八神コウを攻略するために、俺は遠山りんも攻略する   作:グリーンやまこう

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慣れない言葉は時として人の感情をごちゃごちゃにするものである

 さて、いよいよマスターアップ直前の日となっていた。この日に至る直前に、涼風さんと桜さんが若干ギクシャクしてしまったりといったことがあったものの、今では普段通りの関係に戻っている。

 些細な口喧嘩が原因とはいえ、いつまでもギクシャクしたままだとお互いに影響が出ていたかもしれないからな。すぐに仲直りできたみたいで本当によかった。

 ……仲直りした直後に桜さんが、うみこさんのパソコンのコンセントを足で引っこ抜いたことは黙っておいてあげよう。彼女の名誉のためにもな。

 

 

「八神さーん。エラー報告のあった個所の修正終わりました」

 

 

 なんてことを考えていると、涼風さんがコウの机に顔を出す。どうやら指示されたところの修正が終わったらしい。

 

 

「お疲れ。じゃあ後はデバッグしてて」

「分かりました。それにしても……なんだか明日がマスターアップって感じがしませんね。平和というか、いつも通りというか……」

「平和が一番だよ。何もなければそれに越したことはないんだし」

「タケルの言う通り。それに、今回はりんがスケジュール管理をしてくれたからね。だからある意味、平和なのは当然だよ」

「ふふっ、嬉しいこと言ってくれたありがと。でも、これだけ平和だと何か事件が起こる前触れみたいよね」

 

 

 笑いながら物騒なことを言うりん。冗談でも余計なことを言わないでくれ。いわゆるフラグってやつがたっちゃうから。

 

 

「わざわざ変なフラグ立てないでよ!!」

 

 

 コウもフラグと言っているので、恐らく同じことを考えていたのだろう。まぁ、ゲームを嗜むものとして、りんのセリフはあまりに危険すぎるからな。どうやったって逃れられないカルマを感じる。

 

 

「まぁ、そんなことはいいとして、タケルってもう自分のやれることって大体終わった?」

「うん、大体は終わったかな。どうかしたのか?」

「いやー、さっきプログラマー班を覗いたんだけど、なかなか酷い状態になってたからさ。助太刀に行ってもらえないかなって」

「そんなことならお安い御用だよ。俺もそろそろ、バグを探したいなって思ってた頃だったから」

「タケルさん、それは絶対におかしいですって……」

 

 

 はじめに呆れながらツッコまれるも、俺自身大して苦だと思っていないので仕方ない。そのまま俺は飲み物を持って席を立つ。

 

 

「それじゃあタケル、お願いね」

「任された」

 

 

 言われた通りプログラマー班の所へ行くと、どよんとした空気が流れており、コウの言う通り酷い状態となっていた。

 ぱっと見、元気そうなのは桜さんぐらいだ。あのうみこさんですら、目の下にクマをつくてるくらいだし。若いって素晴らしいな。取り敢えず二人の元へ歩いていく。

 

 

「あ、あの~、うみこさん?」

「……何ですか」

「指定個所のデバッグについてなんですけど……」

「停止バグでもありましたか?」

「……正解」

 

 

ドンッ!

 

 

「ひぃっ! ごめんなさい!!」

 

 

 うん、予想以上に酷い状態だったわ。俺もビクッとしちゃったし。

 

 

「大丈夫っすかうみこさん?」

「……タケルさんでしたか。すみません、お見苦しい姿を」

「まぁまぁ、この忙しさじゃ仕方ないですよ」

「ありがとうございます。それであなたは何を?」

「コウに言われて手伝いにきたんですよ。酷い状態だって言われたんで」

「酷い状態と言われて、否定できないところが辛いですね。正直、人手は一人でも増えたほうがいいので、お手伝いをお願いしてもいいですか?」

「元よりそのつもりなので大丈夫ですよ。それじゃあ空いてる机、借りますね」

 

 

 適当な机を見つけて腰を下ろす。さーて、今日も頑張ってバグを探しましょうか。

 

 

「……うみこさん、タケルさんって毎回嬉しそうにバグを探してますけど、もしかしてマゾなんですか?」

「薄々、私もそうじゃないかと思っていたんです。珍しく気が合いますね」

「二人とも、聞こえてますから」

「私は冗談ですよ。桜さんは知りませんけど」

「ちょ、ちょっとうみこさん!!」

 

 

 桜さんの絶叫を軽く受け流したところで、うみこさんが財布から一万円札を取り出す。

 

 

「あ、後今日は泊りになります。これで皆の分の栄養ドリンクなどを買ってきてください」

「イエッサー」

 

