私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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前回の続きです。
時系列は、旅行から帰ってきた翌日の晩です。

では、どうぞ。


第五十七話 私たちと息子と夢と

「父さん、母さん。すこし、いいかな」

 

オークニスから帰ってきた次の日の夜、本当なら寝静まっているはずのウェーナーが私たちの部屋に訪れた。

あんまり突然の登場だったせいで、ベッドの上で身を寄せ合ってるところを見られてしまう。

 

「え、えぇ、いいわよ!」

 

「うん、どうしたの!?」

 

私たちはすぐに距離をとって座りなおす。

ちょっと心臓に悪かったけど、ウェーナーの妙な雰囲気にあてられてそんな気もどこかへ行ってしまう。

 

「…どうしたの、ウェーナー。何か、悩み事?」

 

ベッドから降りて息子のもとまで歩み寄った彼は、視線が合うように屈んで問いかける。けれど、ウェーナーはなぜか俯いてしまう。

 

「えっと…その…」

 

小さな手で拳を握ってふるふると両肩を震わせるウェーナー。

私も彼も、ただ静かに待つ。

 

「…あの、僕、ね」

 

少しして、ウェーナーは口を開いた。

 

「僕、もう少ししたら旅に出たいんだ!」

 

決意を固めた瞳で、真っ直ぐに彼を見据える。どうしてか、目尻にちょっとだけ涙が見える。

そんなウェーナーを真剣な眼差しで捉えた彼は立ち上がって、少し怖い顔をした。

 

「それはどうして?」

 

怒ってる、ってわけじゃないと思うけど、私でも少しドキッとしてしまうような声色で質問した彼。

普段は絶対に発さない声にウェーナーは、驚いたような怖がるような顔で見てる。

だけど。

 

「世界を、見て回りたいから」

 

僅かに上ずる声で、けれど、キチンと答えた。

 

「オークニスに行って雪を見た…。僕たちの住むこの地方じゃ見られない物が見れた。

僕は、それがすごく嬉しかったんだ。触ると冷たくてすぐに溶けちゃうのに、ギュッてすれば固まって氷みたいになる。そんなのが空から降ってくるなんで、思いもしなかった。

すごくドキドキしたんだ。ドキドキして、ワクワクして、とっても楽しかったんだ!

それで僕は思ったんだ…。

この世界には、もっといろんなものがあるんじゃないのかな?って。

僕はそれが見たい。見て、感じて、知って、触れたい!

だから、旅に出たいんだ!」

 

ウェーナーの悩み。

それは、誰もが一度は抱く夢、だった。

さっきまで不安がってた顔をしていたのに、話すうちに徐々に徐々に明るくなっていって、今じゃ、好奇心を抑えきれずに顔に出てる。

 

「楽しいだけじゃないよ?辛いこと、悲しいこと、痛いこと嫌なこと、きっとたくさんある。

それでもいいの?」

 

「うん。

…僕は、楽しい以外のことも知りたい。知らなきゃいけないんだと思う。それが多分、父さんの優しさで母さんの厳しさだから」

 

「もしかしたら死んじゃうかもしれない。それでも?」

 

「それでも。

僕は父さんと母さんみたいに世界を見て回りたいんだ。世界を見て回って、色んな人と出会って、別れて…。それで、僕は僕を知りたいんだ」

 

そう語るウェーナーの顔は、一人前の大人の顔をしていて。

ドルマゲスと戦う前日の、彼の顔にとても似ている。

…そっか。この子も、私たちが思う以上に大人になってたのね。

 

「…そっか。

わかった。それだけ意思が固いなら、お父さんもお母さんもウェーナーを止めはしないよ」

 

「ほ、ホントにいいの?」

 

ぽん、と、ウェーナーの頭に手を置いて、わしわし、と撫で始める彼。

撫でられてるウェーナーは顔を赤くして恥ずかしがってるけど、どこか嬉しそうだ。

 

「うん。もちろん。ゼシカも、いいよね?」

 

「えぇ。あれだけ意思を固めてるんだもの。ダメとは言えないわ。

ま、私たちの子だし、ダメって言ったところで行くでしょうけど」

 

聞かれるまでもないことを聞いてくる彼に頷いて答える。

今日までずっと一緒に暮らしてきたんだから、子育てのことで意見の違いが出るわけないわ。

…ま、口に出して確認するって意味では必要だけどね。

 

「あはは。確かに」

 

