今回は久しぶりにあのお方が出ます。
では、どうぞ。
気品溢れるお淑やかな部屋。
ピアノがあって、壁掛けの絵があって、彩として添えられるお花で優しい印象を受けるここは、ミーティアの自室。
今ではもう正式に王女として公務に就いたミーティアは滅多に休みが取れないらしいのだけど、最近急な空きができたらしくて、私と彼はここに呼ばれたのだ。
「お久しぶりですわね。あれから、お変わりありませんか?」
旅をしている時より少しだけ胸が大きくなっただけで、それ以外はほとんど変わらないミーティアは、侍女に私たちの分の紅茶を淹れるよう促しながら口を開いた。
彼曰く、ミーティアは普段からかなり忙しいらしくてお城で勤めてる彼ですらほとんど顔を見ることがないそうだ。
「えぇ。ミーティアも元気そうで良かったわ。
この間はありがとね。うちの子のわがままに付き合ってくれて」
「いえいえ。お二人のお願いですもの。城の兵たちからは『良い刺激になった』と報告を受けていますわ。
それに、お二人のお子さんを見れたこと。とても嬉しく思っています。ウェーナー君はお元気ですか?」
「うん。
今日は娘のルイーサと一緒に友達の家に遊びに行ってるんだ。機会があれば、ルイーサにも会って欲しいな」
「まぁ!それはいいですわね!こちらこそお願い致します」
いつかの日のように両手を合わせ無邪気な笑顔を見せて喜んでくれるミーティア。
正式に公務に就いたとは言っても、やっぱり彼女は彼女みたいで変な話辛さとかは感じない。
「それにしても、大きなお部屋ね〜。
ミーティアって、ピアノ弾けるんだっけ」
「えぇ、もちろんですわ!
最近は忙しくてお稽古もあまり出来ませんでしたが…。それでもよければ引いてみましょうか?」
「あら、ホント?聞かせて欲しいわ」
「僕も久しぶりに聴きたいな」
「でしたら、少しお待ちを。
メリー?」
「…こちらはどうでしょうか」
呼びかけに応じた侍女のメリーはどこからか楽譜を取り出すと、ミーティアにそれを渡して反応を伺ってる。
…気のせいかしら。この子、どこかであった気がするけど…
「うん。これにしましょうか。
ありがとうメリー。貴女はいつも素晴らしいものを選んで下さいますね」
「いえ。姫様とはもう長いですから、このくらい当然です」
「ふふ、頼もしいですわ」
静かに立ち上がりミーティアはピアノの椅子へと座り直す。
持っていた楽譜を開いて立てかけ、軋み一つなく開けられる鍵盤の蓋。引かれていたバラ色の布を綺麗に折りたたんでメリーに渡すと、両手を膝の上に乗せて深呼吸をする。
「…それでは」
ポロン。
気高く品のあるけれど幼い、そんな音が響く。
しなやかに叩かれる鍵盤。勢いはないけれど、観ている人に勇気を与えてくれるような力強さを感じる伴奏。
これは、そう。まるで私たちの旅を題材として書き上げたみたいな曲。
始まりは穏やかながらも苦しみを感じて、少しずつ陰鬱としていく。けれど、そこに決して光がないわけじゃない。僅かな希望を信じて突き進み、やがて勝利を収めて平和を取り戻す。
そんな、悲しくも優しい温かな曲。
「…ふぅ。
いかがでしたか?思ったよりも上手に出来たと思うのですけれど…」
最後の音符を響かせ終え、額に浮かんだ汗を指先で拭いつつ私たちの方に向き直るミーティア。
感想はもちろん。
「最高だったわ!何があんまり稽古できてない、よ。謙遜しすぎだわ」
「うん。凄く良かった。最後に聞いた時よりも更に腕を上げたみたいだ」
私も彼も文句無しの満点。…ううん。百二十点って感じ!
