ラブライブ!~太陽と月~   作:ドラしん

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お久しぶりです。

1話1話の間隔が空く事が当たり前になってきましたね。

ダメなのは分かってますが…全然進まねぇ!

本当にすいません…

一先ずこれでようやく1年生も全員μ'sに入れました。

後3人…またここから長いぞ…

それでは第12話始まります。


第12話【青春の形】

「1、2、3、4、1、2、3、4」

 

凛の加入から数日。

 

μ’sの雰囲気はより一層良くなり、人数も増えた為モチベーションも上がっていた。

 

良い傾向だ。

 

小泉さんの表情も見違える様に明るくなっている。これも凛が加入したおかげだろう。

 

ちなみに凛が加入した直後、小泉さんが涙目になりながら俺に感謝していた。

 

「凛ちゃんを助けてくれてありがとうございます!しかもμ’sに入ってくれるなんて…本当に…ありがとうございますっ!」

 

頭が取れるんじゃないかっていうくらい何度も頭を下げていた。

 

良い友達持ったな凛。

 

「小泉さんステップちょっと遅れてる。星空さんは次の動作に移るのがちょっと早い」

 

「は、はい!」

 

「分かりました!」

 

太陽の指導もより熱の籠もった物になり、各々気合いに満ちていた。

 

そして一方の俺はというと…

 

「…うー…もう我慢出来ない!なんで氷月君はアイスを食べながらボーッと見てるの!?穂乃果も食べたい!」

 

「穂乃果!練習中ですよ!」

 

そう。アイスを食べながら練習風景をただただ眺めていた。

 

いやー、暑い日に食べるアイスは格別だな。

 

「後者が本音だろ」

 

「うっ…で、でも氷月君だけ不公平だよ!」

 

こればっかりは他のメンバーも同意見なのか、園田さんを除くメンバーが羨ましそうな顔をして見つめていた。

 

「…まぁこれは言われても仕方ないと思うぞ」

 

太陽も苦笑いで答える。

 

「食べたい?アイス」

 

俺はイタズラっぽく口角を上げながら質問をぶつけた。

 

「食べたい!」

 

「だから練習中だと…」

 

「海未ちゃんは食べたくないの!?」

 

「えっと…それは…」

 

高坂さんを止めようとする園田さんだったが、急な反撃に少し困惑。

 

その反応だと園田さんも食べたいって思ってるみたいだな。

 

まぁ元々アイスの差し入れはするつもりだったし、もう少し待ってて貰おうか。

 

「もう少し練習したらな」

 

「…え!あるの!?」

 

「あるよ。だからもう少し頑張って」

 

「よし!皆張り切っていこう!!」

 

「か、変り身が早いにゃ…」

 

本当に分かりやすいな。高坂さんは。

 

「じゃあ取りに行ってくる」

 

「おう」

 

アイスは予め練習が始まる前にコンビニで買ってきており、調理部の冷凍庫を借りている状態だ。

 

あ、勿論交渉は太陽がやったよ。二つ返事で許可を得てた。

 

本当に便利だなイケメンって。

 

俺はアイスを取りに行く為屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

調理部に向かう途中、μ’s勧誘のポスターの前に誰かが立っている事に気づいた。

 

「あれは…西木野さんと東條さん?」

 

俺はこっそり壁に隠れて様子を伺った。

 

「本当に素直やないなぁ…μ’sに入れて下さいって言えばいいのに」

 

「お断りします。私を呼び止めた理由はそれだけですか副会長」

 

「それだけやで。いかにも興味ありそうにポスター眺めてたから声かけたんや」

 

「きょ、興味なんか!別にないです!」

 

本当に分かりやすいな。高坂さんと良い勝負じゃないか?

 

にしても意外だな。東條さんがμ’sへの勧誘してるなんて。

 

まぁμ’sの活動には好意的だったみたいだし、不思議ではないのか。

 

講堂を借りれたのも東條さんのおかげだと聞いている。

 

「そうなんや。こっそり練習覗いてるのも知ってるで」

 

「ヴェェ!?な、なんでそんな事まで…」

 

アピールの仕方が凛と一緒だなおい。いや気づいてたけどさ。

 

…ていうか今の声がどこから出した?ヴェェって言わなかったかヴェェって。

 

「自分が思ってるよりも、君分かりやすいで」

 

「そ、そんな事ないです!」

 

「それにμ’sの曲を作ったのは君やろ?」

 

「それは頼まれたから作っただけです」

 

「また作る気はあるん?」

 

