カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第四話 意地の張り合い

 ホテルの一室で眠っていた榊は、人の気配を感じて飛び起きる。

 

 「……そこそこできる奴らだな。目的は……ムラジか?」

 

 かすかに聞こえる足音や押し殺そうとしている気配などから相手の力量を推測する。少なくとも一般人ではあるまい。ヤクザなどよりもよほど荒事になれてそうな雰囲気だ。

 

 「中に四人、外に八人か……意地でも逃がさないつもりか」

 

 面白い、捕まえられるものなら捕まえてみろ。榊の顔が獰猛に歪む。

 

 こちらの気配は隠しつつ、相手の気配を探る。敵のうち二人がこの部屋へ、残りの二人は階段前に陣取っている。

 

 ドアの前に立って、敵が来るのを待つ。狙いはドアの向こうで、敵二人が重なる瞬間。

 

 気配でその時を察知した榊は、強烈な踏み込みで肩から体当たりをして、ドアごと敵二人を吹き飛ばす。

 

 体当たりの勢いのまま、廊下へと躍り出た榊は階段の前の敵へと視線を向ける。あちらもドアを壊した音に反応してこちらを向いている。

 

 敵の一人に腰から抜いた短剣を投げつける。敵の片割れの額に短剣の柄が直撃する。無事だった方は、倒れた男の方を反射的に向いてしまう。

 

 その隙に榊は一気に階段の前まで突撃する。

 

 榊の接近に気付いた男がこちらを振り向く。

 

 「遅い!」

 

 振り向いた男の膝の上に乗り、もう一方の脚で膝蹴りを叩き込む。シャイニング・ウィザードと呼ばれるプロレス技だ。

 

 これで、ホテル内の敵は全て気絶させた。残るはホテルの外のみ。ゆっくりと壊滅させて適当なヤツから情報を聞き出すとしよう。

 

 懸念材料があるとすれば━

 

 「体の調子だけか」

 

 いつもに比べやや体が重い。だが、この程度なら問題なく戦うことができる。

 

 榊はあまり気にも留めずに、残りを敵を片づけに向けった。

 

 

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 男はかなりイライラしていた。

 

 標的の確保に向かわせた部下たちがいつまでたっても戻ってこないからだ。いや、それだけではない。こんな真夜中に媛巫女の小娘の面倒を見なければならないというのもある。そして何より、自分より若い小娘が指揮を執っていて、自分を神のいる方へ向かわせなかったことが一番の原因だった。

 

 己の実力ならば倒せるとまではいかずとも封印ぐらいはできる。

 

 それに神を倒すことができれば、カンピオーネとしてこの国の呪術界を牛耳ることもできる。そうすればあのいけ好かない男女(おとこおんな)を見返すこともできる。

 

 ドサッ。

 

 背後から人が倒れる音がした。位置からして後ろに控えていた媛巫女か。

 

 「誰━!?」

 

 誰何する間もなく、顔を手で覆われ、万力のような力で締め付けられる。あまりの痛みに思わず絶叫する。

 

 「俺は別に話せとは言わん。だが、どうしても話を聞いてほしければ聞いてやらんでもない」

 

 「わ、わかった。話す、話すから離してくれぇ!」

 

 だが、返答は無情なものだった。

 

 「話す? 話さなくていいって言ったろ?」

 

 数秒の迷い。だが、間断なく与えられる痛みに、男の心はあっけなく折れた。

 

 「は、話させてください! お願いします!」

 

 締め付ける力が少し緩んだ。

 

 「いいぜ、聞いといてやるからきりきり話しな」

 

 

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 「馨さん、やはりホテルに向かった組は壊滅したみたいです」

 

 「……それなりの実力者を送ったつもりだったんだけどね」

 

 馨たちは既に神が戦闘している山の中腹にたどり着いていた。既に部下たちは別の登山道の封鎖に向かっている。

 

 ここもすでに神々の力の及び、豪雨が降りしきる場所となっている。これ以上近づくのは危険と判断したため、ここで立ち止まっていた。

 

