私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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お久し振りです。
例の如く、書く書く詐欺師のカピバラ番長です。
アホみたいに時間使った上に今回もまたキャラを崩壊させました。
挙句にめちゃ長いです。いつもの倍近く書いてます。
けれども、それでもお楽しみいただけたなら幸いです。

それでは、どうぞ。


第九話 私と彼と揺れる感情

少しだけ、風が吹いている。

ほんのちょっとだけだけど、空の果て辺りが赤く染まっている。

 

「全く、なんで外に置いたのかしら」

 

ひらひらと、飛んで行ってしまいそうなスライムを開いてカウンターに押さえつけ、可愛らしくなったドルマゲスのスタンプを押す。

 

「ふぅ。やっと半分。

…それにしても遅いわね、あの人」

 

朱色で描かれたドルマゲスを、サッ、っと隠して元のスライムに戻すと、噴水近くの長椅子に腰掛ける。

あの人がトイレに行くと言ってから十分くらいが経った。

 

「なんだか、変な気分…」

 

ふと気がつく。

ベルガラックに泊まってからこんなにも長い間一人きりになった事が[初めて]だと。

 

「(そっか、彼が近くにいないから…)」

 

ほんのりと締まる胸に手を当てて心を落ち着かせる。

 

けど、宿に泊まる前までは一緒に居られない時間の方が多かったのに、どうしてだろう。

なびく髪を抑えて、石張りのタイルに視線を落としながらそんなコトを考える。

つなぎ目をなぞっては行き止まり、少し戻しては別のつなぎ目をなぞる。

 

「あ、分かった」

 

少しだけ視線を上げて、薄っすらと赤らむベンチを捉える。

昔、村の人が言ってたっけ。

『人は慣れてしまえればどんな時も大丈夫』

って。

 

「(そっか、だから今までは平気で、今は平気じゃないんだ)」

 

じゃあ。

じゃあまた、前の生活に戻ったら、平気に…なっちゃうのかな。

 

「それはちょっと…寂しい…」

 

思わず口をついた言葉。

風に乗って帰って来たそれは、人目も気にせず感傷に浸っていた自分を元に戻した。

 

「って!らしくないらしくない!私ってば何言ってるのかしら!」

 

バタバタ両手を振って否定をしつつも蘇る。

彼は、そんな私も『好きだ』と言ってくれたんだ。

 

「…そうね、そうだった。これも間違い無く私なのよね」

 

右手で口元を隠す。

 

「ふふっ、それなら今日は彼に、らしくないコトでも言ってみようかしら」

 

それから少し後、赤焼けが街を覆う頃になって、ようやく彼が戻って来た。

 

「ごめんゼシカ!待たせちゃった!」

 

「ううん、平気」

 

走って戻って来てくれた彼に、隣に座るように椅子を軽く叩いて促す。

気がついた彼は「ありがとう」と言ってそのまま腰を下ろした。

 

「そっか、それなら良かった」

 

「ただ、少しだけ…」

 

「ん?

少しだけ、どうしたの?」

 

「少しだけ、さ、さみ…

ううん!やっぱりなんでもない!」

 

さ、流石に勢いも付けずに言うのは無理ね!

初めはもっと慣らしてからにしましょう!

 

「よく分からないけど、何かあったら隠さず言ってね?」

 

困り顔をしながらも笑顔を作る彼の顔が見えて、申し訳ない気持ちになる。

うぅ…実は少しワガママ言ってみたくなった、なんて言えないわ…。

 

「そうだ。あなた、今何時か分かる?

結構陽も落ちてきたし、そろそろ時間を気にしなきゃいけないかも」

 

「さっき見た時は確か十六時半くらいだったかな?」

 

「うわ、思ったより時間使ってたのね。

うーん、フォーグたちを探す時間を考えると制限時間は後一時間ってところかしら」

 

私が悩んでいると、彼は何かを思い出したのか辺りを見回して。

 

「そう言えば、四つ目のスタンプは見つけられた?」

 

「もっちろん。バッチリよ!…まぁ、変なところに隠してたもんだから、直ぐに押せたわけじゃ無いんだけどね」

 

言いながら彼にスライムのスタンプカードを見せる。

 

「凄い、よく見つけたねゼシカ!二人で探しても見つからなかったのに」

 

「アレは普通に探してたら見つからないわね。

だって、お弁当屋さんのカウンターの後ろに隠してあったんだもの。受付の人が『何かしら?』って言ったのを聞き逃してたら絶対見つからなかったわ」

 

手元に戻ってきたスライムをしまってため息をつく。

 