「頼まれたら考えますがもう作らないと思います。時間ないんで」

 

「時間?」

 

「一先ず私はスクールアイドルに興味ありませんし入るつもりもありません。失礼します」

 

西木野さんはそう言うと、小走りで去っていった。

 

時間…これは恐らく病院の跡継ぎの件が関係している。

 

これは西木野さん自身だけでは無く西木野さんの両親の考え方から変える必要があるかもしれない。

 

そうなればあまり俺が首を突っ込んでいい内容ではないが…

 

「いつまで隠れとるん?」

 

「…!…」

 

考え事をしていると目の前から声を掛けられる。

 

ふと顔を上げると東條さんが立っていた。

 

「気づいてたんですね」

 

「気配には敏感なんや。君程やないけれど」

 

相変わらず不思議な人だ。

 

まぁ向こうもそう思ってるかもしれないけど。

 

「氷月君はどう思う?」

 

「西木野さんの事ですか?間違いなくμ’sに興味はありますね」

 

「やっぱりそう思う?うちも分かってるんやけど中々素直になってくれなくて」

 

「性格の問題でしょうね」

 

キッパリと断言した。

 

「西木野さんがμ’sに入ってくれたら更に進化出来る…そう思わん?」

 

ここで俺に問をぶつける東條さん。

 

思っている事はどうやら一緒みたいだな。

 

「ええ。作曲が出来て歌が上手くて外見も整ってる。西木野さん程の逸材はそういないでしょう。性格には難有りですが」

 

「な、中々ハッキリ言うんやね」

 

ここで嘘ついても仕方ないしね。

 

「一先ず、あの子が何かを抱えてるのは明白や。それを払拭しなければμ’sには入らんやろ」

 

「ええ、そうですね」

 

「そしてそれを払拭するのは、うちやない。君や」

 

そう言うと東條さんは1枚のカードを見せてきた。

 

「…タロットですか」

 

「そうや。カードがうちに告げるんや。うちより君の方が良い結果が出るって」

 

タロットは詳しくないからカードの意味がよく分からん。

 

よって東條さんが言ってる事もよく分からん。

 

でも、一つ分かる事は東條さんが俺を西木野さんをμ’sに勧誘するよう誘導してるという事だ。

 

まるで次の目的へのヒントを出されているような感じ。

 

…何を企んでいるんだ?東條さんは。

 

「カードからのお告げ…ですか。あまり信憑性はありそうにないですね」

 

「そう?言っておくけどうちの占い、結構当たるんよ?」

 

「…まぁ、覚えておく事にしますよ」

 

これ以上話しても仕方ないと判断した俺は東條さんと別れ、歩き出そうとする。

 

すると、すぐに東條さんが引き止める。

 

「ちょっと待って」

 

「…まだ何か?」

 

「ごめんね。一つ頼み事してもええ?」

 

東條さんはそう言うと、一つの生徒手帳を俺に手渡してきた。

 

「…これは?」

 

「西木野さんの生徒手帳や。本当に申し訳無いんやけど、うち生徒会の仕事があって今外に出れないねん。だから届けて貰ってもええかな?」

 

…いやまた落としたのかよ。

 

しかもまた俺届けるのか…

 

「…俺も忙しいんですけど」

 

「そこをどうにか!お願い!」

 

占いの結果のせいか分かんないけどどうしても俺に行かせたいらしいな。

 

別に生徒手帳届けるの俺じゃなくてもいいし。同じクラスの子や先生に頼めばいいじゃん。

 

…まぁ仕方ない。これも楠木坂に戻る為だ。

 

東條さんの占いを信じてみるか…

 

「分かりました」

 

「ありがとう!じゃあ頼んだで!」

 

東條さんはそう言うと手を振りながら去っていった。

 

「…引き受けちまった」

 

まさかこの短期間で同じ人の生徒手帳を届けに行くなんて思ってもいなかったよ。

 

…ハッキリ言おう。めちゃくちゃ面倒くさい。

 

しかし東條さんの占いが本当ならば今回のイベントはチャンス。

 

西木野さんの抱えてるの悩みを知ることが出来るかもしれない。

 

俺はそのまま西木野さんの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

「いつ見てもデカイな…」

 

西木野さんの家に到着した。

 

まさか再びこの豪邸に来る機会が来るとは思ってもいなかった。

 

更に今度は一人。

 

「一人で女子の家に来るのは中々勇気がいるな…いや、迷っててもしょうがない」

 

俺は意を決してインターホンを押した。

 

「はい」

 

すると暫くして女性の声が聞こえた。

 

