多忙につき不定期更新になりますのでご了承下さい。
「音乃木坂が廃校になるらしいぞ!」
バイトを終え、軽い朝食を摂った後学校へと向かった。
すると、教室に入った瞬間目の前にやたら鼻息の荒い男が現れた。
「……で?」
「いや……で?ってお前は気にならないのかよ!?」
大体言いたいことはわかった。
とりあえず顔を近づけるのはやめてくれ気持ち悪い。
俺にそっちの趣味はない。
「顔を離せ。お前にはあるかもしれないが俺にはそういう気はない」
「は?いや、俺にもねぇよ!」
そう言えば紹介がまだだったな。
こいつの名前は朝日太陽(あさひたいよう)。
小学校からの友達で、外見良し、スポーツ万能、成績は学年2位といった正にパーフェクトヒューマン。
腕っぷしも強く困った人は放っておけない強い正義感をも持ち合わせるラブコメ主人公のような奴だ。
本当にいるんだな。そんなやつ。
しかし一つだけ欠点を挙げるなら、こいつが女好きであるという事。
だがそれでもモテる要素は充分過ぎるほどあるため、中学の時はファンクラブもあった程だ。
まぁざっくり言うと、俺の真逆といった所か。
「どうせお前の言いたいことは音乃木坂が廃校になればうちと統合するかもしれないとかそんなとこだろ」
「すげぇ!良くわかったな!エスパーかよ!?」
いや誰でもわかるわ。
ちなみに俺と太陽が通っている学校は、楠木坂高校(くすのきざかこうこう)という場所だ。
女子高である音乃木坂に対し、うちは男子高。
そのため実は音乃木坂が廃校になれば、楠木坂と統合し共学になる可能性は充分にある。
これは余談だが、楠木坂に通っている理由は、入試の際テストの合計点数が高いトップ3の人は学費が免除になるからだ。
その時に太陽は全体2位を獲得し、見事学費免除となった。
ちなみに1位は俺だが。
「お前は何とも思わないのか!?女子のレベルが高いと言われているあの音乃木坂の女子生徒と一緒になるんだぞ!?テンション上がるだろ普通!」
「上がらん」
もしかしたらそれが一般の男子生徒の考えなのかもしれんが生憎俺はそういうのには興味が無い。
…だがさっきも言ったが俺にそっちの趣味は無い。断じてだ。
「ていうか廃校はもう決定なのか?」
「いや、わからん」
なんだよまだ決まってないのかよ。
なんで廃校になるのが決まってる様な口振りで話してるんだよ。
「でも、統合になればこんなむさ苦しい生活とはおさらばだぜ!?学費免除だから通ってるけどさー」
確かにここら辺で学費免除のシステムがあるのはここだけだな。
まぁ太陽の愚痴も今に始まった事じゃないし無視するか。
「とりあえず俺は統合になろうがどうしようが静かに過ごせればそれでいい」
俺はそれだけ太陽に告げると机に伏せた。
「相変わらず冷たいのな」
生憎、そういう性格なもので。
「冬夜、3番テーブルにシェフのきまぐれオムライス一つ頼む」
「はい」
時間は過ぎ去り、現在はとあるレストランで厨房のバイトをしている。
晩御飯時というのもあり、店内は満席。
あまり広くないくせにやたら客が来るから忙しいったらありゃしない。
ありがたい事なんだけどさ。
「5番テーブル、特製ハンバーグセット、特製ステーキセット、おろしチーズハンバーグセット」
「お、早いな。了解した」
「次、3番テーブルシェフのきまぐれオムライス」
「助かる!ありがとう」
その後も慣れた手つきで次々に料理を完成させていく。
その時だった。
「おい!これどういうことだよ!」
ホールからの怒声に厨房のメンバーも手を止める。
「この料理に髪の毛が入ってるじゃんかよ!なんだよこの店は客に髪の毛食わすのか?」
「す、すいません!すぐに新しい料理と……」
「ふざけんな!そんなので許されるかよ!そうだなー……じゃあ全メニュー9割引きにしてくれたら考えてやるよ。ハッハッハ!」
シーンとしたホール内に気味の悪い笑い声。
様子を見ようと厨房の隙間から顔を出しホール内を見渡す。
居心地が悪そうに表情を歪める者、あくまでも無関係を貫く者、足早に店を出ていく者。
あーあ…めんどくさい事になってるな。
穏便に済めばいいが…
いや、無理か。
「で、どうなんだ?9割引にしてくれるのか?」
「えっ……と……それはさすがに……」
完全に対応に困り果てるバイトの女性。
なんでこんな時に店長休みなんだよ。
「もういいや。お前じゃ話にならん。店長呼べ店長」
「……すいません……店長は不在でして……」
「ああ!?」
「ひっ……」
バイトの女性は完全に萎縮してしまっている。
「チッ!じゃあこの料理を作ったやつ呼んでこい!」
「は、はいぃぃ!!」
クレーマー客にそう言われるとバイトの女性はすぐさま俺の元へやってきた。
早……
「あ……あの……」
「わかってる」
完全に怯えている様子の女性に一言告げ、俺はクレーマーの元に向かった。
ていうか何だよこの展開。
めんどくせぇ……
視点:???
