カンピオーネ! 魔刃の王の物語   作:一日

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あけましておめでとうございます。(1月だからギリ許されるはず)

十万UA(と少し)突破記念です。


番外編 三種の神器

 例によって榊に呼び出された馨は、いつもの店へと来ていた。扉を開けると、一番手前の席で一心不乱にノートへ書き込んでいる榊の姿が目に入った。常ならば本を読んでいるか、携帯をいじっているかのどちらかのため、榊のこのような姿は馨からしてみても珍しいものだった。

 

 「なにを書き留めてるんですか?」

 

 席に座りながら問いかけると、榊は顔を上げずに答えた。

 

 「友人の一人に日本神話に詳しい奴がいてね、そいつが新しい仮設を立ててね、どう思うか聞かれたんだ。中々に興味深い内容だったんだね、その仮説を検証しているんだ」

 

 榊の回答を聞きながら、ノートをのぞき込むとそこには大きく「天叢雲剣」と書かれており、その下にその特徴や逸話が箇条書きで記されていた。

 

 「一体どんな仮設なんですか?」

 

 ノートの文字に目を走らせながら、榊に質問する。ノートには特段目新しい事は書かれていなかった。

 

 「詳しくは省くけど、要は猿田彦と八岐大蛇が同一の存在である、という仮説だよ。宮崎県は高千穂にまつわる伝承を紐解いていった結果この仮説にたどり着いたんだとさ」

 

 「猿田彦と八岐大蛇……ですか。すぐに思いつくのは目の話ですかね」

 

 「猿田彦の目は八咫鏡の如く、もしくは赤酸漿(あかかがち)のように輝いていたという。対する八岐大蛇の目も同じく赤酸漿のようだっとされている。『かが』は蛇の古語だから赤酸漿は蛇の目の別名だったと想像できる。ただ、そう考えると猿田彦はともかく八岐大蛇の方がどうにも引っかかってしまう」

 

 「明らかな蛇である八岐大蛇が蛇の目を持つのは当然の話ですからね。あえて赤酸漿などと表現する必要性がない」

 

 マスターが持ってきたコーヒーに口をつけながら榊の反応を窺う。視線をノートに向けたまま、榊は答えた。

 

 「つまり、猿田彦との繋がりを示唆するためにわざわざ赤酸漿と記述した、と推測できるわけだ。それに天叢雲剣は八岐大蛇の尻尾から出てきたのに対して、猿田彦の目は八咫鏡の如くとされている。八岐大蛇と猿田彦が同一だとすれば、三種の神器の内の二つが揃う訳だ」

 

 「なるほど……では、残りの八尺瓊勾玉についてはどう考えているんですか?」

 

 ここで始めて榊の手が止まり、天を仰ぎながら大きくため息をついた。その後、馨に向けて榊は肩をすくめて見せた。

 

 「残念ながら検討中、だよ。いくつか思いつく事はあるけど、しっくり来るものがなくてね。今この時だけは八尺瓊勾玉は元々神器に含まれていなかったという説を押したくなるね」

 

 「養老令の『神璽(しんじ)鏡剣(かがみたち)』という記述ですね。勾玉への記述が無いことについては、その他にも色々説がありますし、今だけは、ということは別の説を榊さんは推してるんですよね?」

 

 「僕は最初から神器は三つセットだと思っているからね。むしろ仲間外れは勾玉ではなく剣のほうだよ。明らかなに名前がおかしいからね」

 

 「名前……ですか?」

 

 「『八咫』とは即ち直径四六センチもしくは単純に大きな、という意味なのは知ってるだろう? では、『八尺』はというと、これも長さの単位だ。勾玉そのものの大きさを指しているのか結わえてある紐の長さなのか単純に大きいという意味なのかは判然としないけど、ここで重要なのは八と単位を合わせてあることだよ」

 

 「つまり、大きいという事を示すと同時に八岐大蛇との関わりを示唆しているということですか? ですが、それでは八岐大蛇の尻尾から出てきた天叢雲剣が確かに当てはまらなくなってしまいますね」

 

 馨の質問に答える前に榊はノートのページをめくり、目当てのページを馨に掲げて見せた。

 

 「十種神宝(とくさのかんだから)……ああ、そういうことですね!」

 

