あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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※深刻なキャラ崩壊にご注意下さい。


あれ、やっぱり主人公っていらない子────知ってた。




其の三 問題です。この中で一番危険なヤツは?暴れたら手が付けられないのは誰でしょうか?

 場所を移して再びヘリキャリアの内部に設けられたラボには僕を含めたトニー=スタークとブルース=バナーの三人が集う。

 そこでキューブの探索と並行してロキの所持していた杖、セプターの解析も同時進行で行われていた。

 

 

「ロキの杖から発しているガンマ線の数値はセルヴィグの記録した四次元キューブの物と一致しているね。だけど、全てを解析するには数週間が必要になる」

「メインフレームを省略してクラスタに直結しよう、そうすれば600テラフロップまでクロックアップ出来る」

 

 

 かつて世界一の性能を誇っていた日本のスーパーコンピューターの京が1ペタフロップ、つまり1000テラフロップだったのでこのヘリキャリアに搭載されたコンピュータは中々の性能である事が分かる。

 

 セプターは四次元キューブことテッセラクト、つまりスペースストーンの力が間接的に付与されているのだろうか?パワーソースは違う筈なのにキャプテンが言うようにヒドラの使用していた兵器と同じ様に光線を発射したり等のパフォーマンスを発揮していた。

 インフィニティ・ストーンだから何か紐付け出来る様な作用でもあるのだろうか……サノスから渡された代物である事を考えれば、それも不思議では無いか。

 宇宙ゴリラなどと言われるが、あれは発想や思考の次元が異常(おかし)い科学者なのだ。つまり、ああ見えて頭脳派である。

 

 

「ははっ……すぐ帰れると思ったのになぁ」

「そうだ、今度スタークタワーに来てくれ。上層10階は全部ラボでね、夢の国だよ」

「ありがとう。でも前にニューヨークへ行った時は、その……ハーレムを、壊しちゃって」

「だったらストレスの無い環境を約束するよ、ドッキリも……無い!」

「うわっ!?」

 

 

 トニーはそう言いながらも、態と静電気を帯電させたドライバーでバナーの脇を突いてしまう。

 もちろん驚きの声をあげるが、ハルクに変身してしまう事は無い。

 彼もそうならない様に訓練したから。それでも許容範囲という物はあって、そこを敵に突かれて暴れさせられる事が多々あるのだけど。

 

 しかし、分かっていてもコレは怖い。僕ならハルクの怒りを買いたくないから絶対にやらない。

 まあトニーもこの程度ではハルクにならない事を把握してやっている節がある。それに恐らくは探っていたのだろう、許容範囲を。

 

 

「あれ、変身しないの?」

「は、ははは……」

「おいっ! 気は確かか?!」

 

 

 悪いタイミングだった。

 作業の進行を見に来たキャプテンが目敏くトニーの悪戯に気付いて叱責する。

 

 

「うーん、どうかな? しかし凄いな、どうやって怒りを鎮めてるんだ? メロウジャズ、それともハッパとか?」

「なんでもジョークにするのか?」

「それが面白ければね」

「皆の命を危険にさらして何が面白い! 倉持からも何か言ってくれ!」

「えっ、僕がですか?!」

 

 

 コッソリとセプターに眠る人工知能、ウルトロンの雛形にアクセス出来ないかな、なんて黙々と作業をしていたらキャプテンから白羽の矢を立てられてしまう。

 僕は何時からキャプテン係になったのだろうか、サイドキッカーか何かなの?

 恐らくは、濃い人材の集まるS.H.I.E.L.D.やアベンジャーズよりも僕に話しかけ易いから頼っているのだろうけど。準コミュ症の人に良く見られる兆候だ。

 キャプテンは……まあ、確かに多くの者から慕われるけど、コミュニケーション能力に秀でているとは言えないかもしれない。特に現時点では。

 

 

「まあ、その……嫌がらせは良く無いと思います。特に多くの部下を抱える経営者は出来るだけ配慮する必要があるから、僕も気をつけないと」

「ふぅん? コタローも経営者なのか?」

「えーと、その、はい。 一応、それなりにはやっています」

「わかるよ、僕もCEOの時はとても苦労した。 ままならない事も沢山ある」

 

