なぜ、前書きなのかというと読んだら余計答えが分からなくなると思われるためです(笑)
ため息を一つついてから、榊が口を開く。
「さて、何から話したものか……有名なものからするとすればまずは鬼の話だな……護堂、鬼の特徴を知る限りあげてみろ」
正史編纂委員会が数多く持つオフィスの一角を借りて、榊が講義を始める。
神が出現したためにこうしてわざわざ現地へと連れてこられた魔王二人だったが、往生際が悪いことに榊は闘うつもりはない、と
護堂と馨が説得にかかるも、この強情な男を頷かせることはできなかった。そこで仕方なく、神の解説をすれば闘わなくてもいい。そんな風に折衷案を提案した。
護堂の過去の戦歴を鑑みるに、『戦士』の権能なくして勝利を得ることは難しい。いつもならば霊視に頼るなどして知識を得るところだが、日本の神様ならば大抵榊の知識量で十分カバーできる。
「一番は角かな。後は……怪力で金棒を持ってる」
「その角は何の角だ?」
分からなかったため、周りを見渡すと裕理が教えてくれた。
「牛の角ですよ。後は虎柄の腰蓑を身に着けていますが、これは丑寅━━鬼門の方角が由来です」
「では万里谷君。牛の角━━牛の頭と聞けば何を思い浮かべる?」
「……
その答えに満足したのか、榊は大きく頷いた。
「須佐之男命は、製鉄に深い関わりを持つ神だ。細かく話し出すとキリがないんだが……
委員会の人間に用意させたホワイトボードに聞きなれない言葉を次々と書いていく。
「そういえば、須佐之男命は
馨が榊の言葉に続ける。
「それに虎━━白虎も金行だね。日本書紀では素戔嗚とも書かれるけど、素も白という意味の言葉だ。鬼に金棒という言葉の通り、鬼=鉄というわけだ。事実、鬼たる酒呑童子がいたとされる伊吹山、大江山、そして
一息に話してから、煙草に火をつける。榊がニコチンを補給している間に護堂は今聞いた内容を反芻した。
「鬼と呼ばれた人々━━つまり、製鉄民は何も年がら年中製鉄をしていたわけじゃない。主に冬季に行っていたとされる。ではそれ以外の時期に何をしていたのかというと、古代の製鉄作業では大量の土砂が発生してだな、それを川に流すもんだから山の麓に溜まって土地ができるんだ。そこで農作や牛を飼ったりしていたとされている。
この事から『田の神は春に山から下りてきて、秋に山に戻る』なんて言われてるな。つまり、鬼もまた春とともにやってくる客人神というわけだ。これは河童にも同じことが言えるんだが、田の神としては『
「河童と鬼って、全然姿が違うじゃないか」
素朴な疑問が湧いたため、すぐさま質問する。
「そりゃ姿は違うがな。どちらも製鉄に関わりを持ち、そして朝廷に従わない存在だ。それに河童は須佐之男命との関係も深いからな。鬼と河童は切っても切れない関係なのさ、河童の腕みたいにな」
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一緒に車に乗っていた甘粕と馨は麓で待機させてある。如何に魔術を修めていても、神と神殺しの戦いに巻き込まれれば、死の危険が付きまとう。必要性もないのに近づかせる気は榊には全くないし、二人も同意見だった。
神速を使えばすぐに着くのだろうが、神の戦いを控えている以上呪力を無駄に消費するわけにはいかない。仕方なく体術のみで登山道を登っていく。
「しっかし、また『鋼』が相手か」
汎用性に優れる代わりに火力に欠ける権能を持つ榊にとって、『鋼』の不死性は厄介で止めを刺すのに苦労するのが常だ。その割には、榊の権能の元となった神は多かれ少なかれ『鋼』の属性を持っているのだから皮肉なものだが。
つらつらと考え事をしているうちにいつの間にか山頂へとだいぶ近づいたようで、体が自動的に力がみなぎり臨戦態勢となる。それは同時に、相手にこちらの存在を悟られたということと同じだ。
「汝が速さにて我が敵の元まで駆けよ『
敢えて神速ではなくルーン魔術を使って、神を奇襲する。速度的には劣るものの、どうせ神速を使ったところで『鋼』の軍神相手では当たりはしないだろうし、仮に当たったとしても有効なダメージとはならない。何より、わざわざ初手から手札を見せる理由はなかった。
視界に神の後ろ姿が移る。