 

 ビシッと敬礼を決める桜さん。その姿をうみこさんはじっと見つめ、

 

 

「……心配なので涼風さんも一緒に」

「信じてくださいよー!!」

 

 

 こういうところでは、まだいまいち信用されていないみたいだ。そんなこんなで差し入れを買いに行く桜さんを見送り、俺とうみこさんは再び仕事へと戻る。

 

 

「桜さんがいると退屈しませんね」

「騒がしいの間違いですよ。……まぁ、確かに現場は明るくなりましたけどね」

「あの底抜けの明るさはたまに救われますよ。まだ学生ですけど、早めにスカウトでもしたらどうですか? 実力だって申し分ないわけですし」

 

 

 桜さんの評判はちょくちょく聞いている。バグの報告を細かく入れてくれたり、実際企画なんかからの評判もいいみたいだ。

 本人もなんだかんだこの職場を気に入ってくれているみたいだし、今から声をかけておいたっていいと思うんだけど。

 

 

「……既に葉月さんには進言してありますよ」

「あっ、そうだったんですか」

 

 

 意外な返答に俺が驚きの表情を浮かべると、うみこさんは恥ずかし気に視線を逸らす。

 

 

「ま、まぁ、私も評価してないわけではないですから」

「……二回目ですけど、絶対うみこさん、桜さんの事好きですよね」

「…………」

 

 

パンパンパンッ

 

 

 照れ隠しにエアガンを乱発されました。その後は真面目に仕事を続けること30分。

 

 

「戻りましたー!」

 

 

 元気な声とともに、桜さんと涼風さんが戻ってきた。二人の手には差し入れ用に買ってきたお菓子やらジュースやらの袋が握られている。

 

 

「おかえり~」

「買い出しありがとうございます。……それは?」

「うみこさんはこれだと思って!」

 

 

 桜さんが手にしていたのは「ケロリン大魔王」とパッケージに描かれている栄養ドリンク。

 あれは飲まなくても分かる。めちゃくちゃ疲労に効くやつだ。そんな栄養ドリンクをうみこさんは手に取り、

 

 

「よく分かりましたね。もうこれじゃないと疲れが取れないんですよ私……って、そんなわけないでしょう!!」

「うみこさん、テンションおかしいよ!」

 

 

 やっぱり、深夜まで作業していると頭がおかしくなるみたいだ(白目)。きちんと休みを取るって大事。うみこさんのノリツッコミなんて初めて見たぞ。

 ちなみにノリツッコミの後は、領収書じゃなくてレシートを貰ってきてしまったことを怒られたり、ケロリンをみんなで飲んだりしました。

 ケロリンを飲んだ後は眠気もスッキリ。正直、レッドブルより効いた気がした(小並感)。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 そして、深夜の作業も無事終了し、マスターの確認もできた。

 部屋には俺とコウ、それにりんの同期三人組が残っているだけ。他のみんなは既に帰宅している。別に帰ってもよかったんだけど、何となく名残惜しくて残ってしまっていた。

 もしかすると、コウとりんも同じなのかもしれない。

 

 

「いやー、今回もどうにかこうにか無事に終わったね~」

「ほんとにな。正直、まだ終わったって感覚がないんだけど」

「それは言えてるわね。……この後、致命的なバグが見つかったりして」

「だから、フラグ立てるのはやめてってよりん!」

「ふふっ、冗談よ」

「冗談でも言っていい冗談と、悪い冗談があるぞ……」

 

 

 この期に及んでフラグを立てようとするりんにツッコミを入れる。このタイミングで致命的なバグって、絶望以外の何物でもない。

 というか、会社の存続にも関わってきそう。

 

 

「それにしても、青葉もこの半年で馴染んだよね」

「言われてみると……初めからいたって言われてもおかしくないかもな。他の皆と仲良くなるのも早かったし」

「青葉ちゃんのコミュニケーション能力がなせる業なのかしらね?」

「……私は、入社して結構長いこと馴染めなかったからな~。少し羨ましいよ」

 

 

 コウが少しだけ自虐気味に呟き、表情にも影が差す。そんな彼女の言葉を聞いて俺は、

 

 

「ごめんな」

 

 

 ほとんど反射的に謝っていた。

 

 なにに対してごめんと言っているのか……恐らく過去、自分の犯した過ちに対してだろう。

 今までは何とか蓋をしていた申し訳なさが、彼女の言葉によって溢れだしてしまった。

 

 

「ごめん……」

 

 