 

 嘘つけ。殆どペッパーに任せっきりだった癖に。

 

 

「そうビクビクする必要は無いさ、ドッシリと構えろ!」

「良いから君は自分の仕事に集中するんだ!」

「してるさ。……そもそもフューリーはどうして我々を招集した? 真実を見極めるには情報が必要だ」

「フューリーが何かを隠しているとでも?」

「奴はスパイだ、何か企んでいるに違いない。彼等だって不安がっている」

 

 

 基本的にフューリーは秘密主義者で、かつ常に周囲への不信感を抱いている。

 S.H.I.E.L.D.の内部にもヒドラが紛れている事を勘付いていたのだろうか、それに状況を影響下に置きたがる傾向もあった。

 特にアベンジャーズ、ヒーロー達は諸刃の剣だ。コントロールを外れて反旗を翻されたら一溜まりも無い。

 故にキューブのエネルギーを用いた兵器については語らないだろう。必要なかった、とか言って。

 

 

「どうなんだ、博士?」

「……全人類を照らし温めるって、ロキはキューブの使い方を馬鹿にしていたけど……あれは君のタワーの事だね? ニュースでも大騒ぎだったから、知っていたんだろう」

「スタークタワーの事か? あの下品な────」

「……」

 

 

 流石のトニーも、タワーを貶されるのはペッパーを馬鹿にされる様な気がして良い気分では無いだろう。

 

 

「あれの動力源はアークリアクターなんだろ、どれくらい保つんだ?」

「まだ試作段階だけどね。地球環境を傷付けないクリーンエネルギー事業は我が社が最先端さ」

「なのにS.H.I.E.L.D.は彼をキューブの研究チームに招かなかった。そもそも何でS.H.I.E.L.D.がクリーンエネルギーの開発をする必要がある?」

「その辺りについて是非とも知りたいね。S.H.I.E.L.D.の機密情報を上手くハッキング出来さえすれば、それも可能だ」

「今、何て言った……?」

「実はジャーヴィスにブリッジの端末を探らせているんだ。あと数時間でS.H.I.E.L.D.の企みが明らかになる」

「だからS.H.I.E.L.D.は君を敬遠するのか」

「優れた知性を恐れる組織なんて、有史以来ロクなのがいない」

 

 

 組織の陣営をイエスマンだけで固めたら、容易に暴走するだろう。

 そう言う意味で言えばトニーの言い分にも一理ある。

 だけど些か……反則じゃ無いだろうか?

 

 

「倉持、君はどうなんだ?」

「本音を言えば、S.H.I.E.L.D.も純粋な正義と一概には言えないと思います。目的は兎も角、それを遂行する為の手腕については」

「ふむ……それもそうだ」

 

 

 何だろ、さっきから僕に対するこの厚い信頼感。

 そんなにオズの魔法使いの一件が嬉しかったとか?まさか。

 でも騙されちゃいけない。僕はニック=フューリー以上に隠し事をしていて、そして何も知らないみたいに惚けてる。

 

 

「叩けば埃の一つや二つは出てくるでしょう。言っては何ですが、アメリカだって清廉潔白じゃ無い」

「…………」

「そうだな、色々やってきた。父さんだってベトナム戦争の時は────」

「ハワードは関係無いだろ!」

「おいおい……怒る事は無いだろ、例え話をしてるだけだって」

「少なくとも君よりは誠実な男だった」

「へぇ? 父さんの何を知ってるって? 君が眠っていた間に父さんが何をやっていたのか教えてやろうか?」

 

 

 そしてこのコンビは口を開くと喧嘩になる。治らないだろうな、これは。

 しかし…………何でだろうか、束との事を思い出してしまう。思い返せば、少しでも会話を交わせば喧嘩していた光景って周りから見ればこんな感じだったのかもしれない。

 そう言えば、とある並行世界ではトニーが女性で……スティーブ=ロジャース、キャプテンと結婚する様な世界もあるとか。

 でも彼等はホモじゃない。これは只の喧嘩だ。

 

 

「二人とも止めてください。今はそんな事で喧嘩していても仕方ないでしょう、全部終わってから思う存分やってください」

「……すまない、作業を続けてくれ」

 

