八神コウを攻略するために、俺は遠山りんも攻略する 作:グリーンやまこう
デレステもやってますけど、最近はログインしかしてません。担当がイベントにきたらやるかもですけど。
まぁ、余談はいいとして最新はお楽しみください。
「他のキャラより身長高すぎるからちょい低くして」
「あっ、確かに……」
コウからの指示に涼風さんが頷いている。しかし、初めてキャラを作り上げた頃に比べたらだいぶ早くなった。ほんと、近所の子供とゴーヤ並みに成長のスピードが速い。
「まぁ、今日は夜も遅いし続きは明日だね」
「そうですね。すいません」
「いやいや、謝ることはないよ。涼風さんは十分頑張ってくれてるし。それに、この時期から残業ばっかりしてるとコウにみたいになるぞ?」
「ちょっと、それってどういう意味?」
ぷくっと頬を膨らませるコウ。どういうも何もそのまんまの意味です。涼風さんには、一週間で何日も会社で泊まるような社畜になってほしくないからな。
まぁ、コウの場合は好きで泊まってるみたいだからいいんだけど。
「だけど青葉ちゃんは、タケルの言う通り本当によく頑張ってるし、仕事も早くなってるわ」
「そうですかね? えへへ……」
褒められたのが嬉しかったらしく、涼風さんの表情が綻んだ。年相応の笑顔は俺の心をほっこりさせる。
「それじゃあ、私はお先に帰りますね。お疲れ様です」
「お疲れ~」
「お疲れ様。私もそろそろ帰るわ。二人はどうするの?」
「俺はもう少しだけやって帰ることにするよ」
「私は泊まり!」
コウさんや。元気よく宣言するのはいいけど、たまにはおうちに帰ってください。借りた部屋が泣いてるぞ。
「そう。じゃあ私はお先に失礼するわね。……くれぐれも変なことをしないように?」
「するわけないだろ……ここは一応会社なんだから」
りんに牽制された俺は思わずため息をつく。それに、コウの方にその気がないんだから、変なことのしようがない。……自分で言ってて悲しくなってきた。
そんなわけでりんが帰社。社内に残ったのは俺とコウだけになった。
「さぁーて、残った仕事に取り組みますか」
次回作の大枠自体は通ったのだが、細かいところで葉月さんにリテイクをくらいまくっている。時期的に、そろそろ細かい部分をまとめていかないとまずいので結構焦っていた。
しかし、仕事に取り組もうとしたタイミングでコウがなにやらごそごそとし始める。まさか……とは思いつつ後ろに振り返ると、
「……なんでスカートを脱いでるんだ?」
「あっ……つい、いつもの癖で」
あはは、とコウが頭をかく。見慣れた光景とはいえ、ドキッとするのでやめてほしい。というか、一人の時はいつもスカート履いてないのかよ。
「取り敢えず、スカートを履け」
「えぇ~、いいじゃん別に。タケルしかいないわけなんだから」
「俺しかいないのが問題なんだよ」
逆に、俺以外だったら襲われてた可能性もあるからな。まぁ、俺も必死に理性で煩悩を抑え込んでるんだけど……。
ほんと、無防備すぎるのも問題である。我慢するこっちの身にもなってほしい。
「スッキリするんだけどな~。タケルもやってみたらわかると思うんだけど」
男女がパンツ姿って、傍から見たらかなりまずい光景だろう。そもそも、パンツ姿で仕事をする男って無茶苦茶気持ち悪い。コウは女だからいいかもしれないけど……いや、よくないか。
「断固として拒否します」
「つれないなぁ~」
コウが不満を露わに口を尖らせる。そんな可愛い表情をしても、絶対にズボンは脱ぎません!