「それは確かに分からなかったかも。

うーん…なんだか、急に難易度が上がったね」

 

「そんな気がするわね。

一つ目が《ゴールド銀行の羽根ペンの近く》

二つ目は《教会の脇道に見える井戸の近く》三つ目は《噴水近くのギャリング像の足元》だったし」

 

「思い返してみると、少しずつ難しくなってるね。

これは次からも大変そうだ…」

 

「なんて言ってても始まらないわよ。

さ!早いとこ五つ目のスタンプを探しましょ!」

 

意気込んで立ち上がり、開始時にユッケから渡された子供向けにアレンジされた地図を広げる。

元はユッケの手書きらしい。

彼女は案外、子供が好きなのかもしれない。

 

「次のスタンプがある場所は…

あれ?ここは確か、前に大王イカが現れた場所だったような…」

 

「あ、ホントだ!懐かしいわねぇ〜。

よし、それじゃ早速移動しましょうか!」

 

 

 

 

 

 

旅の途中で寄った時、ベルガラックの中にまで現れた大王イカ。

それを倒した場所に到着して少しの間探し回った。

 

「あら、小さな虹が出来てるじゃない」

 

手を休めて水際ギリギリの辺りまで行くと、細かな水飛沫が体全体に当たってなんとなく気持ちがいい。

 

「へー、ここって思ってたより浅いのね」

 

飛沫を浴びながら屈んで水底を覗き込む。

 

「少し底上げすれば、小さな子でも水遊びとか出来そう」

 

「ゼシカー、見つかったー?」

 

「う、ううん!それらしいのは無いわねー!」

 

手分けして探していた私たちは、彼が道具屋さんの方、私が水の流れてくる方とした。

そんな彼も、どうやらスタンプが見つからないらしい。

…まぁ、私の場合はちょっとだけよそ見していたのだけど。

 

「どうしたんだ、にぃちゃん達!さっきからウロウロと!落としモンか?」

 

唐突に後ろの方から景気のいいおじさんの声が聞こえた。

 

「え、ええまぁそんな所です!」

 

驚いた彼は、振り向きながら答える。

そこに立っていたのは、旅の間何度もお世話になった道具屋のおじさん。

 

「そうかい!なら昼前ぐれぇに見つけたのがあるんだが、これかい!」

 

そう言って見せてくれたのが…

 

「うそ!スタンプじゃない!」

 

少し遠くから見ていた私は、すぐにおじさんの元へと駆け寄った。

 

「これよこれ!どうしておじさんが!?」

 

「お?なんか見た覚えのある姿だと思ったら、ちっと前に買い物に来てくれたお嬢ちゃんじゃねぇか!」

 

「え、あ、そ、そうです…けど…」

 

「ん、これか?これはな、いつもの様に滝ん近くで昼飯食おうとしてたらよ、中に落ちてんのを見つけてな。あんまりにも出来がいいモンだから拾っておいたんだ」

 

おじさんは「ガッハッハ」と豪快に笑って説明してくれた。

 

「あの、ごめんなさいおじさん。そのスタンプ、私たちの…と言うか、私たちの友達の物なの。だからその…私たちに預けくれないかしら?」

 

「おお?そうかいそうかい!ならほれ、早く持って行ってやりな!

綺麗に拭いてあるし、あらかた乾燥も終わってるからよ!」

 

そう言うとおじさんは私にスタンプを渡す。

 

「ありがとうおじさん!」

 

「ありがとうございます!」

 

「いいってこった!

それよりも、ちゃんと持ち主に返してやってくれよ?拾った俺の『二度と水ん中に落とすんじゃねぇぞ!』って言葉と一緒にな!」

 

「うん、わかった!」

 

おじさんが大袈裟に笑うものだから、つられて私も彼も笑ってしまった。

すると、道具屋さんの方から声が届いた。

…と言っても、何を言ってるのかまではわからなかったけど。

ただ、なんとなく怒ってるのは理解出来た。

 

「おっと、カーチャンが呼んでやがる。とっとと戻んねーとどやされちまうな。

それじゃ今後とも、ご贔屓に!」

 

「ええ!また買いに来るわね!」

 

ニカッと笑ったおじさんは小走りでお店へと戻って行った。

 

「良かったね、見つかって!」

 

「ええ!これで残るスタンプは後2つ…になった訳だけど…」

 

そう言って取り出した地図を見てみる。

けれど…

 

「うん?どうしたの、ゼシカ。難しい顔して」

 

「うん…。

えっと、六つ目のスタンプがどの辺にあるのかを探してるんだけど…」

 

