あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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ここまで話の内容に沿わないサブタイも珍しいと思う。


其の四 人間って素晴らしいな

「うへ……けほっ、けほっ!」

 

 

 爆発の影響で粉塵が舞い、幾らか気管に入り込んでしまった様で咳き込んでしまう。

 身体のあちこちに痛みがあったが、問題は無さそうだ。

 

 よし、と立ち上がろうとして、だけど出来なかった。

 身体に何かが引っ掛かっているみたいだ。見れば、腰から足にかけてコンテナや何かの資材と思われる金属の塊が積み重なってうつ伏せになった僕を押さえつけている。

 

 

「ああ、もう……よいしょっ、と!」

 

 

 重量は目算で200kg程度か、大した重さでは無くて良かった。

 力を込めてまずは四つん這いの状態になり、そのまま障害物を蹴りだす。

 カランカランと金属の弾ける軽い音を遠くに聞きながら、服に付いた埃を叩き落として今度こそ立ち上がる。

 

 

「メーティス、ヘリキャリアの状況を教えてくれ」

『外部で爆発が発生し第三エンジンが小破しました。タービンは無事ですが爆発の影響でローターに異物が挟まりエンジンは停止しています。また、武装した十数人が侵入し破壊工作を行なっている様です』

「うーん……取り敢えず、 Mark.9をコッチに呼んでくれ」

『了解』

【えーっ! 私はー?!】

「アリスは……まだ出番はお預けで。少しでも温存したいからね」

『イエス。貴女は大人しくしていてください』

【ぶー……】

「まあまあ、切り札は最後まで取って置きたいんだよ」

 

 

 不服そうなアリスを宥めながら次の行動を検討する。

 知っている通りの事の成り行きになるのであれば第三エンジンにはトニーとキャプテンが向かう筈だ。ちょっとしたトラブルはあるものの、エンジンを修理するのに問題は無いと思う。

 寧ろロキを閉じ込めた牢獄や、ヘリキャリアを制御するコンピュータのあるブリッジの方が危うい。

 前者は直ぐにロキが脱獄してしまうだろうし、後者はホークアイの手でコンピュータウィルスを流し込まれてヘリキャリアのエンジンが全て停止しかねない。

 

 

「まずはブリッジを目指して……いや、いっそ牢獄を目指すか」

 

 

 墜落自体はトニーがどうにかして止められるだろう。

 だったら、一番の肝はやはりロキだ。

 アレが全てを掻き乱す。今回の事件の主犯であるし、野放しにしておく訳にはいかない。

 

 

「メーティス、道は分かるか?」

『イエス。内部の3Dマッピングが完了しています』

「よし、道案内してくれ」

『ロケーターを表示します』

 

 

 眼鏡を通した視界の上下左右に青い光の波線がスキャナーみたいに走ってから、足下にAR(拡張現実)の細い線が一直線に伸びた。

 つまり、これがメーティスの示した進路。この線を伝って行けば最短で目的地に辿り着ける筈だ。

 後はディスプレイの隅にも大まかな艦内マップを表示してから、駆け出す。

 

 

『しかし、侵入者の工作で監視カメラが全て切られています。充分に注意してください』

「ああ、わかってるよ」

 

 

 幸い、進路にはヘリキャリアのクルーの姿が無く、ほぼ全速力で移動する事が出来た。

  このまま何事も無ければ三分と掛からずにロキの収監された牢獄に辿り着けるだろう。

 もしかしたら既にロキに操られた者が先に到達している可能性もあり、急ぐに越した事は無い。

 

 

『前方注意』

「え? うわっ!」

「なっ……ほぉあああっ!?」

「え、おふうっ!」

 

 

 地図を見ながら余所見をしていると、曲がり角から現れた者に気付かず衝突してしまった。

 ぶつかった男は防弾を意識したそれなりの重装備だったが、こちらが走っていた事もあって2,3m程吹き飛ばしてしまい、更に後ろに続いていた者たちに向かって叩きつける形になってしまう。

 

 

「あの……大丈夫です、か?」

「…………」

 

 

 倒れた男は何も述べず、無言のまま立ち上がる。

 何か様子がおかしい。眼を見てみると、黒目の部分が水色の光で濁っていた。

 あっ。と気付いた頃には更に後続から現れた三人も合流していて、五つの銃口が僕を照準に収め、対して僕は動揺から反応が遅れてしまう。

 

 そして────引き金は絞られる。

 

 

「っ────!」

 

 

