カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第三話 旅先に成長はつきもの

 「ちっ、胸糞悪い話に係わっちまったな……」

 

 イライラを募らせた榊は頭をかきむしった。思った以上の厄介事に首を突っ込んでしまったことを後悔する。だが、ここで目の前の少女を見捨てればより後悔することになるだろう。家族の問題に首を突っ込むのは、榊の主義ではないのだが……

 

 

 「答えたくなければ答えなくてもいいが……父親に狙われるような心当たりは?」

 

 榊とてこんな質問はしたくなかった。だが、しなければ前に進むことは出来ない。

 

 

 「……ありません」

 

 エルナは気丈にも目をそらさずに答えた。

 

 「……そうか。俺が下っ端から聞き出した話じゃ、神獣がこの町に出没したからその討伐中という話だった。具体的にどんな神獣かまでは聞かされていなかったようだが、それは目標が君だったからだろうな」

 

 ま、適当にでっちあげた内容だろうな、とエルナに告げる。だが、果たして全て嘘なのだろうか? 仮に部下にエルナが標的であることがばれた際を考えれば、そこは真実にしておくべきなのではないかと思う。勿論エルナに伝えることなど出来ないが。

 

 「どちらにせよ、やることは変わらないさ。追っ手を迎撃して話を聞き出す。その上で神獣が出たなら神獣ごと叩き潰してやるまでさ。だろ?」

 

 エルナの顔が更に曇る。場合によっては神獣を相手にしなければならないという現実がのしかかっているのだろう。通常の魔術師たちでは、命を懸けて届くか否かという敵なのだから。

 

 「そう落ち込みなさんな。神獣ぐらいなんとでもなるさ」

 

 「……確かにあなたは神具を使えるほどの人物です。ですが、それでも神獣相手に楽勝なんて━」

 

 エルナが言葉を止めて、周囲を見渡した。

 

 「気づいたようだな。隙をうかがわれているな」

 

 「━どうしてそんな落ち着いていられるんですか!? あの人たちはこの国最強の魔術師ですよ! いくらあなたが強くても、勝てる保障なんてありません!」

 

 彼女の顔に浮かんでいるのは絶望よりも、榊に対する心配が勝っていた。

 

 強い子だ、と榊は思う。この状況で己の事よりも他人を心配できる人間はそうはいないはずだ。それとも現実を受け入れることができないだけなのか━

 

 「なに、負けはしないさ。彼らがこの国最強なら俺は━」

 

 エルナに向けて放たれた矢を叩き落す。

 

 「世界で十指に入るからな」

 

 矢の援護射撃を受けながらこちらへと駆けてくる二人の騎士を睨みつける。エドヴァルドが槍を、ヴィンセントが双剣を手に向かってくる。二人がかりで自分を抑え、遠距離からエルナを狙う腹積もりか。

 

 「舐められたものだな」

 

 わずか二人で止めようなど、例え神殺しを成し遂げる前の自分を相手にしても不可能だというのに。

 

 エルナはしばらく放置しても大丈夫だろう。消耗はしているが、矢をしばらく防ぐ程度なら大丈夫なはずだ。

 

 突撃槍による強烈な一撃を、神剣を使って受け流す。すれ違いざま、視線が交錯する。相手の顔には驚愕が浮かんでいた。

 

 隙が生じなかったことを悟ったヴィンセントは、榊の間合いギリギリの所で急制動をかけて距離を取る。

 

 思わず舌打ちをする。深入りしてくれば間違いなく仕留められのだが……。

 

 「俺の実力は分かったはずだ。まだ続けるか?」

 

 男達は答えない。榊の中の怒りが噴出する。

 

 「そこまでして娘を殺したいのかお前は! 答えろ、エドヴァルド・フルメヴァーラ!」

 

 まるで、激痛をこらえているかのような、身を引き裂かれているいるかのような顔でエドヴァルドが答える。

 

 「ああ、そうだとも! 私の娘の命を奪う役目、他の誰にも渡すわけにはいかん!」

 

 すっと、榊の顔から表情が消えた。ここにいるのは立花 榊という個人ではない。単なる武術の塊だ。その気配は、直接殺気を向けていないエルナをも総毛立たせた。

 

 「いいぜ。よその家庭の事情に首を突っ込むのは主義じゃないからな。俺は単にムカつく奴らをボコらせてもらうとしよう」

 

 この日、始めて榊は構えを取った。もはや、事情を聞くような考えもない。心の赴くままにその武を振るうだけだ。

 

 「貴様こそ、何の理由があって我らの邪魔をするのだ! 貴様の行動が何をもたらすのか分かっているのか!?」

 

 「知るものかよ」

 

 男たちの顔に憤怒が浮かんだ。

 

 お互いにこれ以上交わす言葉がないと思ったのだろう。同時に攻撃に移る。

 

 男たちの視界から榊の姿が消える。気づいた時には既に彼我の距離がかなり縮まっていた。武術だけならば圧倒的に負けている。だが、それを埋めるために魔術はあるのだ。

 

 前衛の二人が同時に、鎖を虚空にばらまく。続けて、エリクが呪文を唱える。

 

 「鋼鉄なる蛇よ! 縛れ、捕えよ、絡み付け!」

 

 呪を込められた鎖が、蠢き出し榊の動きを阻害しようとする。

 

 突撃の勢いのままに跳躍し、鎖をかわす。神剣を投擲し、エドヴァルドたちを牽制する。

武器はこれだけしかないが、彼ら相手ならなくても問題はない。更に、自分に放たれた矢も同じように投擲する。

 

 着地した時にはすでにエリクを間合いにとらえていた。弓での攻撃を諦めたエリクが剣を抜き斬りかかってくる。袈裟がけのその一撃を指で挟んで止め、ボディーブローで意識を刈り取る。

 

 「エルナ!」

 

 「はい!」

 

 エドヴァルド達の意識がこちらに向いている間に、エルナに突撃を命じる。彼女は呼びかけだけで、こちらの意図を察したようで突撃槍を構えて戦場を駆ける。

 

 ヴィンセントが回避したその先で襲い掛かり、首への手刀で気絶させる。

 

 「さて、これで残り一人だぜエドヴァルド?」

 

 言外に降伏するよう告げる。不足の事態が起きないようエルナは背後にかばっている。

 

 「……いくら貴様が強くとも」

 

 ボソリとエドヴァルドが呟く。

 

 「いくら貴様が強くとも神に勝てるものか!」

 

 榊は眉をひそめた。神獣ではなく神。状況は思っているよりも悪いのかもしれない。思考のために榊の警戒が緩み、反応が一瞬遅れる。

 

 背後からの攻撃。振り向きざまに剣をそらす。攻撃の主はエルナだった。彼女の目は先ほどまでのものとまるで違う、虚ろなものになっていた。

 

 更に、エルナの背後から呪力の高まりを感じた。これは━神獣レベルのものではない。彼の同類か、神によるものだ!

 

 現れたのは長いひげをたくわえた老人だった。彼の手には木製の槍が握られており、膨大な呪力と共に放たれる。

 

 回避は間に合わない。そう直感する。唐突な全能感。権能を掌握したことに気づく。それよりも早く、反射的に権能を発動する。

 

 それでも、間に合わなかった。榊の肩に槍が突き刺さり、勢いのままに吹き飛ばされる。

 

 「フハハハハ、この娘はもらっていくぞ。我が娘とするためにな!」

 

 神が高らかに宣言する。

 

 エドヴァルドはそれをただ茫然と聞くことしかできなかった。

 

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