「見つからない?」

 

「そうなの、あなたも確認してみて」

 

今いる場所を指差しながら彼に地図を渡す。

 

「あ、あれー?本当だ。乗ってないね?」

 

「そうなの。流石に手がかりも無しじゃ探しようがないわ」

 

「うん、そうだね」

 

どこか、無関心な彼の返事。

なんだろう。

いつもと変わらない彼の言葉に何か違和感を感じる。

 

「ねぇあなた?さっきから少し変じゃない?」

 

「うぇっ!?な、何が変なの?」

 

「今のとかよ」

 

「えぇ!?」

 

動揺しているようなこの反応。

多分、何か私に隠し事をしている。

 

「なんて言うか、あんまり関心無い気がするんだけど」

 

「そ、そんな事ないよ!?」

 

うわずる声、妙な挙動に、泳ぐ目。

間違い無い。私に何か隠している。

それも、私にバレたらまずい種類の秘密を。

だってほら、ご丁寧に額から汗まで飛ばしちゃってる。

 

「へぇ〜、そうなんだ?でも、その割には目を合わせてくれないじゃない?」

 

ずいっ、と肘をみぞおちに押しつけるようにして身体を寄せる。

目と鼻の先にあるのは、明後日の方向に視線を向ける彼の顔。

 

「そ、それはゼシカが睨んでるからで…!」

 

「最初っからは睨んでなかったじゃない?」

 

組んでいた手を僅かに離して、人差し指で小さな火球を作る。

メラメラと燃えるソレは、彼のアゴ先を綺麗に乾燥させた。

 

「ちょ、ゼシカ?それはシャレにならないんじゃ…!!」

 

「大丈夫。ちゃーんと加減してるから」

 

勿論、放つつもりは無い。

今の私のレベルだと、こんな小さな火の球でも家一つを全壊させるくらいの威力はある。

万が一、外してしまった場合の事を考えると絶対に使えない。

 

「でも、隠し事を話してくれるなら…」

 

立ち昇る煙の臭いに顔を顰める彼は、私の指先を見て安堵の息を吐く。

 

「でももし、それが!嘘!なら…!」

 

「熱っ!ゼシカ!?これ、僕のアゴが!!」

 

「黒コゲになりたく無いなら、今すぐに本当の事を話しなさい?」

 

ジリジリと迫り寄る、火の先端。

アゴをあげて抵抗する彼。

最早、空を見上げてるのと変わらない状況になると、観念したかのような声を出して。

 

「ご、ごめんゼシカ!直ぐに話…」

 

「どうしたんだ二人共。破局か?」

 

嫌味な声が髪を揺らす。

咄嗟に火球を消して、彼から離れる。

 

「え、あ、フォーグ!?」

 

最初に声を上げたのは、私ではなく彼だった。

 

「あ、あら!どうしたの?」

 

今出来る一番の笑顔を作って振り向いて見たものの。

 

「ふふ、清々しいまでに隠しきれてないな。

全く、外にいる時はラブでホットな二人で居てくれと頼んだのに」

 

瞬時に見破られてしまった。

 

「うっ…。そ、それ、ちょっと古いわよ。

……で、何の用?」

 

何となく流れる、気持ちの悪い雰囲気を読む事をしないフォーグは彼の手にしている地図を指差す。

 

「はっはっは!いや、すまない。用件というのはそれの事だ。

ユッケの奴が作った試作品の方を渡してしまったようでな、正しい物と取り替えに来たのだ」

 

「な、なるほど」

 

「何で感心してるのよ」

 

「さぁさ、下らない痴話喧嘩をやめたまえ。そしてまた、仲睦まじくスタンプラリーをしたまえ」

 

有無を言わせない。

そんな威圧感を発しながら、彼の持つ地図と自分の持って来た地図を取り替える。

 

「さ、これで続けられるだろう。それに、今回は運営側の不手際という事でプラス一時間の延長だ。

残り時間と合わせておおよそ一時間半。まぁ、これだけあれば残り二つくらい見つけられるだろう」

 

そう語るフォーグの顔からは《見つけられまい》という悪意が見え隠れしている。

徐々に上がって行く難易度といい、いよいよ気を引き締めて探した方が良さそうだ。

 

「あ、そうそう。5つ目のスタンプなんだけど、そこの水の中に落ちてたわよ。

道具屋のおじさんが拾って乾かしてくれたんだし、あとでお礼、言っときなさいよ」

 

「む、そうか。

試験的な試み故、余計な配慮などを避けるため、極力多言せずに実行しているからな。

スタンプラリーが終わり次第、道具屋の主人には説明と謝罪をしておこう。

案ずるな。お礼品として、幾ばくかのコインも渡しておく」

 