 ライフリングによる回転と炸薬によって時速1000km近くまで加速された銃弾の雨が横殴りに降り注ぐ。

 5m以下の至近距離、こんな状態で撃たれてしまえばどんなに反応速度が早かろうと回避運動が間に合う筈も無く……

 僕は庇うように左の手の平を前方に突き出した。

 

 

「…………なに?」

 

 

 しかし、凶弾が僕を貫く事は無かった。

 迫り来る100以上の銃弾は、僕の手の平の前で静止している。

 まるで、その限られた空間だけ時の流れが止まってしまったかの様に。

 

 

「ロキは指揮官として最悪だね……これはロシアの7.62mmUSSR、こっちは5.56mmのNATO弾、それに0.45ACP! 銃も弾もバラバラじゃないか。中東の寄せ集めテロ集団だってもっとマシな装備の仕方をするよ」

 

 

 襲撃犯の武器は短機関銃にカービンライフル、アサルトライフルと統一感の欠片も無かった。

 クリスベクターなんて珍しい最新式があると思えばAKMなんてちょっと古い物まで。しかも用途が違うから弾の口径はバラバラで共有も出来ない。

 恐らく手に入った銃を適当に分配したのだろう。しかし、お粗末過ぎやしないだろうか、誰かが弾切れしたら作戦に支障が出るレベルだ。

 

 

「な、なんで……何で弾が止まっているんだ!?」

「ちょっとしたトリックだよ」

 

 

 この世界にはPICもAICも無さそうだから魔法に見えるだろうけど。

 スカーレット・ウイッチなら似た様な事が出来そうだね。やっぱり魔法じゃないか。

 

 

「っ、ざけんな!!」

「おっと」

 

 

 リパルサー・レイをお見舞いして切り抜けようかとも思ったが、その前にライフルを投げ棄てナイフに持ち替えながら接近してくる者がいた。

 距離が近過ぎると予備動作の大きいリパルサー・レイは避けられてしまう可能性がある。

 仕方ないので近接戦闘に切り替える事に。

 

 

「せーの」

「なっ……!?」

 

 

 手始めに、空中に留めていた弾丸の山を投げつけてやる。

 人間というのは不便で、視界に入ってくる飛来物に対して防御してしまう癖があるのだ。

 例え、姿勢や動作に移行しなくとも隙は出来てしまう。

 ばら撒かれた銃弾に目がいっている内に、屈みながら肘を鳩尾に向けて打ち降ろす。発勁のちょっとした応用だが、衝撃は内臓を伝って意識を奪う事に成功した。

 

 

「はい、次」

 

 

 銃弾投げというネタは使ってしまったので、今度はたった今気絶した兵士を投げる。

 狭い通路の中で長さは2m弱、重量が7,80kgの人間が投げ込まれれば流石に後ろへ引くか、防御姿勢を取らざるを得ない。

 前方にいた二人の内、片方は仲間を受け止める様な動作をとったがもう一方は逃げる様に横へ飛び退いた。

 まずは薄情な方から仕留める事にしよう。

 

 

「せっ、い!」

 

 

 重心を下げながら落下する様に移動して一瞬で間合いを詰める。

 相手が反応する前に首へ手刀を打ち込み、よろめいた所で左腕を掴みながら立ち上がり、再び屈伸して身体を沈める。

 後は体重移動に乗っかって勝手に地面に転がってしまう。

 念の為、胸に拳を落として肺から空気を抜いておく。

 

 

「三人目」

 

 

 後方にいた二人が横からライフルでちょっかいを出してくるが、それはAICで遮断。弾切れした様なのでマガジンを交換する前にお返ししておく。

 その間に先程投げこまれた仲間を受け止めた奴が拳銃に持ち替えて来たが、向こうから近付いてくれるのなら話が早くて助かる。

 拳銃を持つ右手首を左手で掴んで左側に逸らしてから、反対の右手で前方へ押して重心を崩す為に今度は引っ張り返し、次に上方へ持ち上げ、最後に下へ落としながら後ろへ流し込む。

 Ωを描く様に腕を動かしただけで身体は滑り込む様に崩れるので、その前にがら空きの胴体に膝を打ち込んでトドメ。

 

 

「こんのおおっ!」

「やろぉ、ぶっ殺しやらあっ!!」

 

 

 二名様のご来店。誠にありがとうございます。

 

