カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第二話 旅先に出会いはつきもの

 「お前ならきっと、ここに来ると思っていたぞエルナ」

 

 目の前が真っ暗になるような感覚。やはり、読まれていた。だが、それでもまだ諦めるわけにはいかない!

 

 「来たれ我が盾と槍! 我が手に勝利をもたらしたまえ」

 

 構えるのは巨大な盾と突撃槍。常人ならばとても片手で構えることなど出来ない代物だ。盾により相手の攻撃を防ぎつつ、槍による突撃で相手を駆逐する。本来ならば、馬上で行う戦闘方法だが、魔術で強化した身体能力を以てすれば徒歩(かち)でも可能となる。これこそがエルナの基本戦法だ。

 

 対する追跡者も同じように盾と槍を構え突撃する。

 

 交錯する。突撃の威力は互角。エルナは弾かれつつも、槍の代わりに剣を呼び出して、斬りつける。盾で防がれて、距離を取られる。

 

 再度両者槍を構えて、隙を窺う。

 

 「動きが鈍いぞ」

 

 端的に告げられる。怪我の影響だけではない。自らの心が整っていないのだ。そんなことは言われるまでもなく分かっている。

 

 「それはお前も一緒だ、エドヴァルド」

 

 声の方向から矢が飛来する。魔術により貫通力を高められた矢だが、それはこちらの盾も同じこと。問題なく防ぐことができる。むしろ警戒すべきなのは━

 

 盾の影から人が飛び出してくる。その手に握られているのは双剣。片方はこちらの剣を握る手を、もう片方は足元へと振るわれる。

 

 飛びのいて躱し、剣を槍に持ち替えて構える。双剣の男を狙うがエドヴァルドと呼ばれた男に割り込まれたため、方向を変えて距離を取る。

 

 「ヴィンセント! エリク! 邪魔をするなと言ったはずだ!」

 

 エドヴァルドが叫ぶ。答えたのはエリクと呼ばれた男だ。

 

 「これがただの闘いならそれでいいんだがな、今回はそういう訳にはいくまいよ。普段通りの動きもできていないようだしな」

 

 反論は無かった。エドヴァルドにも自覚があったのだろう。一瞬だけ躊躇うような表情を見せたが、次の瞬間には強い意思を込めた目でエルナを見つめていた。

 

 「何故……何故私は殺されなければならないのですか!?」

 

 次に叫んだのはエルナだった。胸の中で凝り固まっていた疑念を外へと放つ。

 

 「私は、民のために死ねと言われたならば、喜んで死にましょう! 誇りのために死んでもいい! ですが、何も分からぬまま殺されるのは我慢なりません! 何故なのか、お答えください!」

 

 だが、誰もその問いに答えようとはしない。あったのは、弓矢という無慈悲な回答だけだった。

 

 「くっ!?」

 

 魔術を込められた矢は正面から来るとは限らない。エリクが放った矢が、こちらの盾を回り込むように左右に分かれる。

 

 盾と剣で防ぐ。わずかに体勢が崩れた隙に、エドヴァルドが槍を構えて突っ込んでくる。

 

 どうにか盾で防ぐが大きく弾き飛ばされる。この次にくるのがヴィンセントの双剣による連撃だ。それも急所ではなく手足を狙った、いやらしい攻撃だ。

 

 一人一人の実力でいけば、未だ大騎士の域を出ておらず、本来の彼女であれば余裕を以て対応できる。だが、長年培ったコンビネーションがそれを補って余りある。下手な神獣ですらも封殺しうるのだ。本調子のエルナですらも勝つことは難しい。

 

 ヴィンセントの攻撃を防ぐため、体勢を整えようとする。だが、出血の影響により力が入らない。普段なら軽々と振るえる盾と剣を持ち上げることすらできない。

 

 (ああ、これで死ぬのか…)

 

 心を絶望が埋め尽くす。

 

 ヴィンセントの刃が自らの首元へと迫る。抵抗する力がないことを見抜いてとどめを刺しに来たのだろう。目をつむって、迫りくる死を受け入れる。

 

 ギィン!

