消しては打って消しては打っての繰り返しで悩みながら文と展開を考えました。
おかしい所があったらごめんなさい!
それでは第17話始まります。
「チョコレートパン、おいしい。 生地がパリパリのクレープ、食べたい。 ハチワレのネコ、可愛い。 5本指のソックス、気持ちいい…」
何かの暗号の様にぶつぶつと呟いているのは南さん。
現在は教室でノートとにらめっこしている。
決して頭がおかしくなった訳では無い。
「♪ふーわふーわしーた物かーわいーいな♪はーい!後はマッカロンたっくさん並べたら♪カラフルで~しーあーわーせー♪ …る~るるら~ら~…」
もう一度言おう。決して頭がおかしくなった訳では無い。
「…苦戦している様ですね」
「…ことりちゃん…」
扉の影からこっそり見守る俺、太陽、高坂さん、園田さんの4人。
「…っ…あー!!何も浮かばないよぉ!!」
南さんは困ったような表情でそう言うと、机に伏してしまった。
ここまで経験が無かったんだ。急にお願いされて出来る方が難しい。
「穂乃果ちゃん…氷月君…」
助けを呼ぶように呟く南さん。
南さんが何故こうなっているのかは数日前に遡る。
…てか高坂さんは分かるけど何で俺の名前まで呼ぶんだよ。
「ビッグニュースだよ!」
観客を魅了したオープンキャンパスから数日。
部室に到着すると高坂さんが嬉しそうに言う。
「ビッグニュース?」
太陽も何だそれといった感じで疑問の表情を浮かべていた。
続いて小泉さんが口を開く。
「オープンキャンパスの結果、廃校の判断はもう少し様子を見てから決める事になったみたいです」
「お!やったじゃん!」
なるほど。高坂さんがずっとニコニコしていたのはそれか。
廃校阻止とまではいかないがこれは大きな進歩だな。
「そしてもう一つ!」
ん、何だまだあるのか。
「こっち来て!」
高坂さんはそう言うと、鼻歌を交えながら歩き出す。
言われるがまま高坂さんについていく俺達。
そして扉の前に案内されると、勢い良く高坂さんは扉を開いた。
「部室が広くなりました!」
じゃーんとでも効果音がつきそうな程手を広げ自慢げに話す高坂さん。
でも確かに部室が広くなったのはありがたいな。
屋上よりは少し制限はあるもののこれで雨が降っても練習する事が出来る。
「すげぇ!!μ'sの活躍が認められたって事だよな!」
「だよねだよね!」
テンションが上がりはしゃぐ二人。
ここで絢瀬さんが動く。
「まだ安心するのは早いわよ。生徒が入ってこない限り廃校の可能性はまだあるんだから」
絢瀬さんの言葉は最もだ。
まだまだ油断は禁物。オープンキャンパスでのライブは成功でもそれが実際に生徒上昇に繋がるとは限らない。
だが俺はほぼ大丈夫だろうと睨んでいるが。
「絵里先輩…」
何やら目をウルウルさせながら園田さんが絢瀬さんに話かける。
「…やっと…やっとまともな人が入ってきてくれました…」
「え、ええ…?」
まあ当然絢瀬さんは困惑する。
…ただまぁ高坂さんは猪突猛進だし南さんはどっちつかずでふわふわしてるし小泉さんや西木野さんはあまり前に出たがらないし凜は楽観的。にこさんもあんな感じだし…
園田さんが言う事も分かる。全体を仕切るのはどうしても園田さんが多いからな。
太陽は皆と一緒にふざけがちだし俺はそもそも練習にあんまり出れてないしな。
「ちょっと!それじゃにこがまともじゃ無いみたいじゃない!」
実際そうだろ。
「俺もまともな部類だろ!練習はいつも俺が仕切ってるし…」
「喋るな」
「…冬夜俺に厳しすぎないか?」
話がややこしくなる。そんなに広げなくてよろしい。
「ごめんなさい。私用事あるから…」
と話をぶった切る様に言うのは南さんだった。
「用事?」
「本当にごめんなさい!明日の練習は出れるから…」
そして南さんはバイバイと言い残すと足早に去っていった。
ふむ…怪しいな。
「ことりちゃん。何か隠してるみたいやね」
いつの間にか隣に立っている東條さんが言う。
いつからそこにいたんだよ。
「そうですね。でもまぁ探るのは今じゃないですね」
「そうやね」
何を隠してるかは分からないが、きっと何れ分かるだろう。
「ランキング上がってます!!」
「本当!?」
「本当か!」
ずっとパソコンを見つめていた小泉さんが嬉しそうに声を上げる。
それに反応した高坂さんと太陽が直ぐ様駆け寄った。
「凄い!私達50位だよ!」
「ラブライブにまた一歩近づいたわね」
絢瀬さんと東條さんが加入し、更に人気に火がついたみたいだ。
またかなり順位を上げている。
このペースならラブライブに間に合うかもしれない。