革製の鎧を着込み、座禅を組んでいる。その手には剣が握られており、大地へと突き立てられている。大地の精気を吸うことで護堂から受けた傷を癒しているのだろう。
神は押し迫る榊の方を見ようともしない。榊もそれを気にせずに神へと肉薄する。
権能で剣を造り出し、走る勢いのままに振り降ろす。神は振り向きもせずにただ、剣を頭上へと掲げることで榊の攻撃を受け止める。
衝撃が神の体を介して、地面へと伝わりひび割れが発生する。それほどの一撃を神は片手で受け止めていた。
榊が次の攻撃を放つよりも早く、神の周囲へいくつもの火の玉が浮かび上がり、榊へと襲い掛かる。逃げ場がなくなってしまう前に一端距離距離を取って榊は仕切り直すことを選んだ。
「背後から突然攻撃するとは……躾がなっていないようですね」
ゆっくりと立ち上がってから、榊へと視線を向ける。
「鬼を相手にする時に手段を選ばないのがこの国の伝統ってやつだろう? まぁ滅ぼされる側からすればたまったものじゃないんだろうがな」
不意に、神の纏う雰囲気が変わる。今まで涼やかな印象を榊に与えていた少年の顔が、戦士のそれへと変わる。それも、明らかに憤怒に身を焦がしている。
「口を閉じろ、神殺し。私の来歴は賢しげに語るとは、不敬である」
尊大さは変わらないが、口調から丁重さが消え失せる。やはり、過去を暴かれるのはよほど腹に据えかねるのだろう。
「……私も『鋼』に連なる神です。その使命に則り、あなたを滅ぼさせていただきます」
言葉と共に胸の前へと剣を掲げる。それと同時に、先ほどと同じように火球がいくつも出現する。
「護堂の闘いで半身を失ってるってのに、随分と強気だな」
向かってくる火球を、権能で造り出した銃で撃ち落とす。
「私の国から消え失せよ、神殺し!」
「……私の国、か。なら俺はこう返答しよう。草も木も我が
この世に鬼の物など一切存在しないのだと、居場所すらもないのだと宣告する。
火球だけでは埒があかないと判断したのか、それとも榊の挑発に耐えかねたのか、神が直接榊へと切り込む。一瞬消えたかと思うほどの速さ。軍神や武神の多くが用いる神速だ。
次々と繰り出される攻撃は、榊に反撃する隙を与えない。カウンターで攻撃しようにも、神の技量は少なく見積もっても榊と同程度。成功する可能性は低い。ならば、と権能を発動させる。
アキレウスから簒奪せし、己と同じ武力を誇る神兵を召喚する権能━━『
「ぬぅっ?!」
唐突に現れた神兵の攻撃に神が驚愕の声を上げる。それでも紙一重で躱すのだから、流石としか言いようがない。その上、火球の置き土産つきだ。
接近戦は危険だと判断したのか、神は弓を取り出しこちらへと放つ。
「矢まで神速かよ!」
ご丁寧に矢先には炎が灯っている。体の内側から燃やされれば、この異様なほど頑丈な体でもどうなるか分かったものではない。榊自身は防御に専念しつつ、神兵に攻撃を行うよう指示する。
その瞬間、頭上から強大な呪力を感じた。反射的に見上げると、炎を纏った巨大な鳥が急降下して向かってきていた。
この鳥もまた神速━━そして呪力の規模からしてかなり大規模な攻撃。そう悟った瞬間、凄まじい轟音と共に榊の視界は白く染まった。
鬼の話をするつもりが何故か須佐之男の話に……まぁいいか。
解説的な何か
五行について……白虎は金行だが虎自体は木行に属する(ついでに角も。ただし、この場合の角は音の事である。詳しくは五声で検索されたし)。が、須佐之男には子供に木を植えるよう命じた逸話や、それこと製鉄の盛んだった熊野の地で木を植えたとのエピソードがある。製鉄には強力な火がつきものだが、当然それを得るために炭━━木炭が不可欠である。
では、牛はというと土行である。これはつまり、土生金ということであろう。あと、鬼門の東北は九星図では
ちなみに、火と水は製鉄に不可欠な要素のため、結局のところ五行は全て製鉄と結びつけることができる(←おい)。
和歌について……
ちなみにこの神様の名前ですが、鳥の名前は正解ではないのであしからず(鳥の名前やとしたら簡単すぎるので……)
訂正・・・朱砂を砂鉄などと妄言を書いてましたが水銀の誤りでした。今度からはちゃんと資料を見て書きます。たぶん