この前会った西木野さんのお母さんだろう。

 

「西木野さんの友人の氷月冬夜です。また生徒手帳を落とされたので届けにきました」

 

「あらあの子ったらまた…すいませんね何度も。今開けるわね」

 

扉が開かれ、西木野さんのお母さんが出迎える。

 

本当にいつ見ても若いな。

 

「この前生徒手帳を届けにきてくれた子よね?」

 

「覚えてくれてたんですね」

 

「そりゃあ忘れないわよ。氷月冬夜なんて珍しい名前に特徴的な風貌。そして何より真姫に出来た初めての男友達ですもの!」

 

うん。現在進行形で面倒くさい事になってるな。

 

まず俺と西木野さんの間柄は良くて知り合い以上友達未満。

 

友人関係で無い事を否定したいが…

 

「折角だからお茶でも飲んでいって!真姫ももう少ししたら帰ってくると思うから」

 

…とても否定出来る空気じゃない。

 

俺は西木野母の言われるがままリビングに通される。

 

「どうぞ!お茶菓子もあるわよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ここまでもてなされた事無いからどうしたらいいか分かんないな…

 

一先ず西木野さんに生徒手帳を届けて帰ろう。

 

あ、そういえば折角だし跡継ぎの件とかいろいろ聞いてみるか。

 

「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど良いですか?」

 

「…ん?何?」

 

「西木野総合病院って凄い大きいですね。いつぐらいからあるんですか?」

 

「そうね…旦那のお爺ちゃんが始めたって聞いたからざっと30年くらいかしら」

 

「30年…結構古いんですね。旦那さんはもう西木野総合病院の院長に?」

 

「ええ。2代目になるわ」

 

「となれば、次に跡を継ぐとしたら…」

 

「真姫って事になるわね。私としてはもっと自由に生きて欲しいんだけど…」

 

その発言に俺は疑問を抱いた。

 

俺の予想ではてっきり西木野さんに親が病院の跡継ぎを強要していているものだと思っていた。

 

しかし西木野さんのお母さんからはそれを感じられない。

 

となれば強要しているのはお父さんの方か…

 

「それってどうゆう意味ですか?」

 

「実は、私の夫が最近真姫に対して厳しいのよ。真姫がこの前曲を作ってた時があって…」

 

間違いない。μ’sのデビュー曲だ。

 

やはり変わったのはその時か。

 

「それを夫が見つけてね…そんなのしてる暇があったら勉強しろって。そんなのに時間を割ける程病院の跡を継ぐのは甘くないって怒っちゃって」

 

なるほど。それが原因か。

 

自分の子供には常に立派であってほしいと思う親は珍しくない。それによって自分の価値観を押し付け子供の未来を決める事も。

 

ましてや実家で経営しているとなれば一人娘の西木野さんにその目が向けられるのも不思議ではない。

 

「私は勿論反対したわ。言い過ぎよ!もう少し真姫に自由を与えてあげてってでも聞く耳持たずで…」

 

自分の実の親にそう言われれば西木野さんがああなるのも仕方がない。

 

作曲を決意した時との瞳の違いの理由を俺は知る事が出来た。

 

「それ以来真姫は変わったわ。家にいる時は勉強しかしてなくて…」

 

西木野さんを救うにはお父さんの考え方を変える必要がある。

 

小泉さんや星空さんはまだ自分自身の考え方を変えるだけでどうにか出来た。

 

しかし西木野さんはそうはいかない。

 

こりゃ想像以上に骨が折れそうだ…

 

「すいませんね。貴方にこんな事話して…」

 

「いえいえ…」

 

とはいっても今すぐ行動には移せない。

 

いろいろ準備が必要だ。

 

まず俺が出来る事といったら…

 

少し考え事をしていると、玄関の扉が開く音が聞こえる。

 

「ただいま。誰かお客さん来てる?」

 

西木野さんの声が聞こえる。どうやら帰ってきたようだ。

 

リビングの扉をガチャリと開ける。

 

「…」

 

「…」

 

そして目が合う。

 

「…」バタン

 

西木野さんはそっと扉を閉めた。

 

うん。そりゃそうだよな。気持ちは凄く分かるぞうん。

 

「ちょっとちょっとちょっと!どうしたのよ真姫!」

 

西木野さんのお母さんが慌ただしく扉を開ける。

 

西木野さんの手を引っ張り無理矢理リビングへと連れてきた。

 

「…」

 

「…」

 

俺の正面に座らせると、気まずそうな表情を浮かべながら俺から目を離し、無言の時間が続いた。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

