「我神代の世に武器を生み出せし者なり。我が身鉄にしてこの角に切り裂けぬ物はなし。我が生み出せし武器は我が身と同じ、ならば我が武器に切り裂けぬ物はなし。故に我が武器は神をも切り裂かん!」
護堂たちの逃走を手助けするために大技を放つ。どちらにせよ、三〇メートル級にまで巨大化したヴォバンに生半可な攻撃は通用しないだろう。榊に迷いはなかった。
ヴォバンの足元を駆け抜けつつ、剣を巨大化させる。一太刀でヴォバンの命を刈り取りうるほどに。
袈裟がけの一撃は分厚い毛皮に阻まれる。それでも、ヴォバンの腕を半ばまで切り裂いた。
主の危険を察知した『従僕』たちが、一斉に襲い掛かってくる。
確証はない。確証はないが、目論見は成功すると直観が告げている。こちらの神の出自もまた、それを裏付けている。何より今は、余計なギャラリーがいない。
躊躇いなく聖句を唱える。
「我が輝きは魔を討ち邪を払う。我が前より一切の邪悪は消え失せよ! 生ける
榊の体から放たれる神光を浴びた『従僕』たちが次々と消え去っていく。やはり、相性は抜群のようだ。完璧に侯爵から解放することはできないだろうが、少なくとも今日明日程度の間は封じれるはずだ。
逆に、『
「我が下僕どもの鎖を解き放つとは……妙な権能を持っておるな」
人間体へと戻った侯爵が『狼』を引き連れてこちらへと歩いてくる。けしかけておいた『神兵』は全て駆逐されたようだ。
「神速が使えればまた別なんだろうけどなぁ」
護堂に神速を貸し与えているため、榊も『神兵』も神速を発動することができない。それでもヴォバン本体以外なら十分相手になるはずだ。
ヴォバンの持つ嵐の権能も『
「問題があるとすれば決め手がないことか」
護堂の『白馬』が効かないのであれば、当然『
今の所、あちらにも決め手が無いのが救いだが、長引けば呪力の消費が激しいこちらが不利。それにあちらにはまだ見ぬ権能がある可能性が高い。
いくつか策を考えながら、侯爵と対峙する。状況はかなり悪いが、それでも負ける気はしなかった。
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「━くっ! 随分と腕をあげたじゃないかエリカ!」
『神兵』から解放されたリリアナはすぐさまエリカを追った。
神速で逃げる護堂に追いつくことは出来ない。仮に追いついたところで、王に抗うことなど出来ない。侯爵らの所に残っても同様だ。せっかく拾った命をドブに捨てるようなものだ。
エリカを追いかけるのは当然の判断だった。ただ一つ誤算があるとすれば、エリカの実力が予想以上に上がっていたことだった。
不本意ながらエリカとは長い付き合いだ。昔からほぼ互角の実力は変わらなかったというのに。考えられる原因は━
「まさか立花榊に師事したのか?」
でなければ、この体術のレベルの高さの説明がつかない。
「あら、鋭いのね」
思わず舌打ちしてしまう。人類最高峰の武術家に鍛えられたのならこの強さも納得だ!
今のエリカに勝つためには死力を尽くす必要があるだろう。だが、そこまでする必要があるのかと問われれば、答えに窮してしまう。いっそ、ここで侯爵を裏切って、エリカと同じように立花榊に師事するというのはどうだ? 脳裏に浮かんだその案は、非常に魅力的だった。だが、それは騎士としてどうなのだろうか?
「ねぇ、リリィ」
自問自答しつつ煩悶していると、エリカが話しかけてきた。それも悪魔のような微笑みを浮かべて。
「あなたこのままヴォバン侯爵の命に従って、侯にお仕えするつもり?」
こちらの内心を見透かしたかのようなエリカの問いかけにドキリとしつつ、返答する。
「まさか。わたしはただ、騎士として『王』への義務を果たしているだけだ」
「そう……。だったら、日本の王様方に義理を果たすのもいいんじゃなくて? 侯に従う理由がその程度でしかないなら、問題ないはずよ?」
渡りに舟とはこのことか。リリアナは既にエリカの提案に乗るつもりでいた。だが、すぐに乗ってはエリカにいいように操られている気がして癪なので、ほんの少しだけ躊躇うそぶりをする。
「……わたしに、草薙護堂の側に寝返れと言いたいのか?」
「侯に忠誠を誓っていないというなら、どちらの陣営に与するかはあなたの判断次第よ。……でも時代遅れの御老体がどうおっしゃろうと、わたしたちミラノの騎士にとって盟主たる御方はサルバトーレ・ドニさま。草薙護堂たちはあの方の盟友でもあり、今回は弱き者のために闘う側でもある。━リリィが侯に与する理由の方がすくないと思うけど」
ため息を吐く。
「……確かにこれ以上侯爵に付き合う理由はなさそうだ」
そう答えて顔を上げると、エリカが茫然とした顔で自分の背後を見ていた。つられて後ろを見る。
「なんだあれは?」
視界に移ったのは巨大な狼と先ほど自分を襲った『神兵』だった。ただし、『神兵』の方も狼に比肩するほど巨大化して、狼と取っ組み合いをしていた。
あまりにも現実味のないその光景は、まるでアニメか何かのワンシーンだった。
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護堂は無事逃げ切ったようでしばらくすると神速が榊の元へと帰ってきた。これでようやく策を実行に移すことができる。
召喚していた『神兵』を全て撤収させて、一体の巨大な『神兵』へと変化させる。
やはり。ヴォバンも対抗して巨狼へと顕身する。
先ほどまでと役割を入れ替えて、『神兵』が槍を手にヴォバンと、榊が『狼』の相手をする。
如何にヴォバンが野生の身体能力を得ようが、榊の武術をトレースした『神兵』が相手ならば有利に立ち回ることができる。徐々にヴォバンの体に傷が刻まれていく。
榊が最も厄介だと思っていた、嵐の権能を応用した風の盾もこれだけの大質量となれば通用しない。それこそが『大神兵』を召喚した狙いだ。
唐突にヴォバンが飛びのく。その体から膨大な呪力が迸るのを感じた。
━オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッッッ!!
『我が最強の紫電、受けてみるがよいわ!』
『大神兵』へと、極大の落雷が落ちる。その直前に、最後のあがきとばかりに『大神兵』は槍を投げる。
果たして雷は『大神兵』を呑みこみ、槍はあらぬ方向へと飛んで行った。
勝ち誇るかのようにヴォバンが雄叫びをあげる。だが、榊に焦りはなかった。
「汝、
『
背後から迫る槍を、ギリギリで察知したヴォバンは槍を受け止める。それでもなおヴォバンを貫かんと槍はその動きを止めようとしない。
数秒間の拮抗。ヴォバンは人間体へと戻ることで一端槍をやり過ごす。その瞬間を逃さず、榊は神速で奇襲を仕掛ける。
生み出した剣はヴォバンの心臓を貫き、『
周囲にヴォバンの断末魔が響き渡った。