おかしい箇所もいくつかあるとは思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。
今回も長くなっております。申し訳ありません。
ラブライブの神回の一つであるエリーチカとのんたんの加入回なので気合入れました!
それでは第16話始まります。
やっとμ's揃ったぞぉぉぉぉぉ!!!!
「高坂さんもっと動き大きく」
「分かった!」
「南さんは疲れてきた?遅れてきてるよ」
「まだまだ!」
「園田さんもっと笑顔意識して」
「はい!」
「小泉さんステップちょっとズレてるよ」
「は、はい!」
「星空さんはちょっと早い」
「分かったにゃ!」
「西木野さんも動き小さいよ」
「はい」
「にこさんそこのステップ間違えてますよ」
「わ、分かってるわよ!」
理事長の衝撃的なカミングアウトから次の日。
俺達はいつも以上に気合を入れて練習に取り組んでいた。
その理由は昨日に遡る。
「ちょっと待って下さい!今の話本当ですか!?」
「あなた達…」
「お母さん、私そんなの聞いてないよ!?」
理事長の言葉の後、一斉に室内へと入る俺達。
俺自身も予想外の発言に納得出来なかった。
「もう少しだけ待って下さい!後1週間…いや、後2日待って下さい!何とかしてみせます!」
高坂さんが必死に説得する。
無茶な事を言っているが間違いなく高坂さんは本気だ。
「何か勘違いしているようだけれど、廃校はオープンキャンパスの結果が悪かったらっていう話よ」
「オープンキャンパス…」
なるほどオープンキャンパスか。
中学生等の一般の方に実際に学校を見てもらう重要なイベント。
これで音乃木坂への印象が決まる。
「なーんだ良かったー…」
ホッと一息つく高坂さん。
だがそれはまだ早い。
「安心してる場合じゃないぞ。オープンキャンパスは2週間後。そこで結果を残さなければ正式に決まる」
そう。俺達にあまり時間は残されていない。
「とりあえず、オープンキャンパスで行う内容については生徒会で決めます。よろしいですね?」
絢瀬さんが理事長に詰め寄る。
相変わらずの威圧感だな。
「…止めても聞かなそうね」
「失礼します」
理事長の言葉を肯定と取ったのか、一礼するとこちらには目もくれず理事長室を出て行った。
「じゃあまずはオープンキャンパスに向けて練習だね!」
「時間は2週間。あまり残されていません」
「そうと決まれば早速行くぞ!」
太陽と高坂さんが先頭に慌ただしく理事長室を出ていく。
そして気付けば室内には俺と理事長のみになった。
…本来の目的忘れてないか?
「理事長」
「ラブライブの件ね?」
「はい。アイドル研究部は無事全員赤点を回避致しました」
「そうね。あなたと朝日君も学年1位2位をキープしているみたいだし、ラブライブのエントリーを許可します」
「ありがとうございます」
俺は理事長から許可を貰うと、一礼し理事長室を出て行った。
というのがあらましだ。
その為いつも以上に皆熱を持って真面目に取り組んでいる訳だ。
まぁ普段から真面目なのは間違いないんだけど。
「はいストップ」
一曲踊り終わると、太陽が少し険しい表情を浮かべながら声を掛ける。
「このままじゃダメだ。全体的にダンスが粗いし一体感が無い」
…太陽の奴焦ってるな。
時間が無いのは分かるが、少し口調が強すぎる気がする。
ここ最近の悩んでる様子といい気になる事はあるが、もう少し様子を見てみるか。
「2週間後のオープンキャンパス…もう時間は残されてない。さっきよりも気合入れてやるぞ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
これまでと比べて空気が重苦しい。
ピリついた中での練習は彼女達には向いてない。
太陽も理解しているはずなんだが…
「もう一度だ」
再び同じ曲を踊るμ's。
少なからずプレッシャーを感じている筈だが、今回は目立ったミスは無く踊り切ることが出来た。
「ふぅ…」
「中々良かったんじゃない?」
先程のダンスを褒め合う声がちらほらと聞こえる。
しかし太陽の表情は変わらず曇ったままだった。
「まだだ…もう1回」
「も、もう1回?」
「まだダメだったのかな…」
「…なんか今日の朝日先輩厳しいにゃ…」
太陽の様子がいつもと違う事は皆薄々感づいているみたいだ。
厳しくなるのは分からなくもないが、その練習の仕方はμ'sにとってマイナスになりかねないぞ。
「やりましょう」
しかし、その中で園田さんは一切表情を変えていなかった。
「…海未ちゃん?」
「…とりあえずもう1回踊ろっか」
高坂さんの声を皮切りに、各々ポジションにつく。
そして再び踊り始めた。
「完璧!」
「おぉー皆凄い!」
「やっと皆にこのレベルに追い付いてきたわね」
結論ノーミスだった。
先程よりも動きは滑らかでミスは全く無しでフォーメーションの移り変わりもスムーズ。
文句の付け所は無かった。
「まだだ」
しかし、太陽はまだ納得出来ていないみたいだ。
何だ?何が気に食わない?
「これじゃ廃校阻止に間に合わない…もう1回だ!」
「こ、これ以上上手くなりようがないにゃ…」
「何が気に食わないのよ!」
「全てだ。見てて物足りない。感動が出来ないんだ」
…感動?
