ダンジョンに念能力者がいるのは間違っているだろうか? 作:気まぐれな暇人
あと解説が入れやすいから便利
「ラム〜、クラムさん来てるよ」
「わかった、すぐ行く」
同僚のミィシャの言葉で席を立つ。
クラムくん。五年前ギルドの受付嬢になって初めて持った担当冒険者。
当時まだ幼さが残る、あどけない顔立ちをした彼に一抹の不安を持った私だったが、彼はそんな不安を払うかのように上位冒険者への階段を駆け上がっていった。
「にしても、ラムってクラムさんの初めから担当だったんでしょ?かなりの優良物件だけど、狙わなくていいの?」
この色ボケは何を言っているのか…。
――ガン!
「痛っ〜〜〜!!」
「ふざけてないで仕事しなさい」
ミィシャの頭にファイルの角を落としてから、彼の元へ向かう。
恋かぁ…、顔は受付嬢として選ばれたこともあり多少は自信があるけど…。
見下ろすと、ストーンと凹凸のない自分の胸。いや、ある。触れば確かに柔らかい部分が確認できる!
これは服に押さえつけられているだけだ!
…やめよう、傷つくだけだ。
身長もあまり高くないし、胸もない、こんなちんちくりんに、彼がときめいてくれるはずが…。
そんなことを考えていたら、いつの間にかクラムくんの前まで来てしまった。
「こんにちは、ラムさん。なにやら落ち込んだ様子でしたが、どうかしましたか?」
「ううん、ないでもない。それで今日はどうしたの?」
「どうやら換金の受付が混んでいるようなので、近況の報告などを」
「あぁ、そう。わざわざありがとう。でもほんの一週間前にもやったんだから急がなくてもいいのに」
「ラムさんとお喋りしたかったものですから」
その言葉に思わずフリーズする。
私と、お喋りしたい?
「く、クラムくん、そういう発言は誤解を生むから控えた方がいいよ?」
「そうですかね?でもまぁこんな事はラムさんくらいにしか言わないので大丈夫ですよ」
私にしか、言わない…。私にしか…
…はっ!今回は少しインパクトが強すぎた。危うく戻ってこれなくなるところだった。
「おっほん。そ、それで近況というのは?」
「そうですね。最近は40層当たりをフラフラしてましたね。あ、そこでブルークリスタルを見つけましてね…」
ニコニコと話す彼の口から出てくるのは、どれも非常識なことばかり。
いや、仮にも第一級冒険者である彼なら40層くらい行くのは珍しいことではない。
これまでも何度かそういったことはあった。
だが…
「…クラムくん、ソロで深層まで行っちゃダメだって言ったはずだよ?」
その言葉に笑顔のまま固まる彼。
冷や汗ダラダラ、こうなるのは分かってるんだから止めればいいのに。
昔からこういう所は変わらないね。
「ら、ラムさん?」
「なぁに?学習しないおバカさん?」
「ありがとうございます!」
なんて巫山戯ていたら換金所がなにやら騒がしくなった。
「あれは…、ソーマ・ファミリアの人達じゃないかな?」
【ソーマ・ファミリア】。酒造りを趣味とする主神のファミリアであり、団員の多くが神酒に溺れているというのは一部では有名な話だ。
そのため神酒を得るために無茶をしている、と同僚が言っていた。
「はぁ…、やれやれ」
クラムくんは目を細めその様子を見ていたが、ふと立ち上がり騒動の中心へと歩いていった。
「すまないんだが、少し静かにしてもらえるかな?」
「あぁん!?なんだてめぇ?ぶっ殺されたくなきゃ……ッ!?」
ガラの悪い口調で脅し始めた男の一人が突然動きを止めた。
「このまま黙ってあの扉から出ていくか。俺に黙らされてあの扉から叩き出されるか。好きな方を選べ」
動かなくなった男の頭を片手で握り、至近距離から目の奥を覗き込むようにそう問いかける彼に、男は顔を青くしたまま動けない。
周りで騒いでいた人達も、彼の雰囲気に飲まれたように黙り込んだ。
彼の力は私も詳しくは知らない。
