私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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次回の続きと言えば続きです。
もちろん、続けじゃないと言えば続きじゃないです。

では、どうぞ。


第六十話 私と彼と知らない事と

「この間は急にお願いしちゃってごめんなさい。

お陰で、すごく助かったわ」

 

「なぁに、良いってことさ。また何かあったらすぐに言うんだよ?アタシらに出来ることならなんでもするからさ」

 

晴れた日の昼下がり。私の家のソファに座りコーヒーを飲むのは、よきママ友でもあるゲルダさん。

彼がタチの悪い風邪を引いてしまい、ウェーナーとルイーサに感染らないように二日ほど預かってもらってから半月ほど経った今日、たまにはゆっくり話そう、ということでやってきた。

私としてもお礼が言いたかったし、子供達もヨウイさんの家に遊びに行ってて暇だったしで二つ返事を返した。

 

「そう言ってもらえると助かるわ。

もちろん、そっちに何かあったら私たちも力になるから、教えてね?」

 

「あぁ、その時は頼むよ」

 

お互いに薄く笑って手元にあるカップを口元に運ぶ。

 

「…このコーヒーって飲み物、最初は苦くてダメだったけど、慣れると結構美味しいわね。

旅してる時には飲んだ覚えが無いけど、どこで手に入れたの?」

 

カップをお皿の上に戻してテーブルに置きつつ、気になっていたことを聞いてみる。

今飲んでいるのは黒色をした[コーヒー]と呼ばれる飲み物。さっきも言ったように、旅の途中では耳にしたことがない物をゲルダさんが手土産として持ってきてくれたの。

なんでも、豆を挽いてろ紙に載せ、その上からお湯又は水を適量注ぎ、カップに注ぐのだとか。

用意してくれたのがゲルダさんだから詳しいことはよくわかってない。

初めは苦くてとても飲めたものじゃなかったけど、二〜三杯目くらいから徐々に苦味以外の味を感じられるようになり、今では香りを楽しむ余裕まで出てきた。

 

「お、気に入ってくれたかい?

実はね、それの元になる豆はアタシらが栽培してるのさ」

 

「…え?」

 

嬉しそうにそう口にしたゲルダさんは、混乱する私をよそに再びコーヒーを啜り得意げに微笑む。

 

「嘘だと思うだろ?けど、これが本当なんだ。

アイツと一緒に盗みに行った屋敷の庭で偶然これの豆を見つけたんだけど、中にお湯が入ってる水筒に落ちちゃってさ、仕方ないからとりあえず家に持って帰って桶にあけてみたんだ。そしたら、結構良い匂いがするもんだから思わず舐めてみてビックリ!結構美味かったんだよ!

それで、どうしたらもっと美味しくなるかを研究してたらコーヒーができたってわけだ。

ホント、幸運だったよ。おかげで今じゃアタシらの店で一番の売れ筋だ」

 

よっぽどコーヒーの豆を見つけられたのが嬉しかったのか、早口気味に経緯を教えてくれるゲルダさん。

私としては、例えいい匂いがしたとしても得体の知れないモノを舐めてみたいとは思わないけど、結果としていい方向に働いたみたい。

…やっぱり、ヤンガスの奥さんなだけあってワイルドだわ。

 

「へー。って事は、ゲルダさんたちのお店に行けば買えるのね?いくらくらいなの?」

 

「そうだねぇ…

今はまだ数が少ないからちょっと高めだけど、ゼシカたちになら現状の最終的な価格で売ってあげられるよ。

二百グラムで二千五百ゴールド。一回に使う粉末の量が十〜十五…仮に十五グラムとすると一杯は大体百七十ゴールドくらいだね」

 

「ま、まぁまぁするわね…」

 

まだ飲みかけのコーヒーに眼を落とし、苦笑いがこぼれる。

それまでに私が飲んだのは四杯…。つまり、六百八十ゴールド分だ。

…結構な出費ね。

 

「いや、そうでもないさ。

アタシらが普段飲んでる紅茶だって、良いものは二百グラムで四千ゴールドとかするからね。コーヒー豆が更に上手いこと栽培できて、粉末にするのをより効率的に出来るようになったらもうちょっと安くできると思うよ」