「ええ…まだまだです…私も踊ってて全く満足出来ません…」
「…海未ちゃんまで…」
うむ。これは練習どころじゃないな。
まずはこの二人の問題を解決しないといけない。
「そうだ。だからもう1回この曲を…」
「待った」
俺は立ち上がり太陽に声を掛けた。
「冬夜…」
「これじゃ練習にならない」
「…どうゆう事だ?」
「そのままの意味だよ。太陽、今のお前はただ見えないゴールに向かって突き進んでるだけだ。やってる意味がない」
「「氷月先輩…」」
何やら小泉さんと星空さんが目を輝かせているな。
よく見たら園田さんを除く他のメンバーもそうだ。
よっぽどやり辛かったんだろう。
「そんな言い方…」
「園田さんもそうだ」
俺は園田さんの言葉に被せるように言った。
「園田さんも周りが見えてない。二人が何に悩んでいるのかは知らないが勝手に抱えて勝手に巻き込むな」
「おい!何も知らないのにその言い草は無いだろ!」
「そうです!μ'sの為を思ってこんなに悩んでるのに…」
「ああ知らないよ何も」
俺はここで一旦言葉を止めると、二人の目を見つめながら言った。
「だからその悩みを教えてほしい」
「なるほどね」
その後二人から悩みの種を聞き出した。
絢瀬さんのバレエをしている動画を観てからμ'sのダンスからは何も感じなくなったとの事。
絢瀬さんがバレエをしている事は分かっていたが、太陽がここまで言う程レベルの高いものだったのは知らなかった。
「確かに冬夜の言う通りだ。感動出来ない、満足出来ない違和感だけが先行して明確なゴールや答えが無いまま進もうとしてた」
「私もです…μ's全体の意思では無く私自身の意思で動いてしまいました…」
「「本当にごめんなさい…」」
二人は頭を下げた。
一先ず悩みを打ち明けて冷静になれたみたいだ。二人の事はこれで大丈夫だろう。
「μ'sの共通認識の為にも見てみないか?絢瀬さんのバレエ」
俺は提案した。
今この場に動画があればの話だが、全員で見る事によって意識が高まる。
最もバレエとスクールアイドルは違う魅せ方ではあるが、一部が影響された以上仕方ない。
それにこれはチャンスでもあるしな。
「動画ならあるよ。東條さんから貰った」
太陽はそう言うと、スマホの画面を俺達に見せた。
μ's全員が画面に視線を向けた事を確認すると、再生ボタンを押した。
画面の中で楽しそうに踊る一人の少女。
全体的に動きはしなやかでレベルはとても高かった。容姿から察するに年齢は恐らく5〜7歳程度。
しかしその技術は年齢相応のそれじゃない。
最初は凄い!、上手!、と声が上がっていたが次第にそれも無くなっていった。
見入っているのだ。一人の少女のバレエに全員が。
「…これで終わりだ」
動画が終わる。
訪れる沈黙。無理は無い、ダンスというカテゴリにおいての格の違いを見せつけられたのだから。
年下の、ましてやまだ幼い一人の少女に。
「これが生徒会長…」
「レベルが違いすぎるわ…」
「想像以上です…」
口にする感想はどれもネガティブなものだった。
太陽や園田さんがああなるのも仕方ないだろう。
しかし、このままじゃ先には進めない。
「各々、思う事はあるだろうが今日はこれで解散した方が良い」
俺は皆に告げた。
「そう…ですね。このままじゃ練習に身が入りません」
「気分を落ち着かす時間が必要ね…」
園田さんと西木野さん言葉に他のメンバーも頷く。
どうやら皆思ったよりダメージを負ったみたいだな。
でも、それでいい。
どちらにせよこのままじゃ2週間という壁は引っ繰り返せない。
「じゃあ今日の練習はここまで。各自解散」
太陽の声を皮切りに、各々屋上から出て行った。
「高坂さん」
高坂さんだけを残して。
「…?…どうしたの?」
「今日の22時頃、μ'sのグループLINEでグループ通話する」
「グループ通話?」
「そうだ。俺にちょっとした考えがある。皆が飲んでくれるか分からないが」
「どんな作戦なの?」
「それはな…」
「それ、凄い良いと思う!分かった!じゃあ皆にも時間を空けとく様に言っておくね!」
「ありがとう。頼んだ」
やはりこうゆう時に頼りになるのは高坂さんだな。
絢瀬さんの動画を観ている最中も唯一目を輝かせていた。
きっと高坂さんならすぐ賛同してくれると思っていたが、思った通りだった。
さすがはμ'sのリーダー。
「じゃあ22時に」
「うん!待ってるね」
そして俺と高坂さんも帰路につくのだった。
そして迎えた22時。
俺はバイトから帰宅すると早速μ'sのグループLINEを開いた。
メンバーは俺と太陽を含む9人。
出来たのは割と最近でにこさんが加入したタイミングで「人数も増えたし私達だけのグループLINE作ろうよ!」という高坂さんの提案で作る事に。
俺は最初は断っていたが太陽を+したμ's全員のしつこい誘いに最終的に折れてしまった訳だ。何なら強制的に招待されたし。
しかしまさかそのグループLINEを早速活用する日が来るとは思わなかった。
「さて、どんな反応するかな」
俺はグループ通話を開始した。
「来たよ!」
「お疲れ」
一番最初に来たのはμ'sのリーダー高坂穂乃果だった。
「やった一番乗りだ!」
「そんなに嬉しいか?」
「嬉しいよ!えへへ」
…高坂さんの思考回路はよく分からん。
東條さんよりも分からないかもしれない。
「お、高坂さん早いな。お疲れ」
「あ、朝日君お疲れ様!」
「まだ揃ってないのか?」
「ああ。まだ俺達3人だけだ」
それから俺達は他愛もない話をして時間を潰す。
主に太陽と高坂さんが話しているだけだが。
太陽が来てから数分すると、2年生組がやってきた。
「すいません遅れました」
「ごめんね!今来たよ」
「おおー!海未ちゃんことりちゃんさっきぶり!」
「はいさっきぶりです。…で、氷月さん話とは?」
「それは全員揃ってから説明するよ。だからもう少し待って」
「分かりました」
続いて1年生組が来る。
「ごめんなさい!遅くなりました」
「遅くなりましたごめんなさい…ふわぁ…」
「勉強してたら遅くなったわ。ごめんなさい」
西木野さんは変わらず真面目だな。
凜に至ってはめちゃくちゃ眠そうだ。
…まぁもう遅いもんな。それは悪い事した。
「よし!これで全員揃ったんじゃない?」
「いや、まだだ」
そう。アイドル研究部に欠かせないあの人が来ていない。
「え?私でしょ?朝日君に氷月君に海未ちゃんにことりちゃん。花陽ちゃんに凜ちゃんに真姫ちゃんもいるよね?…あ!」
「「「「「「にこ先輩がまだ来てない!」」」」」」
そう。アイドル研究部部長、矢澤にこ絶賛遅刻中である。
部長が一番遅いとは何事だ。
「忘れてるんじゃないか?」
「…可能性はある」
にこさん抜きで話すか?