「ならいいわ。

あー、それから。お弁当屋さんの受付の子にも言っておいて。カウンターの裏の方、だったかしら。スタンプが置いてあって、驚いたって」

 

「…全く、あそこの店長は。

あくまでも『見つけられる場所に置いておけ』と言ったのに。宝探しとは違うのだぞ…」

 

頭を抱えるフォーグ。

事実上、ベルガラックを治めてると言えなくもない彼らでも、やっぱり思い通りに行かない時もあるらしい。

 

「まぁいい。

そら、さっさと探して来るといい。刻限まで後一時間と十五分程しかないぞ」

 

そう言ってフォーグは時計を見せてくる。

それを熱心に覗き込む彼。

…考えるのもバカらしくなるくらい、変だ。

 

「ほ、本当だ!ゼシカ!早く探しに行こう!」

 

「…そうね。行きましょうか」

 

色々と引っかかる部分はあるけど、取り敢えず今はスタンプラリーに集中しよう。

完走出来なかったその時は、理由を根掘り葉掘り聞かれる。なんて、面倒な事この上ないし。

 

「それじゃ行こうか!」

 

妙に急ぐ彼に不満を抱えながらも、その後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして。

夕暮れも過ぎ、夜の帳が降り出し始めた頃。

私は、ギャリンク邸のいつもの部屋でフォーグにスタンプカードを渡していた。

 

「ふむ、確かに受け取った。…手配した私がいうのもなんだが、よくも全部見つけられたな。伊達に洞窟なんかを探っていたわけじゃなさそうだ」

 

「あったり前でしょ!死ぬ心配をしないでいいだけマシよ!」

 

イヤミ男はニヤリと微笑んだかと思うと、深々と腰掛けていたソファから立ち上がる。

 

「ふっ、それもそうだな。

では、明日の昼にチェックアウトする時にでも感想を聞かせてくれ」

 

結局は感想を聞くのね。

けど、よくもまぁそんな事が言えたものだ。

あんなものの感想なんて。

 

「ふん、考えるまでも無いわね。サイテー最悪の催し物よ!

なんなのアレ!なんでよりにもよって最後の一つだけあんなに難易度高いのよ!」

 

「そうか?こちら側が手配した人物から受け取るだけじゃ無いか」

 

『何を言っているんだか』そんな風に肩をすくめる。

ムカつくわね。あんたの方がよっぽど隠しきれてないじゃないの。

ま、隠すつもりがあれば、だけど。

 

「なら、わからないフォーグのために教えてあげるわね。いい?よーく聞いて。

あんたの手配した人物がバニーちゃんなのはまだ良いわ。けど、その子の胸元にスタンプがあるっていうのは、どうなのかしらね!?

しかも!胸以外の全部が!私にそっくりって!」

 

「おや?そうだったのか?気がつかなかった」

 

首を傾げてとぼけるその顔も、やっぱり本音は隠しきれてない。

 

「消し炭にするわよ!?

更に言うなら、そのスタンプを取っていいのは男の人だけ。と言うことはつまり、あの人だけって事よね?

それって、どう考えてもダメでしょ!?

意を決して取ろうと彼が手を伸ばせば、バニーちゃんは変な声を出すし、スタンプは押さえが強くて取りづらいしで!

その時、彼はなんて言ってたと思う?」

 

「なんと言っていたんだ?」

 

「『ごめんゼシカ。違うんだ、浮気じゃないんだ燃やさないで』って、泣きながら言ってたのよ!?

とてもじゃないけど見てられなかったわ…!!」

 

勢いのままに吐き出すと、今度は胸のあたりから何かが込み上げて来てしまった。

とてもじゃないけど抑えきれないソレが口から出てこないよう両手で蓋をする。

 

「なっ!顔を覆って泣く事はないじゃないか。これではまるで僕が悪者みたいではないか!」

 

言うに事欠いてこの男は…!

私が、あの人以外の、男の人の!前で!!

 

乾いた木のような音が部屋に響く。

反応してフォーグは一歩、後退りした。

 

「泣くわけないでしょ!?怒りが爆発しないように我慢してるの!

ていうか、悪者みたい、じゃなくて悪者そのものでしょ!あんたが魔物だったらとっくに経験値に変えてるわ!」

 

「わ、分かった!分かったから、その、両手で作ったメラとヒャドを消してくれ!極大消滅呪文などシャレにならんぞ!!」

 

「なによそれ!?テキトーな事言ってると本当に放つわよ!!」

 

「なっ!知らないのに使おうなどと…!