暫くすると痺れ切らしたのか成り行きを見守っていた西木野さんのお母さんが口を開いた。

 

「…もう!何二人共黙ってるのよ!冷め切った夫婦か!」

 

「…」

 

「…」

 

「…なんか私が滑ったみたいになるからリアクションは欲しいわね」

 

みたいじゃなくて確実に滑ったろ。

 

まぁいい。このままじゃ話進まないし用事をさっさと済ませるか。

 

「はい。落としたでしょ」

 

俺はテーブルの上に西木野さんの生徒手帳を置いた。

 

すると西木野さんは俯いていた状態から勢いよく顔を上げ立ち上がると、赤らめながら口を開いた。

 

「この事誰かに言った!?」

 

…主語が欲しいな。

 

恐らくこの事というのは生徒手帳を落とした事なんだろうが…

 

「言ってない」

 

「そ、そう…」

 

西木野さんがホッとしたような表情で椅子に座る。

 

「良かった…生徒手帳を2回同じ所で落としたなんて知られたら…」

 

おっちょこちょいのレッテルは貼られそうだな。西木野さんのようなタイプは自分の弱味をあまり見せたがらない傾向がある。

勿論西木野さんも例外ではない。

 

「とりあえずありがとう。2度も届けてくれて。もう【二度と】落とさないわ」

 

やけに二度とを強調するじゃん。

 

よっぽど恥ずかしいんだな。

 

「まぁいいんじゃないか?そうゆう抜けた一面があっても」

 

「嫌」

 

はい。バッサリ切り捨てられました。

 

「一先ず私への用事はこれだけ?」

 

本来であればこれで帰る予定ではあるがちょいとやる事が出来た。

 

今にも帰って欲しそうな表情でこっち見てるけど西木野さんにはもう少し付き合ってもらおう。

 

「…この後少し時間あるか?」

 

「…まだ何かあるの?」

 

あからさまに嫌そうな顔するじゃん。

 

「ちょっとね。大事な話があるんだ」

 

「…分かったわ。私の部屋でしましょう」

 

俺の真面目な雰囲気を感じとったのか観念したように立ち上がる西木野さん。

 

…別に西木野さんの部屋じゃなくてもいいんだけど。

 

まぁ折角だしお言葉に甘えるか。

 

女の子の部屋に入るなんて今後無いかもしれないからな。

 

 

 

 

 

「で、話って何?」

 

西木野さんの部屋に通された俺は床に座った。

 

西木野さんは早く話せと言わんばかりの表情でこちらを見つめている。

 

「あまり時間はかけるつもりは無いよ。君が素直になればね」

 

「どうゆう意味よ」

 

「まぁその内分かるさ。で、さっき言ってた大事な話なんだけど君は今のままでいいと思ってるの?」

 

「…話が見えないんだけど」

 

薄々分かってるくせに良く言うよ。

 

「じゃあもっと分かりやすく言おう。西木野さんは神田明神の階段で俺が言った事覚えてる?」

 

「ええ覚えてるわよ。やりたいならやればいい…でしょ?」

 

おお、覚えててくれて良かった…

 

これで忘れたって言われたらどうしようかと思ったぜ。

 

「そう。あの時の西木野さんの決意に満ちた表情は今でも覚えてる。今はどう?」

 

「…やりたい事出来てるけど?」

 

「ダウト」

 

本当に分かりやすいな西木野さんは。

 

「ハッキリ言うけど、ここ最近の君の表情、雰囲気見てたけど作曲を決意した西木野さんとは雲泥の差だよ。今の君は自分のやりたい事を押し殺して現状を受け入れようとしている様に見えるけどね」

 

「…!…そんなデタラメ…」

 

「確かにあくまでもこれは俺の推理だ。でも君自身が一番分かってるんじゃないのか?俺が言った事が正しいかどうかは」

 

「ま、間違ってるわよ!」

 

「なるほどそれは残念だ」

 

やれやれ…これは長期戦になりそうだ。

 

まぁ予想はしてたけどね。

 

「じゃあちょっと質問いい?」

 

「…何よ」

 

「星空さんと同じ行動パターンだったから尚更分かりやすかったんだけど、西木野さんが勧誘ポスターやμ’sの練習を何度も見に来てたのはどうして?興味ないんでしょアイドル」

 

「そ、それは小泉さんや星空さんが上手くやれてるか心配だっただけよ!」

 

「なるほど。練習を見に来てた理由にはなるね。じゃあ勧誘ポスターを眺めてたのは?」

 

