カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第二話 語らい

 「お主……立花 天地か?」

 

 そう問いかけてくるのは、みずらに結った髪に質素な貫頭衣、そして隻眼と極めて特徴的な姿の男。

 

 「……いや、俺は立花 榊。立花 天地の孫さ」

 

 「彼奴の孫か! いや確かにそれだけの時は流れておるか。して天地は?」

 

 「ついこないだ死んだよ。最後にこの場所を俺に伝えてな」

 

 男の顔が沈痛な面持ちへと変わる。

 

 「そういうあんたは誰なんだい? そもそもあんた人間か?」

 

 自分と祖父を間違えるということは、祖父が若いころに出会ったはずだ。それなのに、この男は壮年の域を出ていない。何よりこの男の放つ膨大な気、とても人間とは思えなかった。

 

 「……儂の名はムラジという。主の言う通り人間ではない。所謂神というやつじゃ」

 

 「神だって? その格好と名前からして、━か」

 

 「ほう、儂の名を知っておるのか……稀にじゃが、神々は神話から抜け出して地上に現れることがある」

 

 ムラジと名乗った自称神は、近くの岩へと腰かけながら喋り続ける。

 

 「そうして地上に現れた神は、『まつろわぬ神』と呼ばれておっての。気の向くままに行動するんじゃ。儂も昔は少しばかり暴れたが、それにも飽きての。丁度ここを見つけて、ずっと眠っておったのじゃ」

 

 「うちの爺さんと俺はその眠りを妨げたことになるのか?」

 

 ムラジは大きく頷いた。

 

 「そうなるの。ま、暴れておった頃ならともかく、今なら貴重な話し相手じゃからの。そう怒りはせんよ」

 

 「そいつはよかった。いくら俺でもあんたに襲われたらただじゃ済まなそうだ」

 

 これは本心からの言葉だった。これだけの気を放つ存在に易々と勝てるとは思えない。

 

 「何を言う。儂は軍神や武神の類ではないからの。戦闘力はそこそこといったところじゃよ。主なら、そこそこいい勝負ができるだろうよ。まぁ、それなりの武器があれば、じゃが」

 

 「それなりの武器…ねぇ。こいつじゃダメかな? かなりの額をかけて作った特注品なんだが」

 

 腰の所に忍ばせておいた短剣を抜き出して、ムラジに見せる。これは、祖父の知り合いの刀匠が作ったものだ。刃渡りは二十センチ程度。一般人という立場上、太刀等の武器を身に着けることができない榊のメインウェポンだ。

 

 「ふむ……只人が作ったものにしては中々じゃが、これでは無理じゃな」

 

 そう言い捨てて、ムラジは短剣を無造作に放り投げた。

 

 「━何しやがる!?」

 

 短剣の放物線の着地点は崖の遙か下。そのことに気づいた榊は、反射的に短剣に飛びついた。

 

 木に飛びつき、目いっぱい手を伸ばして何とか短剣をつかむ。

 

 「……あぶねぇあぶねぇ。俺じゃなかったら短剣と一緒に崖の下だぜ」

 

 「普通の人間はそもそも飛びつかんよ」

 

 「……」

 

 痛い所を突かれた榊は、むすっとした顔で黙りこくる。

 

 「儂ら神を傷つける事は普通の武器には出来んのじゃ。神力等の超常的な力を宿した武具でなければの。その短剣、切れ味は十分であろうが儂らには通じぬよ」

 

 「そーかい。あんたらと戦う事になったらさっさと逃げさせてもらうよ」

 

 「それがよかろう。たとえ神を倒せたとしても、そんな罰当たりが歩む人生、神々の呪いに満ちたろくでもないものになるからのう」

 

 「俺は信心深いからな。そんな罰当たりはことはしねーよ」

 

 「……儂に対するその言葉遣いからしてとてもそうは思えんがのう」

 

 ムラジの追及を笑ってごまかしつつ、話題を変える。

 

 「ところで、ここの神社にはやっぱりあんたが祀られてるのか?」

 

 突然変わった話題に、ムラジが少し驚いたような反応を見せる。

 