よ、よし、わかった、謝る!今すぐに望み通りの謝罪をしよう!だから、すぐに両手から魔力を放棄するんだ!」

 

「な!ん!で!上から目線なのよ!!!」

 

もうダメだ、とことん頭に来た!

 

呪文を放とうと両手を正面に突き出そうとしたその時。

 

「あーもーうるさい!いいから二人とも落ち着きなさいって!」

 

バタン!

 

と、大きな音を立てて扉が開いた。

その勢いは、反動でふたたびドアが閉まるほどだ。

あまりにも突然の音に、手に作っていたメラとヒャドが消失する。

 

「お…おぉ、おお!良いタイミングで戻ってきてくれた、我が妹よ!」

 

言うが早いか動くが速いか、フォーグは颯爽と扉の方に走るとそこに立っていたユッケの後ろに隠れるようにして立った。

普段では考えられない光景だ。

 

「全く、このバカ兄は…

いい、ゼシカ。バニーちゃんを手配しろと命じたのは確かにお兄ちゃんだけど、それをあの娘に頼んだのは私。

なら、罰を受けるのはお兄ちゃんだけじゃなくて、この私もよ」

 

「そ、そう…なの。ユッケ、貴女も仕組んだのね…」

 

それを聞いて少しだけ驚いた。

フォーグの妹なのだし、多少はユッケにもそういう面があるとは思っていたけど、本当にそうだったなんて、ちょっと疑いたくなる。

 

「そう。だからほら、やるなら私もやりなさい」

 

ツカツカと、ゆっくり私の方に寄ってくるユッケの表情は正しく弟を守る姉のよう。

まだサーベルト兄さんが生きていた頃、私もこうして守られていたっけ。

そんな日を思い出すと、胸の中に溢れていた怒りが晴れた気がした。

 

「分かったわ。それじゃあ、仲良く両成敗って事で」

 

「うえっ!?この流れなら普通、お咎めなしなんじゃ…?」

 

「ソレとコレとは別よ。悪い事をしたのならちゃんとお仕置きしなきゃ、ギャリングさんに顔向け出来ないでしょう?」

 

そう言って右手でメラ、左手でヒャドを作る。

今度は怒りに任せてでは無く。

 

「安心しなさい。出来るだけ威力は下げるし、大きな怪我をしてもあの人に治してもらうよう頼んであげるから」

 

「「そ、そんな〜!!」」

 

数秒後には焦げた臭いのするフォーグと寒さで震えるユッケが絨毯の上で正座していた。

 

「今回の件は、取り敢えずはコレで許してあげる。

いい、次は無いと思いなさい?」

 

「しかと胸に…」

 

「はぁい…」

 

こうして怒られたのは久し振りだったのだろうか。

何とも言えない表情で約束をすると、そのまま俯いてしまった。

それから数分、部屋に居たけれどどうにも居心地の悪い空気が増すばかり。

何と無くバツが悪くなった私は、このまま部屋にいる理由も無いし居辛いしで部屋を出るためドアノブに手を掛けた。

 

「…それじゃあ、私は部屋に戻るから。

今日の夕飯は自分たちでどうにかするから気にしなくて良いわよ」

 

振り向いて見たものの、二人とも僅かに頭が動いただけで、やっぱり返事は無かった。

 

そっ、と扉を締めてそさくさとギャリング邸を出た私は、お弁当屋さんで夕飯を買ってから宿屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、ゼシカ。ごめんね、一人で行かせちゃって」

 

部屋に入った途端に聞こえたのは、部屋の空気が淀んでいると感じるほど疲れに満ちた声。

 

勇者様が出して良いものじゃないわね、これ。

心なしか哀しげな…雨?みたいな匂いまでするし。

 

「ただいまー…って、まだ立ち直れてないわけ?そんなにショックだったの?

