カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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第三話 悪戯好きな魔王様

 「全くもってお前は幸運な奴だよ。石柱に突っ込んだら、その破片が偶然仮面に当たるんだからな……どうした護堂? 口が開きっぱなしだぞ」

 

 極上の悪戯に成功したと言わんばかりの笑顔。そうだ、この男は昔っから悪戯好きなのだ。

 

 「なんで兄さんがここにいるのさ!?」

 

 「観光。そしたらお前が金髪美人つれて歩いてるから尾行してみた」

 

 言い終わると同時にウィンクする榊。

 

 「そうじゃなくて! 何時の間にカンピオーネなんかになったんだよ!」

 

 「一年前だな。むかつく奴がいたからぶっ殺してみた」

 

 「ぶっ殺したって……」

 

 駄目だ。榊のペースに付き合っても疲れるだけだ。そう悟った護堂はため息をついた。質問攻めにするのはまた別の機会にするとしよう。たぶん今聞いても無駄な気がする。

 

 「護堂、この人とは知り合いなの? まさか本当に兄弟ってわけではないわよね?」

 

 兄弟で神殺し? 世界で八人しかいないのに? 悪い冗談だ。

 

 「榊兄さんとは爺ちゃん同士が知り合いで昔から知ってるんだよ」

 

 「同じ国にカンピオーネがいることすら稀だというのに、知り合い同士とは……世の中は狭いものですな」

 

 『紫の騎士』が慨嘆する。

 

 「ま、積もる話は沢山あるがそれよりも本題に戻すぞ。ゴルゴネイオンについてだが……ルールでは勝った方が処遇を決めるのだったな。護堂、どうする?」

 

 少し考え込むそぶりを護堂は見せたが、結論が出るまでにそう時間はかからなかった。

 

 「兄さんに預けるよ。俺より神様との戦いには慣れてるみたいだし」

 

 エリカは『紫の騎士』とアイコンタクトで意向を確認した。

 

 「立花王(たちばなのおう)よ、私たちに異存はありません。御身にゴルゴネイオンを預けさせて頂きます」

 

 「了承した。私の権能でできる限りの封印を試みてみるつもりだ。それでも駄目なら……戦うまでだな」

 

 封印。呪術の心得もそれに適した権能も持たない護堂には無理な話だ。案外、自分やドニよりも預け先として適任なのかもしれない。そう考えた護堂は、重要なことに気付いた。

 

 「兄さん、この後は一体どこに行くつもりなんだ? 家に帰るのか?」

 

 榊は護堂の近所の住人だ。榊が家に帰るのであれば、結局自分も神との戦いに巻き込まれる予感がする。

 

 「なんだ護堂、戦いに巻き込まれるのを心配してるのか? ま、しばらくは旅を続ける予定だよ。今の所日本に帰る理由がないからな」

 

 それを聞いた護堂はほっとしてため息をついた。神との戦いなんて面倒事に巻き込まれずに済みそうだと思って。だから、護堂は気づかなかった。榊がまた、悪戯好きの顔に戻っていることに。

 

 

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 ━ゴルゴネイオン。

 

 『三位一体』の叡智を刻んだ《蛇》は、仇敵どもの手に渡ったようだ。

 

 コロッセオの瓦礫を踏みしめながら、彼女はそれを直観した。

 

 この地に残るゴルゴネイオンと仇敵の余韻。この石造りの闘技場には、神殺しの権能の気配が残っている。それも、おそらく神殺し二人分のだ。彼女の知恵の女神としての直観がそう言っている。

 

 周囲を見回しながら、、彼女は先日であった神殺し達のことを思い出した。

 

 戦いを好まぬと言った、風変りな若き魔王。

 

 呪術により正体を隠蔽し、見破られたとたん神速にて逃亡した魔王。

 

 やはり、あの者らの仕業だと見なすべきだろう。ヘルメスの弟子ども━人間風に言えば魔術師達は、扱いあぐねたゴルゴネイオンをあの神殺し達に託したのだ。

 

 異邦人の手に渡ったのなら、おそらく《蛇》も異国に持ち去られたはず。

 

 いいだろう、と彼女は思う。

 

 異邦より招来されたのは、こちらも同様。

 

 海を越え、さらなる異邦へと旅立つのに何のためらいがあろう?

 

 《蛇》と彼女の間には、決して朽ちない絆がある。その絆が、彼女を《蛇》の元へと導いてくれる。

 

 「我が求めるはゴルゴネイオン。かつて我が盾に刻み、古を偲ぶよすがとした蛇」

 

 自然と謡が、口をついて出る。

 

 あの《蛇》を手にいれるためなら、喜んで海を渡ろうではないか。

 

 遙かな東方へと目を向けて、足を踏み出す。

 

 「我が求むるはゴルゴネイオン。まつろわぬ身となった我に、古き権威を授ける蛇」

 

 彼女の呼び名は多い。

 

 ゴルゴンもメドゥサも、かつて所有した名前のひとつに過ぎない。

 

 しかし、その意味するところは全て同じだ。これはかつて地中海に君臨した、三位一体の聖母を讃える尊称なのだ。

 

 「我が求むるはゴルゴネイオン。古の蛇よ、願わくば、まつろわぬ女王の旅路を導き給え。闇と大地と天上の叡智を、再び我に授け給え!」

 

 まつろわぬ女神は異邦を目指す。

 

 東方へと至る旅路を、ゆっくりと歩み出す。

 

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 私立城楠学院。草薙護堂とその妹の静花が通う学校だ。イタリアから昨日帰国したばかりの護堂は気怠い体を引きずって登校した。

 

 教室に入るとクラスメイトから話しかけられた。曰く、昨日付けで担任が急遽辞職した。そして、今日から新しい先生が来るから、一時間目に全校集会で紹介をするとのことだった。

 

 「随分急な話だな。それによくこんなに早く代わりが見つかったな」

 

 「理由は親の介護の関係とかみたいだけど、詳しくは分からないんだよねー。多分、校長とかに前から話はしてたんじゃないかな? それで代理が見つかったから正式に辞職したとかじゃない?」

 

 その後は、友人達ととりとめのない雑談をしてから体育館に移動した。

 

 生徒たちが集まり、チャイムが鳴るとまず校長がマイクの前に立った。

 

 「えー、急な話なのですが一年五組の担任をされていた○○先生が、一身上の都合により退職されることとなりました。○○先生の代わりに新しく着任された先生を紹介したいと思います。立花先生 前へどうぞ」

 

 適当に聞き流していた護堂の顔に冷や汗が浮かんだ。今、校長は何と言った!?

 

 「本日から○○先生に代わりまして、国語の授業と一年五組の担任を勤めることになりました、立花榊です」

 

 そこには、黒いスーツに身を包んだ立花榊が立っていた。明らかにこちらを見て微笑んでいる。

 

 その後榊が何か挨拶をしていたが、護堂の耳には入らなかった。

 

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