 マガジンを交換出来た方は未だにライフルを、本当に弾切れした方は拳銃に持ち替えている。だから弾種は統一しておくべきなんだよ。

 まずはライフルごと纏めて顎を蹴り上げる。

 そのまま首に足を巻き付けながらジャンプし、肩車を無理矢理やって貰いながら掴んだ頭を重心に再び回転。回し蹴りで拳銃持ちの顔へダイレクトアタック。

 着地してから、協力して貰った彼の股間を蹴り上げ、反転して拳銃を取り落としたもう一人には踵落とし。

 

 またのご利用はご遠慮させて頂きます。

 

 

『マスター、不注意です』

「悪かったって……」

【AICは私のお陰だよっ!】

「そうだね、ありがとうアリス」

 

 

 柳韻さんが時偶に教えてくれる古武術や、S.H.I.E.L.D.の訓練で実施されるCQCみたいな謎の格闘術。何かの足しになるかもと覚えておいたがこんな時には大変重宝して便利である。

 

 さて、思わぬハプニングで時間を喰ってしまった。

 それにここまで襲撃犯が迫って来たという事は既に牢獄に辿り着いているかもしれない。

 

 

「上手く行けばコールソンを…………あれっ、助けちゃって大丈夫なのかな?」

 

 

 

 

 

 

 牢獄に辿りつくとコンソールの前に立っていたので、取り敢えずリパルサー・レイで吹き飛ばす。

 しかし、肝心のロキの姿がない。

 透明な壁の檻で形成された牢獄を見ると、中にはソーが収監されていた。

 

 

「あ、れぇ……どうしてそんな所に?」

 

 

 知ってるけど。

 

 

「おいっ、後ろだ!」

「後ろ……?」

「やあ」

「うわあああっ、お!?」

 

 

 言われた通り背後に振り返ると、そこには怪しげな笑みを浮かべるロキの姿があった。

 そんな単純なドッキリに驚いてたじろいでしまう。

 こういう悪戯な所が実にロキらしい。憎みきれないんだよね、なんだか。

 

 

「中々おもしろい物を見せてもらったぞ、若い方の鎧の男」

「若い方……まあ」

「悪いが、少し想定外な事があってな……その代わり、お前に働いて貰おうとしよう」

「っ……!」

 

 

 既に回収されていたらしいロキの杖、セプターを掲げると僕の胸に向けて杖の先を押し付ける

 何故かこの洗脳能力、頭では無く心臓に作用するらしく胸に魔法と思しき光を流し込まなければならない。

 そして、そのターゲットを僕に定めたらしく……杖の先はゆっくりと、触れた。

 

 ────かちん。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 ────かちん。

 

 

「……何故だ?」

「日本には三度目の正直っていう言葉があるんだ……もう一回やってみたら?」

「そうか、わかった」

 

 

 ────かちん。

 

 

「……駄目だったぞ?」

「二度あることは三度ある、っていう言葉もあるんだよね」

「ふむ……成る程」

 

 

 そうこうしている内に漸くMark.9が到着。よし、後ろから殴ってやれ!

 

 

「なっ、おおうっ!?」

 

 

 殴打じゃなくて、襟元を掴んで手元に引き寄せ位置を整えてからユニビームでロキを吹き飛ばしてしまう。

 ついでに衝撃でその後ろの壁までぶち壊しながら。

 あの程度じゃ死なないだろうけど……容赦ないね、メーティス。

 

 

 

『彼は何をしようとしていたのですか?』

「僕を洗脳して操ろうとしていたんだよ」

【私がいるから無駄なのにね、格好悪ぅーい】

 

 

 そんなの向こうには分からないからね、仕方ないね。

 

 さて……それじゃあコンソールを操作して檻を開けないと。

 落ちないと分かっていても閉じ込められていたらソーだって気分が良くないだろうし。

 えーっと、どれを押せば良いんだ?

 

 

「EJECT……だと落としちゃうよな。あれ、OPENとか無いの?」

「止めろぉロキィィィ!!」

「え────?」

 

 

 まさか、と思って再び振り返ると……少し怒った様子のロキがいた。

 手には相変わらずセプターが握られている。

 それを……胸では無く腹に向かって突き刺してきた。

 

 

「うっ……ぐ、はぁ!?」

「ははは……あはははははっ!!」

 

 

 痛い。

 視線を下ろすとセプターの鋭く尖った部分が腹部を貫いている。

 

 ああ、これは腸まで到達して突き破ってるな。

 出血も思ったより酷いみたいだ。少しマズイかもしれない。

 油断した。Mark.9を着ていればこんな事にはならなかったのに。駄目だな、こういう詰めの甘い所は。

 

 

「あ、があ……」

「神を冒涜した、罰だっ!」

「うぎ、がっああああ……っ!!」

 

 

 しかも嫌らしい事に、セプターをグリグリと捻ってくる。

 内臓を傷つけて確実に殺すつもりだ。これが、神のやる事か?