 「気づいたようだね。でもまぁ、一つずつ確認していくとしよう。見落としがあるかもしれないからね。十種神宝は正式には『天璽瑞宝十種(あまつしるしみずたからとくさ)』といい、三種の神器の元になったとも言われている。その内訳は沖津鏡(おきつかがみ)辺津鏡(へつかがみ)八握剣(やつかのつるぎ)生玉(いくたま)足玉(たるたま)道返玉(ちかへしのたま)死返玉(まかるかへしのたま)蛇比礼(へびのひれ)蜂比礼(はちのひれ)品物之比礼(くさぐさのもののひれ)となっている。こうして並べて見たときに違和感を覚えるのはやはり剣だね。『八握』━━あくまで大きさを示しているだけで固有名詞ではないからね」

 

 そこまで一息にしゃべった後、榊はコーヒーに口をつけた。

 

 「さて、ここで剣の名前を神器と神宝で入れ替えてみるとどうなる? 実にしっくりくると思わないかい?」

 

 「八咫鏡、八尺瓊勾玉、そして八握剣……ですか。確かにこの方がしっくりきますね。神器が八岐大蛇から得られた物だとすれば猶更」

 

 「加えて言えば、猿田彦は八衢(やちまた)で神武天皇を迎えているからね。全てが八という数字で繋がることになる」

 

 榊が煙草に火を灯す間に馨は今聞いた話を反芻してみた。

 

 「しかし今の説が正しいとして、何故わざわざそんなことをしたんでしょうか?」

 

 「ああ、それは天皇家による支配の正当性を主張するためだろうね。勾玉と鏡は天照の岩戸隠れの際に作成し、剣は素戔嗚(すさのお)から献上されたとされている。その後、天孫降臨の際に瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に託された訳だから時系列にもおかしくない話だけど……一番の疑問はね、天照によって高天原(たかまがはら)から追放されたばかりの素戔嗚が何故剣を天照に献上したのか、という点だよ。どう考えても筋が通らないからね」

 

 榊の疑問は以前に聞き覚えがあった。数瞬の間、虚空を見ながら記憶を辿る。

 

 「以前熱田神宮でも聞きましたね。あの時の話では天叢雲剣はそもそも天皇家の物ではなく、饒速日(にぎはやひ)から奪ったとのことでしたが……猿田彦と饒速日は同一視されることもありましたね」

 

 「三種の神器が天皇家の物になったのは、饒速日討伐の時だ。それより前のエピソードの神武天皇の窮地を救ったのは布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)だし、長髄彦(ながすねひこ)に天津神の系譜の証拠として見せたのも天の羽羽矢(あまのははや)歩靱(かちゆき)だからね。剣の方はまだ言い訳が聞くかもしれないけど、後者は明らかに八咫鏡の方が適切じゃないか。何せ、天照自身だと思って祀れと天照本人が言った鏡だからね。

 

 きっと、記紀の筆者達は困ったんだろうさ。天皇の証とされている神器がその実奪ったものだと記述することは避けなくてはならない。それは天皇家の支配の正当性を揺らがせる内容だからね。かといって、その出自を示さなくては神器の価値が薄れる。そのために態々素戔嗚から天照へ献上されたなんてエピソードを追加したんだろうさ。あくまで奪ったのは素戔嗚で天皇家はそれを受け取っただけだとするために、ね」

 

 そこまで語った榊は再びノートに書き込む作業を再開する。

 

 それを見ながら馨はある一冊の本の内容を思い返していた。沙耶宮家の者だけが見られるとある秘儀の方法が書かれた書の事を。




・フラグ1
 なお、フラグ2がいつ立つのかは作者も知らない模様

・勾玉についてもいつか語るよ!
 なお、いつ語るかはry

・とある秘儀は日本神話に詳しい人ならすぐわかるはず。わからなくてもいつか語るよ!
 なおry
 
・蛇=剣=長い鼻は実は全て同じ物の象徴である。何かはあえて言わないけど

・次は十五万UAで予定しています。本編が進まないと書けない短編とかあるんだけどなー
 いつ書けるのやら……

・投稿が遅れた理由? FG━━ゲフンゲフン。シゴトガイソガシカッタカラダヨ!

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