カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第三話 戦く鬼神の咆哮

 「少々やり過ぎましたか」

 

 爆風で体勢を崩した神兵を切り捨てた後、周囲を見渡す。土煙が立ち込めているため爆心地の詳細は分からないが、巨大なクレータが出来ていることは見て取れた。そして、同時にまき散らされた炎によって木々が燃えている。

 

 折角見つけた寝床が燃えるのは少々具合が悪い。そう考えた神は炎に消えるよう念じる。元々彼が発生させた炎なのだ。その程度の事は出来て当然だ。

 

 爆心地へ視線を戻すと煙が晴れようとしていた。その中から出てきたのは鉄によって作られた繭とその周りを取り囲む光で出来た木━━繭に刻まれた『防御(エイワズ)』のルーンによるものだ。

 

 「イチイの木、ですか。そんなものであれを防ぐとは面白いですね」

 

 「よくご存知で。つってもあんたはイチイ(この木)と縁があったな」

 

 鉄の繭の中から、榊が立ち上がる。次の攻撃を警戒しつつ、改めて神の姿を観察する。先ほどまでと違い腕が四本になっている。恐らくは半身をその内に戻した影響だろう。

 

 「……半身は失くしたかと思ってたんだがな。空に潜ませて奇襲に使うとはね。流石は裏切りの神様だ」

 

 「失くしたなどとは私は一言も言っていませんよ。太陽の霊気を集めるために上空にいただけで、あなたが勝手に勘違いしただけです。それについ先ほどまで戦闘に耐えられないほど弱っていたのもまた事実ですよ。あなた(神殺し)のおかげで力をおおむね取り戻しましたがね」

 

 流石は神殺しの宿敵たる『鋼』、という事か。予想通りとはいえ、厄介な事この上ない。

 

 先に動いたのは神の方だった。牽制代わりの弓を放ちつつ、榊へと接近する。その手には剣に加えて斧が新たに握られている。

 

 対する榊も再度神兵を召喚して、二人がかりで迎え撃つ。

 

 まずは矢を切り払う。背後に隠れていた火球を撃ち落とそうとするも、急激に軌道が変わったせいで外してしまう。

 

 「━━!」

 

 半身を取り戻したことでより精度が増したのだろう。かろうじて神剣で防ぐ。その瞬間には既に神が間合い近くまで踏み込んでいる。四本の腕に加えて有機的に動く火球を神兵と分担して捌く。

 

 あまりの剛力に榊は思わず顔をしかめる。気を抜けば防御ごと吹き飛ばされかねない。異形となることで、鬼神としての性質が強まったのだろう。

 

 「汝が剛力にて我が敵を押しつぶせ、『野牛(ウルズ)』」

 

 ルーンにより筋力を強化して対抗する。それでも鬼神の筋力には及ばないがないよりはましだ。

 

 それに対抗してか神の武器が輝きだす。この光は、『太陽』の輝きだ。光と共に放たれるのは膨大な熱。直接触れずとも文字通り皮膚を焦がすほどのそれはまず神兵の持つ武器を容易く切り裂いた。そして返す刀で神兵を切り裂く。

 

 そも、榊の造り出す武器はその由来故に『鋼』の属性を持つ。高熱に弱いのは、『鋼』に共通する弱点だ。ただし、太陽神などと習合することで補うことはできるが。

 

 その隙に榊は神の間合いから離脱しつつ、神兵を数体召喚して神の進路を塞ぐ。しかし、それよりも早く神速ですり抜けられる。

 

 舌打ちしつつ、盾を構えて衝撃に備える。一瞬遅れてやってくる衝撃。

 

 「ぐぅっ!?」

 

 吹き飛ばされつつもどうにか堪える。榊が呪力を本気で込めればどうにか熱で切られることもないようだ。だが、それに安堵する暇もない。

 

 先ほど榊へ突撃を仕掛けた鳥が既に頭上で呪力を爆発させんとしている。回避も防御も間に合わない。

 

 再び、大江山に爆音が響き渡る。

 

 彼は油断していた。この攻撃を受けて防御するにしろ回避するにしろすぐさま反撃にでることは出来ないと。そう考えた彼は神速を解除して、上空を旋回していた。

 

 そんな彼の眼前に土煙の中から、修羅のごとき形相をした榊が現れる。榊の体は火傷でボロボロだった。

 

 それを見て彼は悟る。榊が防御も回避も捨てて、攻撃するために今まで隠していた神速で追いかけてきたことを。

 

 鳥へ向けて神剣を振るう。両断するつもりだったが、わずかに躱され翼を切り落とすに留まる。とはいえ、十分にダメージを与えることはできた。

 

 追撃することも考えたが、先にダメージを回復するために第四の権能を発動する。この程度の傷ならば数十秒もあれば完治できる。

 

 着地して、神の方へと向き直る。神はちょうど墜落した鳥に触れようとしていた。その手が触れると、鳥の体が光に包まれて神の胸へと吸い込まれる。

 