「…μ’sの勧誘をサポートしようかなと…」

 

「それはありがたい。俺も今μ’sの新メンバーを探してるんだよ。西木野さんにもμ’sの人数を増やしたい気持ちがあるみたいで良かった良かった。じゃあ一緒に勧誘しよう」

 

「え!?そ、それは…」

 

「ん?西木野さんはμ’sへの勧誘をサポートしようとしてくれたんだよね?だったら一人より二人でやった方が効率良いでしょう?」

 

「そうだけど…」

 

「何か不満ある?」

 

俺が問いかけると西木野さんは俯いてしまった。

 

言葉を探してるんだろう。

 

「…」

 

「…」

 

あらら喋んなくなっちゃった。

 

まぁこんだけ嘘重ねちゃったら仕方ないけど。

 

「ねぇ。西木野さん」

 

俺の声に西木野さんはゆっくりと顔を上げる。

 

その表情は暗く、少し涙目だった。

 

そこから伝わる感情は後悔。そして、微かな絶望であった。

 

「君の本心はそこまでして隠したい物なの?」

 

「…」

 

「嘘を重ねてまで隠したいのなら俺はもう聞かない。君のやりたい事を続ければ良い」

 

「…」

 

「最後に聞くよ?君は、胸を張って楽しいと思える今を生きれてるかい?」

 

俺が優しく問うと、西木野さんの目から一滴の涙が溢れた。

 

西木野さんも自分の涙に気づいたのかまた俯いてしまった。

 

あれ、これ俺泣かせたとかじゃないよね?

 

不安を感じていると西木野さんは俯きながら小さな声で話し出した。

 

「ごめんなさい…ごめんなさいっ…」

 

小さな声ではあったが俺の耳ではしっかり捉えた。

 

震えた声で紡がれる謝罪の言葉。

 

「西木野さん」

 

俺は西木野さんにハンカチを手渡す。

 

「…ありがと」

 

「改めて…聞いても良いかな?」

 

「いいわよ…全部分かってるから」

 

西木野さんは顔を上げると、少しだけ決意に満ちた表情を浮かべた。

 

少しは吹っ切れたみたいだな。

 

「まずは、つまらない嘘で自分の本心を隠しちゃってごめんなさい。貴方ならすぐに見破るって頭では分かってたのに…。でも、もう素直になるわ。このままじゃダメだって私も分かってるから。貴方が…いや、μ’sが私を勧誘しようとしてるのは知ってる。そして、私自身も本当はスクールアイドルをやってみたいって思ってる。でもそれは叶わない。以前に小泉さんと一緒に生徒手帳届けに来てくれた事覚えてる?その時に私言ったわよね?私の音楽は終わってるって。貴方ならこの言葉の意味なんとなく分かるんじゃない?」

 

「ああ」

 

「例え貴方でも、こればかりはどうしようも出来ない。だから、貴方にも諦めて欲しいの」

 

「どうして?」

 

「分からないの?もう一度言うわ、私の音楽は終わってるの。病院を継ぐのは簡単な事じゃない。だから、音楽をやる時間は無いの」

 

「そうかな?」

 

「そうかなって…まさかあなた」

 

そう。そのまさか。

 

時間が無いなら作ってやるまでだ。

 

「最後にもう一度聞かせて」

 

「…何?」

 

「君は今、何をやりたい?」

 

俺はポケットに手を入れながら真っ直ぐ西木野さんの目を見つめながら問いかける。

 

対する西木野さんも目を離さずに見つめてくれている。

 

不安、心配、そして少しの希望。

 

その表情から俺は確信を持つ事が出来た。

 

「私は…スクールアイドルをやりたいです!」

 

これは紛れもない本心だと。

 

「それだけ聞ければ充分だ」

 

俺はそう言うと、ポケットの中から手を出した。

 

 

 

 

ガチャリ

 

「ん?誰かお客さんか?」

 

その時、玄関の扉が開く音がした。

 

聞こえるのは男性の声。

 

…チャンスは思ったよりも早くきた。

 

東條さんの占いが本当に当たったみたいだな。

 

「パパ…」

 

西木野さんがぽつりと呟く。

 

意外にもパパ呼びなんだな。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「本当に…行くの?」

 

リビングに行こうとする俺を不安そうな表情で見つめる。

 

西木野さんは俺がこれから何をやるかある程度予想がついているみたいだな。

 

でも、止めようとしないという事は西木野さんも望んでいるんだろう。

 

この呪縛から開放されるのを。

 

「氷月君…私は…」

 