 

 

「あっ────!」

 

 

 極めつけ、トドメにセプターを引き抜く。

 留められていた出口に向かって、行き場の無くなっていた血液が噴き出す。

 どれだけ出ただろうか……一リットルや二リットルなんて量ではきかないだろう。

 傷口を手で押さえ、少しでも血の流出を止めようと足掻いてみる。

 

 

「スーツを、着てさえいれば……っ!」

「ふはははっ! あの世で好きなだけ後悔していろ!」

「…………」

「兄上を落とした後、お前もその穴から突き落としてやる……!」

「ロキっ、貴様……!!」

「我らは不死身だと言われているが、この高さから落ちても無事かどうか試してみるか? はははっ!」

 

 

 …………ところでロキさんや、先ほど貴方を吹き飛ばした存在をお忘れでしょうか?

 

 

「……まったく、笑ってないと死んじゃうのかね? ああ、流石は笑いの神ロキ様だ」

「なに……っ?」

「何時までも馬鹿笑いしちゃってさ。自分も後ろを振り向く癖を付けたら如何かな?」

「この死に損ないが、何を言っ──」

「じゃーん」

 

 

 傷口を塞いでいた手を、退ける。

 そこには破れた上に血で染まったTシャツがあったが、ロキによって無惨に拡げられた傷はどこにも無かった。

 

 

「は……っ?」

「やーい、引っ掛かってやんの。はい、後ろにご注目!」

 

 

 ロキの背後から、メーティスが操るMark.9がヌッと現れ、羽交い締めにして拘束してしまう。

 動けなくなって藻掻くロキを見ながら、右手の拳を堅く握りしめる。

 

 

「歯、食いしばってた方が良いかもね?」

「待っ――」

「たない」

 

 

 まずは顔面。

 本気で殴ったのに歯が折れたり、ましてや出血する様子も無い。 

 凄く頑丈だ。伊達に神様をやっている訳ではない様だ。

 

 

「あのねっ、結構、痛かっ、たん、だよ!!」

「ぐっ、ぎ、やめっ、ぬう、ぉおおっ……!」

 

 

 顔を重点的に何発か殴って少しスッキリしたので謝ってないけど殴るのは止めてやる。

 Mark.9はロキを抱えたまま向きを90度変えて、穿たれた穴の方へと向き直ると再びユニビームをチャージする。多分、さっきより強めに。

 今度は別の壁に穴を開けながら、ロキは再び吹き飛んでいった。

 

 

「さて、甲板のクィンジェットで逃げる筈だから先回り、して──?」

 

 

 今度こそ檻を開こうとして、クラっとバランスを崩して両手をついてしまう。

 視界もボヤっとして定まらない。それに、気分も優れない。

 

 

「あ、やばっ……血ぃ出し過ぎたかな?」

 

 

 搭乗者保護機能で血管を保護、ISの隠し機能で損傷部位を修復したが……失った血は戻ってこない。

 というか冷静に考えてみれば二リットルも血が出てたら普通に致死量だ。

 特別頑丈になった身体のお陰で即死は免れ造血も急ピッチで行われているが圧倒的に血が足りないのだろう。

 段々、クラクラとしてきた。

 

 ああ、いけない。意識を失う前に檻を開かないと……

 

 

「おいっ、大丈夫か!?」

 

 

 檻から出てきたソーが心配してか駆け寄ってくれる。

 いやぁ、正直そんなに大丈夫じゃないです。

 

 

【出血量は2.6リットル。血液総量の半分が出ちゃったみたい】

「それ、普通に死んでるよね……」

【うーん、ギリギリかな。搭乗者保護機能を全開にするから、ちょっと寝てて】

「おっけぇ、頼んだ……」

 

 

 そして強制的に、意識が途絶える。




【ツッコミどころが満載なのですが?】
設定の細やかな所については描写されるまで待って頂きたいなあ、なんて甘え。
ネタバレ避ける為に感想欄でもあんまり書きたくないし(散々バレしといて)
なんならツイッターでDMなりリプなりで聞いて貰うのは有りです。

【主人公がもう人間じゃねえっ!!】
主人公に限らず創作の登場人物は多かれ少なかれ人間離れしています。
頭を銃で撃たれても無傷な人間だっているんだから、まだ普通の人間です。

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