しかしそれなりに重要な事話すからさすがにマズイか。
「ふわぁぁ…もう眠いにゃ…おやすみ」
「凜ちゃん寝ちゃダメだよぉ!」
凜が眠りにつきそうになったその時だった。
「待たせたわね」
「30分の遅刻です」
「わ、悪かったわよ」
にこさんに事情を聞くとどうやら晩御飯の後片付けと弟の面倒が重なって遅くなったらしい。
にこさん弟いたんだな…
両親は?と聞こうとしたが地雷を踏みそうだったためその質問は飲み込んだ。
そして俺は「そうだったんですね。忙しい中ごめんなさい。遅くまでお疲れ様です」と労った。
にこさんは「え、あ、う…うん。ありがとう…」と困惑したように返してた。
…何か変な事言ったかな?
何はともあれ、これで全員揃った。ようやく本題に入れる。
「忙しい中集まってくれてありがとう。そしてこんな時間にすまない」
「お、やっと本題だね」
「緊張します…」
「眠たい人もいるからあまり時間を掛けないようにする。星空さん起きてる?」
「…!…お、起きてるにゃ!何で凜だけ名指しなの!?」
「…一番眠そうにしてたからだよ凜ちゃん」
小泉さんの鋭いツッコミが飛ぶ。
「では本題だ。今日皆絢瀬さんのバレエを見てどう思った?」
まずはバレエを見てからの絢瀬さんの印象を皆から聞き出す。
俺が質問すると高坂さんがすぐさま答える。
「凄かった!バレエって初めて見たけどこんなに綺麗なんだって思ったよ」
高坂さんに続くように他のメンバーも答える。
「ショックを受けましたね。今まで自分がやっていたダンスはなんだったんだろうって思う程」
「私も同じかな…レベルの違いを見せつけられてちょっと自信失くしちゃった…」
「わ、私は…感動しました!でも、同時に自分達の技術の低さを実感してしまいました…」
「凛は技術とか難しい事はよく分からないけど、1つだけ分かったのは絢瀬さんと凜達ではかなりの差があるって事は分かりました…」
「…驚いたわね、素直に。私達はここまでのレベルに届くのか…一生敵わないんじゃないかって不安になるほど」
「…絵里がここまで完成度の高いダンスを踊れるなんて思ってもいなかった。負けたと心から思ったのは初めてA−RISEを見た時以来よ」
「俺も言った方がいいよな?俺は自分がコーチという立場だからめちゃくちゃショックだった。皆がどんどんレベルが上がっていく所を見て、自分の指導は間違って無かったと自信になっていたのが簡単に握りつぶされた様な感覚だ。自分が恥ずかしいし、皆に申し訳ない」
「やっぱり皆思う事は同じだな。皆絢瀬さんを上に見ている」
動画を見てからの絢瀬さんに対しての印象の変わりようが凄いな。
「当然でしょ!あんなダンス見せられたら誰だって…」
「はい…認めざるを得ません」
皆どこかで絢瀬さんを下に見ていたはずだ。
何で絢瀬さんにそんな事を言われなくちゃいけない…何でここまで否定されなきゃいけない。
事情を知らなければ当然そうゆう反応にはなるし仕方の無い事だ。
しかし、2週間で廃校阻止するにはまだレベルが大きく足りない。
このままでは…7人のままでは確実に間に合わない。
だからこそ今絢瀬さんと東條さんの加入が必要だ。
その前提としてまず、絢瀬さんの事を全員が認めてもらう必要がある。これが第1段階。
皆のこの反応を見ると、ここは達成で良さそうだ。
「俺達に残された時間は2週間。しかしこの現状、皆の気持ちの低下…到底間に合うとは思えない。そこで俺から提案がある」
「…提案…ですか?」
廃校阻止には必要不可欠。
申し訳ないが少し強引に押し切らせてもらう。
「絢瀬さんを、一度コーチとして招きたい」
絢瀬さんがμ'sに加入する大きな一歩。
それは絢瀬さんとμ'sが、関わりを持つ事。
しかし、俺の提案に対する皆の反応はどれも否定的なものだった。
「…それはちょっと賛同しかねます」
「ちょっと怖いかも…」
「にこも反対。潰されかねないわ」
「凜も楽しいのがいいな…」
やはり絢瀬さんに対しての苦手意識は強いみたいだ。
だが、肯定的な声も上がる。
「私は賛成だよ!」
「私も…見てみたいかも…」
唯一この提案を知っていた高坂さんと意外にも小泉さんが肯定派だった。
「穂乃果…本気ですか?」
「かよちんいいの?」
「私は凄く良い提案だと思うけどなー。私はもっとダンスも歌も上手くなりたい!」
「わ、私も絢瀬先輩に教わってみたいです」
反対派が多い中でこの二人が乗り気なのは心強い。
このまま引き込めればいいんだが…
「西木野さんと太陽は?」
俺はまだリアクションを起こしていない二人に話を振った。
「正直私も反対したい。でも、あなたが提案した作戦なら乗ってあげてもいいわ」
…お?これは肯定と捉えていいのか?