優し過ぎて頼りなく見えちゃうあなたは好きだけど、いつまでもウジウジしてるのは大っ嫌いよ?」

 

彼の座るソファの近くにあるテーブルの上に夕飯を置いて、彼の隣に腰を下ろした。

 

「ううっ、僕もゼシカのそういうはっきり言うところは好きだけど、今はちょっと優しくして欲しいかな…」

 

力無くソファにもたれ掛かる彼。

魂が抜けているみたい。

 

「どれだけショックだったのよ。

一回、鏡見て来たら?凄い顔になってるわよ」

 

「あははは…

そ、そう言えば、二人にはお仕置きして来たの?」

 

ゆっくりと身体を起こしてそんな事を聞いてくる。

 

「勿論。威力を限界まで下げたメラとヒャドでコツンと」

 

怒りのあまりやり過ぎそうになったのは黙っておこう。

 

「そっか。

ごめんね、嫌なことお願いしちゃって」

 

「気にしなくて良いわよ。

いくらなんでも、あんなに落ち込んでるあなたを連れて行くわけにもいかないし」

 

バニーちゃんの一件の後、彼はこの世の終わりを見たかのような表情になって、歩くのすらやっとの状況だった。

 

「それにしても、どうしてあんなに疲れてたの?」

 

一体何が彼をそこまでにしたのか。

頭の隅の方でずっと考えていたけど結局わからなかった。

分からない事を分からないままにして置くのは嫌だし、一層の事聞いてしまおう。

 

「えっ!…えっと、それはその…なんて言うのかな…」

 

途端に口をもごつかせてオロオロとし始めた。

 

「あら、そんなに言いづらい理由なの?

……まさか、あのバニーの娘が好きになっちゃった、とかじゃないわよね?」

 

「ま、まさか!いくら見た目が似てるからってそんな事ないよ!ただ…」

 

「ただ?」

 

「…ゼシカみたいな見た目の人がこの世にいるなんて思わなくて、驚いたって言うか…そんな人を見ても胸が何ともなかったって言うか…」

 

「難しいわね…要するに、どう言う意味なの?」

 

「えっと、その…あぁもう!素直に言うよ!

僕が君を好きになったのは見た目だけが理由じゃない!君の内面も含めてだったんだ!」

 

「…………へ?」

 

突然の告白に思考が追いつかない。

疑問符を浮かべてる私の事なんて構わずに、彼は胸の内をさらに明かす。

 

「あのバニーちゃんはゼシカにとても似てた、胸以外の全てが完璧だ、だって言えるくらい似てた、

けど、中身はそうじゃなかった。

相手に好かれようとしている感じが凄かったし、営業スマイルが引きつってなかった!何て言うか…そう!ゼシカとは性格が真逆だったんだ!」

 

「そ、それとあんなに疲れた事に何のつながりがあるの…?」

 

「…ここに泊まりにくる少し前にね、お城で休憩の時、新米の兵士達に言われた事があるんだ。

『ミーティア姫を選ばないなんて、奥さんはもっと凄い美人さんなんですね』『この、メンクイが〜』って。

まぁ、ゼシカが美人なのは間違い無いんだけど、どうしても、メンクイ、の一言だけが頭の隅から離れなくて。

もしかして、僕はゼシカを顔で選んだんじゃ無いかって、ちょっと思っちゃってたんだ」

 

「なるほどね。つまり私はその新米達を炊き立てにしてあげればいいのね?」

 

「違うよ!?みんな気が抜けてる時だったから思わず言っちゃっただけだと思うよ!

それに一番の原因は、今日のスタンプラリーの時」

 

彼は僅かに顔を伏せる。

 

彼がトイレに行ってた時の事かしら。

もしかしなくても、ここに彼の挙動が不審だった原因があるのかも。

 

「宿屋でトイレを済ませて外に出ると、抜け道みたいな所から荒くれ者の格好をした二人組が出てきたんだ。

そしたら急に、僕の胸ぐらを掴んで顔を殴って来たんだ…ってちょっと待ってゼシカ、窓を開けてどうしたの?魔力の高まりが異常なんだけど…?」

 

「あ、あら、ごめんなさい?

大丈夫、続けて。射程圏内に収めてるから」

 

あ、危ないところだったわ。

もう少しでそいつらのいた場所にイオナズンを打つところだった。

しっかり話を聞かないとね。もしかしたら、彼に非があるのかもしれないし。

 

「…?

それで、こう言われたんだ。

『お前にあの女は不釣り合いだ、人を顔でしか判断出来ない下衆が』って」

 

『おぎゃあーー!?!?』

 

『おわぁー!?アニキの頭の上で爆発がーー!?!?』

 

「どうかしたのゼシカ!?外から悲鳴が聞こえたけど!!」

 

「ううん、平気。誰かが盛大にコケただけだから。

大丈夫!怪我はしてないから!」

 

「そ、そうなんだ?なら、いいけど…」

 

『あ、アニキの大事なツノがあぁぁ〜〜!』

 

『しかも雨まで降ってきやがった!チクショーー!!』

 

確かこういうのって、身から出た錆、って言うんだったかしら。

…ツノだけで済ませたんだから感謝してほしいくらいだけどね。

 

