賢人議会が発行した、立花榊に関するレポート。内容は彼の権能についてだ。
「日本二人目のカンピオーネ……時期的には一人目かな。草薙さんもだけどどうして魔術なんかに係わりが無い人ばっかなるのかな?」
日本にだって、世界に通用する人材は抱えている。彼らが神殺しを成し遂げるのはまだわかる。だが、魔術どころか神が実在することすら知らない人間が神殺しを━それも二人も成し遂げるとは……
正史編纂委員会東京分室室長を勤める男装の麗人━沙耶宮馨はレポートを渡すと共に部下の甘粕へと問いかけた。
見るからに昼行燈という印象を与える甘粕だが、意外にも仕事ができる男だ。勿論今回も上司の質問に対する答えはすぐにでてきた。
「確かに草薙さんは武術も魔術を知らなかったみたいですけど、立花さんはそうでもないみたいですよ? ちょっと調べたら委員会内にも知ってる人が結構いましたし」
そういえばこれは報告していなかったか。甘粕も偶然知った話なので特に報告する必要を感じていなかったのだが。
「確かに魔術は知らなかったみたいですが……凄腕の武闘家としてその筋では有名だったみたいですよ? お爺さんの方も同じぐらいの腕前で顔もそれなりに広かったようですし」
「なんといっても世界最高クラスの腕前だからねぇ……知られてても不思議じゃないか」
「ええ。帝都の先生方は皆さんご存じでしたよ。お爺さんとも懇意で四人とも榊さんと立ち会ったこともあるみたいですし」
帝都というのは、媛巫女や正史編纂委員会の面々が学ぶ武術の略称である。正しくは帝都古流という。その師範代は撃剣世話係とも呼ばれる。剣術に限れば、羅豪教主に匹敵する使い手もいる。
「あと、実は彼委員会のブラックリストにも載ってるんですよね」
委員会のブラックリストには呪術で人を呪い殺そうとしたりするような危険人物ばかりが乗っている。馨は榊と直接会ったことがあるが、そういう危険な印象は受けなかったし、魔術も知らないはずだが……
馨の顔を見て、疑問を察した甘粕はすぐに言葉を付け足す。
「危険な呪術師としてとかではないですよ」
「ならなんでブラックリストなんてものに載ってるんだい?」
「彼の専門は知ってますよね? 民俗学━特に神話学についてですけど、何度かやばい伝承を探り出して委員会に記憶を消されたりとかしてるんですよ。そのうちの一回は神具を発掘して神を召喚しかけたらしいです」
なるほど、と得心すると同時に馨は同情した。
「その作業に駆り出された人はきっと苦労しただろうね……」
あれだけの武術の使い手だ。そうそう簡単には術を使わせてはくれないだろう。実際甘粕も馨も榊の前には赤子同然だった。
「ええ。何度か失敗して帝都の先生方に協力してもらったみたいですよ。当時の担当者に偶然話を聞いたんですけど、ついに羅刹王になったのか、と言ってましたね」
「つまり、彼が神殺しになるのは時間の問題だったと」
そんな男の足止めをしていたなんて━馨はかつての自分の愚かさと省みつつ、今生きていられることに感謝した。
1万UA越えを記念して短編を投稿します。過去編の内容にちょっと触れてたりしてますけど。次は5万超えたらまた短編書きますかね~。本編は……少々お待ちください