 「神と接触しただけのことはあって、相当な実力者の━」

 

 甘粕と馨が気づいたのはほぼ同時だった。

 

 誰かがいる。それも相当近くに。

 

 「……もう追いつかれたのか?」

 

 「そのようです」

 

 二人して警戒しつつ、周りを見回す。見当たらないが間違いなくいるはずだ。

 

 「こんばんわ」

 

 声と同時に背後から甘粕の肩が叩かれた。

 

 甘粕は全速で苦無を取り出し、背後の人物にむけて振るう。刃は背後の人物に届かず、受け止められた。

 

 甘粕は舌打ちをしつつ、移動しようとしたが肩から脇腹へと移動した手がそれを許さない。甘粕がその手を外そうとした直後、強烈な衝撃が体を突き抜け、気を失った。

 

 「暗剄……ですか?」

 

 暗剄とは、中国拳法でいう発剄の一種だ。文字通りどうやって放つのかがわかりづらい、暗殺用の技である。甘粕を沈めた一撃、馨の目を以てしても、脇腹に手を動かしたことまでしか分からなかった。それだけ、目の前の男の腕が桁違いということだ。

 

 「物知りだな。さすがは指揮官というだけのことはあるな、馨くん?」

 

 名乗っていないはずなのに、こちらの名前を知っているということはホテルに向かった組から聞き出したのだろう。

 

 「そういうあなたのお名前は?」

 

 「立花 榊。肩書は、まぁ武術家兼民俗学者といったところかな」

 

 榊の肩書を聞いて馨は合点がいった。確かに、民俗学者ならさびれた神社にも行くだろうし武術家としての身体能力を駆使すれば大抵の所にはいくことができるだろう。

 

 「ここに隠居していた神は、天目一箇命(あまのまひとつめのみこと)ですか?」

 

 どこかへらへらしていた榊の顔が真面目なものへと一変する。

 

 「……どうしてそう思う?」

 

 「先ほど、少しだけ神の姿が見えました。龍の体に一つの目。そして今ここで起きている雨と風を起こしているのが彼の神であると考えれば該当する神はただ一つです」

 

 榊が不敵に笑う。

 

 「正解だ。俺が出会ったときは、人間の姿だったがムラジと名乗ったからな、十中八九別名の一目蓮(ひとつめのむらじ)からだろう。製鉄の神だとも言っていたからな」

 

 ここまで材料がそろえばほぼ間違いないだろう。

 

 「もう一体の神については何か御存知ですか?」

 

 「残念ながら。だが、仮にあの神社に祀られていた神であれば、河童や山童(やまわろ)にまつわる神格のはず。候補としては、野見宿禰(のみのすくね)や菅原道真あたり、大穴で素戔嗚尊(すさのおのみこと)といったところだ」

 

 榊から得た情報と自らが持っている情報を照らし合わせる。これらの情報に該当する神は━

 

 「ところで、そろそろそこを通してもらいたいんだが?」

 

 言葉と共に冷たい風が吹き抜ける。いや、風ではない。これは殺気だ。

 

 「……それはできません」

 

 「お前さんの実力じゃ俺は止められんぞ?」

 

 榊から放たれる殺気が更に強くなり、馨は思わず身を構えた。

 

 「僕にだって意地があります。死地に行かせるわけにはいきません」

 

 毅然とした意思を込めて、榊を見やる。

 

 それに対して榊は━心底楽しそうに笑い出した。

 

 「この先にゃ俺の友達がいてな。どうも危なそうだから助けに行きたいんだよ。行ったところで役に立つとも限らんが……まぁ、俺の意地みたいなもんなんだ。だから━存分に意地を張り合おうじゃないか」

 

 榊と馨は同時に構えて、同時に駆けだした。

 

 

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 「ぬぅう……」

 

 軍神の一撃をかろうじて防ぐことはできたものの、地面へと叩き落されたダメージは甚大だった。

 

