あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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026 最高が無理なら最強にすれば良いじゃないか、そうだろう?

 年度は変わり、何時しか月日は六月の半ばを迎えた頃。

 入学式を始めとした様々な春のイベントも一通り終わり、自宅にあった機材もその殆どが移設された事で研究の拠点はゲートブリッジに改められていた。

 そんな訳で、ある程度環境も落ち着いてきたので僕はアイアンマンの開発をここで続行している。

 

 ただ、今は少し寄り道という別基軸で進めているのだが。

 

 

「どうだメーティス、思い付きでやったけど上手くいったろ?」

『そうですね。この偶然は想定出来ませんでした。奇跡的と言っても良いでしょう』

「あのさぁ……」

 

 

 褒めている様な口調で、物凄く貶してくる。

 実際のところは、自身の演算では導き出せなかった結果になったので拗ねているのだが。

 それでもAIなのか?絶対に感情か若しくは近しい物が芽生えてるよね、否定するけどさ。

 

 

「さて、メインサーバとの接続を切って再起動してみるか……バックアップは大丈夫か?」

『イエス。細心の注意を払っています』

「よしそれじゃあ再起動、っと」

 

 

 途端、メーティスの気配が消える。

 0と1で組み込まれたデータの集合体であるメーティスに気配も何も無いとは思うが、まあ感覚的な表現だ。

 暫くして、アークリアクターと同期したラップトップに再起動が完了したという通知が表示された。

 

 

「おはよう、メーティス」

『既に時刻は14時27分です。随分とお寝坊ですね、マスター』

「このっ……それで、ベンチマークはどうだ?」

『計測開始……終了。メインサーバとの性能誤差は5%以下です』

「そりゃあ、殆ど同じ物を搭載しているからな」

 

 

 訓練用ISである甲鉄(こうがね)を開発した折に、当然ながら量子変換技術についても深く触れる機会となった。

 ISコア依存で独自の技術である量子変換は、その名の通り物質を量子(デジタル)化する事でISの拡張領域(バス・スロット)に武装や物資を保存する事が出来る。

 残念ながら原理は不明。束にも解らないという話だから、お手上げだ。

 

 しかし、考えてみれば僕の胸には何が埋まっているか?

 思いついたが吉日。幾つかの試験を経て、何ならメーティスの母艦たるコンピュータを胸の中に量子化保存出来ないだろうかと発想し、実際にやってみたという訳だ。

 

 

『コアネットワークへの接続を開始…………残念ながら機能をダウンロードする事は不可能な様です』

「だけど、コアネットワークでインターネット自体への接続は出来るんだろ?」

『イエス。モバイルネットワークの整備されていない場所でもアクセスする事が出来ます』

 

 

 そんな訳で、僕の胸のアークリアクターにはメーティスがインストールされた。

 

 いかなアイアンマンと言えどもシンビオートじゃあるまいし、念を送ってもスーツは飛んでこないし。そもそもメーティスと交信の出来ない場所にいたらお手上げだ。

 しかし今回のアップデートによって、例えばwifiやLTEどころかGSMさえ電波が届かない様な場所にいたとしても、恒星間単位で通信を行うことが出来るISのコアネットワークを経由してスーツを遠隔操作する事も可能になった。

 弱点が全て無くなった訳ではない。一番最寄りのISとコアネットワークが繋がらない様な外宇宙にでも飛ばされてしまえば話は別だが、そんな事もそうそう無い筈なので弱点らしい弱点でも無いと言える。

 

 

「さて、それじゃあ次のステップに進むか」

 

 

 確かに、ISの技術の一部分だけを利用するだけでも凄まじい進歩を遂げたが、それで留まる程に僕の上昇志向や好奇心は矮小ではない。

 次なるステップは、アイアンマンにおける一つの高みとも言える僕の集大成を────

 

 

『マスター、束さまから呼び出しです』

「え、何処から?」

『地下のガレージからです』

 

 

 何かとアメリカンサイズなこの家、ガレージも当然ながら広いスペースが確保されている。

 ガレージに停められているのはアウディのR8とRS7の二台。前者に至っては目下改造中なので駐車しているのは実質1台だが……それは兎も角。

 スペースだけは有り余っているので、作業場として利用している。アイアンマンを造って飾るならやっぱり地下ガレージでしょ。

 

 

「すぐ向かうって言っておいてくれ」

『イエス』

 

 

 端末の電源を全て落として椅子から立ち上がる。

 だったら初めからガレージで作業していれば良かったと思ったが、今日は千冬専用のISに完成の目処が立ったとかで朝から騒いでいたので、敢えて邪魔しないようにと二階の自室で作業していたのだ。