撫でる手を離して自分の首元に手を当てた彼は照れ笑いを浮かべる。

私は特にだけど、彼も一度決めたことはそうそう曲げない人。そんな二人の血が入ってるウェーナーが親に反対されたくらいで大人しくなるわけない。

ルイーサだって、まんま私だしね。

 

「よ、良かった…。

もし反対されたらどうしようかと思ってたんだ。父さんも母さんもルイーサも大好きだから、この家から出て行きたくなかったし…」

 

ほっ、と胸を撫で下ろしたウェーナーは力が抜けたのかその場に座り込んでしまう。

その際、とんでもないこと口にして、私と彼を凍りつかせる。

 

「…下手に反対しなくて良かったわね」

 

「うん。笑い事じゃなかったみたい」

 

お互いに顔を見合わせてため息をつく。

もしかして、私みたいにこれと決めたら突っ走るタイプなのかしら、ウェーナーって。

 

「あ!こんなところで座ってられないや!今のうちから準備しておかないと!!」

 

そんなことを考えていると座り込んでたはずのウェーナーが立ち上がって部屋から出て行こうとする。

…間違いないわね。この行動力は若い頃の私とそっっくりだわ。

むしろ、この歳からこれだけ活発な分、私より大変かもしれない。

 

「ちょっと待ちなさいウェーナー」

 

「なに!?母さん!」

 

足踏みしそうな勢いで立ってるウェーナーは私の方にキラキラと輝く顔を見せる。

 

「その代わりに、今まで以上にお勉強は厳しくするわよ?

いつから行くつもりかは知らないけど、親元から離れるんだからそれ相応の知識と力は身につけてもらわないと安心できないわ」

 

「わかった!おやすみー!」

 

びっくりするくらい軽ーい返事を返すと、駆け出すくらいの素早さで部屋を出ていった。

 

「…考えてたことよりもっっと厳しくしてあげようかしら」

 

ベッドに座ったまま、開けっぱなしにされたドアを見つめてこぼす。

私もあんな風になってたのかなって思うと、おかあさんに申し訳ない気持ちになってきた。

 

「あはは…。お手柔らかにね、ゼシカ」

 

部屋のドアを閉めて再びベッドに戻ってきた彼。ウェーナーが部屋に入って来る前のように、身体を寄せ合って壁に寄りかかる。

彼は私が怒るとどのくらい怖いかを知ってるから、その言葉は結構本気だ。

 

「どうしかしらね。あの子達の態度次第かなぁ〜。

ま、手始めに座学も実技も時間を倍にしましょうか」

 

「…そうだね。そのくらいなら丁度いいかも。

ウェーナーもルイーサも旅に出るなら、今のままじゃ少なすぎるもんね」

 

「えぇ。

メラミもロクに扱えないようじゃこの先大変な目に合うことは目に見えてるもの。

魔物は出なくても獣と怖い人はいるから」

 

思い出すのは初めてパルミドに訪れた時に起きた事件。

あの時はまだウマの姿だったミーティアを盗まれてしまって大変な目にあったもんね…。

二人には、あんな目にあって欲しくない。

 

「うん。本当にそう。

あ、そうだ。機会があればヤンガスとゲルダに[しのびばしり]を教えてもらえるように頼んでみよっか」

 

「いいわね、それ。きっと役に立つわ」

 

彼の名案に強く頷く。

旅の時もたくさんお世話になったあの特技なら、覚えていて損することは絶対ないわ。

流石は私の旦那様。冴えてるわ。

 

「っと。あなた、明日も早いのよね?そろそろ寝よっか」

 

「ん、もうそんな時間なんだ。それじゃあ…」

 

「…ん。

じゃ、おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

デイン球の明かりを消し、その日一日をもっとステキな日にするための細やかな想いの交わりを終え、私たちは眠りについた。

…明日から始まるのは、漠然とした目的のお勉強じゃなくて、二人を送り出すために必要な事を教える日々。

それは、嬉しい反面、少し寂しくて。

ちょっとだけ、寝つきが悪くて。

彼と、もう少しだけ話をしてから眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 





男子三日会わざれば刮目してみよ。なんてことわざがありますが、ウェーナーのように成長途中の子の場合、こっちが気がついてないだけで、確実に大人になってるんだろうなぁって思いながら書いたお話です。
もちろん、ルイーサもその例にもれない筈です。(男じゃないけど)

それではまた次回。
さよーならー。
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