「絵里先輩と希先輩の加入でファンの層が厚くなったみたいで、女性のファンも増えたみたいです!」
「なるほど。絢瀬さんと東條さんは今までμ'sには無かった大人の女性枠にピッタリ当てはまった訳だ。今までいなかったもんな、年上で色っぽさもあるメンバーって。さすがは3年生だ」チラッ
チラリとにこさんを見る太陽。
その流れでその目線はマズイだろ。
「朝日。何で今私の事見たの?」
「いえ、何でもないです」
「なんで露骨に目線反らすのよ。言いたい事をあるなら私の目を見て言いなさい」
「いえ…何も…そういえばにこさんも3年生だったなって思ったぐらいで…」
「おいコラ」
うん。100太陽が悪いな。
「でもえりちも抜けてる所あるんよ?この前もおもちゃのチョコレートを本物と間違えて食べそうになったり」
「ちょ、ちょっと希!何で急に私の話になるのよ!」
「いや、えりちの可愛い一面も皆に知って貰おうと思って」
「そんな気遣いいらないわよ!」
話が脱線してきたな。
後太陽。チョコレートのおもちゃになりたいって俺だけにボソッと言うのやめろ。めちゃくちゃ気持ち悪い。
脱線した話を修正する様に西木野さんが少し声を張って言う。
「そんな事より、ここから大変よ。当然上に行けば行く程ファンが多いんだから」
そう。ラブライブまではあまり余裕はない。
当然20位圏内を目指すのであれば今以上の進化を要求される。
もう今の段階から手を打っておく必要があるな。例えば次のライブをどうするかとか。
「それなら私に考えがあるわ」
「…考え?」
にこさんの考えか…
あまり良い予感はしないな。
「まず私達にはやらなければいけない事があるのよ!」
「おお!さすがにこ部長!」
ドヤッという効果音が似合う程自信満々に言うにこさん。
高坂さんも目を輝かしにこさんの言葉を待っていた。
…あまり持ち上げすぎない方がいいと思うけどな。
「で、にこっち。やらなければいけない事って何なん?」
「ふふん。それはね…」
「やらなければいけない事って…これ…?…」
勢い良く部室を飛び出したにこさんを追う形でやってきた俺達。
そして俺達は今秋葉原に来ていた。
…厚手のコートとサングラスとマスクを着用した状態で。
「…凄い暑いんですけど…」
嫌そうな表情でにこさんを見つめる高坂さん。
さっきまでの輝いていた瞳は何処へやら。
「我慢しなさい、これがアイドルとして生きる道よ。 有名人は有名人らしく、街で紛れ込む格好ってあるの。 トップアイドルを目指すなら当然でしょ!」
にこさんの提案はこうだ。
着実に知名度を上げ、μ'sという存在が少しずつ有名になってきている為今後に向けて街中での過ごし方を皆で学ぶという物だった。
にこさんとしては、プライベートは大切にする事を強く意識してるとの事で変装の特訓としてこの格好をしている訳だ。
当然こんな格好で紛れ込める訳が無い。
μ'sだとバレはしないだろうが視線は次々と俺達に刺さっている。
目立ってしょうがない。
「何かスパイみたいで格好いいな!こちらコードネームSUN、応答せよ。的な!」
太陽は何やらにこさんの趣旨と違う方向でテンションが上がっている。
とりあえずそのコードネーム絶妙にダサいから一生言わない方がいいぞ。
「A−RISEの新商品です!」
「可愛いにゃ」
ん?小泉さんと凜の声が聞こえるな。
辺りを見渡すと、変装を解いた2人がスクールアイドルショップで商品を眺めている様子が確認出来た。
「ちょっとあんた達!」
にこさんは直ぐ様2人に駆け寄る。
俺達も追う様にスクールアイドルショップに入った。
当然変装はもう解いたぞ。
「あ、にこ先輩」
「これ可愛いです!新商品ですよ!」
「本当!?よし、これは買うしかないわね」
いや注意するんじゃないんかい。
いつの間にかにこさんも変装解いてるし。
「私初めて来たわ…」
「ウチも初めてや」
気付けば他のメンバーも思い思いにショップ内を探索している。
何か趣旨が分からなくなってきたがまぁいいだろう。
各々がグッズを物色していたその時、凜はとある物を発見する。
「これ、かよちんにそっくりにゃー」
そう言い手に持つのは一つの缶バッジ。
そこには確かに小泉さんと瓜二つな顔がプリントされていた。
…ていうかそれって。
「本人じゃん!」
太陽が興奮したように叫ぶ。
「…え、わ、私!?」
「…という事はここにあるのは…」
全員の視線が一つの陳列された台に集まる。
そこには、【人気爆発!!μ'sグッズ大量入荷!!】と大々的に書かれていた。
…これマジ?