なんて俺が呆れていると、
「二人は一体何をしているのかしら?」
「えっ?」
帰社したはずのりんが戻ってきていた。いや戻ってきただけなら全然いいんだけど、視線が絶対零度である。
恐らく、パンイチの姿で俺と話すコウを見て、色々と勘違いをしているのだろう。
「りん! 何でいるの!?」
「終電が行っちゃってたの。ところでタケル。私言ったわよね? 変なことをしないようにって」
相変わらずりんが鋭い視線を向けてくる。これは早いとこ疑惑を解かないとえらいことになりそうだ。
「お前が思ってることは何もしてないよ。いつも通り、コウが勝手にスカートを脱ぎ始めただけだ」
「タケル、その言い方はなかなか酷くない?」
「事実だからしょうがないだろ?」
「まぁ、確かにそれなら仕方ないわね。そもそも、タケルに変なことをする度胸があったら今頃、もうやることやってるだろうし」
「悪かったな、度胸がないヘタレで」
地味にグサッとくる言葉を言われたものの、納得してくれたらしく絶対零度の視線を引っ込めてくれた。
良いのか悪いのか分からないけど、取り敢えず良かったです。
「そういえば終電が終わってるって言ったけど?」
「タケルも帰る方向が同じだから、今日は会社に泊まりね」
なんてこった。今日は家に帰ってお気に入りのアニメを見ようかなと考えてたのに……。
まぁ、終電が無くなってしまったのはどうしようもないので、今日は素直に泊まることにしよう。
「なんかこの三人が残るって久しぶりだね」
「確かにそうなんだけど……コウちゃん。まずはスカートを履きなさい。私とかタケルだからよかったけど、気をつけなきゃだめよ」
「うーん、本当にすっきりするんだけどな。あっ、そうだ! 私とタケル以外誰もいないんだし、りんも脱いだら――」
「するわけないじゃない!! コウちゃんでも恥ずかしいのに、タケルまでいるのよ!?」
顔を真っ赤にしてりんが声を荒らげる。コウはあっけらかんとしているけど、世間一般的に見ればりんの反応が普通です。
その後、りんの圧力によってコウはスカートを履かされた。
「泊ってばかりで肩こってるんじゃないの?」
「これでも二日に一回は帰ってるって!」
「毎日帰って休まないとだめでしょ~?」
「いたいいたい!」
目の前でりんとコウがイチャイチャしている。肩を揉んでいるだけなんだけどな。
しかし、それだけでも二人の空間を作り出してしまうあたり、仲がいいということなのだろう。ちなみに蚊帳の外にいる俺はものすごく寂しい。
「会社に寝泊まりして、疲れが取れるのか?」
寂しさに耐え切れず俺はコウに尋ねる。
「ん~、最初のうちはなれなかったけど、最近はちゃんと休めるようになってるよ! 慣れちゃえば何も問題なし!」
慣れちゃえばッて……泊まるのに慣れたくはないな。俺は自分のベッドじゃないと寝つきが悪くなるタイプだから余計に。
「それなら、今度からは家に帰って休むことに慣れてもらわないとね~?」
「だから痛いって!」
まーた、イチャイチャしてるよあの二人。たまらなく疎外感とジェラシーを感じるからやめてほしいものだ。
「でもこうして泊まってると、なんかマスター前みたいだな」
「ははは、言えてる。もう直ぐ夜も賑やかになるんだろうな!」
おいおい、笑い事じゃないぞ。マスター前なんてほんと、地獄以外の何物でもない。プログラマーの班なんて、この世の終わりみたいな雰囲気でバグやらなんやらを探していた。
うみ子さんだけ平気そうにパソコンをいじってたけど。あの人も大概化け物だよな~。
「そうならないようにするのが、私たちの仕事だからね」
苦笑いでりんが答える。
しかし、ADとしてのりんは非常に優秀だ。実際のところも予定通り来てるし、残りのキャラ数と残りの日数を間違えていない限り大丈夫だろう。