 

新しくコーヒーを注ぎつつ設定理由を教えてくれるゲルダさん。

確かに、言われてみれば紅茶や緑茶も値段はピンキリ。二つはそれなりに流通してて、種類も豊富だから値段もバラけるわけだけど、コーヒーに関してはゲルダさんの言うようにまだ数が少ないから、高価なものになってしまうのは当然だ。

そう考えれば、今の価格設定も納得できる。

 

「なるほど。たまの小さな贅沢って感じなら、全然良いわね。

決めた。今度買いに行くわ」

 

「了解。飛び切り上質なのを用意しておくから、楽しみにしてな」

 

「えぇ、わかった。

あ、そうそう。うちの子、コーヒー豆とかにイタズラとかしなかったかしら?大丈夫だとは思うんだけど…」

 

ふと気がついたことをゲルダさんに尋ねてみる。

今までの話し方だと多分自営業をしてるんだと思うんだけど、そうなるとウェーナーとルイーサを預けたことで何か迷惑をかけたんじゃないかと思ってしまう。

贔屓目を抜きにしても、二人とも落ち着いてるから余計なことはしないと分かっててもそれはそれ。何かわからずに粉末状のコーヒー豆を見つけたらゴミだと思って捨てないとは言い切れない。

 

「いや、むしろその逆さね」

 

そんな私の不安をよそにゲルダさんは嬉しそうに微笑む。

 

「どういうこと?」

 

「いやね、言い辛い事に、あの二人にはちょっと仕事を手伝ってもらったのさ。

ああもちろん、迷惑なんてこれっぽっちも被ってないから安心しなよ。それどころか、手際が良くて従業員として雇いたかったくらいだ」

 

「ほ、ホントに?」

 

「本当さ。

その日に受付を担当するはずだった奴が急に来れなくなっちまってね。旦那とうちの子は力仕事やら包装やらがあって手伝えない。しょうがないからアタシ一人で回してたんだけど、昼前辺りとんでもなく混み始めて、一人じゃどうにもならなかったんだ。

そうしたら、ウェーナーだったかルイーサだったかが、『何か出来ることは?』って言ってくれたから、ついつい甘えちまってね…

すまない!黙ってて悪かった」

 

ゲルダさんが預けた日のことを思い出しながら話すと、急に両手を合わせて謝られる。

突然のことに驚いたけど「気にしなくて良いわ」と返すと、申し訳なさそうな顔をしながらソファに座りなおした。

 

「二人が言い出したことだし、ゲルダさんが謝ることないわ。むしろ、それで迷惑をかけたかもしれないんだから、謝るのはこっちの方よ。無理にでもやらせてって言ってたら、ごめんなさい。

それで、本当になにもしなかった?他のなら良いってわけじゃないけど、貴重なコーヒーの粉をこぼしたりとかしたら、とんでもないし」

 

「それは大丈夫。

包装自体しっかりしてるから多少手荒に扱っても滅多にこぼれないようにしてるし、仮にこぼれたとしたら、それは包装をした奴に問題がある。

それに、二人に手伝ってもらったのは販売の受付の時にお金を預かる役と、補充されてきた商品を棚に並べることだったから、失敗してもそんなに被害があるわけじゃなかった。

…まぁ、ゼシカが心配するようなことはなにも起きなかったってことさ」

「そう?なら、良いんだけど」

 

「あぁ。

言葉遣いはよかったし、言ったことをちゃんと守ってくれた。接客なんて、アタシよりも丁寧だったよ?

ホント、立派なもんだよ。うちの子たちにも良い刺激になったんじゃないかな。最近は文句言いながら手伝ってたし」

 

ゲルダさんは両腕を組んで感心したように頷く。

彼女は気を遣える人だけど、嘘はつかないから、全部本当のことだと思う。

だから、うん。

ちょっとさみしい。

 

「最近、子供の成長を目の当たりにすることが多くて驚くことばかりだわ。

まさかそんな風にあの子達ができるなんて思いもしなかった。

早いわね、本当に」

 

思わず漏れた想いに、ゲルダさんが頷く。

 