 

 いそいそと階段を降りてガレージに辿り着けば、何時もに増して嬉々とした表情ではしゃいでいる束と、対照的に己の機体の感触を確かめる冷静な千冬が出迎えた。

 

 

「どうしたんだ束、随分と嬉しそうじゃないか」

「ちょーっと弄ってたら面白い事になっちゃってさー。良いから早く来いって」

「本当にご機嫌だな」

 

 

 目下、束が鋭意製作中の物と言えば“暮桜”と呼ばれるISだ。

 暮桜は来るIS国際競技大会、先日にモンドグロッソと正式発表されたそれに日本代表選手として出場する千冬の為に束が精魂を込めて造り上げようとしている。

 意外なことに、そのデザインやコンセプトは何を思ったか甲鉄(こうがね)を踏襲していた。

 鎧武者の如くフォルムに基本性能はバランス型。特徴と言えばブレード等を用いた近接戦をする際に接近しやすい様に非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)には日本古来からの甲冑に見られる大袖を模した追加装甲を有す。

 武装はどこからどう見ても日本刀。これは束の開発した超高周波振動ブレードで、元はヴィブラニウムを切断しようというコンセプトで開発していた物らしい。

 流石に目標は達成されなかったが、それでもタングステンだろうがチタン合金だろうがお構いなしに切断してしまう非常に恐ろしい代物だ。

 

 

「また試し斬りをさせてくれとか、そんな話じゃないよな?」

 

 

 千冬が右手で構える超高周波振動ブレードを訝しげに眺めながら、ぼやくように苦言を呈してみる。

 現時点でアイアンマンの装甲に用いられているゴールドチタン合金は、実を言えば容易く両断されてしまっていた。

 流石にこれは拙いと新たな装甲材を開発中。なんとか形にはなりそうなのだが、重量など未だに課題も山積している……一応、mark.7では試験的に一部分に採用したが。

 それは流石に鎧袖一触とはいかない筈だ。多分。

 

 

「違うってば、そんなつまらない事で呼ぶかよ!」

「おい束、興奮するのは分からんでないが説明をしなければ幸太郎に伝わらんぞ?」

「おう、そうだったね」

 

 

 千冬の制止で幾らか落ち着いた束は、漸く説明する気になったようだ。

 

 

「幸太郎、単一仕様(ワンオフ・アビリティ)は知っているよなぁ?」

「確か……ISの自己進化の過程で操縦者の行動パターンや癖に合わせて適応したISが新たな機能や武装を新設する、っていう理論だったけ」

「そうそう。今までは唯の理論、机上の空論でしか無かったんだけどさ……ちょっと試しに、ちーちゃんにリパルサー・レイを撃ってみて」

「はい?」

「何時もの言葉足らずは許してやれ、百聞は一見にしかずとでも言いたいんだろうさ」

「分かんないけど、良くわかったよ」

 

 

 とりあえずは言われた通りにしよう。

 改造途上で一部が分解されたアウディR8のパーツを踏み越えながら、腕部の装着ユニットを拾って右腕を通す。

 装着ユニットから引き抜けば、腕には赤と金に塗装されたアイアンマンの腕が現れた。

 

 

「それじゃあ、良いのかな?」

「ああ、いつでも構わない」

 

 

 了解を得てから、手の平を千冬に向けてリパルサー・レイを発射する。

 反動に仰け反りながらレンズによって圧縮された光の弾丸の行く末を見守っていると、千冬は居合斬りの構えを取っていた。

 そして、高速で接近する閃光を容易く眼で捉えていると言わんばかりの動作で────超高周波振動ブレードを振り抜く。

 

 リパルサー・レイが斬られた。

 

 

「──────は?」

 

 

 質量が無い筈のリパルサー・レイが、斬られた。

 と言うよりも、消失してしまったと言うべきだろうか、千冬の一振りによって無効化させられてしまったのだけは確かだ。

 

 

「えっ、何いまの?」

「だから単一仕様(ワンオフ・アビリティ)だって。流石はちーちゃんだよ、世界で初めて実証しちゃったんだ」

「……エネルギーを、消したのか?」

「そうそう、シールドエネルギーを消費する代わりにどんなエネルギーでも構わずに食べちまうみたい。但し、運動エネルギーとか質量エネルギーは無理だけどね」

 

 

 何というか、擬似的なヴィブラニウムのシールドみたいだ。

 この刃はどちらかと言えば攻撃特化のシールド・デストロイヤーだが、防御への転用も千冬の技量ならば容易いだろう。

 