まさか西木野さんがこっち側来るとは思わなかったぞ。
「…」
問題は太陽だ。コーチとしてプライドと責任を持って今まで取り組んできた。
それが一時的とはいえその座を奪われようとしている。
望み薄だとは思っているが太陽の意見が重要だ。
「…お前の事だ。当然その先の事を考えてるんだろ?」
「ああ」
「そうか。なら何言っても無駄か」
太陽はここで一旦言葉を止めると、明るい口調で答えを述べる。
「本当はすっっっっ…ごく嫌だ!まるでクビにされた気分だ。でも、まだまだレベルが足りていない事もこのままじゃ間に合わない事も分かってる。だから、冬夜の策に俺は賭けるよ」
ハッキリと告げた肯定の言葉。
どんな表情をしているのかは分からないが少なからず嘘ではない。
これで肯定派が俺含めて5人。人数が逆転したな。
「あくまでもμ'sのゴールは廃校阻止だ。元々はその為に結成したグループだろ?」
「…はい…」
「皆も感じてる筈だ。このままで廃校阻止なんて本当に出来るのかって」
「…うん。今も凄い不安だよ」
「だったら早く手を打たないといけない。それが今話した内容だよ。ハッキリ言おう、絢瀬さんの力無しで廃校阻止なんて不可能だ」
「やろうよ皆!」
俺と高坂さんの言葉により、揺らぎ始めたのか沈黙が続く。
一番最初に口を開いたのは園田さんだった。
「…分かりました。やりましょう」
「海未ちゃん!」
「私だって上手くなりたいですし、氷月さんを信じます」
園田さんの発言を皮切りに次々と口を開く。
「うん。皆で上手くなろう!学校救いたいもん!」
「凜もやるにゃー!」
増えていく賛成の声。
そして最後まで口を閉ざしていたにこさんも、
「…はぁ…仕方ないわねー。どうなっても知らないわよ!」
と賛成の声を上げた。
「よし。これで全員賛成だな。早速明日から行動に移そうと思う」
これで第2段階はクリア。
しかし問題は絢瀬さんが引き受けてくれるかどうかだな。
「遅くなって申し訳ない。これにて解散する。皆、ありがとう」
俺はそう言うと通話を切った。
「…この様に、音乃木坂学院の歴史は古くこの地域の発展にずっと関わってきました。更に、当時の学院は音楽学校という側面も持っており学院内はアーティストを目指す生徒で溢れ、非常にクリエイティブな雰囲気に包まれていたといいます」
場面は変わりとある一室。
私、絢瀬絵里はオープンキャンパスで話す予定のスピーチを亜里沙とその友達2人を含む3人に練習として披露していた。
我ながら完璧な内容でこれで魅力を伝えられたはず。
…そう思っていたのに。
「そんな音乃木坂ならではの…」
「はぁぁぁ!!!体重増えた!!!」
私のスピーチはかき消された。
気付いていた。あの高坂穂乃果の妹、高坂雪穂が居眠りしていた事。
認めたくなかった。
でも、これが私のスピーチがつまらなかったという証明になったのは間違いなかった。
「ごめんね…つまらなかったでしょ」
「い、いえ!面白かったです!後半は特に引き込まれました」
嘘だとすぐに分かった。
気を使わせているのが心苦しくて仕方ない。
私がやってる事は間違っているの?
「おかしい所があったら何でも言って?本番までに直すから」
私は出来るだけ表情を柔らかくして言った。
上手く出来たとは思う。
しかしその時険しい顔をしながら亜里沙が立ち上がり口を開いた。
「亜里沙は、あまり面白くなかった」
ハッキリと告げられた言葉。
私の心に強く刺さったのが分かった。
「お姉ちゃんは何でこんな話をしているの?」
「…学校を廃校にしたくないからよ?」
「私も音乃木坂は無くなって欲しくないけど…でも…」
亜里沙はここで言葉を止めると、真っ直ぐ私の目を見ながらハッキリと言った。
「これがお姉ちゃんのやりたい事?」
「貴方は廃校を阻止する事だけを考えて動いてる。それは全く悪い事じゃないしむしろ当然です。生徒会長としてはね」
「でもあくまでも生徒会長としての正解であって絢瀬絵里としての正解ではない。きっと、貴方が認められない原因はそこなんじゃないんですか?わかりやすく言うと、やりたい事をやってるか」
「…っ…」
私の頭にあの時言われた氷月冬夜の言葉が過ぎる。
やめて…亜里沙も同じ事を言うの?
「貴方は今自分がやっている事を心から胸はってやりたい事だって思えますか?」
やりたい…事…
…これが私のやりたい事?