 

 ━覚悟した死は、訪れなかった。代わりに金属同士がぶつかったような音がする。

 

 目を開けてみれば、ヴィンセントはすでに後ろに大きく飛びのいていた。

 

 彼の視線を追ってみると、そこには短剣を手にした長身の男が立っていた。

 

 

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 榊は勘に任せて街を歩き回っていた。気配で探ろうにも、魔術で隠蔽されているためなんとなくしか場所が分からないせいだ。

 

 感じる気配は大きく分けて二つ。追う者と追われる者に分かれている。おおよその進行方法に当たりをつけて、追われている側の行く手へと先回りする。

 

 だが、目論見が外れて追う者も先回りしたようで自分が辿り着くよりも先に戦闘が始まってしまいそうだった。

 

 舌打ちをしつつ、駆けだす。別段、必死になる理由はない。最初の目的は程よい強さの敵と闘うことだったが、今は違う。胸の中を渦巻く違和感と疑問を解決することが目的となっていた。

 

 この先を曲がれば戦場へとたどり着く。目に移った光景はやはり、予想と違っていた。

 

 

 「話が違うじゃねぇか!」

 

 状況はよくわからない。わからないが、とりあえず大の大人三人がかりで少女一人を襲っている構図は頂けない。

 

 神剣を抜くと同時に、少女へと迫る双刃へと投げつける。

 

 双剣を弾き飛ばした神剣が、ちょうど自分の手元へと返ってくる。

 

 傷だらけの少女がこちらを向く。致命傷はなさそうだが、傷が多すぎる。このままでは失血死する可能性が見て取れた。

 

 「貴様、何者だ? 神剣を持つ以上、只者ではあるまい。何が目的だ?」

 

 男たちの一人が問いかけてくる。魔術で召喚したのか、彼の手には再び双剣が握られている。

 

 「俺は単なる旅人さ。目的は…そうだな、幼気(いたいけ)な少女を助け出すこと、かな?」

 

 話にならないといわんばかりに男達の一人が首を振る。

 

 「ヘルシンキ聖堂騎士団、エリク・ユスティネン、参る」

 

 「同じくエドヴァルド・フルメヴァーラ、参る」

 

 「同じくヴィンセント・ヒルヴォレン、参る」

 

 名乗りをあげた騎士たちが攻撃を開始する。

 

 だが、榊には最初からまともに相手にするつもりなどない。双剣使いの攻撃をいなして、槍使いの方へと投げ飛ばす。その隙に少女の傍へ駆け寄り、抱え上げる。

 

 「━え?」

 

 思考が追いつかないのか、少女が間抜けな声を上げるが気にせずに逃走を開始する。

 

 「じゃあな!」

 

 追いつかれぬように建物の内外を問わず、縦横無尽に駆けまわる。騎士たちが榊たちを見失うのにさして時間はかからなかった。

 

 「落ち着いたかい?」

 

 騎士たちをまいた後、榊は公園のベンチに少女をおろし、傷の回復に専念させた。まだ、結界の外に出れていない以上、完璧にまいた訳ではないが、傷の回復と現状確認を先に行う必要があると判断したからだ。

 

 「おかげさまで。この御恩は決して忘れません」

 

 「それなら礼としていくつか質問に答えてほしい。いいかい?」

 

 榊が少女の目を見つめると、彼女は静かに頷いた。

 

 「そうだな……まずは名前を聞くとしようか? 僕の名前は立花榊だ」

 

 「私はエルナ。エルナ・フルメヴァーラです」

 

 「━っ! まさか……」

 

 榊の顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

 「……あなたが考える通り、先ほど私を襲っていたエドヴァルド・フルメヴァーラは私の父です」

 

 エルナの目には、わずかに涙が浮かんでいた。

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