できることなら毎日聴きたいくらい最高で、二人して思わず拍手をしてる。無表情だけれど、メリーもだ。
「ふふ、嬉しいですわ!実は今度、アスカンタ城にお呼ばれされてピアノを弾くことになっていましたから、そう言ってもらえると嬉しいです!」
「それなら問題ないわね。きっとパヴァン王も腰抜かすわよ?あんまり上手すぎて!」
「本当ですか!?うふふ。ゼシカにそう言ってもらえるととても自信が持てます!」
椅子から駆け出して私の手を握るミーティアは満面の笑みを見せる。
ホント、仲間とは言え、一国の王女様なのにこんなにフレンドリーで大丈夫なのかしら。心配だわ。
「姫様。余りお戯れをなさらないように。
…私はまだ燃やされたくありませんから」
それを少し離れた所から制するメリー。
当然といえば当然のことなんだけど…なんていうか、ケチよね。
「燃やす…?よくわからないけど、そうですわね。ごめんなさいゼシカ。まだクセが抜けてないみたいでして」
真面目なミーティアは、苦笑いしながら側を離れていく。とても、寂しそうな表情をして。
…だから、その手をちゃんと握ってあげる。
「ふふ、いいじゃない。私達は仲間で、親友なんだから。こんなの戯れにならないわ」
彼女を引き寄せて抱き合う形で身を寄せ合う。
…そう。あれだけの大冒険を一緒にして、同じ人を好きになって、今もこうして仲良くしてるんだもの。こんなの、なんてことない普通のことよ。
「ひ、姫様!」
ギュッ、っと抱きしめてメリーの方に視線を向ける。
…あら。無表情が売りなんじゃなかったのかしら。あの日もそうだったもんね?…モコ?
「…もう、ゼシカったら。メリーに怒られても知りませんよ?」
「大丈夫よ。優しいメリーならきっと許してくれるわ。
ね?」
微笑みながらメリーに視線を向ける。
…ええ、そう。ようやく気がついたわ。このメリーって侍女は、だいぶ前に私たちの家にいきなり上がり込んできた[モコ]と同一人物。
正直、あの時の真意はいまだにわからないけれど、今日ミーティアと話した感じだとあの日のモコ…メリーの行動は内緒だったっぽい。
なら、それを利用しない手は無いわよね?だって、ミーティアはあんなに寂しそうな顔をしていたんだもの。あのまま座らせてしまったら、今日がきっと楽しくない思い出になっちゃう。
「…はい。よくよく考えれば、ゼシカ様がミーティア姫様に危害を加えるなどあり得ません。
ですので、私が口出す必要はありませんでした」
私の視線に含まれた意味を受け取ったのか、メリーは少しだけ怯えたような顔をしてもう一度無表情になる。
「ふふ、そうそう。私がミーティアに何かするわけないわ。ただこうやって友達とハグしてるだけなら、何も問題ないはずよ」
「…そうですわよね!でもゼシカ?友達、じゃなくて、親友、でしょう?」
「うふふ、そう、そうよね!」
腕の中で微笑むミーティアが可愛くって思わず頬ずりをしてしまう。
それを少し恥ずかしそうに受け止めて、仕返しとばかりに腰に回ってる手に力を入れるミーティア。
…本当、気まずいからって関係を切らずにいて良かった。定期的に交わしてた手紙のおかげでミーティアがどんな子かもよく分かったし、私がどんな人なのかも伝えることができた。
おかげで、私は何物にも変えがたい友達が出来た。
「ねぇ、ミーティア?」
「はい?なんですか、ゼシカ」
「今度、一緒にショッピング、なんてどうかしら?この前、結構良いところを見つけたの」
「それは良いですわね!
メリー?今度はいつ休みが出来そう?」
私の思い付きにも嫌な顔しないで応えてくれたミーティアは、すぐにメリーに確認を取ってくれる。
相変わらず無表情に、手帳に目線を落とすメリーは可能性のある日を幾つか上げていく。
その中から最も休みになる確率の高い日をミーティアに教えると、一先ず、その日に出かけることにした。
「…ゼシカ?まだ、いられますわよね?私、最近少し辛いことがあって…。相談に乗って欲しいのですけれど…」
「えぇ、もちろん良いわ!」
すっかり蚊帳の外に置かれてしまった彼の事も忘れて、その日はミーティアの悩みを解決するために残りの時間を使った。
To be next story.
ということで、ゼシカの親友はミーティア姫でした。
紆余曲折を経て、手紙で連絡を取り取り合い、そうしたお陰でこの関係へと至りました。
ではまた次回。
さよーならー