 

 表情に憤りを見え隠れさせたまま、キャプテンはラボを後にした。

 

 まるで僕が煽ったみたいだ。

 いや、着火させたのはトニーかもしれないけど、火種は僕の発言だったと思う。

 気をつけたいけど……干渉しきれない事もある。人間関係とか性格とか、ストーリーを知っているからこそ躊躇いが生じる事もある。

 

 僕はこの世界にとっては異分子で不純物だ。

 何がどう作用するか分からない。もしかしたらこの世界に悪影響を残してしまうかもしれない。

 難しい。どう関わっていけば良いのか、その塩梅も考えなければ。

 

 

「アレだろ、父さんの探してた奴ってのは……氷漬けのままにしておけば良かったんだ」

「スタークさん、それは流石に……」

「だけど見ただろう? アイツは自分が正しいと思っている事を押し付けてくる。僕とはソリが合わない」

「ですけど、仲違いをしていたらロキの思う壺じゃないですか」

「確かにロキは油断ならない。奴は僕らを煽っている」

「あんなの、自分で自分の仕掛けた爆弾に突っ込んで自爆するような奴だ。そうなったら見てみたいけどね」

「そうかい。でも僕は遠慮しておくよ」

「君もスーツを着て戦えば?」

「いや、僕はスーツは着ないんだ。知ってるだろ? 剥き出しになるんだよ。まるで……悪夢だ」

 

 

 バナー博士は思いつめた様な表情でパネルを操作しながら呻く。

 制御できない衝動という爆弾の様な物を抱えているというのは、大きな負担として心の中に圧し掛かっているのが分かる。

 だけど、彼はそれに絶望している訳じゃない。

 苦悩しながらも誰かの役に立ちたいと考えている。だからこそ、ハルクの制御を試みたり医者の真似事をしていたのだろう。

 

 

「実は、僕の胸の中には爆弾の破片があって徐々に心臓へと近づいてる。それを止めているのがこのリアクター、僕の一部さ」

 

 

 それに対して、トニーも持論をぶつけ合う事を選択したようだ。

 

 

「アーマーじゃないんだ。これは、大変な特権だよ」

 

 

 どこかに、彼らは共感を抱いているのかもしてない。

 クレバーで、かつては割と順風満帆に生きていて……だけど、とある事件が切っ掛けでとんでもない“爆弾”を抱える事になった。

 だけど“爆弾”は同時に彼らの命を救う存在でもあり、人生を変える切っ掛けでもある。そして、二人とも己の内に燻る“爆弾”に悩みながらも真正面から向き合っているのだ。

 

 

「君のはコントロールが出来ているだろ?」

「訓練したからね」

「僕には無理だ」

「なあ……君の事件の記事は読んだ。普通ならあの量のガンマ線を浴びれば君は死んでいた筈だ」

「君はこう言いたいのかい? ハルクが僕の命を救ったと。上手いね、感動的だ……だけど、何の為に?」

「それは、これから分かる」

「どうかな…………ロクな理由じゃないかも」

 

 

 しかし、バナー博士の顔は先程と比べても幾らか晴れやかだった。

 考えてみれば、ハルクに関して肯定してくれた人物はトニー=スタークぐらいだったのかもしれない。

 他は恐れるか拒否するか、良くて無視されるくらいだろう。

 トニーはハルクの事をバーサーカーの類では無くブルース=バナーの一面として見ている。それは当然の事の様で、だけど実際に目の前にして述べられるのはとても凄い事だ。

 

 

「ところで……君は何か無いのかな、コタローくん?」

「え…………?」

「さっきから黙ってばかりじゃないか。良くないぞ、日本人のそういう所。自分の意見をハッキリと言うべきだ」

 

 

 こんなスーパースター、もといスーパーヒーローの集いの中に入ったら気が小さくなってしまっても仕方ないと思うのだけど。

 出来る事ならずっと黙って眺めていたいくらいだ。映画を観るみたいに。

 そんな態度が逆に失礼になっているのかも知れないが。

 

 

「では……少しだけ、僕も意見を述べます」

「いいぞ。ほら、言って」

「僕の“爆弾”は……お二人と少し違うかも知れません。自分の中にあると同時に、外にも存在している」

 