 龍の姿から人間の姿へと戻る。龍の姿の方が戦闘力は高いが、それで相手の戦闘力まで上がってしまっては本末転倒だからだ。

 

 「先の一撃、よくぞ防いだ」

 

 地上へと降り立った軍神がとどめをささんとこちらに近づいてくる。

 

 やはり勝てぬか……。予想していた結果とはいえ、突きつけられた現実に思わず苦笑する。それでも、ただで負けるわけにはいかない。彼にも、意地があるのだから。

 

 残された命の全てを使い切ってでも成し遂げてみせる。

 

 決意を固めて、立ち上がる。

 

 「風よ、吹き荒べ! 我が名、一目連(ヒトツメノムラジ)の名のもとに!」

 

 風が一段と激しくなる。その一部は刃となって、軍神へと向かっていく。

 

 「効かぬわぁああああああああ!」

 

 軍神の咆哮により、刃はかき消されていく。だが、それでいい。攻撃することが目的ではないのだから。

 

 軍神の手に弓が握られる。それを見たムラジはすぐさま、眼前に鉄の壁を生み出す。これでしばらくは持つはずだ。その間に、次の力を行使する。

 

 「炎よ、燃え盛れ! 我が名、一目連(ヒトツメノムラジ)の名のもとに!」

 

 ムラジの手元に炎の塊が生まれる。それは蛇のように、鞭のように、鉄壁を回り込んで軍神へと襲い掛かる。

 

 『鋼』の弱点は鉄をも溶かすほどの高熱。この炎も十分熱いが、『鋼』に通用するほどではないようで、軍神は意にも介さず足を進める。

 

 鉄壁へとたどり着いた軍神は、戦斧の一撃で鉄壁を切り裂く。

 

 ムラジは、焦りつつも最後の力を解放する。

 

 「水よ、断ち切れ! 我が名、一目連(ヒトツメノムラジ)の名のもとに!」

 

 高圧力の水を刃となし、軍神の体を襲う。

 

 軍神は舌打ちをしつつ、水の刃をかわして後退する。

 

 その隙に、ムラジは極限まで己の呪力を高める。水の刃による攻撃も止めて、ただひたすらに自らの手元へと集中する。

 

 「我が乾坤一擲を込めて、ここに新たなる天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を生み出さん!」

 

 強風にて炎を起こし、その熱で鉄を溶かし形を整える。そして、水で冷やして完成させる。

 

 先ほどまでの攻撃は全て剣を生み出すために使用した力の副産物に過ぎない。

 

 日本神話において、最強と言っても過言ではない剣を生み出した自らの、鍛冶神としての力を全て注ぎ込む。

 

 一秒でも早く剣を完成させるために。あの軍神に命を絶たれる前に!

 

 攻撃をやめた今、軍神の足を阻むものはない。既に奴はこちらを攻撃できる位置まで辿り着いている。

 

 横薙ぎに振るわれた戦斧は、ムラジの胴体の真ん中あたりまで食い込んだところで完成した神剣と衝突する。

 

 もはや踏ん張る力すら残されていないムラジは、その衝撃に耐えきれずに大きく弾き飛ばされ、誰かに受け止められた。

 

 「……やはり来よったか馬鹿者が」

 

 「友達を見捨てるなんて選択肢はあいにく持ち合わせてないんでな」

 

 そこには立花 榊がいた。

 

 「じゃと思ったよ。どうせ止めても戦うのであろ? ほれ、儂からの選別じゃ」

 

 手に握っていた神剣を榊へと渡す。その形は、榊が持つ短剣と寸分たりとも違わない。

 

 「ありがたく使わせてもらうよ」

 

 「主のためたけに作ったんじゃ。存分に振るうがよい……儂は少々疲れたでな、先に眠らせてもらおうかの」

 

 それがムラジの最後の言葉だった。力なく頽れた体は淡い光となって消えていく。

 

 ムラジの体が消えるまで、榊は瞑目し続ける。その顔には、一切の感情が浮かんでいない。

 

 榊の顔から一粒だけ、涙が流れ地面へと落ちていった。 

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