 「よくも……よくもよくもよくもよくもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 憤怒に燃える鬼神の咆哮が木霊(こだま)した。

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 「では次に、韋陀、韋天将軍とも呼ばれる神、韋駄天について話すとしよう」

 

 「韋駄天? あの足の速いっていう神様か?」

 

 答えたのは榊ではなく、祐理のほうだった。

 

 「ええ。仏教の天部━━護法神として伝わる神様です。足が速いという伝説は仏舎利を奪って逃亡した鬼を追って取り戻したという逸話からだったかと」

 

 裕理が説明している間に榊はホワイトボードへいくつか文字を書き連ねていた。

 

 「韋駄天の面白い所はな、誤った名前の方が広まっていることだ。元はインドのスカンダという軍神なんだが、これは最初塞建陀天や私建陀天と漢訳された。それが略されたのが建駄天だ。そして誤写によって違駄天となった。しかし、違駄天となったことで中国である神様と結びついた」

 

 そこで一端区切って紫煙を肺へと取り込む。

 

 「道教の神━━韋将軍だ。彼は当然ながら優秀な軍人だ。とはいえ優秀な指揮官であって武人ではなかったがな。韋駄天が唐風の鎧を着た像容なのはこの影響だな。ところで護堂、お前は『鋼』の軍神については知ってるか?」

 

 護堂が首を横に振る。榊は面倒くさいと言わんばかりにため息をついてから『鋼』について簡単に説明した。

 

 「その『鋼』の持つ特徴の一つに、地に突き立つ剣がある。韋駄天の像容はな、中国では地に突き立てたものが多いんだ」

 

 「つまり、韋駄天も『鋼』ってことか」

 

 「恐らくはな。次いでに言えば韋駄天は曼荼羅の護世二十天では西方に置かれるが、西方は五行の金行に属する。それにスカンダに始まり習合した神格の全てが軍神だからな。『鋼』につきものの蛇殺しの話もこの国で習合した神格から得ているから、今回の相手は『鋼』でほぼ間違いない」

 

 護堂が内容を整理するのを待つ間に新たな言葉をホワイトボードへと書く。

 

 「この『御馳走』という言葉はな、実は韋駄天に由来する言葉だ。釈尊のために東奔西走して食物を集めたことが由来とされている。俗説だがな。これがどういう意味かわかるか?」

 

 表情から察するに馨は分かったようだ。元から知っていた可能性も否めないが。

 

 「つまり、韋駄天は食物と共にやってくる神だということだ」

 

 「━━客人神(まろうどのかみ)!」

 

 「そうだ。これで鬼とも繋がってきたろう? そしてもう一つ、鬼との繋がりがある。スカンダにはマハーセーナ(偉大なる戦士)セーナーパティ(戦士の王)など様々な名があるんだがな。その中にクマーラという名がある。これはやはり仏教に取り込まれて鳩摩羅天となっている。彼は仏教においては一人二役ということだな。この鳩摩羅天は孔雀に乗る少年の姿をしているとされている。これはスカンダの姿に近いものだ。スカンダ自身は加えて六つの頭と十二の腕を持つとされているがな……ここで重要なのはクマーラの意味だ」

 

 目で馨と裕理に知っているかと問いかける。答えたのは馨の方だった。

 

 「少年、ではなかったかと」

 

 「そうだ。そしてそれは仏教の中では『童子』と訳される」

 

 あ、と馨と祐理が声を上げた。榊の言いたいことが分かったのだろう。

 

 「『童子』という言葉は制多迦童子(せいたかどうじ)などの仏教神にも使われるが、酒呑童子などの鬼にも使われる言葉だ。まぁ元々『童』は奴隷を示す言葉だからな。鬼と結びついたところで何の驚きもないが……何だ護堂? 疑うのなら辞書を引いてみるんだな。ちゃんと書いてあるはずだ」

 

 護堂の顔色から理解が追いついたのを確認してから、榊は講義を再開した。

 

 「さて、予備知識は大体こんなところだな。そろそろ、本題に入るとしよう。次のテーマは『(すね)』、だ」

 

 榊は新たな煙草に火をつけた。講義はまだまだ終わりそうにない。




 色々とヒントというか伏線をちりばめてみましたがどうだったでしょうか? そろそろこの神様の名前が分かる方もいらっしゃるのでは? まぁヒントが多すぎて逆に分からないような気がしなくもないですが……

 前回言い忘れたこと・・・客人神については辞書に載っている意味と少々異なる意味合いで本作では使っています。定義は『訪れと同時に福(今回は特に食物)をもたらす神』としています。本当は来訪神とかでもよかったんですが、なんとなくかっこいい言葉を使いたかったので(←おい)。ちなみに食物にしてしまうと微妙に須佐之男が定義から外れてしまうので……
 
 

 
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