「す、凄いよ!全部私達だ!」
「わ、私のもあります…」
「凄いよ!!凜達のグッズにゃ!」
「だ、ダレカタスケテー!」
「こうして見ると、勇気付けられるわね。自分達が注目されてるって分かると」
「希、私達のもあるわよ」
「ほんまや。うちらμ'sに入ってそんなに日経ってないのにもうあるんやね」
「おい冬夜!俺のグッズもあるぞ!」
それぞれが自分のグッズを手に取り信じられないという様子でマジマジと眺めている。
これはμ'sの人気が認められた証明でもある。
全員とても嬉しそうだ。
太陽は女性人気がバカみたいに高いからそこに需要があるんだろ。
俺?勿論無いよ。
「わ、私のグッズは!?私のグッズ!」
自分のグッズが見当たらないのか焦ったように探し回るにこさん。
人一倍スクールアイドルには熱を持って取り組んでたからな。そりゃ必死になる。
俺は近場にあったにこさんのストラップを手に取るとにこさんに声を掛けた。
「にこさん。ここにありますよ」
「ほ、本当!?…あ…あった!わ、私のグッズあった!」
にこさんは自分のグッズを見つけると、涙を浮かべながら喜びの表情を見せる。
グッズがあるという事は確実にファンがおり需要があるという事。
にこさんからしたら一つの夢みたいな物だ。
嬉しさは他の人よりも強いだろう。一度挫折した事もあるし。
「にこさん。スクールアイドル諦めないで良かったですね。これでもう立派なアイドルですよ」
俺は優しく声を掛けた。
にこさんは振り向くと満面の笑みで
「うん!」
と涙を流しながら言うのであった。
…時折見せるにこさんの無邪気な笑顔は反則だ。
可愛いと思っちゃうじゃんか。
「…あれ?」
とここで高坂さんが何かを発見する。
「…?…どうしたんですか穂乃果?」
「これ、ことりちゃんじゃない?」
「そりゃμ'sのコーナーなんですからことりもいるでしょう」
「いやそうじゃなくてこれ」
そう言い高坂さんは1枚の写真を指差す。
そこにはメイド服を来た南さんによく似た人物が満面の笑みで写真に写っていた。
…あれ、これ間違いなく南さんだな。まさかこれがミナリンスキーじゃ…
その時、一人のメイド服を着た少女が慌ただしく店内に入ってきた。
「あ、あのすいません!ここに私の写真があるって聞いたんですけど!」
…噂すれば本人現るだな。
「無くしてください!あの写真は駄目なんです!」
必死に店員さんに詰め寄る南さん。
するとここで南さんの目線が俺達に移る。
あ、気付いたな。
「…」
南さんは俺達の姿を見ると、顔を青ざめながらゆっくりと店を後にしようとした。
高坂さんはすかさず声を掛ける。
「ことりちゃん…だよね?何してるの?」
高坂さんの言葉にピタッと動きを止める。
「…」
少し間を開けると、近くにあった空いたガチャガチャ2つを手に持つと、振り返りながら自分の両目に当てた。
「コトリ? What? ドーナタデェスカァ?」
外国人を装いごまかそうとする南さん。
さすがに無理があるだろ。
「外国人!?」
騙されてる!?
マジか。凜の将来が心配だわ…
「ことりですよね?」
今度は園田さんが声を掛ける。
少しずつ歩み寄ると、南さんはそれに合わせて後退りする。
「チッガイマース!ソレデハ、ゴッキゲンヨー。 ヨキニミハカエミナノシュー…サラバ!」
南さんはそう言うと、店を出て一目散に走っていった。
「あ、逃げた」
「待てー!!」
一斉に南さんを追うμ's一同。
恐らく太陽か凜辺りが捕まえるだろう。南さんが真っ直ぐ逃げてくれれば。
もし南さんが逃げるルートを確保していた時が問題。
ならば俺は先回りしておくか。ここから路地裏に入ったとしたら…あそこに出るな。
俺は皆と違う方向に走っていった。
「はぁ…はぁ…良かった…逃げるルート用意しておいて…」
数分後。俺の予想通り南さんが路地裏から出てきた。
やはり逃げ道は確保していたみたいだ。
「みぃつけた。 これ以上逃げたら、そのふくよかな胸をわしわしするよ~?」
「…ひっ…」
東條さんが手をわしわしさせながら南さんに言う。
そう。実は東條さんも先回りしていたのだ。
「観念しろよ」
「ひ、氷月君まで…」
どうやら東條さんとは思考が似ているらしい。
南さんを確保した事を皆に報告すると、近くのカフェに場所を移し話を聞く事にした。
「こ、ことり先輩が…このアキバで伝説のメイド、ミナリンスキーだったんですか!?」
「…はい」
全員が揃うと、観念した様に事情を話し出した。
どうやらμ's結成の直後にスカウトされたみたいだ。
そこでもしかしたら自分が変われるかもと思いそのスカウトを引き受けたようだ。
あの写真は南さんの働くメイド喫茶で行われたイベントの写真な様で、本来は撮影禁止だったが誰かが撮影してしまったらしくそれが出回ったとの事だ。
なるほど…にしても自分が変われるねぇ…
「ちょっと!何で内緒にしてたの?教えてくれれば遊びに ジュースとかご馳走になったのに!」
そっちかよ。
南さんに集ろうとしてないか?
