ダンジョンに念能力者がいるのは間違っているだろうか?   作:気まぐれな暇人

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皆さん、こんばんわ。
まずはいつも誤字報告をくださる三の丸様、ありがとうございます。

三人称視点でお送りします。


その13 最善の一手

 本当に、ダンジョンという場所は摩訶不思議で、私たち人類にはあまりに過酷な場所である。

 

 そんなことを考えながら、アイズはこちらに向かってくる巨大な影に目を向ける。

 それは先程の襲撃してきた魔物ではなく、更に異形な姿をしていた。

 大きさは先ほどのものより大きく、6mにも達し、下半身は芋虫のような形をしているが、上半身には扇のような二対四枚の腕、醜い人型のようなその形状。それが見える範囲で二体。

 そして何より、膨らむその体からは腐敗液が大量に溜め込まれていることは明白であった。

 

「総員、撤退だ。急げ」

 

 フィンのその言葉に、ベートが食いつく。

 

「おい、フィン!あんなもんを放ったまま逃げろって言うのかよ!」

 

「そうだよフィン!あんなのが地上に現れたら!」

 

 ティオナもその言葉に賛同するが、フィンの命令は変わらない。

 

「僕も大いに不本意だが、最小限の被害であのモンスターを倒すにはこれしかない」

 

 こんなことを言うのは本当に不本意だと彼は不機嫌そうに言う。

 それほど多くはないが、物資の一部は回収できた。

 後は破棄するしかないだろう。

 

「クラム、アイズ、アレを始末しろ」

 

 フィンが命令したのは以上の二人。

 つまりアレを始末しつつ殿を務めろということだ。

 当然他のものからは反論が出る。

 

「待ってください、団長!

 あんなのを二人だけに任せるんですか!?」

 

「そうだよフィン!いくらアイズ達でも!」

 

 だが彼の決定は覆らない。

 

「命令を聞け、撤退だ」

 

 そう冷たい眼差しで言い放った彼の心情は如何ばかりか。

 

「フィンさん、その場合俺一人の方が都合がいいんじゃないですか?スキル的に」

 

 クラムのスキルには【単独戦闘】があるのだから、一人で戦う方が効率がいいだろうということだ。

 

「ダメだ。君に万が一の事があれば、君の力で匿っている11名の安全も危うくなる。

 それと君は一人だと無茶をしがちだ。アイズはお目付け役でもある」

 

「……わかった」

 

 クラムは若干不本意そうであったが、結局二人が殿を務めることとなった。

 クラムと同じく無茶しがちなアイズにお目付け役が務まるのかという疑問は残るが。

 

「最悪倒せなくてもいい。

ボク達が退避する時間を稼いでくれ。

万一の場合、クラムの能力で先に18層に戻っても構わない」

 

「了解です」

 

 その返事を聞いて、フィン達は退避する団員たちの最後尾へ走っていった。

 ベートは最後まで騒いでいたが、双子に取り押さえられそのまま引きずられて行った。

 

 残された二人。

 アイズは既に魔法を付与済み。

 相方のクラムも、自身のスキルを発動させた。

 

【感覚欠落】

 そのスキルは、使用者の痛覚と精神的動揺を消すという効果を、任意で発動できる力がある。

 

 だがこれは諸刃の剣。

 知っての通り、痛みとは肉体の限界を教える大切な信号だ。

 それを無視するということは、限界が分からず自滅の可能性が非常に高くなることを意味する。

 

 だが今回のような場合、多少の無茶はしなければ生き残れないだろうと、クラムは判断した。

 

「さて、やるかね。

 あ、アイズ。ペンダントはちゃんとしてるよな?」

 

「うん、勿論」

 

「壊すなよ? 万一の場合はドアで逃げるんだからな」

 

 アイズの胸元にかけられたペンダント。

 これは言わずもがな、クラムの能力に必要なアイテムの一つである。

 

「ついでにこれも飲んどけ」

 

「……これは?」

 

「保険だ」

 

 そんな意味深な言葉と共に、一本のポーションをアイズに飲ませ、自分も同様に口に含む。

 

「さて、向こうさんは2体いるみたいだし、アイズは右、俺は左な」

 

「わかった」

 

 そう言うが早いか、二人は自分の攻撃対象へと猛然と駆け出す。

 あっという間にトップスピードに彼等は達した。

 

「―――ッ!!」

 

 異形の魔物は、立ち向かう小さな障害にむかって、魔力が篭った咆哮を轟かせ、同時に翼のような器官を羽ばたかせた。

 それによって舞い散った黄色味を帯びた粉が、クラムを包む。

 

(……やはり毒か?)

