ダンジョンに念能力者がいるのは間違っているだろうか? 作:気まぐれな暇人
その名に反し、最近は忙しい日々をおくっています。
唐突ですが、拙作はこの回をもって終わらせていただきます。
ろくに設定も考えず始めるからこういうことになるんですね、はい。
では主人公視点でどうぞ。
早速件の少年、たしかベル君を追って店を出た俺氏。
光といえば月明かりと周りの家々から漏れる灯りしかないの中、どうやって彼を探すのかといえば、念能力の出番です。
円は10m程度しか出来ないのにそんなこと出来んのか、との疑問もあるでしょう。
しかし、今回私が使うのは円ではなく『変幻自在』の方。
この能力で創られた物は、俺が意識して形を維持しなければ消滅してしまいます。
その関係上、俺の創った物がどの方向のどのくらい遠くにあるのかが分かるのです!
あの少年が店から飛び出していった時、裁縫針程度の針を服に刺しておいたので、彼の居場所が分かるというわけですな。
とは言っても、円の性質がある訳でもないので、おおよそこの方向にいるなって程度で、細かい距離感とかは全く掴めないんですけどね。
「って、俺はいったい誰に説明してんだ」
ホントお酒って怖い。ほどほどにしないとなぁ…。
早足で彼がいるであろう方向へ向かっていれば、出来ればもう二度と会いたくない気配が前に立ち塞がっているのを感じた。
「…最悪だな」
「あら、それは女性に対して出会い頭で言うセリフではないでしょう?」
冷たい月明かりの元、現れたのはオラリオの二大派閥の片割れであり、美の女神、フレイヤであった。
当然その傍らには、彼女の従順な眷属である【猛者】オッタルもセットで付いている。
全く嬉しくないセットメニューだ。
「またお誘いか?もう散々断っただろ」
「えぇ、その通りよ。貴方が首を縦に振るまで何度でも言うわ。
私のモノにならない?」
「断る。さっさと帰れ」
シッシと手を振るが、フレイヤはむしろ笑みを深めた。
「ふふ、私は貴方のそういう強情なところ、好きよ」
「全く嬉しくないお言葉ありがとう。
つうかお前が欲しいのは、俺じゃなくて俺の力の方だろうが」
大方レアだからコレクションにしたいとかそういう事なんだろう。
全くもって迷惑な話だ。
「あら、そんなことは無いわ。
確かに貴方のその力には興味があるのは本当だけれど、意外と貴方の魂も気に入っているのよ?私」
「悪いが俺は一ミリもあんたに興味無いからさっさと帰れ」
見かけだけは絶世の美女だからタチが悪い。
コイツを見ていると、見かけと中身が比例する女って居ないんだなとつくづく思い知らされる。
あ、ラムさんは別ね。
「相変わらずつれない反応ね。
まあだからこそ燃えるのだけれど」
…ホントタチ悪いわぁー。
断れば断るほど燃えるとか、マジでどうしろっつーの、コイツ。
でも物理的に黙らせようにも隣の牛くんが睨み効かせてるからなぁ…。
勝てない、とは言わないけど、ぶっちゃけかなり厳しい。
周辺被害一切無視して、刺し違え覚悟でなんとかなるかも、ってレベル。
念能力があっても、やっぱりレベルの差は大きいからね。
しかも向こうの方が冒険者歴長いし。
「前々から思ってたんだけどさ、あんたって本当に眷属愛してんの?」
「えぇ、勿論よ?」
「俺にはどうにも、あんたは眷属を通して、自分自身を愛してるようにしか見えないんだけど」
フレイヤの目が少しだけ細く笑みがより深くなり、横のオッタルからは少しだけ殺気が飛んできた。
だが俺は構わず続ける。
「あんたは眷属を愛してると言うが、本当のところ、お気に入りの宝物に愛される自分が好きなんじゃないか?
俺はそんな風に思うのだが、どうなんだ?」
「面白い意見ね。
でも私は確かに彼らを愛している。それは確かなことよ」
「左様か。まあどっちにしろ俺はあんたのモノにはならない」
今度こそきっぱりと言いきれば、残念ね。と一言を残し、意外とあっさり彼らは夜の闇に紛れた。
「二度と来んな、馬鹿野郎」
「君がそんな罵声を言うなんて珍しいね。クラムくん」
そんなことを言っていれば、いつの間にか後ろに気配が現れていた。
「あぁ、フェルズ。久し振りだね」
「そうだね。それにしても君、フレイヤと知り合いだったのかい?」
「腐れ縁、ってやつだよ。
それで、フェルズが出てきたってことは、また新しい依頼かな?」
フレイヤ相手だと、どうしても口調が素に戻ってしまうのは今後の反省点だろう。
俺もある意味、あの女に心を開いているのかもしれないな。
…自分で言ってて恐ろしくなってきた。この話は止めよう。
とまれ、そんな事より目の前の客に意識を向けなければ、どんな約束を取り付けられるか分かったもんじゃない。
平然と無茶な要求してくるからな、この骸骨は。
「なにか失礼なことを考えなかったかな?
