カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第五話 潰し合い

【ある人物のノートから抜粋】

 

 天目一箇命(あまのまひとつめのみこと)。日本神話において、鍛冶神として伝えられる神である。天津麻羅(あまつまら)と同一視され、ひょっとこやだいだらぼっちなどと関わりを持つとされている。これらの存在の関係性は全て、『鍛冶』というキーワードで結びつけることができる。

 

 同じく習合した一目連(ひとつめのむらじ)も同様だ。風を司る隻眼の龍神たるこの神の特徴は全て『鍛冶』と結びつく。だが、それだけではない。

 

 一目連の祀られる三重県は一目連神社の社殿には扉が無い。これは、一目連が自由に出入りして力を振るえるようにとの配慮とのことだが、妙な話である。

 

 水と風の力を持つ、すなわち嵐の神と考えれば人々にとって害悪以外の何物でもない。洪水や山火事の元となるのだから、本音を言えば振るわれたくない力のはずなのだ。だというのに、力を振るえるようにと配慮をする。

 

 この矛盾から導き出せるのは、すなわち一目連は嵐の神であっても、嵐の負の面を持っているわけではないということだ。

 

 嵐は確かに大きな被害をもたらすが、その後に残るのは肥沃な大地である。洪水が起きようが山火事が発生しようが雷が落ちようが、その後の結果は全て豊穣に繋がる。嵐のこういった面を持つからこそ、一目蓮は自由に力を振るえるように配慮されているのである。

 

 このように考えると天目一箇命とも別のつながりが見えてくる。

 

 製鉄は武器だけでなく農具も作ることができる。穿った見方をすれば、天目一箇命も豊穣を司る神なのだ。

 

 『豊穣』と『鍛冶』。この二つがあるからこそ天目一箇命と一目連は習合されたのだろう。

 

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 「全く……敵わないなぁ」

 

 降りしきる雨の中、立つこともできないほど疲弊した馨は、木にもたれながら一人呟く。

 

 この先には行かせないと粋がってみたが、榊を足止めできたのはわずか三分程度でしかなかった。それも、遊ばれてだ。馨は、攻撃を喰らうことすら許されなかったのだから。

 

 次々と繰り出される攻撃に全力で動くことを強制された馨の体力は凄まじい勢いで削られていった。

 

 決して馨に屈辱を味あわせるためではない。馨の意地をへし折るためにしたのだ。

 

 最初は呪術さえ使えれば……そんな考えがあった。実際にはそれを使う暇すら与えられなかったが。彼女と榊の間にはそれほど明確な壁が存在していた。

 

 先ほど、巨大な呪力が一つ、消えるのを感じた。これが、後から降臨した神ならいい。だが、もし、榊が友と呼んだ神であるならば……彼は命を懸けて闘うだろう。その果てに待つのは死かそれとも━

 

 疲れ果てた馨はいつしか、深い眠りの世界へ落ちていった。

 

 

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 「この体の重さ……お前が原因だな? やはり河童の類、いやその姿を見る限りその長たる牛頭天王か?」

 

 ホテルの出てすぐに近くのコンビニに入ってみたが、店員は高熱で倒れていた。恐らく気━呪力が弱い人間は例外なく倒れているようだった。

 

 恐らくは後から降臨したという神の力。河童は、牛頭天王の手下として疫病を振りまくという逸話からきている力だろう。河童の正体は水死体であるとされているが、死体が疫病の元となるのは当然の話だ。

 

 実際に神の前に立つことで、より体が重くなっている。

 

 「ふむ、その名を知るとは中々の博識よ。確かに疫病を流行らせておるのはこの俺━」

 

 ムラジから受け取った神剣を逆手に構え、突撃する。神の首へと振るうが、戦斧の柄により止められる。元々、榊はこの一撃で勝とうなどと考えていない。その目的は、不意を打って神の懐へと入ることだ。

 

 戦斧を左手で握りつつ、体を回転させて神剣を神の脇腹へと突き立てんとする。

 

 神は戦斧を持っていない手で榊の腕を止め、その怪力に任せ強引に戦斧を振りぬく。

 

 止められないと察した榊は、戦斧をつかんだ腕を支点に空中へと逃れ再度神の首を狙うが躱される。

 

 榊の足を狙って戦斧の石突が突きだされる。外れたそれが大地へと突き刺さり、榊の足元の地面を榊ごとめくり上げる。

 

 「おいおい!」

 

 苛立ちつつ、背後へと飛び退る。めくり上げられた地面は、神の拳を受けて榊めがけて飛んでくる。

 

 「フン!」

 

 掌打で神の方へと跳ね返すが、神の眼前にて不自然に急停止する。神がかざした手を握りしめると同時に、岩が大小合わせて五〇以上に砕かれる。宙に浮いたままの岩が榊へと襲い掛かった。

 

 榊は冷静に自分に当たるものだけを選んで躱し、拳で撃ち落とし、時にははじき返してその全てを叩き落した。

 

 最初の立ち位置へと戻り、二人はにらみ合う。懐から追い出された今、榊の方がやや不利といったか。

 

 「貴様、人の身でありながらなぜ俺に挑む?」

 

 「ムカつくからさ。ムカつく奴は須らくぶっ潰すのが俺の生き方なのさ」

 

 「よかろう。ならば、その身の程知らず、この俺が潰してくれようぞ」

 

 互いに得意とする距離が違うため、互いに攻めきれずにこう着状態に陥る。

 

 神経を削る剣戟に確実に榊は精神的に消耗していく。第一、まともに喰らえば防ぐことすら出来ないほどの怪力の持ち主が相手なのだ。長引けば、不利なのは当然。

 

 榊は覚悟を決めて、大上段から振り下ろされた戦斧の一撃を前に出て受け止める。戦斧の中ほどで受けることで威力を軽減したとはいえ、それでも全身の骨がきしみ、脚が地面へとめり込む。それでも、一撃なら耐えられる。

 

 身を低くして、神の懐へと潜り込み、その心臓へと突きを放つ。

 

 榊の今までの生涯の中で間違いなく最高と言い切れる一撃━その一撃は神を傷つけることはできず、ただすり抜けるのみだった。

 

 「なっ!?」

 

 驚愕により、ほんの一瞬だけ動きが止まる。その直後、側面から強烈な衝撃を受け、榊は吹き飛ばされた。

 

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