両手を挙げて降参のポーズを取りながら、取り囲む騎士達を観察する。バケツを逆さにしたかのような兜に、白地に大きく描かれた赤い十字架。袖からはチェインメイルが覗いている。
察するにここは中世ヨーロッパのどこかで、この騎士達は恐らくテンプル騎士団の一員。榊が墜落した馬車を取り囲むようにしている以上、何かを護送していたのだろう。
『貴様何者だ!?』
誰何の声が飛ぶ。恐らくは古フランス語なのだろうが、現代のフランス語とは発音が大きく異なるため、その内容は推測するしかない。
しばらく無言の睨み合いが続く。抵抗の意思がないことをジェスチャーで示すが、騎士たちは疑念を募らせているのか徐々に殺気が膨らんでいく。
このまま襲われるのならば、不利な体勢でいるのはよろしくない。相手を刺激する可能性も高いがどちらにせよ、荒事は避けられそうにない。そう判断した榊は馬車から飛び降りる。
案の定、着地した隙を狙って馬上槍を構えた騎士が突っ込んでくる。すぐさま背後に跳ね飛んで距離を空ける。これ以上、攻撃されるようならば榊とて黙ってはいない。
放たれる弓を躱しながら剣を構えて近づいてくる騎士を見据える。
「ちっ、やりあいたいなら付き合ってやるよ!」
頭上高く掲げられた剣が振り下ろされるより速く、手首を掴む。がら空きになった鳩尾へと空いた手で拳を撃ち込む。鎧の上からの一撃。本来であれば鎧に阻まれれるだろうが、榊の技量をもってすれば鎧ごと貫くことも衝撃だけを撃ち込むことも自在だ。それこそ神具レベルの防具なくして榊の打撃を阻むことはできない。
意識を失った騎士を投げ捨てつつ、次に迫りくる馬上の男を見据える。馬上槍による突き━━先ほどは回避したが、今度は真正面から受け止める。その結果、榊は微動だにしないため騎士が馬から取り残されて空中に掲げられる。
『うぉおおおおおおおおっ!?』
驚愕の声を上げる騎士を槍ごと振り回して地面に叩き付けつつ、飛んできた矢を回避する。ついでに足元の石を蹴飛ばして、返礼するのも忘れない。
瞬く間に三人の騎士を沈めてみせた榊を警戒したのか、騎士たちは榊の周りを取り囲みこそすれ攻撃は仕掛けてこなかった。
しばしの睨み合い。そして━━
『私がやる』
一人の男が囲みの中から歩み出る。恐らくはこの一団のリーダーなのだろう。その立ち姿から実力を見て取った榊は、この時始めて構えを取った。
『七人の祭祀、各々角笛を吹き鳴らし、甲冑のいくせ人はこれに先立ちて進軍す。邑を七度巡り、七度目に祭司らは角笛を吹き、ヨシュアは告げたり。主はこの邑を汝らに賜れりと。生ける者、男も女も若きも老いたるも分かちなく悉く刃にかけ滅ぼし、牛羊驢馬に至るまで及ぼせり! このジェリコに邑を建つる者、主の御前にて呪われるべし! 礎を据えなば初子を失い、門を立てねば末子を失わん!』
聖句を唱え終わると同時に騎士の体が白いオーラに包まれる。オーディンと戦った際にエドヴァルドが使った術に似ているが、感じる力はあれよりも一段上。
そう判断した榊は躊躇いなく腰の神剣を抜いた。神をも傷つけうるだろう剣を受け止める。兜の奥に見える相手の眼に驚愕の色はなかった。その気配から榊の剣が並のものでないことを察したのだろう。
しばしの鍔競り合いののち、どちらからともなく離れて再度剣をふるう。瞬時に交わされた斬撃は十以上。その全てを受け止め、躱す。最後の斬撃を大きく身を屈めることで避けると同時に、後ろ手に空中へと刻んだルーンを発動させる。
『
取り囲む騎士達が反射的に動こうとするが、神剣を強調してみせれば大人しくなった。
「さーてこっからどうするかだが……」
言葉は残念ながら通じない。ボディランゲージを使おうにも、相手はかなり殺気だっている。騎士を解放すればまた戦闘が再開されるだろう。カンピオーネになったことで手に入れた『千の言語』も、言葉を話せるようになるまで時間がかかる。となれば、残った手は一つ。
騎士を拘束したまま、足で『
しばしすると、拘束されていた騎士が手で武器を降ろすよう周りの騎士へ指示する。それを見届けた榊も騎士を解放する。
どうにか荒事を収めた榊は、一息ついてから騎士との話し合いに臨んだ。
途中の聖絶の言霊は、エリカのものをそのまま流用。呪文は各自違う設定ですが、考える脳みそがなかったので……