八神コウを攻略するために、俺は遠山りんも攻略する 作:グリーンやまこう
攻略本の撮影日からまた少し期間が経った。その間に無事、フェアリーズストーリー3が発売となり、ホッと胸をなでおろしたのは記憶に新しい。
そして、今日は打ち上げの日となっていた。
「打ち上げってこんなに人が集まるんですね」
「営業さんや外注会社さん、クレジットに名前が載っている人には全て声をかけてるみたいやからな」
「私も呼ばれてるくらいだしね~」
隣で話をしているのは涼風さん、ゆん、桜さん。ほんと、桜さんのようなバイトの子にも声をかけるからね。まぁ、桜さんに関しては、開発に貢献している部分もそこそこあるので普通に呼ばれてはいただろう。
「そして、声優さんも来るからサインを貰うのだ!」
「私も私も!」
「用意がいいなお前ら……」
呆れる俺をしり目に、サイン色紙を掲げて目を輝かせる二人。確かに、ヒロインとかを担当した声優さんも参加するけどさ。それにしたって職権乱用が過ぎる。
「そう言ってるタケルさんも本当は欲しいくせに!」
「い、いや、俺は別に欲しくなんてないし! 全然大丈夫だし!」
「目が泳いでるやないですか……」
ほんとは大ファンだからめちゃくそ欲しいけど。
ここは年上としての威厳を保つためにも我慢だ。尚、ゆんのツッコミによって威厳が保てたかは微妙である。
「あっ! 次、八神さんが挨拶の番ですよ!」
涼風さんの言葉を受け壇上へと視線を移すと、コウがりんからマイクを受け取っているところだった。
あいつ、挨拶とか慣れてないし大丈夫か? と勝手に思ってしまう。
「えー、今回主にキャラクター周りのリーダーをやらせてもらった八神コウです。えっと、あれ……何言うか忘れちゃった」
ズッコケそうになった。本人は「こういうの慣れてなくて」と頬をかいている。ちょっと抜けている挨拶に、周りがドッと沸いた。すると、
「いつも通りでいいんですよ!!」
「八神さーん、頑張ってください」
壇上に向かって声を上げるはじめと涼風さん。二人からの声援にコウは驚いたような表情を浮かべる。しかし、今までどこか硬かった表情がふっと緩んだ気がした。
「……私は三部作の一作品目からキャラデザとして携わって、この7年近くの間は色々なことがありました。辛いことも多かったですが――」
一度言葉を切って顔を上げたコウは、清々しい顔をしていた。
「でも、今回の作品は楽しいことばかりだったような気がします。スタッフの皆ありがとう。今後ともよろしく」
彼女の挨拶はそこで終わり、観客からは拍手が起こる。
何というか意外だった。コウの口から楽しかったって言葉が出たことが。でも、あいつの言う通り今回の開発は大変だったけど、楽しさが勝った開発だったと思う。
「では最後に、ディレクターの葉月から」
そして最後にディレクターである葉月さんにマイクが渡り乾杯となった。
ちなみに桜さんが「葉月さんがあんな真面目なこと言うなんて。やっぱりただの面白お姉さんじゃなかったんだね」と発言していたのは内緒。
☆ ☆ ☆
さて、はじめ達はサインをもらいに行ってしまい、残ったのは俺と涼風さん。それにコウとなっていた。
ところで、涼風さんはサインをもらいに行かなくてもよかったのだろうか? 確か、ファンだって言ってたはずだけど。
「コウ、さっきの挨拶よかったよ。なっ、涼風さん」
「はいっ! とってもかっこよかったです!」
「いやー、緊張しちゃって。でも、声をかけてくれたおかげで助かったよ」
そう言ってニコッと笑顔を浮かべた。本人からの感謝に涼風さんも笑顔で答えている。
「おっ、珍しい三人組だね」
「……珍しいとか言いながら、パシャパシャ写真を撮らないで下さい葉月さん」
「もう、葉月さんまた~!」
「さっき、八神の挨拶を撮りそびれたからね。代わりにと」
「とらなくていいですよ!」
スマホを片手に現れたのはもちろん葉月さん。生き生きとした顔で、スマホのシャッターボタンを押している。やっぱり面白お姉さんじゃないか!