「お姉ちゃんさっきから全然楽しそうじゃない。もっと他にやりたい事…無いの?」
「…」
私は亜里沙の質問に答えられなかった。
私のやりたい事って…何だろう…
次の日。
昨日亜里沙に言われた言葉がグルグルと頭の中を回る。
それが前に言われた氷月冬夜の言葉とシンクロして、頭から離れない。
やりたい事…
今まで私のやりたい事だと思っていた物は偽りだった…自分に言い聞かせていただけだった…
そうだとしたら私が今までやってた事って…
「…えりち?」
「…希…」
「何かあったん?ずっと上の空やで」
「…いいえ…大丈夫よ」
何故か相談する気になれなかった。
オープンキャンパスまで時間が無い。今更方向性を変えられない。
「…えりち。廃校を何とか阻止しなきゃって無理しすぎてるんやない?」
「…無理なんて…」
「頑固やね」
希はそう言ったきり口を閉ざした。
生徒会室に流れる沈黙。
互いに口を開こうとはしない。
そんな中沈黙を破ったのは意外なものだった。
ーーーーーコンコン。
生徒会室に響くノックの音。
私は立ち上がると、扉を開く。
そこにいたのは、音乃木坂のスクールアイドルμ'sのメンバーだった。
「私達にダンスを教えて下さい!」
「「「「「お願いします!」」」」」
頭を下げるのはμ'sの1年生組と矢澤にこを除く5人。
どうやら壁の隅からこちらの様子を伺っているらしい。
「私にダンスを?」
「私達、上手くなりたいんです!」
真っ直ぐこちらを見つめる高坂さん。
まさか私にダンスを教えて貰いに来るなんて思ってもいなかった。
氷月冬夜も頭を下げている所を見ると本気である事が分かる。
「…分かったわ。引き受けましょう」
「本当ですか!?」
分かりやすく表情が明るくなるμ'sの面々。
…いや、氷月君だけは別ね。
「あなた達の活動は理解出来ないけど、人気があるのは事実。ただし、やるからには私が許せる水準まで頑張ってもらうわよ。いい?」
自分でも不思議だ。
前までの自分なら間違いなく断っていただろう。
私をそうさせたのは昨日の亜里沙の言葉と前の氷月君の言葉が原因かしら。
でも私の予想では私の水準には全く達していないはず。
これで分かるはずよ。自分達のレベルの低さが。
私はすぐさま屋上へと向かった。
「う、うわぁぁ!!」
場面は変わり屋上。
絢瀬さんがあっさりコーチの件を飲んでくれたのは予想外ではあったが何はともあれ第3段階はクリア。
これでμ'sと絢瀬さんを関わらせる事が出来る。
という訳で絢瀬さんコーチの元で練習が始まった訳だが、その内容は厳しく片足立ちの練習で凜が派手に転んでしまった。
「全然ダメじゃない!よくこれでここまで来れたわね」
「…すいません」
「昨日はバッチリだったのにー!」
太陽が申し訳なさそうに答え凜が悔しそうに叫ぶ。
「基礎が出来てないからムラが出るのよ。足を開いて」
「…こう?」
絢瀬さんの言葉を受け凜が足を開く。
すると絢瀬さんは凜の背中を力強く押し始めた。
「うぐっ!!…い、痛いにゃぁぁぁ!!」
うわ…痛そ…
「これで?少なくとも足を開いた状態でお腹が床につく様にならないと」
「え!?」
「柔軟性を上げることは全てに繋がるわ。まずはこれを出来る様にして。このままだと本番は一か八かの勝負になるわよ!」
絢瀬さんの激が飛ぶ。
あまりの厳しさに思わず表情が険しくなるメンバーもいる。
耐えろ…耐えるんだ皆。
「はっ」
「ことりちゃん凄い!」
「えへへ」
南さんが柔軟性の高さを見せ付ける。
お腹は見事に地面についており足も目一杯開いている。
「関心している場合じゃないわよ!皆は出来るの?ダンスで人を魅了したいんでしょ!?こんなの出来て当たり前!」
わお…予想以上のスパルタ…
「…やばいな…これ」
太陽も思わず顔をしかめた。
「筋力トレーニングも1からやり直した方がいいわ!」
その後も絢瀬さん監修の練習は続く。
厳しい声が飛び交う中、μ'sの面々は何とか食らいついていた。
「後10分!」
「はぁ…はぁ…」
皆の表情に余裕は無くなっており、弓道部の掛け持ちで皆より体力がある園田さんも疲労が強い。
ちなみに俺と太陽も練習に参加。
俺は体力には自身がある為皆よりは余裕があった。
太陽も持ち前の主人公スキルで卒なくこなす。こいつには弱点が無いのかよ。
「ラストもう1セット!」
練習は再び片足立ちに入る。
皆ふらふらしながらも持ちこたえている。
しかし、一人限界を迎えてしまったメンバーがいた。
「わわっ!あ、あぁ!!」
「かよちん!」
慣れない激しい練習で体力が底をついた小泉さんは尻もちをつく形で倒れてしまった。
…まぁ無理もないよな。急にこんな練習したら。
「だ、大丈夫!?小泉さん!」
すぐさま太陽が駆け寄る。
「だ、大丈夫です」
小泉さんは弱々しく微笑みながら答えた。
…うん。大丈夫そうには見えないな。
これは今日の所はやめた方が良さそうだ。
「はぁ…もういいわ。今日はここまで」
絢瀬さんはその様子を見ると、ため息をつきながら練習を切り上げた。
「ちょ、ちょっと!」
「そんな言い方無いんじゃない!?」
絢瀬さんの態度が気に食わなかったのかにこさんと西木野さんが噛み付く。
「私は冷静に判断しただけよ。これで自分達の実力が分かったでしょ?今度のオープンキャンパスには学校の存続が懸かっているの。出来ないなら早めに言って?時間がもったいないから」
絢瀬さんは冷ややかな目でそう言うと屋上を去ろうとする。
しかし、高坂さんが直ぐ様声を掛ける。
「ちょっと待って下さい!」
高坂さんの声に絢瀬さんは足を止める。
絢瀬さんが少し振り向くと、俺と太陽を含むμ's9人が整列し再び高坂さんが口を開く。
「ありがとうございました!」
「…!…」
高坂さんの言葉に絢瀬さんの表情が微かに変わる。
「明日もよろしくお願いします!」
「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」
全員が頭を下げる。
それを見た絢瀬さんは、
「…」
何も言わないまま屋上を去っていった。
「よし、今日も頑張ろう!」
次の日。
高坂さんが元気よく屋上へとやってきた。
「頑張りましょう!」
「頑張ろう!」
園田さんと南さんも明るく声を掛ける。
昨日あれだけ辛い練習をしたのに立派なもんだな。
本当に尊敬するよ。
「今日も練習引き受けてくれるかな?」
太陽が心配そうに言う。
それに対し俺は
「大丈夫だろ」
と返した。
「…覗き見ですか?」
「い、いえ…」
その時、屋上の扉の前から微かに声が聞こえる。
この声は西木野さんと絢瀬さんか?
