今回は久々にあの夫婦の登場です。
ではどぞー
一際賑やかな部屋。
それは、遊び盛りの子供たちのせいじゃない。
テーブルの上には話をしながら食べられるような手頃な料理が並んでいて、それぞれの手元には飲みやすく酔いにくいお酒の入ったグラスがある。
「いやぁ〜!ようやくアニキのお子さん達にアッシのとこのガキを合わせられたでゲス!!」
「おいおいアンタ。何遍おんなじこと言うんだい。いい加減聞き飽きたよ」
「んん?そうだったか?まぁいいじゃねぇか!嬉しいもんは嬉しいんだよ!」
他のみんなとは違い一人だけタル状のジョッキでお酒をあおるのはヤンガス。その隣でキツイ口調な割にはにこやかに微笑んで頬杖をつくゲルダさん。
私と彼は今日、この二人とその子供達と会って朝から一緒に過ごしていた。
「あはは。けど、僕も嬉しいよ。ヤンガスとゲルダの子達に会えてさ。僕らの子達とも仲良くしてくれてるし」
「それもそうね。ゲルダさんはともかく、ヤンガスの子供って聞いた時には子グマを予想してたもの。
それがどうしてかみんな線が細くて美形揃い。…目がちょっと怖いのはあるけどね」
「おいおい、そりゃあねぇでゲスよ。アッシだってガキの頃はイケメンでモテモテだったんでガスから」
「何言ってんだか…。そんな話一度も聞いたことないっての」
「そりゃおめぇがみんな追っ払っちまったからだろうが」
「ば、バカ言うんじゃないよ!!」
「ゲースゲスゲス」と、相変わらずおかしな笑い声を上げて、頬を染めるゲルダさんを笑うヤンガス。
…ホント、まさかこの二人が子供を成すなんてねぇ…。下手したら私たちよりそういうことしなさそうなのに。しかも、三人も。
キッカケさえ出来たら後はイケイケ、ってことかしらね。…まぁ、私たちもあんまり人のこと言えないけど。
「それで、二人はやっぱりまだ盗賊か何かしてるの?」
彼の言葉に、一瞬、一切の音が止まる。
当然と言えば当然な質問にゲルダさんとヤンガスは少し困った顔をする。
昔から思ってたけど、彼のこういう妙に率直なところ、凄いわ。
「あー、まぁね。ただ、昔みたいに誰彼構わずって訳じゃなくてさ。所謂、義賊ってやつ?前は悪党やら跡地やらからちょろまかしてきてたけど、殆ど全部自分らのために使ってた。
けど、今はもう違うよ。盗ったもんは貧しい人らに分け与えて、アタシらは表稼業で稼いだ金で食ってく。
そうでもしなきゃ、あの子らに顔向けできないからね」
「アッシらも必死に考えたんでゲス。ガキどもに盗みをやらせるなんてもってのほかだ。けど、アッシらの生きた証の殆どはそれだ。なら、ガキどもに教えてやりゃあいい。盗みは悪いだけじゃねぇ、世界だって救えるくらい悪どくて立派な事だってな!でガス!」
顔を見合わせて答えた二人はそれから、大きく笑った。
「…そっか。うん。本当、二人の器用さには何度も助けられたからね。特に、装備も何も買えない時とかは魔物からいただいたも物が無かったらどうなってたか分からなかった。それに、盗賊は盗賊でも[義賊]っていう悪いだけじゃない盗賊もいるって知ることができた。
今更かも知れないけど…。ヤンガス、ゲルダ。二人とも、旅の時は本当にありがとう。凄く助けてもらった!」
唐突な彼のお礼に目を丸くする二人。それから少しして、今度はさっきよりも大きな声で笑いだした。
「何言ってるんでガスか!アッシと兄貴の、いや、アッシらと兄貴の仲じゃないでゲスか!そんな小っ恥ずかしい事、城の宴会の時以外に言わないでくれでガスよ!」
「そうだよぉ。
あんたは何度もアタシやアタシの旦那を助けてくれた。だから助けた。たったそれだけのことじゃないかい。礼なんて要らないよ。腹の足しにもならない。
…ま、気持ちは貰っといてやるか。貰えるもんは貰っとくのがアタシの流儀だからね」
「三人も子供産んでるのに素直じゃないとこは治ってないのね、ゲルダさん」
「うるさいねぇ。ゼシカだって旦那と喋ったら未だに顔赤くするんだ、そうそう変わんないってことだよ」
「う、うるさいわよ!前よりはそんなことないから!…多分」
いっつも一枚上手のゲルダさんを今日こそは取り乱せさせられると思ったのに、いつも通り言い返されてしまう。