「内緒にしてたのはごめんなさい…あ、でもお母さんには言わないで!」
本来音乃木坂はバイト禁止である。
それが自分の親、ましてや理事長の耳に入ればやめさせられるのは目に見えている。
ちなみに東條さんは一人暮らしだから許可が出たらしい。直接東條さんが言っていた。
「うん。内緒にしておくよ!」
「ありがとう!じゃあ私、お店に戻らなくちゃいけないから…」
「分かりました。頑張って下さい」
「うん!じゃあまた明日!」
南さんはそう言うと、足早に店を出て行った。
「…?…絵里先輩?」
南さんが店を出た直後、園田さんが絢瀬さんに声を掛ける。
絢瀬さんを見ると、顎に手を付け真剣な表情で何やら考えている様子だった。
「…さっきのことりさんの言葉で思ったの。私達も少し変わらないとダメかもって」
…ほう。中々興味深いな。
こうゆうマネジメントな事はあまり知識がないからメンバーが集まった今俺からのアドバイスは何も無い。
その為彼女達が出すアイデアがとても重要だ。
「当然上に行けば行く程戦いは厳しいものになる。これ以上の高みを目指すには、思い切った事をしなくちゃいけないと思うの」
「確かに、絵里先輩の言う通りですね」
絢瀬さんの言葉に園田さんが頷く。
「そこで一つ私から提案があるわ」
「ここ、秋葉原でライブしない?」
という訳で絢瀬さんの提案に異議を唱える者はおらず、そのまま採用される事になった。
秋葉原の街中で行う初めての路上ライブ。
絢瀬さんの狙いは秋葉原で認められれば大きなアピールになるという物だった。
そこで披露する曲も新曲が良いだろうとの事で、早速曲を作る事に。
いつもは園田さんが作詞を担当しているが、絢瀬さんの提案で作詞は秋葉原との携わりがある人がやった方が良いとの話になり、秋葉原のメイド喫茶でバイトしている南さんが選ばれたという訳だ。
そして現在に至る。
「どうしよう…」
歌詞が一向に進まず頭を悩ませる南さん。
これじゃいつ曲が出来るか分からないな。
「園田さん手伝っちゃえば?」
しびれを切らしたのか太陽が園田さんに言う。
「…そうしたいのは山々何ですが、今回は秋葉原というテーマが決まっていてそこに寄せた曲なので秋葉原に詳しくない私では戦力になりません」
「そうか…別に俺らも詳しい訳じゃ無いしな…」
歌詞作りが進まない南さんを見て俺達も頭を悩ませる。
これは俺と太陽もさすがにアドバイスのしようがない。
「でもこれじゃラブライブに間に合わない可能性すらあるしな…」
「そうですね…」
「ただ折角南さんが真剣に取り組んでくれているから白紙に戻す様な事はしたくない」
「…そうだ!」
その時、ここまで口を開いていなかった高坂さんが何か閃いたように話す。
「私に良いアイデアがあるよ!」
「アイデア?」
高坂さんのアイデア…頼っても良いのだろうか?