「大丈夫。心配はいらない」

 

社会的に殺されないかだけ不安だけどな。

 

結構権力ありそうだし。

 

てかきっとある。

 

でも、ここで仕掛けなきゃ状況は変わらない。

 

ましてや廃校阻止など夢のまた夢。

 

西木野さんは確実にμ’sに必要な人材。

 

ようやく素直になったんだ。このチャンス絶対に逃さない。

 

今だけは信じるぞ。東條さんの占い。

 

俺は振り返ると、不安な表情を浮かべている西木野さんに告げた。

 

「一度きりの人生だ。君の人生は君の物。君が出した答えに文句は誰にも言わせない」

 

「…!…」

 

俺は西木野さんの部屋を出た。

 

 

 

 

「初めまして。音乃木坂学院テスト生の氷月冬夜です」

 

リビング。話があると伝え西木野父と向かい合って座る俺。

 

西木野母と西木野さんも居合わせてる。

 

本当の戦いはこれからだ。

 

「噂には聞いてるよ。真姫とはどうゆう関係だ」

 

「知り合い以上友達未満って所ですかね」

 

「なるほど。一先ずは恋人関係では無さそうで何よりだ」

 

やはり俺の事は認めてもらえなさそうだな。

 

まぁこんな風貌では仕方ないが。

 

「で、話とはなんだ」

 

「ええ。真姫さんの事です」

 

西木野さん呼びでは紛らわしいのであえて下の名前で呼ぶ。

 

「単刀直入に言います。真姫さんの音楽活動を認めてほしいです」

 

「…なんだ。そんな事か」

 

そんな事…

 

西木野さんのやりたい事をその一言で片付けるか。

 

「厳密にいえば音乃木坂でのスクールアイドル活動。あなたも知ってるはずです。廃校を止めるためにスクールアイドルが誕生した事。そして、真姫さんが楽曲を提供した事」

 

「ああ知ってるとも」

 

「真姫さん自身音楽がとても好きで、スクールアイドルにも強く興味を抱いている。なので、真姫さんのやりたい事をやらせて欲しいんです!お願いします」

 

頭を下げる俺。

 

勿論これで許してもらえるとも思っていない。

 

まずは下手に出て印象を少しでも良くしなければいけない。

 

この風貌でマイナスからのスタートになっているなら尚更だ。

 

「…くだらん」

 

西木野父からの返答は予想通りのものだった。

 

「…理由を聞いても良いですか?」

 

「そもそも君はそんなに真姫と親しい間柄では無い。そんな君に真姫をどうこうされる筋合いは無いし、真姫は病院を継がなきゃいけない。君には分からないだろう。この大変さ、そして重要さが」

 

「分からないですよ。でも、病院を継ぐのは簡単な事では無くとてつもなく大変な事は理解できます」

 

「ふんどうだかな。君みたいな若造に理解されたくもないが」

 

「だけど真姫さんはまだ高校1年生。病院だって今すぐ継ぐわけでもないし時間だってあります。真姫さんの意思を尊重してあげて下さい」

 

「真姫の意思って言うけどね、真姫は昔から病院を継ぎたいって言ってるんだよ。病院を継ぐのが真姫の意思だ」

 

…きっとそれも本心で言ってる。でも、同じくらいスクールアイドルをやりたいって思ってるのはさっきの西木野さんの発言で充分伝わった。

 

ここで引くわけにはいかない。

 

「それも本心でしょう。でもスクールアイドルをやりたい気持ちも本心なんです」

 

「君に何が分かる」

 

「これを聞いてください」

 

そう言うと俺はポケットからボイスレコーダーを取り出しスイッチを押した。

 

「私は…スクールアイドルをやりたいです!」

 

「これは先程真姫さんの部屋で僕に言った言葉です」

 

「い、いつの間に録音してたの!?」

 

思わず立ち上がる西木野さん。

 

悪いな勝手に録音して。

 

「真姫さんの父親の貴方なら分かりますね?本心で言っているのかどうか」

 

「本心…だな。しかし、認めるわけにはいかない」

 

「…なぜですか?」

 

「もしだ。スクールアイドルに気を取られ勉学が疎かになり病院を継ぐことが出来なかったらどう責任を取るつもりだ?」

 

「責任って…氷月さんは関係ないじゃない!」

 

「真姫。彼は君のスクールアイドル活動をここまで勧めている。こうして私に歯向かっている。その時点でもう無関係じゃないんだよ」

 

「…」

 

西木野父の剣幕に無言になる西木野さん。

 