「だけど、ゲームしっかり売れるかな?」
「どうだろね。私は自分が納得できればそれでいいし」
コウらしい答え。そんな彼女に、りんが少しだけ弱々しく笑う。
「強いなぁ、コウちゃんは」
「初めてのADで胃が痛いって?」
「うん、ちょっと……やっぱりADはコウちゃんってよく思うよ。ゲームの顔はコウちゃんだし」
珍しく弱音のような言葉をこぼす。りんがそんな事を思っていたなんて、少し意外だ。すると、コウはくるっとりんの方へと振り返る。
「……言っとくけど、りんが仕切ってくれてるから私は作業に専念できるんだからね。それに背景だってゲームの顔だし、何より私の性格じゃみんなついてこないと思うし……」
恐らくコウのセリフを聞いた時、三人の脳裏には同じ光景が浮かんでいただろう。
しかし、そんな記憶を吹き飛ばすようにコウが「うがぁ!!」と頭をかく。
「って、何で弱音みたいなことをはいてるんだ私!!」
「ふふっ、こんな所みんなには見せられないわね」
クスクスと笑うりんにはすっかりいつもの雰囲気が戻っていた。
「まぁ、確実に売れる保証なんてどこにもないけど、いいゲームにはなってるんじゃないか? なんせ、俺がストーリー製作に携わってるわけだし」
「あらっ? 締め切り直前までひぃひぃ言いながら残業していたのは誰だったかしら?」
「さ、さぁ、誰だったかな~」
前に言ったかもだけど、あの時は本当に地獄だったぜ。いい年して会社で号泣しそうになったのはよく覚えている。
「とにかく真面目な話、新人の青葉がさ楽しそうな顔をしているうちは大丈夫だよ」
「それもそうだな。辛そうな顔してゲーム作ってたら、万人を楽しませるようなゲームなんて絶対に作れないし」
「タケルの言う通りね。青葉ちゃんはいい子でよかったわ」
「だけど、キャラデザがやりたいんだったもっとガツガツしてほしいよね。私だったら好きな設定のキャラ見つけて、ダメもとでも書かせてって言いに行くのに」
「厳しいなぁ」
俺もりんと同じ感情をコウに抱く。しかし、これくらいやる気と根性があったからこそ、今の八神コウがいるのだろう。じゃないと、高卒新人でキャラデザなんて任せられない。
葉月さんは、コウのそういった部分をきちんと見抜いていたのだと思う。
「涼風さんに村人以外のキャラデザを任せたりしないのか?」
「そうだなぁ~。今の村人が終わった任せてもいいかな……って、あっ!!」
そこでコウが、大きめの声を上げパソコンを見つめる。
「どうしたの?」
「PCがフリーズしてる~。仕事再開しようとしたらこれって」
「なんだ、パソコンがフリーズしただけかよ」
「何だじゃないよ!! もうヤダ~」
まぁ、パソコンがフリーズすると萎える気持ちはよく分かる。
これで保存できてなかったりすると、ほんと仕事を投げ出したくなる。……以前、一回だけフリーズして企画の内容が吹っ飛んだ時は、しばらく机の上で頭を抱えていた。
「寝るの?」
「ううん、このままキャラデザやる!」
そういってコウはタブレットペンを手に仕事に戻る。
「それじゃあ俺も企画の仕事に戻ろうかな。あんまり時間もないわけだし」
俺もコウに倣って、起動させたままだったパソコンへと向きなおった。よしよし、俺のパソコンはフリーズしていないみたいで安心したよ。
「もぅ……コウちゃん、無理しないでね。私は寝かせてもらうわ。一応、タケルも無理はしないように」
「へいへい」
片手だけあげて俺は答える。一応とはいえ、心配してくれたのは素直に嬉しかった。本人とはライバル関係なので絶対に言わないけどね。
その後は、切りのいいところまで仕事を進めることにした。そして、時計の短針が1を指したところで俺は大きく伸びをする。
「うーん、取り敢えずここまでにしておこうかな」