 

 促されるままに頷いてから、僕は(おもむろ)に胸に貼りついた人工皮膚のスキンシールを剥がす。

 そうして現れるのは、トニー=スタークと同様に青白く光るアークリアクターの灯。

 二人はそれを見て少し驚いた様な顔をした。

 

 

「銃で撃たれて心臓が潰れました。そして今、僕の心臓はコレが動かしています」

「それは、アークリアクターか……」

「はい。だけど僕は、僕を生かしてくれた人の想いを蔑ろにしてしまって……だからこそ、命は自分だけの物じゃないって自覚する事が出来ました」

 

 

 こう言ったら怒られるかも知れないけど、僕にとっての“爆弾”は束だ。

 彼女が僕を救ってくれて、起爆剤にもなって、そして礎にもなっている。

 束がいなければ、僕は勝手に自己満足してアイアンマンの進化を止めていたかもしれない。そのくらい、束の存在は僕の中で巨大な物になっていた。

 

 

「爆弾は、確かに危険です。沢山の人を殺めてしまう危険性があります。だけど、扱い方によっては道を切り開いたり多くの人を照らし温める事だって出来ます」

「…………」

「だからこそ、自分の“爆弾”とどう向き合って、どうやって扱っていくのか……それが大事なんじゃないかなって、そう思います」

「……そうか」

「なるほどね……」

 

 

 それから、三人は黙してそれぞれの作業に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「スターク! 何をしているんだ!」

「それ、僕も同じ事を聞きたかったんだ」

 

 

 ニック=フューリーは憤りを顕にしてラボへと乗り込んできた。

 対してトニーは飄々とした様子でそれに応対する。

 

 

「四次元キューブの探索はどうした」

「ああ、やってますよ。今ガンマ線のサーチを掛けてる所です、誤差800m以内まで絞り込めますよ」

「そう、だから慌てない騒がない……試作モデルって何!?」

 

 

 舌の根も乾かない内に騒いだじゃないか。流石。

 

 トニーの閲覧していたパネルには明らかに兵器の設計と仕様について記述されたデータが踊っている。

 良く読めば分かるが、ヒドラの武器のリバース・エンジニアリングだ。使い易く軽量化されているが本質は変わらない。

 

 

「それはキューブの力を利用した兵器だ! 悪いね、僕が先に見つけた」

 

 

 話に割り込む様にして、キャプテンが棍棒の様な武器を机の上に叩きつけた。

 機密保管庫の中から持ち出したのだろう、データに保存されている画像とも一致している。

 

 

「あらゆる面からデータを取っていただけだ」

「ちょっと待ったニック! これは、何だ?」

「キューブのエネルギーを内蔵したミサイルみたいですね……着弾地点の周囲数kmが消失する。少なくとも第二次世界大戦当時には無かったでしょう」

 

 

 色んな兵器が考案され、実際に試作された物もあるみたいだけど……結局、四次元キューブはアスガルドに持ち帰られちゃうから無用の長物と化しちゃうんだよね。

 それなりにお金掛かってるだろうに。研究していた施設も丸ごと爆発に飲み込まれちゃったし、踏んだり蹴ったりだ。

 でも物質を消失させる為に空間を歪ませるという発想は面白いな……保存しとこ。

 

 

「世界は変わってないな、寧ろ昔よりも酷くなった」

「君はこの事を知ってたのかな、女スパイさん?」

「ねえ博士、ここから離れた方が良いかもしれない。あなたはロキに利用されようとしているわ」

 

 

 そして、ハルクの事を警戒してかナターシャ=ロマノフことブラック・ウィドウとソーもラボへやって来る。

 アベンジャーズの大集合だ。状況は、あまり宜しく無いが。

 

 

「君たちがそうしないって保証は無いけどね。それより聞きたいな、どうしてS.H.I.E.L.D.が大量破壊兵器を造ろうとしているんだ?」

「……彼のせいだ」

「俺?」

 

 

 唐突にフューリーに指で示されたソーは戸惑いの声をあげる。

 寝耳に水だろう。来てくれと言われて付いて行って見ればいきなり槍玉に挙げられたのだから。

 