「じゃあ、アレね。あの不審な言動や態度は、今までどこか疑っていた事が、その荒くれ者たちの言葉のせいで自分の気持ちに確実な自信が持てなくなった。けど、その後のバニーちゃんの件で自分の気持ちを信じる事ができるようになった、ってコトね?」

 

「そう、だね。うん、やっぱり僕はゼシカの見た目だけじゃない、強い心に、優しさに、信念に、惚れたんだって、今は疑わずに思える」

 

そう言って彼は静かに微笑んだ。嘘偽りの無い気持ちの良い笑顔。

優しさの具現化と表しても差し支えないそれは、私の中にある[らしくなさ]を目覚めさせた。

 

「…他には?」

 

「へ?」

 

「他に、私のどこが好きなのって聞いてるの」

 

「き、急にどうしたのゼシカ?」

 

少しずつ彼との距離を縮めていく。

ゆっくりと、でも確実に。

 

「…もしかして、もう…無い、の?」

 

彼の隣に座って耳元で小さく尋ねてみる。

 

「ま、まさか!ちょっと強引なところとか、思い込んだら後先考えないところとか、可愛いと思うよ!」

 

弾かれたようにソファから立ち上がる。けれど、驚きながらも、ちゃんと答えてくれた。

嬉しい…とっても。

顔がにやけてしまいそう。

 

「…なんで、逃げるのよ。もしかして今の言葉は全部…」

 

「嘘じゃ無いよ!ほら!ちゃんと座ってるから!」

 

彼ははぐれメタルよりも早く隣に戻ってきた。

同時に、私の手を握る、という芸当まで入れて。

 

「…どうしたのゼシカ。俯いたりして?」

 

「う、ううん。なな、何でもない、わ」

 

筆舌に尽くし難い、とは今の気持ちを言うのね、きっと。

嬉しさと恥ずかしさがメーターを振り切って、ニヤニヤどころか、ふにゃふにゃな顔になってしまってる。

 

「なんだか変じゃないゼシカ?

もしかして、僕がいない間に…何かあった?」

 

優しさの中に男性らしさが混ざった声が、小さく髪の毛を揺らす。

不意の出来事に咄嗟に顔を上げた。

 

「あ、あああ、あなた…!?」

 

「えへへ、さっきのお返し」

 

未だに残る声の感触を、彼の子供っぽい笑顔を見ながら手を当てて確かめる。

間違いない。彼は、囁いたんだ、私の耳に。

 

「おわっ!?

ゼシカ!?なんで急に抱きついて…!」

 

「ま、ままままままさか!あなたがこんなに卑怯な人だなんて思ってなかったわ!

良いわ、今日はもうとことんまで行きましょう!」

 

真っ赤になった顔を見られる事も構わず、彼をソファに押し付ける。

 

「へ?あの、え!?よくわからないんだけ…どぉ!?」

 

抵抗はさせない。

さっき私は自分にバイキルトをかけた。お陰で彼は身動きが取れずにいる。

 

「誘ったのはそっちでしょ?あなたに拒否権はないの!強引なところが好きだ、って言ったのはあなたでしょう!?」

 

「確かにそうだけ…!?」

 

全く予想していなかったのだろう。

彼は目を白黒させて言葉を失う。

 

「ふふふ。そう言えば、私からいきなりちゅーをしたのって初めてだったかもね!」

 

強い風が火照る身体を少しだけ冷やしていく。

中途半端だったのか、窓の外へと空気が流れたお陰で部屋のドアが閉まる音が聞こえる。

 

「もしかして、ここでするつもり!?」

 

「言ったでしょう?あなたに拒否権はないって。

安心して、初めてはまだだけど、手法はゲルダさんに教えてもらったの、ミーティア姫も相手にして、4人で、ね?」

 

「へ!?」

 

慌てふためく彼の服に手をかけながら更に続ける。

 

「ミーティア姫よりは劣るけど、それでも結構やる方だって言われたのよ?ラジュさんが言うには、だけど」

 

再び口を重ねてから、笑顔を向ける。

 

「けどアレね、やっぱり、いざってなるとどうにも緊張しちゃってダメ。全部頭から抜けちゃう。

けど…今日こそは」

 

文字通り薄くなった装備の上から、ラジュさん達から教えてもらった力加減で優しく撫でる。

ピクリと反応する彼の身体は、あの時に見たゲルダさんを彷彿とさせた。

 

「ちょ、まって、ゼシカ!