 

「堅実な機体設計に高い水準で万能なバランス調整、そして必殺技にちーちゃん! これはもう、勝ったも同然だね」

「はあ……恐れいったよ、ISってこんな事も出来るのか」

「まっ、ちーちゃんだからこそ出来たことなんだけどね!」

「何だ気持ち悪い。煽てても何も出ないぞ」

 

 

 いや、しかし実際にチートだ。

 何せ戦略の要とも言えるエネルギーシールドを消失させ、再展開したその都度に消し続けるなんて天敵と言うべきだろう。

 しかも扱うのが千冬となれば隙もない。贔屓も何も無しに本当に優勝が確定してしまったと言っても過言ではない。

 

 

「これは……僕もうかうかしていられないな」

 

 

 

 

 

 

「ゴールドチタン装甲は無敵じゃない。そもそも、ロケットランチャーやミサイルには確実に耐えられないだろうし」

『イエス。質量の大きな弾頭の直撃を喰らえば確実に装甲は崩壊します』

「だけど、装甲に使える素材にも条件があるし、弱点も多い」

 

 

 理想論で言えばヴィブラニウムを使えれば完璧だ。

 しかしヴィブラニウムの所有量は少なく、全身を覆う程までは無い。

 増産しようにも、その特殊な生成環境を再現するのが困難なので1年に1gを生産出来るか出来ないかといった状態。

 現状では装甲に使用するにしてもコストが馬鹿にならないので却下とする。

 

 

「次にヴィブラニウムから生成した擬似元素は、論外」

 

 

 ヴィブラニウムを触媒にしたレーザーをプラチナ合金に照射して産み出された新元素は、非常に脆い。

 一応、ヴィブラニウムの特性を引き継いで元素は振動するが、そもそもの硬度が低い為に装甲としての耐久性は皆無に等しいのだ。

 これは今、アイアンマンのスーツに搭載するアークリアクターのコアとして使われている。

 

 という訳で、本命はその擬似元素を生成した技術を応用して偶々出来てしまった新素材に掛かっていた。

 

 

「実は偶然出来たコレ、性質とか良く解って無いんだけど」

 

 

 分かっているのは矢鱈と堅いという事だけ。

 試しに持ち前のミサイルを()ち当ててみたが、ビクともしなかった。

 

 

『ですので、私が解析と検証をしておきました』

「流石、僕に口なんていらなかったかな」

 

 

 まだ頼んでもいないです。いや、是非ともお願いしたかったけどね。

 

 

『まずメリットだけ申し上げれば、この新素材はヴィブラニウムよりも硬質です』

「え、今なんて言った?」

『ヴィブラニウムよりも堅い素材です』

「そんな馬鹿な」

 

 

 だってアレだよ、ヴィブラニウムってアメコミ界のオリハルコンだよ?

 ヴィブラニウムが砕けるっていうのは、もう生半可じゃない異常事態でその絶望感たるや尋常ではない。

 そんな宇宙でも最強と名高いヴィブラニウムよりも堅い素材が、そんな容易くあってたまるだろうか?

 

 

『しかし、弱点も無視出来ません』

「弱点って、どんな?」

『非常に比重が大きいのです。ゴールドチタンと比較して凡そ4倍です』

「って、事は……スーツの装甲に使ったら500kgくらい軽く超えるな」

『パワーアシストが負荷に耐えても、扱うのは非常に困難でしょう』

「うーん……」

 

 

 何処ぞの漫画じゃないが、500kgといえばスーツと自重を合わせれば10倍の重力下で戦闘する羽目になってしまう。

 身体を動かすのは問題ないだろうが、動きは鈍重になるだろうし飛行にも支障が出そうだ。

 となれば、全身に装甲を設けるのは愚策かもしれない。

 

 

『更に、特殊な炭素鋼にヴィブラニウム・レーザーを四方から照射し続けるという製造方法の性質上、大量生産に向きません』

「それはまあ、でもある程度の数を確保出来るだけマシかな」

『また、ヴィブラニウムとは異なり新素材は衝撃吸収性はありますが原子の振動現象は起こりません』

「……それは、どういう事?」

『つまりこの素材を使用して装甲にした場合、ヴィブラニウムの様に踏み止まったり反射する事は適わず、衝撃を殺せずに吹き飛びます』

「だけど、破壊はされないと」

『イエス。この新素材による装甲を破壊するには継続的に摂氏3500度以上の熱量を浴びせ続ける必要があります。10分程度でしょうか』

 

 

 それって、でも殆ど無敵と変わらなくないですか?