「だけど、涼風君も今回の開発はよく頑張ってくれたね。おかげでソフィアも人気が出たよ」
「そ、そんな……私はただ一生懸命やっていただけで」
「いやいや、その一生懸命さが良かったんだよ。後は、君にソフィアの仕事をふった八神の判断が正しかったということだね」
「べ、別に面白そうだから振っただけですよ……」
「そういうことにしておこう。次は八神にアートディレクターをやってもらうつもりだから。八神をこれからもよろしくね」
変な声が出そうになった。何気ない会話から出てきた爆弾発言。突然の人事発表ほど、びっくりすることはない。
それにしても、コウが次のAD……本人が納得して引き受けるのだろうか?
「は、はぁ」
「ちょっ!? 私がAD!? りんのままでいいでしょ!?」
気の抜けた返事をする涼風さんとは対照的に、コウは慌てたような声を上げる。
「遠山君には今のPと共同でPになってもらう予定だよ。本人の希望もあるしね」
「えぇっ!? 聞いてないですよ!!」
「そりゃ、今言ったからね」
さらりと言ってのける葉月さん。こういう所はほんと、トップを務めるだけあるよな。
「タケルからも何か言ってやってよ!」
「……いいんじゃないか? 俺は葉月さんの考えに賛成だよ」
「タケルまで!!」
大きな声を上げるコウとは対照的に、俺は冷静に答える。反対する理由なんて全くない。
「……私じゃ、みんなついてこないですって」
「そうかな? ……まぁ、無理強いはしないけど、考えておいてくれよ」
「…………」
コウは何も言わないまま、その場から離れていった。やっぱり、あの時のトラウマは簡単に払しょくできないのかもしれない。
「八神さん……? あの……、えっと……」
残された俺と葉月さんに、涼風さんが何か言いたげな瞳を向けてくる。
「なんで八神がADを嫌がるか不思議かい?」
「……はい」
「興梠君、彼女に話してもいいと思うかい?」
「いいと思いますよ。多分、涼風さんなら大丈夫ですから」
「えっ?」
意味が分からないという表情を浮かべる涼風さん。まぁ、それは当然だろうな。
今から話すことは、俺たちの間でもあまり触れないようにしていることだから。
「実はね、八神は一度ADになったことがあるんだ。フェアリーズ2の時にね」
「は、初耳です。それって相当若い頃ですよね?」
「……まぁ、本人にとっては苦い思い出なんだけどね」
「苦い、思い出ですか?」
その後は、葉月さんが全て話してくれた。俺に何も話させなかったのは、葉月さんせめてもの配慮だろう。
彼女の話を聞いた涼風さんは、しばらく神妙な面持ちを浮かべていたのだが、
「でも……やっぱり八神さんは今も昔も優しい人だったんですね」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって本当に優しい人じゃなかったら……やめていった後輩の事で、悩んだりしないと思いますから。それに本当に無神経な人だったら、人が傷ついてるのをみて落ち込んだりしませんよ」
やっぱり大丈夫だった。ほんと、涼風さんがこの会社に入社して来てくれてよかったよ。
「うん。私もね、そう思うんだ」
涼風さんの言葉に葉月さんもニッコリと微笑む。
「ちょっと私、八神さんを探しに行ってきますね。用事もあるので!」
涼風さんがコウを探しに行った後ろ姿を見送り、俺は葉月さんにぽそっともらす。
「……ありがとうございます。俺がコウの後を引き継いでアートディレクターをやったこと、黙っていてもらって」
涼風さんと話していた時、葉月さんは「別の人間に交代してゲームは完成した」といった。それは別に間違いではない。
「私は別に構わないのだけど、良いのかい? せっかく涼風君の評価を上げるチャンスだったのに」