パソコンの電源を落とし、コウのデスクに視線を移す。
「コウ、頑張るのはいいけどもう一時だし、今日はもう終わりにしといたらどうだ?」
「えっ? もう一時!?」
驚いたような声を上げるコウ。どうやら、キャラデザに夢中で気が付かなかったらしい。ちなみに、りんは自分のデスクの下で熟睡中。
「全く、俺が声をかけなかったらいつまででもキャラデザやってただろ?」
「あはは、確かに」
パソコンの電源を落としつつ、コウが苦笑いを浮かべる。しかしその苦笑いをすぐに引っ込めると、少しだけ陰のある表情になった。
「ねぇタケル。……私さ、ちゃんとリーダーできてるかな?」
「……大丈夫だ。俺が見ている限り、ひふみやゆん、それにはじめ。涼風さんだってお前を慕ってる。お前だからついてきてる。だから、何も心配する必要はないよ」
「タケルも?」
「もちろん」
俺はポンッとコウの頭を撫でる。心配そうな顔をしていたコウの表情がようやく元に戻った。
「ごめん、タケル。私ってば眠くてちょっとナイーブになってたのかも」
「確かにそうかもな。だから今日は大人しく寝とけ。俺は会議室で寝るから」
「別にこの部屋で寝てもいいんだよ?」
「それはりんに怒られそうだから遠慮しておきます」
そういうと、俺は寝袋を持って会議室へ足を運ぶ。鍵を閉め寝袋にくるまると、すぐに眠気が襲ってきた。
(コウはまだあの時の事を気にしてるのかな……)
あの時というのはフェアリーズストーリー2でコウがADをしていた時のこと。
(やっぱり本人にとっては悪い意味で忘れられないんだろう。だから俺やりんがコウを支えて……)
そこで俺の意識は過去の記憶と共にまどろみの中におちていった。
☆ ★ ☆
さて、次の日の朝の話はしたくないのだが一応しておこう。
「ふわぁ……」
俺は寝袋を片手に、大あくびをしながら会議室を出る。すると、既に出社して来ていた涼風さんと鉢合わせた。
「あれっ?」
「あっ、興梠さん! おはようございます」
「おはよう。今日は随分早いんだな」
「いえ、昨日途中で終わっちゃったキャラデザを完成させようと思って」
「なるほど。本当にまじめだよ涼風さんは」
なんて話しながらオフィスの中へ。涼風さんは席に着くと気合を入れるように両手を握り締める。
「今日も一日頑張るぞい!」
「頑張るぞいって……」
そんな語尾を使う人、俺は某王国の大王様以外知らない。
すると、奥から「ははは、ぞいってな……んーんー!?」という声が聞こえてきた。
「あれっ? 八神さんも泊まってたんですか?」
「昨日はりんも一緒だったな」
様子を見に行くために俺と涼風さんは二人が寝ている場所まで歩いていく
「八神さん、どうしたんです……かぁ!?」
「っ!?」
変な声をあげた涼風さんに続いて覗き込んだ先には、とんでもない光景が広がっていた。
「…………」
「…………」
りんがコウを襲うようにして上に覆いかぶさっている。しかもお互いズボンは履いておらず、下はパンツ姿。
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ご、誤解、誤解だから!」
手で顔を覆う涼風さんに、りんが弁明の言葉を口にしている。パンツ姿で。
しかし、酷いショックを受けた俺の耳には言葉が入ってこないし、今の彼女を気にしている余裕もない。というか、視界が霞んで何も見えない。
そのまま崩れ落ちるようにして膝をついた。
「…………りん」
「た、タケルも今のは誤解……って、どうしてあなたは号泣してるのよ!?」
「コウをっ……しあわっ……幸せにしろよ。……あとっ、結婚式には……よんでくれ」
「だから、違うって言ってるでしょ!!」
その後、俺がまともな精神状態に戻るまでそれなりに時間がかかった。