 

 そう思い、口や鼻を含め顔をオーラの膜で覆い、身体に纏わる無色の鎧をいつもより厚くした。

 皮膚に触れることを避けるためだ。

 だがそれが結果的に彼を助けることになった。

 

 ――スドンっ!!

 

 そんな爆音を響かせて、なんとその粉は爆発したのだ。

 流石のクラムもこれには後退せざる負えない。

 纏っていた鎧の隙間や念で創った装甲が薄かった部分の皮膚は守りきれず、焼け爛れている。

 

(チッ、油断したな)

 

 しかし今の彼は痛みなど感じはしない。

 痛みもなく、死への恐怖すらない彼は、正しく戦闘マシン。

 この程度の傷は、負傷にすら数えられない。

 

「だがネタが割れればなんてことは無いな」

 

 そう言い、再び開いた距離を詰めるべく走り出す。

 その様子を見ていたモンスターは、さらに大きく翼を動かす。

 先程より、より多くの粉がクラムへと押し寄せた。

 

今度こそ仕留めた。

 

言葉が喋れるならば、魔物はそう言ったであろう場面。

 だが現実はそうはならない。

 

 走っていた彼は、敵が翼を動かした時点でさらに加速。

 相手の攻撃範囲の半分を過ぎた時点で、背中から一気にオーラを噴射させ、さらなる加速を付ける。

 

 そして爆発!

 モンスターの攻撃圏内から脱出していたクラムは、更にオーラで守った背中に爆風を受けて加速し、宙へと舞い上がる。

 その姿を確認した魔物は自爆覚悟で、更に自身の周囲へと鱗粉を振りまこうとするが、その翼は動くことは無い。

 

「そこは既に俺の射程内だ」

 

『円』を広げたクラムは、その範囲に入った瞬間から、敵の翼の根元などの関節部分を拘束するように、オーラを固めたのだ。

 それほど多くのオーラを込める時間はなかったので、強度には不安が残る。

 しかしそれに拘束される一瞬があれば充分。

 一瞬の接触と、風を斬る澄んだ音。

 

 オーラを固めた刀で頭部を切り落とし、勢いのままモンスターの後方へと飛び抜ける。

 そして首から溢れ出した腐敗液の中に沈む姿を確認した。

 

 ひと段落付いたと思ったところで、次に目に入った光景に思わず息を呑む。

 

「…ふざけんなよ、クソッタレ」

 

 そう彼が罵倒するするだけの敵が、通路の奥から雪崩を打ってやって来るのが見えたのだ。

 流石にこの数は無茶がすぎる。

 

「…クラム、あれは」

 

「あぁ、アイズ。そっちも終わったか。

 どうやら団体様がお着きのようだぞ」

 

 まったく笑えない冗談だが、むしろこの現実を冗談で済ませて欲しかった。

 アイズは絶望が足元から忍び寄るのを感じ、同時にこの場を守りきる覚悟を決めた。

 

「出来ればこんな代物は使いたくなかったんだがな」

 

 だがアイズの覚悟とは裏腹に、クラムはそんな軽い口調で、腰に付けたポーチから半透明の液体が入った瓶を3本、手に運び出した。

 見たところ、ポーチはどうやらアイテムバックと同じく見かけ以上の収納力を持った代物らしい。

 その特性上、瓶などの割れやすいものを入れておいても壊れにくい。

 

「クラム、それは?」

 

「お前も知ってるだろ?