「あの時の俺は、ただ必死にやっていただけですから。それに下地自体はコウがほとんど考えていたようなものでしたし、引き継いだ後は楽なものでしたよ。俺だけじゃなくてりんもいましたから」
「……私は少なくとも君が、それに遠山君が楽をしていたなんて思っていないけどね」
責める様な口調。そして表情。恐らく彼女は俺がフェアリーズストーリー2の完成直後に体調を崩して一週間、休んでいたことを気にしている。
「楽かどうかは別にして、あの時の俺はただ自分のできることをしただけですから。そもそも、体調を崩したのは俺の責任です。同じ作業量のりんは体調を崩さなかったわけですから」
「またそう言って君は……今回の開発だってかなり無理をしていたそうじゃないか?」
「……俺はまだ何も返せていませんから。コウやりん。そして、あなたにも」
あれはまだ俺が、心も体も今よりずっと若かった頃。恐らく上司が葉月さんじゃなければ今頃、俺は既に退社をしていただろう。
そもそも、まともに社会人をやれていたかどうかすら分からない。
「私はもう十分返されてるつもりだけどね……八神もだけど、君も過去の事にこだわり過ぎじゃないのかな?」
拘り過ぎ、か。むしろ俺の出来事は拘り過ぎなくらいがちょうどいい気がする。
「そうかもしれませんね……」
「まぁ、これ以上は何も言わないよ。それよりも、八神の所に行ってあげたらどうだい?」
「どうしたんですか急に?」
「センチメンタルなところを少し慰めてあげれば、八神も君に惚れ直すと思って」
想像以上に俗な理由だった。俺は少し呆れた視線を葉月さんに向ける。
「だったらいいですけどね。そもそも残念ながら俺はコウに惚れられてないですから」
「……まぁまぁ、グダグダ言ってないで行ってきなさい!」
「あんたは俺の母親ですか……じゃあ一応行ってきますね」
葉月さんと別れ、人の間を縫うようにして会場の外へ。
「あれ? タケル……君?」
「ん? ひふみか」
コウを探しに会場から出たところで、ひふみとばったり出会う。その手にはなぜか色紙が。
……恐らくだけど、はじめ達と一緒にサインをもらってきたな。畜生、俺も素直に頼んでおけば……ぐぬぬ。
「どうした? まだパーティは続いてるだろ?」
声優のサインを貰えなかった悔しさを押し殺し、ひふみに声をかける。
「続いてる、けど……私、人の多いところ、苦手……だから」
「……そういえばそうだったな」
今でこそ普通に話してくれるから忘れがちだけど、ひふみってすごい人見知りだったな。
「入社から結構立ったけど、相変わらず人ごみは苦手なんだな」
「し、仕方ないじゃん……」
少しだけ唇をムッと尖らせるひふみ。普段はそんな仕草をしない分、三割増しで可愛く見える。
「……ところで、さっきは三人で何話してたの?」
「見てたのか」
「うん……それで」
「まぁ、大した話じゃないんだけどな」
ひふみはあの時の事を知ってるから、特に隠しておく必要もないだろう。さっき話したことをそのまま彼女に話す。
「そう、だったんだ……あの時の事を」
「涼風さんに話しても大丈夫だと思ったからな。案の定、全く問題なかったけど」
「ふふっ……流石青葉ちゃん、だね」
そこで、ひふみの目がスッと細くなる。
「……タケル君が、ADをやったことは話したの?」
「……いや、話してないよ。葉月さんも気を使ってくれた」
すると、ひふみが俺の服の袖をキュッと掴む。
「もう、無理はしないでね」
あまり自己主張しない彼女にしては珍しい。だけど、それも当然か。俺が倒れた時の事をひふみは知っている。
同僚の二人から怒られた以上に怒られた気がする。しかも淡々と。目のハイライトが消えてて、滅茶苦茶怖かった。
(でも、後輩としてなんだかんだ一番心配してくれてるんだよな)
急に目の前にいるひふみが可愛くなり(普段も十分可愛いんだけど)、俺は彼女の頭をくしゃくしゃとなでる。
