

 

「だね。

けど、すぐに出来るようになると思うよ。なんて言っても…」

 

「あなたと私の子だもんね」

 

「あはは。そうそう」

 

お互いに親バカを炸裂して、心地のいい風を感じながら湖の上を揺蕩った。

 

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 





アルゴンリング編以来のボート回でした。
恋人と少しだけ静かな空間の中で水面に反射する相手の顔を盗み見しながら胸をときめかせるのもいいですが、忙しなくオールをいじったり湖に手を触れさせて水を飛ばしたりする子供達を注意する最中にふと静寂を感じてあの日を思い出す、というのもいいですよね。

それではまた次回。さよーならー
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