 

 

『例えば、ヴィブラニウムで作られたハンマーを新素材に叩きつけても破壊は不可能です。逆も勿論ですが、対して新素材で剣を作った場合、硬度の関係でヴィブラニウムに傷を付ける事は可能です。ヴィブラニウムが一定以下の厚さであれば切断も可能でしょう』

「メリットもデメリットも大きいな……」

 

 

 なるほど、どちらかと言えば防御より攻撃に向いていそうだ。

 装甲に用いるとしたら胸部や腕部の一部に薄く加工して使うべきだろう。

 

 

「これを改良出来るか、もう有効活用出来るかは一旦置いておいて……名前を決めておくか」

『名前、ですか?』

「大事だろう、名前は。いつまでも新素材じゃ分かり辛いし」

 

 

 実は、既に名前は殆ど頭の中で確定していた。

 

 

「そうだな、新素材の名称は……“アダマンチウム”で」

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に聞こう、アレは使えるのかね?」

「問題ありません。調整も良好です」

 

 

 巨大な防弾ガラス越しの部屋で穏やかに眠る少女を眺めながら、男達は語らう。

 不遜な態度の男は煽る様に葉巻を吸いながら爬虫類の如く細い目で白衣の男を伺い見ていた。

 

 

「この個体、初期型の96番は失敗作だと聞いたが?」

「確かに精度は最新鋭に比べれば遅れを取ります。しかし、ISを用いればそれを補っても余りあります」

「……試作機(はいきひん)試作機(しっぱいさく)を充てがうという訳か」

「相性は宜しいかと。少なくともご注文にお応え出来る中では一番良い物を選定させて頂いたと自負しておりますが」

 

 

 まるでディーラーから車を勧められているような光景だ。

 しかし、その商談の内容として取り上げられているのは……まだ歳も十を超えて幾ばくかという幼い少女というのは、果てしなく異様だった。

 それを何の躊躇いも無くカタログでも眺める様に見定める姿は、凡そ正気の沙汰には見えない。

 

 

「……ISコアの総数は先日、500を超えた。その内我が国が保有するのは約40個、世界水準で見れば保有数は多い方だがコストが高いのはまた別問題だよ」

「ええ、そうなんですね」

「一機あたりに約8000万ユーロ……それを現状ではスポーツだけにしか使えないだと?馬鹿らしい、全く割に合わないじゃないか」

 

 

 如何にも不機嫌な顔で苛立ちを隠そうともせずに、葉巻を灰皿に強く押し付ける。

 肥えた身体を丸めながら震わせるその姿は、どこかシュールだった。

 それなりの高い地位にいると思われる男は。しかし、プライドだけが一人歩きした政治家によくいるタイプの様だ。

 

 

「これはね博士、革命なのだよ」

「はあ、革命ですか……」

「うむ。警鐘と言っても良い、私は世界に対してISを再認識する様に促すのさ」

 

 

 白衣の男は、態度にも表情にも出さないが高笑いする男に呆れ、見下していた。

 畑違いで全くの門外漢ではあるが、その行いに意義も可能性も見出せない。失敗する算段の方が遥かに高いとさえ思う。

 しかし、そんな他人のちっぽけな野心などどうでも良いのだ。

 大事なのは、この男が少なくない金を落としてくれる顧客であるということだけ。支払ってさえくれれば成功しようが落ちぶれようが知った事ではない。

 

 

「どう取り繕おうとも、ISもまた兵器でしか無いのだ。それは、あの光景を見たならば当然行き着く結論だろうに、そう思わないかい?」

「私は少なくとも、宇宙開発用と聞きましたが」

「ハンッ!そんなモノはだね君ィ、あの小娘の描く絵空事に過ぎないよ」

 

 

 自分の意見こそが正しいと疑わず、それを押し付けようとする態度は見え透いていた。

 しかもその相手が世界だと言うのだから、少なくとも生半可な愚者では無いだろう。

 類い稀な傑物か、それとも振り切れた阿呆か。

 その結論が出るまでには、もう少し時間が掛かる様だ。

 

 

「それでは博士、引き続き調整を頼むよ。引き渡しの時には万全にしていてくれ給え」

「はい、畏まりました……」

 

 

 歪んだ黒が、蠢こうとしていた。

 

 




【アダマンチウム】
ウルヴァリンやX-MENで余りにも有名な金属。
勿論、原作とは異なる設定ですが。
ヴィブラニウムと対決した場合は……少なくともコミックを読む限りでは互角の模様です。

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