そう思った次の瞬間扉が勢い良く開かれた。
「にゃんにゃんにゃーん!」
「ちょ、ちょっと!」
絢瀬さんの背中を押しながら笑顔で屋上に入ってくる凜。
そして他のメンバーも屋上にやってきた。
絢瀬さんやっぱり来たな。
「お疲れ様です!」
「まずは柔軟からですよね!」
絢瀬さんが来ると、笑顔で声を掛ける高坂さんと南さん。
園田さんと太陽も微笑みながら絢瀬さんを見つめる。
その様子を見た絢瀬さんは、またも険しい表情をしながら口を開いた。
「…辛くないの?」
絢瀬さんから出た言葉は一つの疑問だった。
「昨日あれだけやって今日も同じ事するのよ?第一、上手くなるかどうかなんて分からないのに」
絢瀬さんの質問に対し、高坂さんは真剣な表情をしながらハッキリと言った。
「やりたいからです!」
「…!…」
「確かに練習は凄くキツイです。体中も痛いです。でも、廃校を何とか阻止したいという気持ちは生徒会長にも負けません!だから…」
ここで一度言葉を止めると、真っ直ぐな瞳で力強く言った。
「今日も、よろしくお願いします!」
「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」
昨日と同じ様に俺達は頭を下げた。
「…っ…」
「生徒会長!」
絢瀬さんは表情を曇らせながら屋上を去っていった。
「…何か気に食わない事したかな?」
不安な表情を浮かべるμ'sの面々。
去り際に見せたあの表情…今までとは違う。
そこには明確な迷いがあった。
今まで一度も見せなかった迷いが。
そしてμ'sに対しての見方も確実に変わってきている。
自分のやりたい事と向き合う時が来たのかもしれない。
…チャンスは今しかない。
「練習やっててくれ」
「…氷月君?」
「ちょっと行ってくる」
そう言うと、皆期待と希望が入り混じった表情でこちらを見つめる。
皆は俺が何をするのか薄々勘付いてるみたいだな。
「氷月君。生徒会長を救ってあげて」
高坂さんが真っ直ぐ俺を見つめながら言う。
他のメンバーも気持ちは同じなようだ。
「ああ」
俺はそう告げると屋上を去っていった。
ある事をμ'sに託して。
階段前。
うちは待っていた。
親友、絢瀬絵里を。
一連の流れはずっと見ていた。氷月君は…μ'sは、チャンスを作ってくれた。
えりちにやりたい事への真っ直ぐな気持ちをぶつけてくれた。
それに対してえりちの心は間違いなく揺れてた。ようやく答えを出せる時が来た。
えりちの本心を聞くのは今しかない。
静寂に包まれた廊下。
階段を誰かが降りる音だけが響く。
少しずつ見えて来た見慣れた金髪のポニーテール。
深く考え込んでいる様子でうちには気づいていないみたいやった。
「…」
えりちが階段を降りた時、うちは声を掛けた。
「うちな」
「…!…希…」
「えりちと友達になって、生徒会やってきてずっと思ってた事があるんや。えりちは、本当は何がしたいんやろうって」
「…」
「一緒にいると分かるんよ?えりちが頑張るのはいつも誰かの為ばっかりで…だからいつも何かを我慢しているようで全然自分の事は考えてなくて…」
「…っ…」
走り去ろうとするえりち。
でもうちは止まらない。
「学校を存続させようっていうのも、生徒会長としての義務感やろ!?」
えりちは足を止める。
「だから理事長は、えりちの事を認めなかったんと違う!?」
「…」
驚いた様な表情で振り向くえりち。
お願い…教えてえりち…
「えりちの…えりちの本当にやりたい事は?」
「…」
「…」
訪れる沈黙。
聞こえるのはμ'sの練習の声だけ。
互いに口を開こうとも動こうともしない。
一番最初に口を開いたのはえりちだった。
「…なによ…」
「…」
「何とかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!!」
「…!…」
「私だって…好きな事だけやって…それだけで何とかなるならそうしたいわよ!」
その時、えりちの目から涙が零れ落ちる。
「…えりち…」
「自分が不器用なのは分かってる!…でもっ…今更アイドルを始めようなんて…私が言えると思う?…っ…」
「あっ…」
えりちはそう言うと涙を流しながら走り去ってしまった。
うちはえりちの事を救いたかっただけ…
でも、それはただえりちを追い詰めていただけやった…
追いかけなくちゃ…
そう思っても何故か足が動かない。
何で…何で足が動かないの!?今すぐえりちの所に行って話さなくちゃいけないのに!
動いて…動いてよ【私】の足!!