 あの時、俺が先輩と一緒になってコウをいじめていなければ、彼女はもっと早く会社に馴染めたはず。

 仕事での成果だってもっと良くなっていたかもしれない。

 二人と普通に仕事ができるようになるにつれ、申し訳なさはどんどんと大きくなっていた。

 

 

『…………』

 

 

 暗い顔をして首を垂れる俺の姿を二人はしばしの間見つめ、

 

 

「……っ!? いひゃいひゃい!!」

 

 

 何故か同じタイミングで両頬を摘んで引っ張ってきた。突然の事に困惑する俺。

 

 

「全く、タケルって思いのほか繊細というか、昔の事を引きずるタイプというか」

「ほんとよね。男がなよなよする姿はあまり見せないほうがいいわよ」

 

 

 少し怒ったような顔をするコウと呆れた眼差しを向けるりん。

 

 

「昔の事を引きずるってのは私も同じだけどさ、前にも言ったよね? その時の事はもういいって」

「ま、まぁそうだけどさ……」

 

 

 歯切れ悪く彼女から目を逸らす。確かに言われた。だけどやっぱり簡単には気持ちの整理ができなくて……。

 

 

「そもそも、あの時の事は私にだって原因があるんだよ? 生意気だったし、口下手だったし……多分、タケルの神経を逆なでするようなことも言ってたと思う」

「……いや、あの時は俺がお前の言葉を曲解してたからさ。悪いのは全部俺――」

「だーかーら!!」

 

 

 少し声を大きくし、再び頬を引っ張ってくるコウ。普通に痛い。めちゃくちゃ痛い。ほっぺたが取れそうだ。

 

 

「タケルの悪いところだよ? 何でもか何でも自分を悪く言うところ。自分で自分を認められないところ。もうちょっと自分を認めてあげてもいいんじゃない?」

「…………」

「もう、困ったなぁ。……それじゃあとっておきのこと。一度しか言わないからよく聞いてね」

 

 

 俺の瞳を改めてじっと見つめ、

 

 

 

「私はタケルの事、すごく信頼してる。タケルになら安心して仕事を任せられる。タケルの作ったストーリーなら、私は自信を持って自分の仕事ができる。……これだけ言ってもまだ不十分?」

 

 

 

 真っ直ぐな彼女の言葉が、じんわりと心の中に沁み込んでいく。早くコウに返事を……。

 しかし、何か言おうにも言葉にならなくて……しばらくの間、何も言えずに黙っているとコウが焦ったような声を上げる。

 

 

「ちょ、ちょっと! ポカンとしてないで、何か言ってよ! 結構恥ずかしかったんだよ!?」

「ご、ごめん。ちょっとびっくりしすぎたというか何というか……」

「全くもう……それで、どうだったの?」

「もちろん、十分すぎるほどだったよ」

「ほんと?」

「ほんと。……だから、そろそろ引っ張るのをやめてくれない?」

「嫌。まだ本当に自分を認めてるか分からないから」

 

 

 地味に痛いんだけどな。

 

 

「ところで、りんは?」

「……えっ?」

「りんからも何かないのかなって。思う所は色々あるんじゃない?」

 

 

 コウが話を振ると、りんは少しだけ考えるような素振りを浮かべる。

 

 

「そうね……私はあの時の事を百パーセント許したわけじゃないわ。コウちゃんと違って、どうしても割り切れない部分もあるから」

「……悪かった――」

「でもね、私だってコウちゃんと一緒。あなたの事を認めてないなんて一言も言ってない」

 

 

 力のこもった言葉に思わず顔を上げる。

 

 

「あなたにどんな心境の変化があったのかは分からない。だけどあの時、関わった人の中であなただけは変わった。気付いてないかもしれないけど、タケルの努力はずっと見てきたのよ?」

「お、おう……」

「偉そうな言葉かもしれないけど……変わった事実まで否定したら、それはあなたの努力を否定することになる」

「りんの言う通り。タケルが必死になって頑張ってきたのはちゃんと隣で見てたからさ。もちろん、りんと一緒にね」

「確かに認めてはいるけど、別に隣でってわけじゃ……」

 

 

 にひっと笑顔を浮かべるコウに、若干不満げな表情を浮かべるりん。

 

 

「それにしても珍しいね。りんがタケルの事をそこまでフォローするだなんて。ちょっとびっくりしちゃった」

「ほんとよ、何が楽しくてタケルの事を慰めてるのか……まぁだけど」

 

 

 俺を見つめる彼女の眼差しが少しだけ優しくなる。

 

 

 