確かに西木野父の言う通りだ。俺も無関係とは思ってないしな。

 

「責任は取れませんよ。ただ、西木野さんなら勉学との両立は出来ると思いますよ。あなたも病院を継がせたいならそんな軟な育て方はしていないはずです」

 

「…よくもまぁそこまで偉そうな事を言えるものだ。いいか、ハッキリ言うぞ」

 

西木野父は一呼吸置くと、俺を睨みつけながら口を開く。

 

「真姫の事は家で決める。よそ者が首を突っ込むな!!」

 

「…!」

 

西木野父の怒号に西木野さんは完全に萎縮してしまっている。

 

西木野母は未だ無表情のままだ。

 

俺は一切表情を変えず、言い放った。

 

「真姫さんの事は真姫さんが決めます。あなたこそ首を突っ込まないで頂きたい」

 

「…!」

 

「一度きりの学生生活。一度きりの人生。失敗しても良いから本人のやりたい事を尊重してあげるのが親というものでは?」

 

俺がそう言うと、西木野父は口を閉ざした。

 

「あなた。全部氷月君の言うとおりよ。何故あなたが病院を継ぐことだけを意識してるのか私には分からない」

 

「更に言えば、私は別に真姫が病院を継がなくても良いとすら思ってる。これはいつも言ってるわよね?聞く耳をもたないけど」

 

「ママ…」

 

「真姫には自由に生きてほしい。だってそうじゃない?氷月君の言うとおりで一度きりの人生なのよ?西木野真姫という人生は二度と送れない。なのに、西木野真姫という人生を私達が決めるの?そんなの絶対おかしいわ」

 

「俺は…間違ってたのか…俺は…」

 

「西木野さん」

 

「…どうしたの?」

 

俺は西木野さんの隣に行くと、静かに声をかけた。

 

「俺が出来るのはここまでだ。後は君が蹴りを付けてこい。自分の言葉で」

 

今ならきっと聞いてくれるはずだ。君の言葉を。

 

「…うん!」

 

西木野さんは大きく頷くと、西木野父の元まで歩いていった。

 

「パパ。私、病院継ぎたい。でもね?同じくらいスクールアイドルをやりたいの。曲を作っててとても楽しかった。ライブも凄いドキドキしたし、感動した。練習だって何度か見に行ったけど、皆笑顔で輝いていて、いつしか私もあそこに立ちたいって思う様になったの」

 

「真姫…」

 

「勿論勉強も今まで以上に頑張る!成績だって絶対に落とさないわ。約束する。だから…だから、私がスクールアイドルをやる事、認めて欲しい!お願いっ!」

 

頭を下げる西木野さん。

 

西木野父はその姿を真っ直ぐ見つめると、小さく微笑んだ。

 

「まだまだだな。私も」

 

「…え?」

 

「どうやら私は、一番大事な事を忘れていたらしい。自分の大切な娘を思うつもりが、逆に窮屈な思いをさせていたみたいだな。そんな簡単な事を初対面の高校生に気付かされるとは」

 

チラッと俺を見つめる。

 

「真姫、今まで悪かった!」

 

今度は西木野父が頭を下げる。

 

この展開はもう大丈夫そうだな。

 

「真姫の好きなように過ごしなさい。病院も無理して継がなくても良い。真姫の一番やりたい事をやりなさい。スクールアイドル…お父さん、応援するからな」

 

「パパ…うん!ありがとう!」

 

良かった。何とか丸く収まったみたいだな。

 

これで廃校阻止に一歩近づけた。

 

しかしこれまでの勧誘で一番疲れたかもしれない。

 

「氷月君。本当にありがとうね…久しぶりに見たわ、お父さんと真姫のあんな楽しそうな姿」

 

西木野母が涙ぐみながら俺に感謝してきた。

 

それほどでも…あるな。今回は。

 

「いえいえ。本当に良かったです。あ、そうだ」

 

一応提案しておくか。

 

俺が発端だし。

 

「あの」

 

「ん?おお、氷月君かどうした?」

 

「責任を取るとまではいかないんですけど、音楽と勉学の両立がスムーズに出来る様に僕が真姫さんに勉強教えます。必要ないかもしれませんが」

 

「…君が真姫にかい?」

 

「はい」

 

「そういえば君、音乃木坂のテスト生だって言ってたね。元はどこの学校だい?」

 

「楠木坂です」

 

「楠木坂…なるほどそれならその提案は納得だな。しかし真姫は頭がとても良いぞ?楠木坂でも入試順位トップ5には入ると思うが大丈夫か?」

 