「何で私まで!」
「当たり前でしょ!海未ちゃんも一緒だよ!」
「あはは…」
そこから数日。
作詞の進捗は変わらず見られず、高坂さんのアイデアを実行に移す時が来た。
そのアイデアは…
「…何故メイド服なのですか…」
そう。南さんと一緒にメイド喫茶で働く事だった。
現在俺の目の前にはメイド服を着こなす3人が立っている。
堂々としている高坂さん南さんの2人に対し、園田さんはもじもじしながら今にも消えてしまいそうな程小さくなっていた。
…本来バイトが禁止なのはもう突っ込んでも意味がないな。
「秋葉原について考える作詞なら実際にその場所で考えた方が何か思い付くんじゃないかなって」
確かに高坂さんが言う事も一理ある。
普通に考えても思い付かないなら環境を変えてやればいい。
秋葉原についての歌詞なら秋葉原で考える。シンプルだがとても良いアイデアだと思う。
「でしたらわざわざメイド喫茶でバイトしなくても!」
「そこはほら、同じ幼馴染なんだし」
「理由になってません!」
顔を赤くしながら高坂さんに詰め寄る園田さん。
恥ずかしがり屋な園田さんにとっては派手なメイド服で接客をするという事は中々ハードルが高い。
でも一度スイッチ入るとライブ中に投げキッスするくらい大胆になるんだけどな…
「いいじゃんいいじゃん。園田さんの恥ずかしがり屋が治るキッカケになるかもしれないし」
そう園田さんのメイド服姿を見て言うのは執事姿の太陽だった。
メイド喫茶の店長に、「1人執事の店員が欲しかったのよ!あなた執事やってお願い!」とスカウトされていた。
太陽は二つ返事でOKを出し、何の躊躇いもなく執事服に着替えていた。
外見がめちゃくちゃ整っている太陽は凄く様になっており、普通の女性なら一発でイチコロになるだろう。
高坂さん達は普通なのかって?ああ普通じゃないよ。
だって太陽に対して赤面の一つもしないんだもん。太陽で靡かないなら誰に靡くんだよ。
…まぁそれはさておき、ちなみに俺は厨房スタッフとして働く事になっている。
「得意な事は何?」って店長から聞かれたから一応レストランでシェフしている事を生かして料理には自信ありますって言ったら「丁度厨房スタッフが足りてなかったのよ!採用!」と言われた。
別に俺は働きたいとは言ってないんだが…
まぁ時間はあるしお金が貰えるなら別に良いや。
「さぁ!お客さんが来るよ!」
「うん!頑張ろう!」
「…こうなれば、腹を括ります!」
こうして、作詞のヒントを見つける為俺達のメイド喫茶がオープンした。
「お帰りなさいませ。ご主人様!」
「うぉぉぉぉぉ!ミナリンスキーちゃーん!」
「ただいまぁぁぁ!!会いに来たよー!!」
「愛してるぞー!!」
「「「「も、萌え〜…」」」」
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
「「「キャァァァァ!!!格好いい!!!」」」
「こっち向いてー!!」
「握手して握手!!」
「ジャニーズの人!?初めてこんなにイケメンな人見たわ…幸せ…」
結論、大盛況だった。
主に南さんと太陽の力が凄く、男性、女性それぞれの人気が高く客足が一向に衰えない。
予想していなかった訳ではないが、随分と初日からハードなバイトになったものだ。
「すご…何この人気…」
「ミナリンスキーの人気は言わずもがな。朝日先輩も1年生の間でもファンクラブが出来てる程人気が高いんです」
「ああ、知ってるわそれ。3年生でも話題になってる」
「確かに凄いイケメンやもんなー。朝日君って」
「クラスの子に羨ましいって凄い言われるにゃ」
「今時ジャニーズにもいないわよ。あそこまで顔立ちが整ってる人」
「…あれ、えりちもしかして朝日君の事好きなん?」
「な、何でそうなるのよ!」
どうやら他のμ'sの面々も来ている様子。
太陽について話しているみたいだな。
この人気ぶりを見たら当然の反応だ。
「そういえば冬夜君はどこにいるんやろ」
「…希こそ氷月君の事好きなんじゃないの?」
「確かに前から気になってたのよ。1人だけ名前呼びだし」
「そ、そうなんですか希先輩!?」
「…好きって言ったら皆どうするん?」
「「「「「え」」」」」
…何か俺の話してないか?