「だからこれだけは覚えておいて。あなたの事は確かに嫌いだけど……誰かの為に頑張れる、その姿は嫌いじゃないから」

 

 

 

 言い慣れない言葉に恥ずかしくなったのか、プイッとそっぽを向くりん。

 一方俺は、普段ならかけられることのない優しい言葉の数々に、ポカンとした表情を浮かべるだけだった。

 そんな俺たちを見ていたコウが笑い声をあげる。

 

 

「あはは~。りんってば、今セリフ、ツンデレみたいだったよ? 特に最後の嫌いじゃないからって、言葉が最高にツンデレっぽかった!」

「だ・れ・が、ツンデレよ!! タケルに対してツンとすることはあっても、デレるなんて絶対にない話!! 虫唾が走るわよ!!」

「流石にそこまでは言い過ぎじゃ……タケルからも何か言って――」

 

 

 コウの言葉が突然途切れる。

 

 

「……まったく。どうしたの?」

「いや……歳を取ると涙腺が緩くなるなって」

「歳って、まだ私たち25だよ?」

 

 

 気付くと、俺の瞳から熱いものが溢れてきていた。

 

 そんな俺の姿を見てコウが一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに引っ込めニヤニヤとした笑みをりんに向けた。

 

 

「りんってばタケルのこと泣かした~。葉月さんに言いつけてやろっと」

「ちょっ!? コウちゃん!! 小学生じゃないんだから! そもそも、私はタケルの事を泣かしたかったわけじゃ……というか、タケルは何で泣いてるのよ!?」

「いや、全く分かんない……」

「わかんないって、それじゃあ、本当に私がタケルをいじめて泣かせたみたいじゃない!」

「りんってば、タケルに酷いこと言ってたもんね~。これはタケルも傷ついて当然かもね~」

「あ、あれは言葉の綾というか何というか……」

「あははっ!」

 

 

 二人の会話に俺は、涙を流しながら笑い声をあげる。自分でもどうして涙が出ているのかよく分からなかった。

 多分、二人から優しい言葉をかけてられて無意識のうちに泣いていたのだろう。それと、やっぱり努力を認められたことが一番嬉しかったんだと思う。

 

 自分の犯した過ちの償いとはいえ、誰かに見てて欲しかった。誰かに認めてほしかった。

 その努力を、一番認めてほしかった二人に認めてもらえたから。だから……涙が出てきているんだと思う。

 

 

「ちょ、ちょっとタケル! いい加減、泣き止みなさいよ!!」

「ご、ごめん……だけどなかなか止まらなくて」

「あーあ、もうちょっとりんが優しく慰めればタケルもこんなに泣かなかったのに~」

「あんなの、普段に比べれば大分抑えたほうよ!」

「それじゃあ、普段の暴言が積もり積もってタケルを傷つけてたって感じだね~。りんってば、それも計算して罵倒してたとか?」

「だから違うわよ!!」

「あははははっ!!」

「タケルは笑うか泣くかどっちかにしなさい!!」

 

 

 もしかすると、俺はずっとこの姿を望んでいたのかもしれない。同期三人で笑い合う、そんな姿を。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 帰り道。部屋が隣通しの私たちは、マンションまでの帰り道を何気ない話をしながら帰っている最中だった。

 

 隣を歩くタケルの表情は凄くスッキリしている。……スッキリというよりは、憑き物が落ちたと言ったほうが言い得て妙かもしれない。

 逆に言うと、彼があの時の事をそれほどにも気にしていたということにもなる。

 

 

(私も忘れたわけじゃなかったけど、あんなに気にしていたとは思わなかったわ)

 

 

 むしろコウちゃんの方が気にしていなかったくらい。普通は逆のような気がするんだけど……。

 

 なんて考えているうちにお互いの部屋の前へ。いつものように軽く挨拶をして部屋に入ろうとしたところで、

 

 

「ありがとな」

 

 

 タケルが笑顔を浮かべる。彼の笑顔はこれまで見てきたけど……初めて見た笑顔だった。

 

 

「……何よ。急にお礼なんて」

「いや、ただ何となくな」

「バカみたい。それじゃあまた明日ね」

 

 

 そう言って私は扉を開け部屋の中に入る。

 

 

 ほんとバカみたい。

 

 

 あいつも……あいつの笑顔を見て波打ってしまった私の心臓も。




 お待たせしました。
 今回は若干シリアスでしたけど、次回からはいつも通りに戻す予定です(まだ一文字も書けてません)。

 全員攻略とか書いてあるけど、はじめとゆんについてはまだ何も思いついてません。誰か助けて。
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