 俺は”薬師”のアビリティを持っている。

 だが俺の専門は回復の為の魔法薬(ポーション)じゃない。

 

 ――猛毒の魔法薬(ポーション)だ」

 

 ――毒

 それは薬と対極にあるような存在ではあるが、その実密接な関係を持つ。

 

 毒を変じて薬と成す、変毒為薬という考え方は地球の仏法の教えだが、それと同様に薬も転じれば毒となるのである。

 

 そもそもLv.4の時に”薬師”が発現したクラムには、魔法薬を造る勉強の時間などほとんど無かった。

 一応作る手順などは知ってはいたが、知識だけで実践できるほど甘い世界ではない。

 そのため努力した所でせいぜいが市販の魔法薬が作れればいい所。

 エリクサーが作れるというならまだしも、通常の魔法薬程度なら買った方が早い。

 

 だからそこ彼が手を出したのは毒薬。

 数年前、まだ”薬師”が発現する前から研究をしていた彼は、毒に限るならばその知識はオラリオでもかなり上位に入るだろう。

 

 そしてクラムが目をつけ、研究を重ねたのがモンスターの毒だ。

 モンスターは魔石が抜かれれば灰になるが、一度くらった毒はモンスターを倒しても回復しない。

 つまり魔物の体外に排出された毒は、ソレが灰になっても消えることがないのでは、と気づき、様々な毒を持つモンスターから採取し、研究を重ね、魔法薬へと()()させたのだ。

 その効力は魔物が生み出す原液の比では無い。

 

 今回彼が取り出したのは、最近完成した虎の子の一品。

 元々は深層に生える魔樹から取れた樹液を濃縮させ、揮発性を高めたものである。

 

 その効果は、混乱。

 

 元となった魔樹は周囲に気化させた樹液を撒き、それを吸い込んだ生き物を争わせ、朽ちたところを吸収するという狡猾な魔物だった。

 そんな魔物の樹液を更に濃縮し、揮発性を高めたものなど吸い込んだらどうなるか、言うまでもないだろう。

 たとえ相手が、魔樹と同じ魔物だったとしても。

 

 

 

「おーおー、見事に殺し合ってんな」

 

 結果は良好。

 向かってきた群れの真ん中に瓶を投げ込んでやれば、あっという間に気化した毒が周囲へと広がる。

 あとはモンスター共が吸い込めばイチコロである。

 異形とはいえ上半身が人の姿を模しているのならば、当然呼吸はするのだろう。

 そもそも、モンスターとはいえ、呼吸をしないものの方が少ない。

 魔物の毒への耐性も、耐性特化型のモンスターならばともかく、神の恩恵(ファルナ)の力も使った猛毒が耐性を抜けないことなどほぼ無い。

 実際、一部特殊なモンスターを除けば、これまでの実験でも殆どの敵が毒の効果を受けていたのだ。

 それほど部の悪い賭けでもなかった。

 

「さっき飲ませたのはこれの為?」

 

「あー、一応あの姿形から、毒の鱗粉でも撒き散らすのかと推察してたんだ。

 見事に外れたが…。

 

 だがまぁ結果オーライだな。

 俺たちは毒が切れる前に撤退しよう」

 

 さらに別種と思われる毒物を乱闘の中心へ投げ込みながら、そういい笑顔で言い切ったクラム。

 そんな彼に向かってアイズは一言。

 

「クラムって、えげつないんだね」

 

「( ゚∀゚):∵グハッ!!」

 

 ……意外と余裕そうな二人であった。




最近は原作を読み進めながら、前の話での細かい部分を修正したりしてました。
結構多くて大変でした。
自業自得ですが。

今回「薬師」のアビリティで毒薬を作るという独自設定を使いました。
が、どうなんでしょうね?
自分は原作(ベル君が主人公の方)は以前8巻まで読んだんですが、こういう事が出来るのかどうか出てなかったと思うんです。確か。
原作の方で、このようなことは出来ない、と言われてしまった場合は…、ウチはウチ、よそはよそ、の精神でやっていくつもりです、はい。独自設定ですからね、大目に見てください。

ではまた次回
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