「全くだよ。アイツら、気がついたら出来なかったことが出来るようになってるんだ。

アタシや旦那としてはもう少し頼って欲しいけど、アイツらは多分自分でやりたいんだろうね。だから成長も早い。

もうちょっと、ゆっくりでもいいと思うんだけどねぇ」

 

「あはは。すごく良くわかるわ。

うれしいけど寂しい…。手を握ってると思ってたら、いつの間にか手を握られてた。なんてことにすぐなるかもね」

 

「オイオイ、アタシはともかくあんたらにはまだそんな心配いらないだろ?気にし過ぎだよ」

 

どこかムッとした表情でそう答えるゲルダさん。

…確か、ヤンガスと同じくらいの年だったから、彼女は今はもう四十…

いけないわ。これ以上の詮索はよしましょう。

 

「ま、まぁなんにせよ、子供の成長は嬉しいわよね。

そうだ!もし、迷惑じゃなかったら、時々手伝いとかさせてもらっても大丈夫かしら?あの子達、そのうち旅に出たいって言ってたから、その資金集めや、私たちじゃ教えられないことを教えてほしいの」

 

「あぁ。そういうことなら任せなよ。人手はいくらあっても良いんだ。余裕のある日を教えてくれれば、入って欲しい日を連絡するよ」

 

危なげな話題から話を避け、思い付いたことを聞いてみると、快諾してもらえた。

これなら、前に彼と話してた[しのびばしり]を教えてもらいやすくなるでしょうし、お金の事も知ることができる。

 

「もちろん、悪い事をしたら叱ってもらって構わないわ。

私たちじゃどうしても甘くなっちゃうから、目一杯怒って欲しいの。それがあの子達のためにもなるでしょうし」

 

「了解。

ま、預かる間はアタシらの子供たちと同じように扱うさ」

 

「うん、それでお願い」

 

「賃金に関しては、まぁ、追々決めるとして、やらせる仕事はこっちで決めちゃって良いかい?

多分、この前と同じように受付と補充になると思うけど」

 

「えぇ、そっちのやりやすいので大丈夫。

危ない事じゃなければ、任せるわ」

 

子供達を預ける際どうするのかを簡単に決め終えると、ふと外の陽射しに目が眩む。

時計を見ると時間は既に十六時を示していて、解散するには丁度いい頃合いだった。

 

「さてと、そろそろ家に帰って夕飯作らないとね。

旦那は良いけど、子供たちが騒ぐんだよ」

 

「あら、前はヤンガスに作らせてたのにどういう心境の変化?」

 

聞き捨てならない言葉に食いつくと、ゲルダさんは[しまった]みたいな顔をして焦り気味にソファから立ち上がる。

 

「…今日は世話になったね。また今度、暇な日があれば集まろう」

 

「えぇそうね。

その時は、手料理でも振る舞ってもらおうかしら」

 

気を抜いたらニヤケちゃいそうになる顔をどうにか堪えて、見送るのに立ち上がる。

…ふふ、ようやく弱味を握れたわ。今まで散々言ってくれた分、お返ししなきゃね。

 

「バカなこと言ってないで、どうやったら旦那との時間を増やせるか考えてたらどうだい。アタシと違って、一緒に居られるわけじゃないんだからさ」

 

「よ、余計なお世話よ!」

 

「その余計なお世話がなきゃ、未だに勇者様と仲良く旅してたかもしれないんだから感謝しなよ」

 

「う…

…否定は、しないわ」

 

お互いに一歩も譲らない舌戦を繰り広げつつ、着いた玄関。

ドアを開けると、気持ちのいい風と柔らかな夕陽が私達を包む。

 

「んじゃね。連絡待ってるよ」

 

「ええ、帰り道気をつけてね」

 

そう言って手を振り、ゲルダさんは弧を描いて自宅へと帰っていく。

 

「さーてと、私も準備しなきゃね」

 

独り言を呟いて台所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 





話しの続きと言うのは、時系列的に[直ぐあと]だけでなく[間を置いたけど継続している後]でも通用するのか。人のの認知によって変わる事っぽいですよね。
…なんか、バカっぽい疑問だなぁ(渾身の自虐ネタ)

それではまた次回。
さよーならー
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