その時、頬を一滴の涙が流れる。
「…嘘…うち、泣いてる…?…」
確かにそれは涙だった。
止まらない。止めようとしても次々と溢れてくる。
何で…何でこんなに…
うちはその場でしゃがみこんでしまった。
こんな事してる場合じゃないのは分かってる。
傷付けてしまった…一番の親友を、うちが…
だから行かないといけないのに…
でも、何て声を掛ければ良い?何て言えばえりちは…
ーーーーーーーポン。
その時、うちの肩に優しく手が置かれる。
「…あ…」
暖かかった。
不思議と安心出来た。
こんなに心強い気持ちになるのは初めてや…
「ごめんなさい…うちじゃ…うちじゃあかんかった…」
「…」
「だから…お願い…えりちを救って…」
「…冬夜君」
か細い声で言うと、彼は優しく、力強く言ってくれた。
「勿論」
絢瀬さんと東條さんの衝突。
裏で全部見ていた。
何より二人の涙を見てしまった。
あんなの見せられたら…
「…救うしかないでしょ」
俺は最後のピースを埋めるべく教室にやってきた。
東條さんのおかげで絢瀬さんの本心は少し見えて来た。
だったら後は…
俺は教室の扉を開けた。
「…」
「…」
そこにいたのは悲しげな表情で窓の外を見つめる絢瀬さん。
それは美しくとても絵になっていた。
「…あなた…」
俺に気づいた絢瀬さんは俺に視線を向ける。
「…何しに来たの?」
「答えを聞きに来ました」
「…答え?」
「覚えていますか?前に俺が言った言葉。貴方は今自分がやっている事を心から胸はってやりたい事だって思えますか?って質問」
俺が言うと絢瀬さんは俺から視線を外しながら答えた。
「…ええ。覚えているわよ」
「あの時と答えはまだ変わっていませんか?」
俺は優しく語りかける。
「…変わったわ…」
「…なるほど。では、変わった答えを聞いても?」
絢瀬さんは少し間を開けると、俺の問いに答えた。
「…分からないの…」
「…分からない?」
「…そう。自分のやりたい事が…」
「…詳しく聞いても?」
「前にあなたが言ってくれたやりたい事…同じ様な事を亜里沙にも言われたわ。あ、亜里沙っていうのは私の妹ね。で、さっき希にも言われたわ。その様子だとあなたも聞いていたんでしょ?」
「はい。盗み聞きみたいになってすいません」
俺は頭を下げた。
「それは良いわ。気にしてないから。それで私は気付いたのこれは私のやりたい事じゃないんだって」
そう言う絢瀬さんの目には光は灯っていなかった。
「じゃあ本当に私のやりたい事は何って思った時、全く答えが出なかった…だから、胸を張ってこれがやりたい事だと言ったμ'sの子達が少し羨ましかったわ。輝いて見えた」
「…ちょっと質問を変えますね。絢瀬さんは何故μ'sのコーチの件を引き受けたんですか?」
「…レベルの低さを実感して貰うためよ。そうしたら諦めるかもって思って」
「本当にそれだけですか?」
「…何が言いたいの?」
絢瀬さんの表情が少し険しくなる。
「確かにその思いもあったんでしょう。でも、それだけにしてはとても真剣でした。厳しくはあったけど、突き放すだけでは無くてちゃんと分かりやすくゴールや練習の意味を話しながら取り組んでいた。練習を途中で止めたのも小泉さんが限界を迎えていてこれ以上は怪我をする可能性があったから。諦めて貰うためだけならそこまでしないと思います。」
更に俺は続ける。
「そして次の日も絢瀬さんは屋上に来ていました。誰かが呼びに行くわけでもなく自分の意思で。諦めて貰うためだけなら前日の段階で見切りをつけると思います。でも絢瀬さんはそうしなかった」
「…」
「それは、μ'sに対して興味が出たんですよ。真っ直ぐで、自分には無い物を持っているμ'sが」
「そ、そんなこと!」
絢瀬さんが勢い良く立ち上がる。
「いい加減素直になりましょう。極めつけは先程の発言です。【今更私がアイドルを始めようなんて言えると思う?】」
「何がおかしいのよ…」
「東條さんは別にスクールアイドルの話はしていなかった。本当にやりたい事?の質問の後に、好きな事だけやって何とかなるならそうしたいと言いました。その流れで何故アイドルの話が出たんですか?」
「それは…」
俺はゆっくり絢瀬さんに歩み寄る。
そして絢瀬さんの前に立つと、少し微笑みながら言った。
「もう答えは出ているでしょう。それが…あなたのやりたい事ですよ。絢瀬絵里」
「…!…」
絢瀬さんは知らない内に答えを出していた。
自分自身が気付いていないだけ。
スクールアイドルをやりたいんだよ。絢瀬さんは。
「やりましょう。スクールアイドル」
俺は絢瀬さんに言った。
しかし、絢瀬さんは首を縦に振らない。
椅子に座ると、絢瀬さんは下を向きながら言う。
「…ダメよ…今更言えないわ」
「あなたが言えなくても、μ'sはあなたを必要としてます」
「そんなの嘘…」
「嘘じゃありません」
俺はそう言うと、教室の扉に合図を送った。
「今更…アイドルなんて…」
「絢瀬先輩」
「…!…」
突如目の前に差し出される手。
「…なんで…」
その正体は、μ'sのリーダー高坂穂乃果だった。
周りには他のメンバーもいた。そして、東條さんも。
「絢瀬先輩…いや、絵里先輩。お願いがあります」
「…練習?練習だったらまず昨日言った内容をこなして…」
「μ'sに入って下さい」
「…え?」
「絵里先輩。μ'sに入って欲しいです!一緒にやりましょうスクールアイドル!」
辺りを見渡す絢瀬さん。
東條さんを含むμ's全員が微笑みながら見つめていた。
「…待って私は」
「やってみればええやん」
絢瀬さんの言葉に被せる様に言う東條さん。
その表情は柔らかく、語りかける様に再び口を開いた。
「特に理由なんか必要ない。やりたいからやってみる。本当にやりたいことって、そんな感じで始まるんやない?」
「…!…」
東條さんの言葉に表情が変わる絢瀬さん。
これならもう大丈夫だろう。もう俺の出番は無さそうだ。
「…全く本当に変わってるわねあなた達。散々酷い事もしたし酷い事も言った私を誘うなんて」
「いえ、酷くなんてありません。むしろ、絵里先輩がいたから今の私達があるんです」
「…本当に私でいいの?」
不安と希望が入り混じった瞳で高坂さんを見つめる絢瀬さん。
当然答えは決まっている。
高坂さんは絢瀬さんの言葉を受けると、満面の笑みを浮かべて言った。
「絵里先輩じゃなきゃ、ダメなんです」
「…ありがとう」
絢瀬さんはそう言うと、高坂さんの手を掴み立ち上がった。
……決まったな。
俺は彼女達に背を向けると、東條さんの耳元に立ちそっと囁いた。
「あなたの望み、叶えましたよ」
「…!…」
俺はそれだけ言うと、太陽にバイト行ってくるとLINEした後教室を出て行った。
「…これからが楽しみだ」
「やった!これで8人目だ!」
冬夜君が教室から出て行った。皆は気付いていないみたいや。
本当に冬夜君はズルい。
耳元であんな事言われたら胸が高鳴ってしまう。
顔が熱くなっているのが自分でも分かる。でも、今はその余韻に浸ってる訳にはいかない。
「いや、うちを入れて9人や」
「「「「「「「「「…!…」」」」」」」」」
お、驚いてるみたいやね。
うちはそうゆう反応が欲しかったんや。
冬夜君が特殊なだけで。
そういえばどさくさに紛れて下の名前で呼んでるけど大丈夫かな…
…まぁこれぐらい別にええよね!