「わわわっ!? た、タケル君、どうしたの!?」
「いや、何でもないよ。だけど、ありがとな」
「ほんとに……わかってる?」
「分かってるよ。それに今はコウやりんだけじゃなく、頼れる後輩もたくさんできたからな」
「……その、後輩の中に……ちゃんと私は入ってる?」
「もちろんだよ」
そう答えると、ひふみが満足げに頬笑みを浮かべる。駄目だな俺は。後輩にまで心配をかけて。
「うん……タケル君が、困った時は……頼りにしてくれていいから」
「その時はよろしく頼むよ、ひふみ先輩」
「も、もうっ! タケル君ってば……からかわないで」
ぷくっと頬を膨らませるひふみ。こんな表情を見せてくれるほど仲良くなったってことだよな。
「それじゃあ、俺はちょっとコウを探してくるから」
「うん、わかった……コウちゃんのこと、よろしくね?」
「任された」
ひふみも、コウの性格はよく分かってるみたいだ。これでコミュ力があったら非の打ち所がない完璧なる美女が誕生するんだけどな。
軽く手を振り、ひふみと別れる。少し探すと思いのほか早く彼女は見つかった。
「こんな所にいるじゃん」
「……タケル? どうしてここに?」
「お前を探してたんだよ」
コウは、パーティ会場から少し離れたところにあるベンチで黄昏ていた。俺はその隣に腰を下ろす。
「どうして私を探しに?」
「いや、涼風さんがお前を探しに行ってな。ちゃんと二人で話せたかなって」
「青葉ならさっき来たよ。それに、はじめたちも。なんかサインをねだられたけどさ……タケルが余計な入れ知恵でもした?」
「そんな事するわけないだろ。サインはあいつらが欲しがっただけで、俺は何にもしてないよ。葉月さんならやりかねないけど」
「ふふっ、確かにそうだね。だけど、いきなりサイン色紙持ってやってきたからびっくりしちゃったよ」
「流石、有名人になるとやっぱり違いますね」
「からかわないで」
『…………』
しばしの沈黙の後、コウがぽそっと言葉を発する。
「……タケルはさ、本当に次回のADが私でいいと思ってる?」
「どうした急に?」
「いいから答えて」
強めの口調。からかいを入れていい場面じゃないだろう。俺は頭をかきながら彼女の質問に答える。
「いいも何も、俺は適任だと思ってるよ」
思っていたことを素直に口に出す。前回の件は、コウだけが悪いわけではない。フォローしきれなかった俺たちにも原因はあるのだ。
それに、最近の状況を見ていればコウ以外に適任はいないとすら思っている。しかし、気持ちは十分に伝わっていないようで彼女の表情は相変わらず晴れない。
「……自信がないんだ」
「…………」
俺は黙ってその先の言葉を促す。
「青葉はさ、尊敬できる上司だって言ってくれた。ついて行くって言ってくれた。だけど、やっぱり不安で……」
ぽつり、ぽつりと、不安を吐露していく。
「私がADをして、ちゃんとみんなが付いて来てくれるのかなって。あの時みたいにまたみんなが離れて行っちゃうんじゃないかって。……また辞めちゃうんじゃないかって」
苦悶の表情を浮かべ、ギュッと拳を握り締めるコウ。
彼女の言葉はそこで途切れ、二人の間に沈黙が流れる。パーティ会場の喧騒がやけに耳につく。
……どのくらい沈黙が続いただろうか。
「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うけどな」
彼女の方を視線を向けずに答える。俺の中で、既に結論は出ていた。
「軽く聞こえるかもしれないけど、俺は絶対に大丈夫だと思う。そもそも、お前は心配し過ぎだ。今のお前を見て、ついてこない後輩はいないだろうよ。涼風さんからの言葉がその裏付けだ」
本当に尊敬してなきゃ、そんな言葉は出ないと思う。しかも、その言葉を直接言ってくれるところに二人の信頼関係が見て取れる。