 「いや、ここに祀られておるのは儂ではない……はて、何だったかのう。儂に近い特徴を持つ神だったのは覚えておるのじゃが……おお、思い出したぞ。確か河童の類ではなかったかのう」

 

 「河童? この山の中でか? むしろ山童(やまわろ)だろう? それなら製鉄であんたと結びつくからな」

 

 「そうじゃそうじゃ。山童じゃ。お主、詳しいのう」

 

 「俺の専門だからな。ふふ、せっかく神様に出会ったんだ。神話についてたっぷり語ってもらうぜ?」

 

 榊がニヤリと笑い、つられてムラジも笑う。

 

 「よかろう。久々の話相手じゃ。存分に語らおうぞ」

 

 二人は夜が更けるまで延々と語らい続けるのであった。

 

 

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 「この報告は本当なのかい?」

 

 そう問いかけるは、正史編纂委員会東京分室室長にして武蔵野の媛巫女たる沙耶宮馨。どこからどう見ても男にしか見えないが、媛巫女である以上女性である。所謂男装の麗人というやつだ。

 

 問いかけられたのはくたびれたスーツに無精ひげと、だらしないという言葉が似合う男━甘粕冬真だ。彼は馨の年上だが、立場上は部下に当たる。

 

 「ええ。大昔にまつろわぬ神が隠居したと思われる場所に男性が辿り着きました。現地の術者によれば、神も活動を始めているようです。今の所、件の人物と話しているだけで被害は出てないようですが」

 

 甘粕の報告に、馨はため息をついた。

 

 「そんな場所をどうして封印するなり立ち入り禁止にしなかったのかな? いくら隠居していると言っても、今回みたいに起きることもあるわけだし」

 

 「元々、がけ崩れの影響で道が途切れてますからね。天然の立ち入り禁止区域ですよ。立ち入れる人物の方がおかしいんですよ」

 

 「となると、民間の呪術師の可能性が高いね……神様の正体はわかっているのかな?」

 

 馨の質問に甘粕は首を横に振った。

 

 「昔すぎて詳細な資料がないんですよね。隠居前もさほど暴れたというわけでもないようですし」

 

 顎に手を当てて、馨は考えをまとめていく。

 

 「現地に行って状況を確かめてから対応を決めようか。最悪山を封鎖しないといけないから人数がいるね。後、記憶を消せる術者も」

 

 「分かりました。出発はどうしましょうか?」

 

 「状況が分からないから速い方がいいね。二時間後で大丈夫かな?」

 

 甘粕が頷く。

 

 馨にとって、初めての『まつろわぬ神』に関する対応。彼女は不謹慎ながらも、少しワクワクしていた。しかし、この心境はそう長くは続かないことは彼女はまだ知らない。

 

 

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 「いやはや、久方ぶりの会話というものは良いものじゃのう」

 

 時刻は深夜。日が暮れるまで語りあった榊とムラジだったが、それでも語り足りず、また明日も来る、と言って榊は去っていった。

 

 「ふふ、あやつのために一本打ってみようかの」

 

 立花 天地以来の友人となった榊のために、製鉄神としての力を振るうのも悪くない。そう思ったムラジは、榊の短剣を思い描きながら力を解き放つ。

 

 「我、鉄を打ち剣を鍛える者なり。我が鍛えし剣は龍をも滅ぼす剛剣なり━むっ!?」

 

 突如、寝床代わりにしていた神社から膨大な神力が立ち上る。

 

 「……儂の神力に反応したのか?」

 

 ここの祭神は彼と同じく製鉄に係わる神だ。彼の神力に刺激されても疑問はない。

 

 神社から放たれていた神力が少しずつ形を成していく。その姿は、ムラジから見ても異形なものだった。

 

 「俺の前で蛇の力を使うとはな。おかげで地上に呼び出されてしまったではないか」

 

 その眼光は鋭く、ムラジを射抜く。

 

 「貴様は蛇で俺は鋼。ならば打倒さねばな。それに、人間風情とつるむような惰弱な神の存在など許すわけにはいかん」

 

 巨大な戦斧を手に、神はムラジへと突撃した。

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