 

「去年、別の星からお客さんがやって来た。その時に起こった戦いに巻き込まれて街が一つ消えたんだ。その時に思い知った、我々は脅威に対して余りにも無力だと」

「我々はこの星との友好を願っている!」

「この宇宙にいる脅威は君たちだけじゃない。宇宙には我々がコントロール出来ない存在が山程いるんだ」

「お前達がキューブを研究したせいでロキとその仲間を呼び寄せたんだ! 地球が高い次元での戦争手段を得たと知らしめてな!」

「そうさせたのは君達の戦いのせいだ、我々には防衛する為の手段が必要だと……」

「核と同じだな、それを抑止力にしようって言うのか」

「武器商人だった君が良く言えるな」

「もしもスタークが今も武器を作っていたら──」

「おい待てよ、何で僕の話になるんだ!」

「何時も自分の話ばかりしてるだろ?」

 

 

 気が付いた頃には言い争いが激化していた。

 売り言葉に買い言葉。何かを言う度に、何を言ったとしてもそれが反発して更に攻撃的になっていく。

 不毛だし、不自然だ。通常の精神状態である彼等なら胸の内に何かを秘めていたとしてもこうはならないだろう。

 

 原因は分かっている。ロキの杖、セプターが精神を乱しているんだ。

 杖をどうにかすれば自ずと彼等も正気に戻るだろう。

 しかし、問題はそれをどうやってすれば良いのか?

 

 

「おいアリス。……起きろ、アリス」

 

 

 胸のアークリアクターをノックするみたいに叩きながら声を掛ける。

 しかし、返事は脳裏に返ってこない。

 

 

『応答ありません。スリープ状態の様です』

「…………仕方ないな」

 

 

 気乗りはしないが、少し危険な手段に打って出てみる事にした。

 脅威が迫ればアリスも流石に目を覚ますだろうし、それに上手くいけばこの状態を改善出来るだろう。

 …………上手くいく気が、これっぽっちもしないけど。

 僕は意を決してセプターを握り締めた。

 

 

 あ、駄目だ。

 

 

「……あはははははは!!」

「!?」

 

 

 突然、高笑いを始めた僕を見て言い争いを止め、一様に奇異の目で見つめる。

 とても心外だ。僕からすればイカれ狂っている様に見えるのは彼等なのに。

 

 

「自分達が今どんな状況にあるのかも知らないで、呑気にも傲慢に言いたい放題! こんな滑稽なヒーローショーは中々無いですよ」

「おい、コタロー……?」

「そんな事だからロキに出し抜かれるし、簡単に仲間割れを始めるんだ。見てて良く分かりましたよ!」

「落ち着け倉持、まずはその杖を置くんだ」

 

 

 怪訝そうな眼をしたスティーブ=ロジャースが僕に自制を促してくる。

 他の者達も凡そは同じ様子だ。

 

 

「落ち着けですって? 今の今までロキの杖に惑わされていた癖に良く言えますね」

「なに……どういう事だ?」

「そのままの意味ですよ、この杖には人の思考や意思を乱す力がある……ホーク・アイやセルヴィグ博士が操られたのもそういう能力があるからですよ」

「……倉持幸太郎、なぜ君はそんな事を知っている?」

「さて、どうしてでしょうかね? でも色んな事を知っていますよ、ハンマーが大好きなソーが、自分が持っているムジョルニアの本当の力を履き違えている事とか、ね?」

「なんだと?」

 

 

 これから程なくしてヘリキャリアで巻き起こる騒動についても、勿論知っている。

 どうせなら総て話してしまおうか?