「東條先輩…いや、希先輩も入るんですか!?」
「そう。カードがうち告げたんや。このグループは9人揃った時に輝けるって。だから付けたん。9人の歌の女神【μ's】って」
ここでうちは全てをネタバラシする。
でも、冬夜君には初対面の段階でμ'sの名付け親がうちやってバレちゃってたけど。
…にしても何で分かったんやろ?
「え、じゃあ…μ'sの名付け親って…」
「うちや」
「えーーー!!!?」
ふふ。いい驚きっぷりや。
「にこっちやえりちをμ'sに引き入れて9人目としてうちが入ってネタバラシする。ずっとその予定やった。まぁそれは一人を除いて計画通りに進んだんやけど」
「…一人を除いて?」
穂乃果ちゃんはそう言うと辺りを見渡す。
そして気付いたのか驚いた様に声を上げる。
「氷月君がいない!」
「え?」
穂乃果ちゃんの言葉を受け他のメンバーも辺りを見渡す。
ようやく皆気付いたみたいやね。
「あいつ、こんな時に何処に行ったのよ」
にこっちが呆れた様に言う。
ちょっと残念そうやね。
「あ…バイトだってよ」
そう言い朝日君が皆にスマホの画面を見せる。
そこには【バイトあるから後は頼んだ。9人のμ'sを】と書かれていた。
「…全部分かってたのね」
と呆れた様に言うのはえりち。
「そうですね。氷月さんは希先輩が入る事もお見通しだったみたいです」
「本当に…呆れるわ。氷月君にも希にも」
そう言うえりちの顔はとても嬉しそうだった。
そしてえりちは立ち上がり教室を出ようとする。
「何処へ?」
海未ちゃんが声を掛ける。
えりちは一度立ち止まると、笑顔を浮かべながらうちらに言った。
「決まってるでしょ?練習するわよ。9人揃って初めてのね」
えりちの笑顔を見たのはいつぶりやろか。
…これも皆のおかげやね。
本当にありがとう。μ's。
μ'sはついに9人揃った。
それから9人で練習する様になり、太陽と絢瀬さんが主に協力して指導している。
コーチが2人体制みたいな感じになってより一層練習が良い物になっているみたいだ。
俺は殆ど練習に出れていないが、毎日の様にμ'sのグループLINEが活発に動き出す為嫌でも情報が入ってくる。
ちなみに絢瀬さんと東條さんもμ'sのグループLINEに入った。
後はいつの間にか東條さんが俺を下の名前で呼び出しているのが気になるが、深追いするのが怖いのでそのままにしておく。
絢瀬さんや東條さんと一緒に下校、寄り道する事が増えたとの事で最近では絢瀬さんと東條さんとファーストフード店に行ったらしい。
どうなら絢瀬さんは初めて来たらしく、子供の様に目を輝かせていたとの事。
…ちょっと見てみたいと思ったのは内緒だ。
何はともあれ、日々の練習や登下校を経て少しずつμ'sに溶け込んでいく絢瀬さんと東條さん。
オープンキャンパス前日には、すっかりμ'sに慣れ常に楽しそうな表情を浮かべるまでになっていた。
無事打ち解けた様で良かった良かった。
そして今、μ'sはオープンキャンパス当日を迎えた。
「これから披露する曲は、私が9人になって初めて出来た曲です」
高坂さんが楽しそうな表情で言う。
絢瀬さんと東條さんの初ステージ。どうやら緊張もあまりしてない様子。
ちゃんと見届けるぞ。9人の最初の勇姿を。
「「「「「「「「「聴いてください!」」」」」」」」」
【僕らのLIVE 君とのLIFE】
「わぁぁぁぁ!!!!!」
「感動した!!」
「凄い!」
「可愛い!!」
「大好きだー!!!」
結論。新生μ'sのライブは圧巻だった。
全員が心の底から楽しそうにパフォーマンスしておりそこからは一切の迷いは感じない。
優雅に、そして楽しくステージ上に舞う彼女達は間違いなく女神の様だった。
俺は感じた。これならいけると。
あ、ちなみに最後大好きって言った奴太陽な。
「音乃木坂スクールアイドル、μ'sでした!ありがとうございました!」
ーーーーーありがとうございました!ーーーーー
鳴り止まない拍手。
止まらない歓声。
彼女達も満足そうにやり切った表情で満面の笑みで手を振っている。
9人での初ライブは間違いなく成功した。
これなら廃校阻止の可能性は限りなく高いだろう。
それは太陽も感じているはずだ。
「太陽」
「…冬夜…分かった」
俺は太陽に声を掛ける。
すると太陽は楽しそうな表情から真剣な表情に変わり、彼女達に背を向ける。
「行くか」
「…ああ」
俺達は彼女達に背を向け歩き出す。
そしてそのまま俺達は会場を後にした。
音乃木坂の廃校を阻止出来る。それは、楠木坂との合併が無くなるという事。
つまり、俺達はここにいる意味が無くなったという事だ。
そしてそれが意味する物。それは…
μ'sをサポートする目的が無くなる事だった。
「これ以上続ける義理はない」
「…本気なんだな」
「当たり前だ」
決断の時は…近い。
「思い付かないよー!!」
頭を悩ませることり。
「次の作詞はことりさんにお願いするわ」
託された新曲の作詞。
ことりを救うべく穂乃果達が決断したのは…
「お帰りなさいませご主人様!」
「…マジか」
更なる高みを目指し、μ'sは羽ばたく。
〜次回ラブライブ〜
【第17話 ここにいること】
お楽しみに。