ずっと太陽の話題でいいじゃん。何で急に俺なんだよ。
「すいません!注文入りました!6番テーブル愛情たっぷりふわふわオムライス2つと7番テーブル愛情じっくりビーフシチュー2つでお願いします!」
おっと注文が来たな。
「かしこまりました。これを2番テーブルに。これを4番テーブルに。これを5番テーブルにお願いします」
「も、もう出来たんですか!かしこまりました!」
こちとら普段のバイトでこうゆうのは慣れっこなんだ。
これぐらいの忙しさはどうって事無い。
「ちょっと海未ちゃん洗い物ばかりして!もっとお客さんと話したら!?」
今度は洗い場から会話が聞こえる。
これは高坂さんの声だな。
「メイドは本来こうゆうのが仕事です」
「屁理屈ばっかり!」
まだスイッチは入っていないみたいだ。
ホールに出る事にまだ勇気を出せていないらしい。
「これもお願いします」
沢山の洗い物を持った南さんが洗い場へやってくる。
「は、はい!」
園田さんは返事をするが忙しいのか表情が硬い。
「海未ちゃん笑顔笑顔!」
「は…また私…」
「忙しいのは分かるけど、こうゆう時こそ笑顔ね!」
南さんはそう言うと柔らかな笑みを浮かべ洗い場を去っていく。
…なんか働いてる時の南さんちょっとキャラ違うな。
「お疲れ様です!」
日が暮れると同時に少しずつ客足も落ち着き、ようやくバイト初日が終わった。
「凄いです!今までと比べて3倍の売上です!」
「やったー!!」
「お客さんいっぱい来たもんねー」
大部分は南さんと太陽のおかげだが、高坂さんと園田さんも人気が高かった。
μ'sが働いてると知って来店するファンも多く、高坂さんと園田さん目当てで来た人も沢山いた。
あの客の数を見れば今日の売上にも納得がいく。
「凄いよ!全部南さんと朝日君と高坂さんと園田さんのおかげだよ!」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!…」
お礼を言われ素直に返す高坂さんに対し、南さんはどことなく浮かない顔をしている。
「…氷月さんも凄い頑張っていましたが…」
園田さんがぽつりと呟く。
だがその声は誰にも届いていない様だった。
「さ、皆今日はお疲れ様!また明日もよろしくお願いね!朝日君、氷月君、高坂さん、園田さんもありがとね」
店長の締めの言葉が入る。
これで正式に今日のバイトが終了した。
他の従業員も次々と店を出ていく。
「ふぅ…さて帰るか」
俺も今日は疲れた為そそくさと準備し帰ろうとする。
裏口に停めてあった愛用の自転車に跨がった時、不意に声を掛けられる。
「氷月君!」
「…南さん」
そこにいたのは、急いで来たのか少し息を切らしている様子の南さんだった。
メイド服を脱いでない所を見ると、まだ帰る支度はしていないみたいだ。
「どうした?」
「今日はありがとう。氷月君のおかげだよ」
…売上の事かな?
今日店が繁盛したのは別に俺関係ないけど。
「お客さんがいっぱい来た事なら俺は関係ないぞ」
「ううん。氷月君がいなかったらこんなに上手に回って無かったよ。料理作る手際が良くて本当に助かったんだ。そのおかげでお客さんを待たせる事無く円滑に回せたんだもん。店長も褒めてたよ?氷月君がいなかったらどうなっていた事かって」
なるほど。確かに常に2、3品くらいは同時進行で作ってた気がする。
普段のバイトでもこのスタンスだけど。
「そうゆう事。分かった素直に受け取っておくよ。南さんはそれだけを言いにわざわざ来たのか?」
「あ、うん。あまりにも皆氷月君に触れないからつい…」
「そっか。ありがとねわざわざ」
別に気にしてなかったから良かったんだが南さんの気遣いは素直に嬉しい。
頑張りを認めるっていうのは凄い大切だからな。
「じゃあ、私はこれで…」
「あ、ちょっと待って」
俺は立ち去ろうとする南さんを呼び止める。
折角の機会だし胸の内を聞いておくか。
「…?…」
可愛らしく首を傾ける南さん。
俺は歌詞の進捗を聞く事にした。
「歌詞はどう?何か浮かんだ?」
「うーん…それがまだ…何か浮かびそうで浮かばない感じで凄いもどかしいんだ」
「そっか…まだ難しそうだね」
まだ歌詞は浮かんでいない様だが少しはヒントを得れたみたいだ。
僅かだが学校で考えていた時より表情の曇りが少し減っている気がする。
とりあえず秋葉原に来たのは無駄では無かったという事だ。
ここで俺は一つ疑問に感じていた事を南さんに聞く事にした。
「南さん。前にメイド喫茶でのバイトを始めたのは自分を変える為だって言ったでしょ?」
「うん」
「それって何で自分を変えたいって思ったの?」
そう。疑問はそれだった。
自分を変えたいという事は少なからず周りに劣等感を感じているという事だ。