 話したらどうなるだろうか、色んな意味で面白い事になりそうだけれども。

 

 

「皆さんどうしましたか、そんな怖い顔をして? 僕を押さえつけますか? 良いですよ別に、僕はここにいる全員を相手にしても勝てる自信がありますし……フフフ」

 

 

 ハッタリでは無い。 Mark.9の性能ではソーやハルクに勝てないかも知れないが僕には切り札がある。

 ハルクのパワー、ソーの雷撃、アイアンマンの性能、キャプテンアメリカの盾……その総てに対抗し、完膚なきまで叩き潰すことだって出来るだろう。

 ブラック・ウィドウやニック=フューリーに至っては生身でも問題無い筈だ。二人は基本的に、只の人間なのだから。

 

 

「そんな拳銃じゃ殺せませんよ? 僕の身体は────」

 

 

 ロキの杖を握っていた右手が、蒼く弾けた。

 

 突然に巻き起こった衝撃で僕は後方に吹き飛ばされて、背後にあった強化ガラスに身体を強く打ち付けてしまう。

 痛みに顔をしかめて眼を瞑ってしまっているので見えないが、恐らく一同は唖然とした顔で僕の事を見ているのは想像に難く無い。

 

 

「痛っつう……」

 

 

 胸の辺りを覗いてみれば、光を遮断するスキンが貼りついたままにも関わらず強く青い光が爛々と輝いている。

 どうやら、寝坊助な娘が漸くお目覚めになった様だ。

 

 

【ちょっとパパ、大丈夫? 身体の中に変な物が入って来たから目が覚めちゃった……もう追い出したけどね】

「ああ、ありがとうアリス…………これがマインドコントロールか、最悪な気分だな」

 

 

 どうやらアリスは咄嗟にリパルサー・レイを発射してセプターを弾き飛ばしてくれた様だ。

 しかし、それにしても迂闊だった。触れた所でちょっと怒りっぽくなる程度かと思っていたら…………まさか、あんなに感情が荒んでしまうとは。

 

 

「え、えっと……大丈夫、なのかい?」

「ええ……大丈夫ですよバナー博士。皆さんもすみません、お騒がせしました」

 

 

 床に落ちた杖を拾うと、再び周囲が慌てた様にビクンと反応した。

 だが、もうアリスが目覚めたので悪影響は無い。

 観測用に設けられた台座に収めて、それから再び向き直る。

 

 

「今見て頂いた通り、この杖は大変危険な代物です……触れなくても感情を揺さぶるのは皆さんも体験したでしょう?」

「あ、ああ……」

「ロキはこれを使って仲違いをさせようとしていたみたいです。……まあ、僕はまんまと引っかかってしまいましたが」

 

 

 いや、しかし変な事を口から滑らせる前にアリスが目覚めてくれて良かった。

 …………マインド・ストーンの力について述べてしまったので手遅れかもしれないが。

 

 

「なあコタロー、色々と聞きたい事があるんだけど……」

「えーっと……あっ、ヒットしましたよ」

 

 

 まるで図ったかの様なタイミングで、キューブの位置を特定出来た事を告げるアラームが鳴り響いた。

 お陰でトニーからの質問を逸らす事が出来た。……その場凌ぎでしか無いけど。

 

 

「キューブが見つかったのか?」

「よし、僕が取りに行こう」

「キューブはアスガルドの物だ、人間には扱えない!」

「それに一人で行かせられない」

「何で止める?」

「分かってるだろ、単独じゃ危険だ」

 

 

 僕のアクションがあったせいか、幾らか態度が軟化している気がする。

 その隙に、僕もバナー博士が眺める画面を横から盗み見する。場所は知っているが、再確認みたいなものだ。

 場所はニューヨークのマンハッタン。どうやら目指している場所はスタークタワーで間違いない。

 

 

「これは、拙い……!」

 

 

 バナー博士がその位置を告げ────

 

 

「あ…………確かここは駄目だ、バナー博士!」

 

 

 咄嗟に、ブルース=バナーをキャプテンとトニーがいる入り口の方向へと突き飛ばして、押し退ける。

 突然の事に驚きに染まった表情を尻目に……僕は衝撃に警戒した。

 

 瞬間、ラボの中心に下層から爆風が舞い込んで来る。

 

 

「ぐっ……うわああああっ!?」

 

 

 先程とは反対、内部側の強化窓ガラスの付近に棒立ちになっていた僕は爆風で再び吹き飛ばされ、今度はガラスを突き破ってしまう。

 そのまま下層にある格納庫へと……落下した。

 




ここ最近の本編と幾つか設定がリンクしていますがスパイス程度にお楽しみください。

しかし、凄い主人公の蛇足感。
だから次回からメッキリ原典から変えてやるんだ(決意)

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