カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第三章 英雄と王 日本ver
第一話 それぞれの闘いへ


 『よぉ護堂、なかなか大変な状況らしいな』

 

 電話越しに聞く榊の声には、呆れと僅かな量の怒りが含まれていた。長い付き合いの護堂でなかったら気づかなかったかも知れないほど僅かな。

 

 『リリアナ君から聞いたぞ。神様に殺されたらしいじゃないか』

 

 唐突にかけてきた電話の内容はまさしく護堂が直面している厄介事についてのようだ。

 

 「……兄さんに頼みが━━」

 

 『却下だ』

 

 にべもなく断られる。よほど機嫌が悪いのかもしれない。護堂にとって極めて相性の悪いペルセウスとの戦闘に協力してくれればこれ以上ないほど心強かったのだが……

 

 『俺はお前の後始末で忙しいんだ』

 

 後始末、と聞いて護堂はある出来事を思い出す。確かに、護堂の考えている通りなら榊が不機嫌な理由もわかる。

 

 「まさか、あいつが?!」

 

 『ああ、その通りだよ』

 

 確かに、権能が増えなかったのは気にはなっていた。だが、それはエリカ達の手を借りたせいだと護堂は思っていた。残念ながら違っていたようだが……

 

 『全く……仮にも相手は『鋼』だってのによ。あっさり逃がしやがって』

 

 『鋼』。そう聞いてあの神様の出自を思い出す。教授の術で覚えた知識はほとんど忘れてしまったが、榊が直々に話してくれた内容は忘れていない。というか、そうそう忘れることもできそうにない。英雄でありながら━━英雄であったが故に貶められたあの神様の話は。

 

 『……あいつの出自を思い出しているのか? 感傷的になるのは勝手だが、あいつなんかはまだましな部類だ。地元じゃ英雄扱いだからな。他の奴はそんな話すら残っちゃいない』

 

 護堂は深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。その出自故にあの神様は、英雄でありながら民衆の敵であることしかできない。何時までも野放しにしておくわけにはいかない。

 

 「兄さんに頼みがあるんだ」

 

 先ほどと同じ言葉。ただし、先ほどまでとは頼みたい内容が変わっていた。だからだろうか、榊も今度は言葉を遮ろうとしなかった。

 

 『なんだ? 言ってみろ』

 

 「あの神様を止めてほしい」

 

 『自分のケツは自分で拭け』

 

 護堂は予想外の返答に絶句した。

 

 『ハハハハ、冗談だよ。ただし貸し一つだ。この前と合わせて二つになったな』

 

 昔ならともかく、共に神殺しとなった状況で榊に借りを作るのはなんとなく嫌な予感がしたが背に腹は変えられない。

 

 「わかった。それでいいよ……ついでに教えてほしいことがあるんだけど」

 

 『知らん』

 

 「いや、せめて質問ぐらい聞いてくれよ……」

 

 思わず護堂は苦笑した。

 

 『そっちの神に関しては俺が知っていることぐらいそこらの魔術師でも知ってるだろうからな。わざわざ電話で話す必要もない』

 

 確かに神話そのものについてなら、アジア周辺の神話ならともかくギリシャ神話の登場人物については榊に聞く必要性は薄い。だが、榊には神と戦った経験がある。その経験だけは、一般の魔術師ではどうしようもない。

 

 「せめて俺の権能が封じられた理由だけでも分かればなぁ……」

 

 ボリボリと頭をかく音が聞こえた。榊が思考しているときに出る癖だ。なんだかんだ言いつつも質問に答えようとする辺り、案外この人は教師に向いているのかもしれない、と護堂は思った。

 

 『お前の権能を封じれるとすれば、やはり太陽神だろうな。ウルスラグナは太陽神に仕えた神。当然仕える相手に命じられれば、権能も封じられるだろう。よほど格の高い太陽神か、ミスラと繋がりを持つ神。そんなところだろう』

 

 大雑把ではあるものの、少なからずヒントにはなるはずだ。

 

 「ありがとう兄さん。これでペルセウスについて調べやすくなったよ」

 

 『そのぐらい思いついてそうなもんだけどな……つーかお前いい加減にしとかねーとマジで刺されるぞ』

 

 抗議の声をあげるよりも早く、電話は切られた。かけ直した所で、きっと出ることはないだろう。言いたいことは色々あったが、今日の所は諦めることにした。

 

 文句を言うためにも、借りを返すためにもペルセウスを倒さねば。そんな風に護堂は決意を改めた。

 

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 榊は車で神の居所へと移動していた。神速を使えばすぐに着くが、負担が大きい。神との戦いが控えている以上、時間の許す限り車で移動する手はずとなっている。

 

 「激励はそれくらいでいいんですか?」

 

 隣に座った馨が問いかけてくる。

 

 「激励なもんかよ。あいつだって神殺しの端くれだ。放っておいたってなんとかするさ。まぁそろそろ権能を増やせとは言いたいがな」

 

 危なっかしくて見てられん、と榊は言葉を続けた。

 

 「だからこの前も手を貸さなかったんですか」

 

 「……一割ぐらいは」

 

 残りはきっと面倒だったからだろう。それでもいつでも手が出せるように近くで見張っていたのだから、面倒見がいい方なのだろう。といっても、その面倒見の良さは彼が身内と認めた人間に限られるが……

 

 馨が進行方向へ視線を戻すと、既に目的地の近くまで来ていた。先発隊によって既に人払いがなされているため、人の気配はない。

 

 神が護堂の戦いの影響で、本調子でないことも幸いした。あの神様はそこにいるだけで民衆を惑わすため、先の戦いの時は誘導が上手く行かずかなり苦労をさせられた。その恩恵? で護堂は『山羊』の力を発動させて戦闘に勝利したというのだから皮肉なものだ。

 

 「大江山……か」

 

 視界に入った看板を無意識のうちに読み上げる。

 

 鬼神・酒呑童子の伝説が残る地である。彼の神がここに逃げ込んだのもこの伝説があるためだ

だろう。

 

 これからの闘いを物語るかのように、空には暗雲が立ち込めていた。




 榊がわざわざイタリア行くとかねーべ、つーかドニには近づかんだろうなーということでオリジナルストーリーです。ついでに護堂君の『山羊』も回収。今回は日本の神様なので多少解説予定。どこまでやるかは未定ですが。

 ちなみに今回の神様はたぶん地元の人ならすぐにわかる程度には有名な神様です。ヒントも出してあるので、もう分かってる人もいるのでは?
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