南さんが何に対して劣等感を感じているのかは分からない。
その為そこは聞いておくべきだと感じた。
少しだけ間を開けると、南さんは質問に答えてくれた。
「…私には何も無いから」
「…何も無い?」
「うん。穂乃果ちゃんみたいに皆を引っ張っていける訳ではないし海未ちゃんみたいに皆をまとめる事も出来ない。私はいつだって皆についていってるだけ…だからスカウトを引き受けたの。自分が変われるヒントになるかもって」
「そうゆう事」
南さんが感じていたのは高坂さん、園田さんに対しての劣等感だったようだ。
俺からすれば南さんも個性の塊なんだが…
「私、今もたまに感じるんだ。今μ'sとしてスクールアイドルやってるけど…私がここにいる意味あるのかなって」
そう言い南さんは暗い表情を浮かべながら俺から目線を外す。
ここにいる意味。南さんの悩みは思った以上に重たい物だった。
「私はちゃんとμ'sとして必要とされてるのかな…?…皆に助けてもらってばかりで…」
「大丈夫だよ」
俺は南さんの言葉に被せる様に言った。
「…え?」
「南さんが必要とされていない訳がないだろ。まず南さんがいなかったら衣装はどうする?いつも睡眠時間を削ってまで作ってくれて本当に助かっているんだ。新曲発表前になると毎回目の下に隈が出来てるし授業中の居眠りも何度かある。そんなになるくらいいつも身を削って頑張ってるじゃんか」
「…!…」
俺の言葉に驚く南さん。
まだ俺は止まらない。
「第一、南さんは縁の下の力持ちタイプなんだ。高坂さんや園田さんとは違うタイプ。だから二人の様になる必要は全く無いし、きっとなれない。だけど逆に高坂さんも園田さんも南さんには絶対なれない。だから南さんだけの良さがあるんだよ」
「私だけの良さ…」
「そうだ。南さんがいる事によって話し合いが円滑に進むんだよ。後空気が壊れない。高坂さんと園田さんが衝突してもその橋渡し役になっているのはいつだって南さんだ。これは他の誰にも出来ないよ。後は声も特徴的だ。南さんの声が好きって言うファンも多い。これは紛れもなく南さんだけの長所だよ」
俺の言葉に少しずつ南さんの表情が明るくなっていく。
「メイドを始めた事で間違いなく南さんは成長してるし胸を張っていい。太陽から聞いたよ?リーダー決めの時のビラ配りだってぶっちぎりで1位だったみたいじゃん。それって絶対メイドやってた成果だよ」
最後に俺は微笑みながら言う。
「助けられてるなんて皆同じ。俺も太陽も皆も南さんに何回も助けられてる。南さんがここにいる意味はね、間違いなくあるんだよ」
「氷月君…」
俺が言い終わると南さんは目尻に涙を浮かべながら微笑んだ。
「ありがとう!」
満面の笑み。それは思わず惹かれてしまうほど美しくて可愛らしいものだった。
俺は思わず目線を外す。
「…?…どうしたの?」
「…何でもない」
太陽なら間違いなく鼻血を出してたレベルだ。
カリスマメイド恐るべしだな…
「顔ちょっと赤いよ?」
「え、いやこれはただ暑いだけだ。そんなことより、メイドの仕事は楽しい?」
俺はこれ以上模索されたくないので急いで話題を変える。
バレてはいけない…
南さんの笑顔に見惚れましたなんて…
「うん、楽しいよ!スカウト受けて本当に良かったって思ってる」
「そっか」
微笑みながら楽しそうに話す。
心の底から楽しんでメイドをしているのが分かる。
続けて南さんは言った。
「この街は自分の多様性も優しく受け入れてくれる…変わろうとしている自分を包み込んでくれて、まるで希望が溢れてくる様な感じなの。だから私はこの街が好き!」
嬉しそうに話す南さん。
驚いたな。どうやら俺の想像以上に秋葉原への思いは強いらしい。
この言葉が出るならもう大丈夫そうだ。
俺は少し微笑みながら南さんに言う。
「それでいいじゃん」
「…え?」
「歌詞。今南さんが言った事、思った事をそのまま歌詞にすればいいんじゃない?」
南さんが気付かず発した言葉は紛れもなく見つけれなかった歌詞作りの答えだった。
秋葉原を意識した曲なんだから秋葉原への思いをそのまま歌にすれば良い。
何でこんな簡単な事に気付かなかったんだろうな。
「そっか…うん!何か掴めた気がする!」
南さんの表情が自信に染まる。
これなら歌詞作りはもう問題無いだろう。
「それなら良かった。期待してる」
俺はそれだけ言うと自転車に跨りペダルに足をかけ一気に走り出す。
これ以上は歌詞作りの邪魔になるからな。
「氷月君!本当にありがとうー!!」
南さんの声が背中越しに聞こえる。
俺を背を向けたまま手を振って返す。
これで今俺に出来る事は終わった。後は曲の完成を待つのみ。
俺は次の新曲に期待を膨らませながら、帰路につくのであった。
「初めてまして!音乃木坂スクールアイドルμ'sです!」