んー…自慢になりそうであまり言いたくないんだが仕方ないか。

 

「大丈夫です。僕、入試1位なんで」

 

「い、1位!?」

 

「あ、あなたがそうなの?」

 

「へぇ…それは頼もしいわ!」

 

西木野父と西木野さんが驚きの声を上げる。

 

西木野母は凄いニコニコしているが。

 

「噂になってるわよ!?楠木坂の入試で満点を取った子がいるって!」

 

「あー、厳密に言うと499点だけどな」

 

「…いやほぼ満点じゃない!」

 

おお、ここまで興奮する西木野さんはレアだな。

 

勉強バカみたいに頑張って良かった。

 

「何はともあれ、これで安心だな。改めて氷月君、本当にありがとう」

 

「いえいえ、頭を上げて下さい」

 

「いろいろとすまなかった」

 

「こちらこそ生意気言ってすいませんでした」

 

いやなんだこの互いに頭を下げる構図。

 

エンドレスじゃねぇか。

 

 

 

 

 

「氷月君、本当にありがとうね。私の為にあそこまでしてくれて」

 

場面は変わり玄関前。

 

西木野父との会話を切り上げた俺は、帰路につこうとしていた。

 

「いいんだよ。半分の俺の我儘だし」

 

「それでも嬉しいわ。本当にありがとう」

 

西木野さんの表情は見違える程明るくなった。

 

完全に払拭出来たみたいだな。

 

奇しくも東條さんの占いが当たったわけだ。

 

「μ'sには?」

 

「明日、加入するわ」

 

「そっか。楽しめよ」

 

「ええ。あ、そうだ。ねぇ氷月君、あの話って本気?」

 

ふと西木野さんの頬が赤く染まる。

 

…なんだ?どうしたんだ?

 

話ってなんの事だ?

 

「何の事?」

 

「何の事って…勉強!私に教えるって言ったじゃない」

 

「ああその事か。西木野さんが勉強で困った時は教えるよ。まぁ大丈夫だと思うけど」

 

俺の言葉を聞くと、西木野さんは優しく微笑むと、

 

「そっか」

 

と返した。

 

その姿はまるで、女神のように輝いていた。

 

やっぱアイドル向いてるよ。西木野さん。

 

 

 

 

 

 

あ、アイスの事忘れてた。

 

この後太陽達にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「西木野真姫です。μ'sと関わっていく内に少しずつ興味を抱いてきて、気づけば私もスクールアイドルをやりたいと思う様になりました。私もμ'sの一員になりたいです。作曲なら任せて下さい!よろしくお願いします!」

 

次の日、西木野さんは昨日言っていた通り加入した。

 

「よろしくね!西木野さん!」

 

「やったぁ!新メンバーだ!」

 

「これで揃いましたね。作詞作曲衣装担当が」

 

「西木野さん、よろしくね!」

 

「よろしくにゃー!」

 

これでμ'sは6人。

 

西木野真姫という貴重な戦力を手に入れ更なる進化を遂げるμ's。

 

少しずつ廃校阻止が見えてきた。

 

しかしここからの勧誘が本当の戦いだ。

 

現在が1年生と2年生が3人ずつ。

 

9人を目指す以上、大事なのはバランス。

 

そうなれば残り3人の枠は3年生がベスト。

 

となれば次からは上級生の勧誘となる。

 

「…こりゃまた骨が折れそうだ」

 

俺は西木野さんの加入を見届けると、屋上を後にした。

 

 

 

 

「今度は忘れるなよアイス」

 

「悪かったって」

 

 

 

 

「…」

 

こちらはとある一室。

 

パソコンの前に座る一人の少女が1枚の画像を見つめる。

 

「音乃木坂…スクールアイドルμ's…」

 

そこにあるのは笑顔で写真に写るμ'sの集合写真。

 

しばらく見続けた後、少女は慣れた手付きで掲示板に書き込んだ。

 

 

 

【アイドルを語るなんて10年早い】

 

 

 

 

 

残るピースは残る3つ。




「貴方達、とっとと解散しなさい!」

突如μ'sの前に現れた小柄な少女。

「ポテト泥棒!」

翻弄されるμ's。

「にこっちを助けて欲しいんよ」

「また占いですか」

挫折をした少女を救う為、μ'sは決断する。

「先輩、信じてください。俺を、μ'sを」

「にっこにっこにー!!」

歯車は噛み合うか。

〜次回ラブライブ〜

【第13話 笑顔の力】

お楽しみに。
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