…まぁいい。そう、仕事の話だ。
『怪物祭』の当日、ある犯罪組織がこの街で動くという情報を掴んだ」
「今度は暗殺かな?」
前にも、探し物だったり、届け物だったり、場合によっては人を始末する仕事もあったが、今回もその類か?
あんまり後暗い仕事はしたくないんだけどなぁー。
「いや、君にはその集団が持っている物の回収をお願いしたい。
現在それの在り処は不明。
だがその日、とある場所へ運び込む予定があることが分かっている。
そこを襲撃し、強奪してくれ」
「また犯罪じみた行為をさせるね。
報酬はそれ相応払ってもらうよ?」
「無論だ。時間と場所、対象の特徴などは後日連絡する。よろしく頼む」
「りょーかい」
暗闇に消えて行く影を見送る。
相変わらず突然出てきて仕事吹っ掛けていくやつだよ。
怪物祭、ラムさん誘おうかとも思ってたのに、これじゃあ無理そうだな。
っと、そんな事より少年だ!
この方向と距離感からしてダンジョンに潜ってんのか?
あの軽装で?
死にたいのかな?
自殺志願者を救うほど物好きではないけど、リューの頼みだし、今回は完全にこちらが悪いのでさっさと行ってさっさと回収しよ。
今日はもう疲れました。
◇◆◇
結局、ベル君は6階層にいました。
ウォーシャドウの大軍相手に大立ち回りしております。
こうして見ると、結構筋がいいんじゃないだろうか?
まだまだ荒削りだが、こう光るもの?がある気がする。
ともあれ、このまま放置すればいずれ力尽きて死んでしまうのは明白。
俺ももう疲れたし、さっさと回収して帰りましょ。
「ッ!?誰ですか!?」
彼の前に移動して指先から伸ばした刃を一振りしてやれば、敵さんはあっという間に輪切りになってくれる。
最後の一匹を刻んでやってから、兎くんに向き直った。
本当に兎そっくりだな、この子。
「初めまして、ベル君…でいいのかな?知り合いの頼みで、君をお迎えに上がったんだけど」
「は、はい。僕がベル、ベル・クラネルです」
「そう、なら良かった。シルちゃんやリューが心配しててね」
そこで冷静になったのか、ハッとしたり赤くなったり青くなったりと百面相の様子の彼を眺めていたが、どうやら落ち着いたらしく、お礼を言われた。
「いやいや、こっちこそウチの駄犬がすまなかったね」
「あ、いえ…、本当の事ですから」
本当のこと、ね。
大分追い込んじゃってるみたいだけど、大丈夫かね?
この焦って強くなろうとする感じ、どこかアイズに似てる。
とはいえ、これ以上雑魚に襲われても面倒なのでさっさと地上へ上がろう。
「今日はもう遅いし、一度帰ろうか。君の主神(親)も心配しているだろうから」
「…わざわざ来てもらったのに申し訳ないですが、僕はまだ残ります」
「何故だい?」
「僕は強くなりたいんです!もっと強くならないと…」
どうしてこうも俺の周りには戦闘狂が多いのだろうか?
いや誰しも冒険者になるような奴は、こういう面がないと成れないものなのかもしれないが。
「ハァ…、そんなに強くなりたい?」
「はい!」
気絶させてから連れていこうかとも思ったが、ふと付いて口から出たのはそんな言葉。
その言葉の答えは、返事以上に真っ直ぐ俺を見上げる彼の瞳が物語っている。
それは俺に真紅の瞳の中に燃え上がるような決意を幻視させた。
だからだろうか?
こんなお節介なことを言ってしまったのは。
「なら俺が鍛えてあげようか?」
「え、いいんですか!?」
焼きが回る、というのだったか。
俺はどうやらこの子を随分気に入ってしまったらしい。
「俺はクラム・アルベルト。
クラムでいい。君は?」
「僕はベル・クラネルです!
よろしくお願いします、クラムさん!」
その少年の笑顔に俺の汚れた心が洗われるようだ。
念は無理だが、我流っぽいし戦闘の基礎くらいは教えてやろうか。
その後、突然気絶した彼にメチャクチャ焦らされた。
今回で終わりとなるこの話で、なんでこんなに続く風なのかと言われれば、実際のところ続きは幾らか書き溜めてあるんです。
ならそれ出しゃいいじゃん、という話なんですがそれでも結局未完になるのは変わらないのですよ。
最初の適当な設定が今後の展開を大きく妨げましてね、書いても書いても矛盾点が出てきて、ついに折れました。
まあ作者が飽き性な性格なことも要因の一つですが。
という訳で最終回でした。更新はほぼ有り得ません。
楽しみにされていた方(たぶん居ないだろうが)申し訳ありません。
誤字報告して下さった方や感想くださった方ありがとうございましたー