第一話 出会い
青々とした葉が生い茂る奥深い山の中。獣道ともいえぬような急斜面を一人の男が平地を歩くかのような足取りで昇っていく。
彼の脳裏に浮かぶのは祖父の最後の言葉。
「この山の奥には儂の友人がおってな、ぬしにとってよい出会いとなるはずじゃ。気が向いた時にでも行ってみるといい」
老齢からか、病床に伏すことが多かった祖父はその言葉を残して大往生した。
あまり孝行はできなかったが、早くに両親を亡くした彼にとって、良き祖父であり、良き師父であった。
元より旅を好む気質でもあり、丁度大学も卒業したところだったので遺言に従うとしよう。
四十九日など一通り終えた後、そう思い立ち彼はすぐさま旅に出た。
「しっかし、いくらなんでも山奥すぎるだろ」
本当に人間が住んでいるのか疑わしいレベルだ。この文明の発達した時代にわざわざこんな所に住むのは、よほどの人間嫌いとしか思えない。
「まさか、会っていきなり襲われたりしないよな?」
彼は祖父から武術家として育てられている。
過去何度か祖父の知り合いとあっているが、皆一様に武術家だった。武術家で人嫌いならいきなり襲われてもおかしくない。
実際、いきなり襲ってきそうな知り合いを思いつかなくもない。
修行の一環としてそういった危険な武術家の元へ行かせる……あの爺さんの考えそうなことだ。
こんな山奥に住まうぐらいだ。それなりの身体能力は持っているはずだ。それに、あの爺さんが最後に行かせようとした場所だ。相当な凄腕がいてもおかしくない。
そんなことを考えながらも足は止まらない。樹木をかき分けながら、時に邪魔な枝を手にした短剣で斬り落としつつ前へと進む。
急斜面を登りきると、地面が平らにならされた場所に出た。明らかに人の手が入っている。そんな印象をこの場所からは感じる。
周りを見回した際に、見慣れたものが目に入る。
「あれは……鳥居か?」
相当な年月の経過が見て取れる黒い簡素な鳥居。その奥には小さな神社が見えた。
「つまりここは参道というわけか」
背後を見やると確かに細い道が続いている。だが、一〇〇メートルほどのところで土砂崩れにより道が途切れていた。
「なるほど、斜面を昇らないといけないわけだ」
一人納得しながら、神社の方へと向かう。どんな神が祀られているのか、興味をそそられたからだ。
作法通り、鳥居の前で一礼してからくぐる。
「━ふむ、客人とは珍しいな」
すぐ後ろから声がした。
「━ッ!」
反射的に回し蹴りを放つ。
「いきなり危ないな」
本気で放った蹴りだったが、難なく受け止められる。
背後を取られた挙句に、自分の蹴りを受け止められたことに彼は驚愕した。重ねて、相手の出で立ちにも驚かされる。
「みずらだと?」
みずらとは、古代の男性貴族がしていた髪型だ。そして、貫頭衣のような服装。まるで日本神話からそのまま抜け出たかのような格好だ。
「お主……立花 天地か?」
これが後に神殺しとなる男━立花 榊と神との最初の出会いだった。
ということで悩んだ結果、カンピオーネビギンズ・榊編が始まりました。
この話の中で、第一の神格の正体が判明します。