そして迎えた路上ライブ当日。
それからの南さんの作詞はこれまでと雲泥の差になる程進み、あっという間に一曲を書き上げた。
秋葉原への思いが沢山詰まった南さんらしい作詞。
それでいて元気が貰える素晴らしい曲に仕上がった。
そして衣装は秋葉原を意識し全員メイド服。
周りからは可愛い、綺麗、萌え…と声が飛び交っている。
ビラ配りも積極的に行い、元々あった知名度もあり本番は沢山のお客さんに恵まれた。
「もっと私のライブを見てもらいたくて、初めての路上ライブを開催する事に決めました。今日に向けて新曲も作りました。練習も沢山して、緊張もしてます。でも、皆さんに楽しんで頂けるように精一杯歌います!」
高坂さんのMCが終わる。
すると入れ代わりで南さんが前へ出る。
一度深呼吸をすると、真っ直ぐな瞳で曲の始まりを言った。
「聞いて下さい」
【WonderZone】
「いやぁ楽しかったね!!まだドキドキが治まらないよ」
日暮れの神田明神。
そこには3人の少女がいた。
「それにしても本当に氷月さんには頭が下がります」
「うん。氷月君が居てくれて本当に良かった」
結論。路上ライブは成功だった。
その後は急遽握手会が行われる程大盛況であり、全員がこの路上ライブに確かな手応えを感じていた。
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんもありがとう!私の為にいろいろ…」
「ううん。そりゃ同じμ'sで幼馴染だもん当然だよ!」
「そうです。当たり前です」
「…でも海未ちゃんメイド嫌がってたけどね」
「ちょっと穂乃果!それは今は言わない空気だったでしょう!」
「あはは…」
二人の言い合いに苦笑いをするのは南ことり。
ことりからすればこのやり取りは何度も見てきた光景だ。
「それにしても、私達ずっと一緒だよね!」
空を見上げながら言うのは高坂穂乃果。
「そうですね。小学生の頃からの付き合いですから」
園田海未もすかさず返す。
「小学校…中学校…そして高校。ずっと3人で過ごしてきて気づいたら皆でアイドルやってる。これって凄いことだよね!」
「…まさかこうなるなんて想像してませんでしたよ」
3人の絆の深さを再認識しながら楽しそうに話す2人。
その中、ことりは一人浮かない顔をしていた。
すかさず穂乃果が気づく。
「ことりちゃんどうしたの?」
「…いつまで、3人一緒に居られるのかな?って思って…」
「…確かに、いずれは…」
ことりの言葉に少し重たい空気が流れる。
しかし穂乃果がすかさず吹き飛ばす。
「何言ってるの!ずっと一緒だよ!」
「…穂乃果ちゃん」
「二人は一緒に居たくないの?」
穂乃果の問いかけに二人はすかさず反応する。
「そ、そんな!一緒に居たいよ!」
「私だって!二人は大切な親友ですから」
二人の返答を聞くと、穂乃果は笑顔を浮かべながら言う。
「じゃあ一緒にいようよ!」
「うん!」
「はい!」
穂乃果の言葉にことりと海未にも笑顔が戻る。
さっきまでの重たい空気は一瞬で吹き飛び穏やかな空気に再び戻る。
そして続けてことりが言った。
「ずっとずっとずーっと一緒に居ようね!」
「ふぅ…後は南さんの所で最後か」
早朝。一人の少年が自転車を走らせる。
「あれ、郵便屋来てるな」
目的の家が見えてくると、門の前に郵便屋がいる事に気づく。
そして、郵便屋は1枚のエアメールをポストに入れた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。若いのにこんなに朝早くから凄いね!」
目的の場所に到着し郵便屋と挨拶を交わす。
ついでに少年は郵便物の正体を聞いてみる事にした。
「ありがとうございます。所で今入れたのってエアメールですか?ここ僕の友達の家で」
「へぇー友達のお家か。俺も内容は良く分からないけど、海外から届いたエアメールらしいよ。あ、次の配達行かなきゃ。じゃあ頑張ってね」
郵便屋はそう言うとそのまま去っていった。
残された少年。
ポストをジッと見つめながら少年、氷月冬夜は郵便屋が言った言葉を呟いた。
「…海外からのエアメール?」
噛み合った歯車は、軋む音を立てながら少しずつ狂っていく。
「先輩禁止よ!」
μ'sのリーダー高坂穂乃果の発案により合宿に行く事となったμ's。
そしてその先で絵里の提案により先輩後輩の垣根を外す事に。
「お願い!氷月君も来て!」
「何で俺に執着するんだよ」
μ'sからのラブコール。
嫌がる冬夜。しかし結局は合宿に同行する事に。
「皆の水着姿可愛い…」
「太陽。鼻血出てる鼻血」
女性9人に対し男性2人の比率!
これは何かが起こりそうな予感…?
〜次回ラブライブ〜
【第18話 μ's強化?合宿 前編】
お楽しみに。