万力で締め付けられるかのような頭痛。神速を行使しすぎた結果だ。思わず、片膝をつく。
視界の端に何かが映る。塵が巻き上がり、いきなり人の形を作り、知的な風貌を持つ老侯爵の姿となった。
「それが奥の手というわけか。ま、死んだとは思っちゃいなかったがな」
老人は答えずに、『狼』と『従僕』をけしかけてくる。
「しつこい爺さんだ!」
『従僕』を退けるために神光を放とうとする。頭上から雷撃。神速で回避しつつ、神光の矢で『従僕』を打ち抜く。『狼』の相手は『神兵』に任せれば十分だ。
だが、膠着状態が続けば神速を使っているこちらが不利。あちらの風の防壁を貫ける攻撃となると━
「これでも喰らいやがれ!」
「むっ!?」
手元に創り出した根をヴォバンへと向けて巨大化・長大化させる。『大神兵』が使った槍と同程度の質量ならば、風の防壁でそらすことは出来ない。
新幹線以上の速度と質量の一撃。だが、躱される。カウンターの雷撃で動きを止められる。
「━ッ、汝が術を用いて我が身を只人へと変えよ『
効果はカンピオーネの気配を通常の人間のそれに変化させること。だが、直接体に刻み込むことで、気配だけでなく体そのものを通常の人間のものへと変化させる。つまり、カンピオーネの肉体すら強化する『
「汝が剛力にて、我が敵を押しつぶせ『
目の前の
弾かれたように棍が回転し、ヴォバンへと襲い掛かる。
「貴様っ!?」
とっさに『狼』と『従僕』を召喚して盾にしたようだが、それしきのことでは棍は止まらない。ヴォバンの体が車にはねられたかのように吹き飛ぶ。
だが、強化した筋力による攻撃の反動を受け止めるのも通常の肉体だ。そして、この威力を受け止めるのに、人間の体はもろすぎる。反動を直接受け止めた右腕から血が噴き出る。骨も砕けているだろう。
激痛をこらえつつヴォバンへと視線を移すと、立ち上がろうとしている最中だった。背後からは『従僕』が攻撃しようとしている。
一瞬の逡巡。だが、攻撃の方を優先する。この敵相手に何度を隙を突くことなど出来ない!
銃弾を放つと同時に、背後から袈裟切りに斬られる。痛みをこらえつつ、神光を全開にして回復する。
「よもや……我が防壁を貫き、呪力を喰らっていくとは……それが貴様の切り札か、小僧」
知的ぶった雰囲気を捨て、殺気を全開にしたヴォバンがこちらを睨みつけてくる。その手は肩の傷に当てられていた。
心臓を狙った弾丸は、致命傷を与えることができなかったようだ。だが、ダメージを与えることは十分にできているようだった。
「これから始まるのは第二ラウンドということでよいか、小僧?」
「いくらでも付き合わせてもらうぜ……と言いたいが、自分で言ったことをもう忘れたのか?」
ヴォバンが背後を振り向く。その視線の先では朝日が顔を見せていた。
「前言撤回するってんならまだ付き合うがよ、俺の後に護堂が控えてることを忘れるなよ」
ヴォバンの呪力は当初より大きく目減りしており、息も荒くなっている。だが、それはこちらも同じこと。いや、地力で劣る分こちらが不利。ならば、このあたりで手打ちにするのが榊にとって最善の結末であった。
ヴォバンの双眸が抑えきれない憤怒に染まる。戦闘続行を覚悟した榊だったが、その後に続くヴォバンの言葉は拍子抜けするものだった。
「……いいだろう小僧。貴様に勝利をくれてやろう」
自分で言い出したこととはいえ、意外な解答に榊は耳を疑った。
「自ら決めたルールを守れないのであれば、それは私の敗北だ! 貴様の力を見くびった、私の甘さが呼び込んだ敗北なのだ! ……私も耄碌したのものだ。目の前の小僧がどれほど曲者か、初見で見抜くこともできぬとはな」
「次に相まみえるときこそ、貴様を全力で狩り捕ってやろう。そのときに備えて、腕を磨いておけ」
それだけを言い残して、老侯爵は去って行った。彼の姿が見えなくなったところで、榊は気が抜けて大の字に倒れこんだ。
「あーくそ、強すぎんだろあいつ」
このまま眠ってしまいたいが、戦闘が終わったことを察知して護堂やエリカたちがその時にやってくるはずだ。その時に無様な姿を見せることは出来ない。意地で立ち上がって、煙草を吸いながら、エリカたちが来るのを待つ。
空を見上げれば、先ほどまでの嵐が嘘のように青く澄んでいた。
いつもよりかなり字数が少ない……後日改訂したいです。というか2章全体を改訂したい……でも時間が……
【最近の悩み】
オリオンをぶったおして『