「早く作ったやつを出せ!」
んー…なんでこうなっちゃったんだろう?
「空気最悪」
「そうね。早く治まってくれるといいんだけど」
「さすがのお姉ちゃんも食べる気にはなれないみたいだね」
「うん。まぁね」
家族でただ晩御飯を食べていただけ。
なのに運悪く出くわしてしまった居心地の悪いこの状況。
これがクレーマーって人なのかな?
「こら穂乃果。あまりジロジロ見ないの。こっちにとばっちりがきたらどうするのよ」
「でも、あの人わざと……」
だって見ちゃったんだもん!あの人が自分の髪の毛を料理に入れてる所!
「言いたいことはわかるわ穂乃果。私も見たもの」
「え、お母さんも?じゃ、じゃあ!」
「でも」
「……」
「ああいうタイプはたちが悪い。どれだけ見たと騒いでも証拠がない以上ただただ刺激してしまうだけよ」
確かにお母さんの言うとおりだ。
私達が持ってるのはただの目撃情報だけで証拠がない。
うー……でももどかしいよ!
お店の人は何も悪くないのに……
このお店好きなのに……
どうする事も出来ずに項垂れたその時だった。
「お呼びでしょうか?」
クレーマー客の元に私と同年代っぽい男性が立っていた。
もしかして…あの人がシェフ?
「なんだよ餓鬼じゃねぇか。お前がこの料理を作ったのか?」
「はい」
男性がそう答えた瞬間、クレーマーはニヤリと笑った。
「よりによって若いスタッフ……」
お母さんや妹の雪穂も不安そうな表情でやり取りを見守っている。
どうしよう……このままじゃ……
お店の人が可哀想だよ……
しかし、その心配は杞憂に終わる。
「髪の毛入ってたんだけどどう責任取ってくれるんだ?」
客の威圧的な態度にも焦ることなく、余裕そうな表情を保つ冬夜。
そして、少し口角を上げると冬夜が口を開いた。
「お言葉ですがお客さま。厨房スタッフはこういう風に髪の毛が入らないよう細心の注意を払い提供しています。そして皆さん帽子も深く被っていらっしゃいます。それこそ髪の毛が見えない程に。なので料理に髪の毛が入る事はないかと」
淡々と言葉を紡ぐ冬夜に、オレンジ色の髪をしたサイドテールの女の子は驚いていた。
「凄い……怯む事なく堂々と……」
「若いのにやるわね」
しかし、当然クレーマーも引くはずがなかった。
「ああ確かに他の奴らは髪の毛が見えねぇな。でもお前はどうなんだよ!?帽子からはみ出した髪の毛が目元を覆って気持ち悪い!お前が料理を作ったんだからどう考えてもお前が原因だろうが!?全くこれだから無知な餓鬼は」
そうだよ!確かに他の人のフォローにはなっているけど肝心の自分の無実を証明出来てないじゃん!