あ、あ、アッーーーーーーー!!」

 

彼の蕩けるような声は、外から聞こえた力のある雨音に消されて、漏れる事はなかっただろう。

 

今日はこのまま何事も無く、甘く切ない短編が続くことを祈って。

ゴウゴウと、うねる風は気にも止めず話を紡いだ。

 

 

 

 

 

To be next story.




なんとも中途半端な締め方ですよね、これ。
いえまぁ、これまでのも良い終わらせ方をしていたのかと問われれば微妙ではありますが。
本当はですね、もう少しばかり続くのですよ。ですが、例の如く次回へ持ち越し。そうでもしなければさらにこれの1.5倍を書くことが無きにしも非ず。なのでここで一旦終了、と言うわけです。

さてさて、最後の方に書かれた如何わしい文。これに少しばかり補足を。
ゲルダ、ミーティア、ラジュ、そしてゼシカ。
私の設定だと、この四人は仲がかなり良いです。三角谷を拠点に旅をしていた頃は、主人公を含めた男連中と行動をするのは谷の外に行く時だけで、それ以外は基本ラジュと共にいました。(この時、ミーティアは馬なのでゼシカやゲルダと比べ、ラジュといる時間は少なかったのです。引け目も感じていたでしょうし、トロデ王に毛並み等のケアをしてもらっていましたから)
さてさて、一行が世界を救ったその後、谷のみんなが心配になった3人は男達には内緒で三角谷へ。元近衛兵の主人公に言えば間違い無く止められますからね。ちなみに、その間誰がトロデーン城にいたかと言うと、ゼシカとゲルダの話に聞き耳を立てていたリーザス村のモシャスを練習していた女の子。初めは困っていた二人ですが、モシャスをマスターしていると知ったゲルダは提案します。

「手伝ってくれたら、あたしの持ってる宝石を一つあげるけど、どうする?」

当然ゼシカは止めましたが、女の子はやると言って聞きませんし、他に方法が無いので「一日だけなら」と渋々承諾。
ある程度の情報と、本当に困った場合は主人公を頼るようにと徹底的に教え込み、作戦立案から三日後、トロデ王がお忍びでベルガラックへ行く日を狙って実行しました。
交換は上手くいき、不安を残しながらも早速三角谷へ。
住人が一人も欠ける事のない三角谷を見て安堵した3人は直ぐにラジュの元へと行き、昔を懐かしむように会話に耽りました。
そして、その時の話題というのが、何を隠そう[殿方を喜ばせる手法]でした。
しかも、言い出したのはミーティア姫。
曰く「一国の姫ならそのくらい出来て当然なのでは?」という理由。
そこで標的にされてしまったのがゲルダさん。
姫曰く「クールでカッコいいしそんな事にも詳しそう」と。
とんでもない偏見ですが、まぁお姫様ですし情報が偏るのは仕方ないのかと。
そんでもってゲルダさん。経験は無いし知識も薄いがプライドはある。頼られたからには応えなければと「得意中の得意」なんて返してしまったものだからお姫様は大喜び。

「それでは教えてください!ゼシカさんのためにも!」

「え、あ、そ、そうね!私も知っておきたいわね!」

「ま、まぁ待ちなよ、まずはみんなの実力を教えてくれないかい?」

そんな会話を笑いながら見ているラジュ。
数百年は生きてる彼女ですから、ミーティア姫の考えなんてお見通し。当然ゲルダの嘘も嘘をついた理由もお見通し。
けれどそれを言うのは野暮だとも当然弁えている彼女は、バレないように三人を導いて行きます。
そう、ホンモノの強者はラジュ。長寿の彼女はそっちの道も相当に極めていました。練習相手は女エルフの幼馴染。その子はラジュがいないと生きられない身体に…。
とまぁ、色々あってほぼ丸一日をそんな事に費やした彼女たちは。

一位・ミーティア。二位・ゼシカ。三位・ゲルダ。とその手腕の才覚を開花させたのです。

そしてそして、どうにかお城の人にバレずに姫に成り切った女の子を回収して帰宅。
こうして、彼女達は新しいスキル[乙女の嗜み]を手に入れたのです。


…………我ながらよくもまぁこんなアホくさい設定を作ったものです。
けどけど、清楚な人が超絶テクニシャンだったり、上手そうな人が実は下手っぴだったりって…結構良くないですかね?

余談ですが、リーザス村の女の子は回収された時、ゼシカたちにこう言いました。

「私、憧れに憧れてただけの子供だったのね…」

少女は「姫」と言う立場の辛さを知り、より一層の尊敬をしたのだとかなんとか。


そんな具合で蛇足のような補足はお終いです。
それではまた次のお話でお会いしましょう!
さよーなら!
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