そ。前までは[いつも]だったやり取りが、何年振りになるのかな。
嬉しくて、少し寂しい。そんなよくわからない感情が生まれる。
「ん、そう言えばククールのヤツはどうしたんだい?モリーは映画製作だかなんだかで忙しいから来れないって聞いてはいたけど、あの色男は結局なんだって?」
ゲルダさんに言われて思い出す。
本当は今日、この家には旅をした皆んなが集まる予定だった。ミーティアとトロデ王からは早い段階で無理だってことを聞いていたし、モリーさんも一週間前くらいに予定を繰り上げられなかったと連絡が来た。
けど、ククールだけは昨日の夜に手紙が届いたばかりだった。
「うん。ククールはやっぱり来れないらしいんだ。
代わりに、言伝を預かってるよ」
「なんか嬉しそうでゲスね、兄貴」
ヤンガスの感じている通り、彼はとても嬉しそうに手紙を取り出してる。
普通なら、来れないことに残念がったりするんだろうけど。
けど、うん。あの手紙を読んだ人なら多分、来れないことを喜ぶと思う。
「読んでみなよ。アタシも気になるからね」
「アッシも知りたいでガス」
グラスに残ってたお酒を一気に煽ったゲルダさんは、何か察しのついた顔で彼を見る。
その視線を嬉しく思ったのか、彼はまた少し笑って手紙を開いた。
「『拝啓、勇者殿たちへ。
過ごし易い気候の中、皆様ますますのご健勝のこととお慶び申し上げます。
この度の御招待、私のような流浪の者の身に余る光栄でした。それをお断りすることをどうかお許し下さい。
私共は今、世界各地を回り、身寄りのない子たちを集めております。
親に捨てられた子。家族を事故で失った子、或いは殺されてしまった子。
聖職者の末席を穢す者として、このような子供を見過ごすことが出来ない私の優しさをお許し下さい。
いずれは一つどころに落ち着き、聖オディロのような孤児院を作りこいつらを教育して、世を見せてやろうと思ってる。
だからそれまではお前らに会うことは出来ない。
お前らに会えるようになるのがいつになるかはわからねぇが、次会った時、きっと驚くぞ?俺が誰と旅してるのかを知ったらな。
それまで、おあずけだ。
じゃあな。また手紙を出すよ』」
読み終えた彼は大事に手紙を折りたたんで大切にしまう。
聴き終えた二人は、いつの間にか乗り出してた身体を元の場所に落ち着かせてお酒を手に取る。それを軽く口の中に流し入れると、ふぅ、とため息をシンクロさせて顔を見合わせる。
「…あの色男、随分生き生きしてるじゃないか」
「あぁ。ククールのヤツ、なぁにが『ぶらぶら旅でもするかな』だ。最初からそれが目的だったんじゃねぇか」
「これじゃあ、来れないわけだ。
アタシらは子供育てるか昔を振り返るかしかする事がないが、こいつの旅はまだ終わってなかったっんだ。そりゃ昔話なんかする暇ないさ」
くつくつ、と二人は楽しげに笑ってたもう一度お酒を飲む。
なんだか、私たちがこの手紙を初めて読んだ時の行動に似てる気がするわ。
「そーいうこと。
アイツの言う『びっくりするヤツ』ってのは多分マルチェロよね。ホントに私たちが気がつかないと思ってるのかしら」
「どうだろうね。ククールはそういうとこ、変に鈍感だったからなー」
「いやいや、案外もっとすんごいヤツかもしれないでゲスよ」
「ラジェ、とか言ったら本気で驚くねぇ。まぁ、流石にないだろうけど」
「いや、分からないわよ?三角谷には結構子供がいたし、一度は寄ってるハズ。そこで…っていうのは、十分考えられるわ」
「なるほどね…。それなら確かにあり得るか。
いいねぇ。酒の肴にはもってこいの話題さね!」
それから始まったのは、ククールが誰と旅をしているのか、という話。けど、どんどん脱線して、最終的には全く関係ない[最近あった子供達の面白い事]
に変わっていた。
ただ話しているだけなのに、陽は暮れていき、やがて外で遊んでいた子供達が帰ってきた。
すっかり酔っているヤンガスとゲルダさんを今日は家に泊めることにして、再び話に花が咲く。
今夜は、まだまだ楽しくなりそう。
To be next story.
ヤンガスとゲルダは子宝に恵まれて、口は悪いけど仲のいい家庭を作って欲しい…
ではまた次回。
さよーならー