どうしてか、いつも刀の入っていない鞘を腰にさしている。
そして何も無いはずのその鞘から、刀を抜き放つ動作をするだけで人が斬られるのを、私は見たことがある。
そして彼の凄味には、なにか尋常ならざるモノの気配すら感じ、まるで人の中からドラゴンが出てくるのではないかと思うくらい、恐ろしく感じる時がある。
彼が何なのかを、私は、知らない。
「ん?黙ってちゃ分からないんだがね。さっさと選んでもらえるか?」
「お、俺達が悪かった。すぐに出ていく」
「そうかそうか。それなら良かった、お互いにな」
慌てて荷物をまとめ去ろうとする彼らに、クラムくんが最後に耳元で何かを囁くと、それまで以上に必死の形相で走り去って行った。
「すいません、ラムさん。お騒がせしちゃって」
「いいのよ。むしろ騒動を解決してくれて、こっちからお礼を言いたいくらいだわ」
まぁ彼が何者であろうと、少なくとも周囲に害を与える人ではない。
それだけはこの5年の付き合いで私が感じていることだ。
「お礼、ですか。なら一つラムさんにお願いがあるんですが」
「ん?なに?私に出来ることなら」
彼がお願いだなんて珍しい。
でも、クラムくんのお願いなら一つや二つ聞いてもいい。
「今度、お茶でもどうでしょう」
「お茶ね?構わないわよ」
「ありがとうございます。この間美味しいお店を見つけましてね」
「そう、楽しみにしとく」
ふふ、一緒にお茶なんて随分可愛らしいお願いね。
少ししてミィシャにその事を話したら、デートのお誘いじゃないかと言われて真っ赤になることを、この時の私はまだ知らない。
――――――
アイズと二人でダンジョンから帰還して、ギルドへ到着した。
彼女はシャワーを浴びると、俺に荷物を預けて奥に行ってしまった。
勝手に換金するのも悪いし、ここはラムさんとお喋りして待ってますか〜。
ラムさんいるかなぁ〜♪
知り合いのミィシャさんに確認をとったところ、どうやらいらっしゃる様子。
ちなみにラムさんは、俺の担当受付で五年前からお世話になっている人だ。
そして俺が絶賛片想い中の相手でもある。
最初は一目惚れだった。
で、色々試してみたところ、どうやら向こうも満更でもないと言った感じ…だと思いたい。
多分、押せば堕とせるくらいには好感を持たれてると思う。はず。だといいなぁ…。
ただ、冒険者といういつ死ぬか分からない奴に求婚されても、向こうも困るだけだろうということで、まだ付き合ったりなどはしていない。
なんせ俺まだ10代だからね、これでも。
とはいえ他の男に靡かれると嫌なので、こうしてちょいちょい接触しているのだ。
なにより、ラムさんのあの初々しい感じが非常に楽しい。
こう仕事中の凛々しい感じから一転して、しどろもどろのポンコツ感を出す感じがギャップ萌えを感じさせる!
っと、そんなことを考えていたらラムさんが来てしまった。
だらしない顔を見られるわけには行かないので気を引き締める。
その後ダラダラとお喋りを楽しんでいたら、なにやら後ろが騒々しい。
見てみたらどっかのファミリアが、買取価格にケチつけてるようだった。
ラムさん曰くソーマ・ファミリアの団員だとか。
何はともあれ、俺の至福の時間を邪魔する奴は、ソーマだろうが、フレイヤだろうが、ゼウスだろうが容赦はしない。
というわけで粛清。
近づいて、オーラで相手を固めて、ちょっと殺意を込めて『練』を発動してやればたちまち大人しくなる。
流石に怪我させちゃうと面倒だからねぇ。
その後大人しく帰ったのを確認し、ラムさんの所へ戻ったら、ご褒美が貰えるとのこと。
明日が休みだと言うのでデートの約束を取り付けた。
ふふ、明日が楽しみだ!
前回に引き続き、ご拝読いただきありがとうございます。
作者自身、恋愛経験の乏しい人間ですので、正直恋愛要素は不安でいっぱいなのですが、今後勉強していきますので、今回はこれで勘弁して下さい。
ではまた次回。