だから心配しなくて大丈夫といったのだ。はじめやゆんも直接は言わないが、想いは一緒のはずだろう。
「それに、今はお前の事を理解してくれてる連中がいっぱいいるじゃねぇか。りんや俺はもちろんだし、葉月さんとかうみこさん。それにひふみを含めた後輩たちもお前の事を慕ってる」
入社当時の事を考えれば、本当にコウは努力して変わってきたのだ。
どこか素っ気なく、誰とも交わろうともしない……昔の俺が今のコウを見たら、腰を抜かすかもしれないんだろう。
「というか、ついてこないやつがいたら俺が無理やりにでも引っ張り上げるつもりだから。安心してくれ」
「……ふふっ、タケルはそれでいいの?」
ようやくコウの表情が少しだけ緩む。
「いいも何も、俺がそう決めたんだからいいんだよ。あの時とは違ってちゃんとフォローできる体制になってるんだからさ」
「あんまり、タケルっぽいやり方じゃないね」
「お前がADになるんだ。やれることは何でもやってやりたいんだよ。俺はお前を全力で支えてやりたいんだ」
こればっかりは嘘偽りない俺の気持ちだった。あの時、一緒に支えてやれなかったせめてもの報いとして。
一方、俺の言葉を受けたコウの頬が少しだけ赤く染まる。
「っ!! ……はぁ、なんだかずるいなぁ~」
「んっ? 何を言って――」
俺の言葉が途中で止まる。なぜなら、コウがなぜか俺の肩に頭を預けてきたからだ。
「お、おいっ、何してんだよ!?」
「何って、タケルの肩を少し借りてるだけだよ」
急なことに困惑する俺。まわりに人がいないとはいえ、こいつがこんなことをしてくるなんて想像がつかなかったからだ。
動揺する俺を他所にコウは話を続ける。
「……タケルってさ、ほんといい方向に変わったよね」
「そ、そうか? 自分ではあんまり自覚がないんだけど」
「ううん、変わったよ」
「そっか……近くで見てるお前に言われるのならそうかもな」
「絶対にそうだよ。……かっこよくなった」
聞き間違いだと思ったけど、確かに聞こえた。
一気に顔が熱くなる。今日のコウは少しおかしい。
「そ、それってどいう言う意味だよ?」
「……どういう意味だと思う?」
全く意味が分からないと視線を向けると、意味深な笑みを浮かべるコウと目があった。
俺を試すような、それでいてどこか楽しそうなコウの表情。それが余計に俺の心臓へダメージを与える。
「わかんないから聞いてるんだけど……」
「じゃあ教えない」
結局、教えてくれなかった。
「ところで、肩はいつまで貸していれば?」
「……私がいいって言うまで」
「さいですか……」
そのままの姿勢のまま待つこと数分。
「……うん、ありがと。もういいよ」
ようやく? 解放されて俺は思わず背もたれに体重を預ける。普段は感じることのない、彼女の体温や甘い匂いがやけに生々しかった。
「ど、どういたしまして……」
「何でそんなに疲れてるの?」
不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。そりゃ、もちろん緊張とか興奮とか色々……本人には苦笑いで返しただけだけど。
「だけど、ありがとね。青葉とタケルのお蔭で少しは自信付いたから」
「それなら、肩を貸したかいがあったってもんだよ。涼風さんにも後でちゃんとお礼を言わないとな」
「確かに。……ねぇ、タケル」
「ん? どした?」
「また私が貸してって言ったら……タケルは次も貸してくれる?」
上目遣い。少しだけ上気した頬。膝に添えられた右手。断れるわけがない。
「……いつでも言ってくれ」
「ふふっ♪ 約束だからね?」
彼女の笑顔に「おう」と、短く答えるだけで精一杯だった。
これにて2巻までの内容が終了となります。長かった。
次回から3巻の内容に入っていきます(更新時期は未定)。