思わず飛び出しそうになるが、ぐっと堪え行く末を見守る。
「おっと失敬。確かに私の髪の毛は帽子からはみ出す程長いです」
「だろ!?だからお前が原因だと言ってるんだよ!」
「もしかしてお気づきになられてない?」
「……は?」
冬夜からの問いにキョトンとした表情を浮かべるクレーマー。
しかしキョトンとした表情をしているのは他の客もスタッフも同じだった。
「その様子だと気づいていないみたいですね。もう一度言いますよ?私の髪の毛は帽子からはみ出す程長いです」
そして冬夜は帽子を脱いだ。
「それがどうしたんだ!さっきから訳のわからない事を!」
「私の髪の毛にしては短すぎる。そう言っているのですよ私は」
「……え?」
冬夜は自分の髪の毛を一本抜くと、クレーマーの持ってる髪の毛と照らし合わせた。
「やはり、私の髪の毛の方が倍以上ありますね」
「……」
次第に口数が減っていくクレーマー。
しかし、まだクレーマーはまだ引かなかった。
「お、俺がわざと入れたとでも言うつもりか!?俺は絶対に入れてない!お前たちの中の誰かが入れたんだ!間違いない!」
「それもそうですね」
「だろ!?だったら……」
「では監視カメラを確認しましょうか」
クレーマーの言葉を遮るかのように言った冬夜の一言はクレーマーの動きを止めた。
「か、監視カメラ?」
「ええ。今時監視カメラのついてる店なんて珍しくないですよ。勿論お客さまもご存知ですよね?」
「えっと…」
「監視カメラを確認した上、本当にこちら側の不手際だとしたら今日は全品タダで提供いたします」
冬夜の言葉にレストラン内がざわつく。
「……凄い……」
確かにあの人が髪の毛を入れたんだけど、よくあそこまで言えるね…
同年代に見えないよ…
あ、実は凄い年上とか!?
「ですが、もしお客さまのでっち上げだと判明すれば……わかっていますね?」
次第に口数が減っていくクレーマー。
さらなる冬夜の追い打ちにクレーマーの顔は青ざめていった。
「では最後にお聞きします」
その様子を見た冬夜は、とどめを刺した。
「そちらの髪の毛は、お客さまの髪の毛ですよね?」
淡々と話す冬夜。
そこには先程のクレーマーとは段違いの威圧感を放っていた。
「……ひっ……」
そしてクレーマーは……
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!!!」
何も食べないまま一目散に逃げていった。
「……」
その様子を見ていたサイドテールの女の子は唖然。
凄い……
追い払っちゃった……
「お騒がせいたしました。ではごゆっくり」
冬夜はそう告げると、厨房に消えていった。
静まり返った店内。
そして、サイドテールの女の子は小さく呟いた。
「格好良い……」
視点:冬夜
あー完全にやっちまった。
めちゃくちゃ目立った……
「あ、あの!ありがとうございます!」
自分の行動に後悔する冬夜。
項垂れているとクレーマーに絡まれていた女の子がお礼を口にする。
「え?あ、ああ。よくいるんだああいうクレーマー」
毎日のようにここでバイトしてれば自然と出会うもの。
もう慣れたよ。
まぁ最初から恐怖心とかなかったけど。
「そうなんですね……」
「ああゆうのは客と思わずにガンガン攻めた方がいいよ」
「……と言われましても……」
「だよね。難しいよね。だから今後もああゆう客来たら俺を呼んで。ほぼ毎日俺はいると思うから」
「はい!」
俺がそう言うと女の子は元気に返事をしながら嬉しそうにホールに戻っていった。
「……はぁー……」
深い溜め息をつくと、冬夜は小さく呟いた。
「俺、こんなキャラだっけ?」
いろいろイレギュラーはあるが、これもいつも通りの1ページである。
出会いはまだ加速する。
それは冬夜の全てを変える新たな1ページとなる。
物語はもう、始まっている。
~次回ラブライブ~
【第2話 ヒーロー】
お楽しみに。