急遽思い付きでねじ込んだにこにー回を含め、オリジナル回が4話も続いてしまったのでそろそろストーリーに戻ります。
ここからシリアスが結構続きます。なので皆様予めご注意下さい。
…でも、自分が本来書きたかった所なので書いてて結構楽しかったです。
あ、もしかしたらこれから冬夜を嫌いになる人増えちゃうかも。
でも、悪いやつじゃないので皆さん愛してあげて下さいね!
それでは第24話始まります。
「やったぁぁぁ!!!」
矢澤家との一件から数日。
音乃木坂アイドル研究部では穂乃果の喜ぶ声が木霊していた。
「ついに…ここまで来たわね…」
「あっという間やったね…」
感慨深く喜びに浸る真姫と希。
「このステージに…私達が…」
「凄いにぁ〜…」
うっとりとした表情でラブライブの映像を眺める花陽と凛。
「穂乃果ちゃん!」
「やりましたね!ついに…」
ことりと海未も穂乃果と喜びを分かち合う。
「何うっとりしてるのよ。ラブライブ出場ぐらいで…」
そう言うのは涙目のにこ。
不意に窓の外を向くと、
「やったわね…にこ…」
と涙を流しながら自分を褒めていた。
きっとにこが一番嬉しいんじゃないかな?夢の1つだった訳だし。
「凄いよ!?ランキング19位だよ!?」
そう。皆が喜んでいるのはこれだ。
秋葉原で行なった路上ライブ。それに加え夏休み中に仕上げた新曲である【夏色えがおで1,2,Jump!】が更なる人気を呼び、ついにラブライブ出場圏内である19位まで順位を上げることに成功した。
「コーチをやってて良かった…本当にっ…」
太陽も涙を流しながら喜んでいた。
太陽も太陽で合宿後からより一層気合い入ってたみたいだし。
「まだ喜ぶには早いわよ」
そう言いながら今来た様子の絵里が部室の扉前から歩いてくる。
確かに、絵里の言うとおりだ。
「まだラブライブに出場出来ると決まった訳じゃないわ。油断出来ないわよ」
そう。あくまでも出場圏内は【今だけ】。
ましてや19位という圏内ギリギリの順位であればいつ抜かれてもおかしくない。
ここからはより一層戦いが激しくなるだろう。
絵里は慣れた手付きでパソコンを操作すると、A−RISEの画面を見せた。
「これ見て」
そこに映っていたのは新曲を披露するA−RISEの様子。そして…
「7日間連続ライブ!?」
大々的なライブの宣伝だった。
…なるほど。ランキング1位とて一切手は抜かないって事か。
さすがは王者だな。
「この様により一層ラブライブに向けてスパートをかけてるグループは多い。20位以下に落ちたグループだって当然諦めてはいないはず。今まで以上に気合いを入れないと、いつ抜かれてもおかしくないわ」
絵里は説明する。
さすがに絵里は現実的だな。
続いて真姫が真剣な表情で言う。
「これからが本当の戦いって訳ね」
「そうゆう事よ。だから喜んでる暇はないわよ」
絵里の言葉に皆の目に火が灯る。
「よし…じゃあもっと頑張らないと!」
着実に上がるランキング。現実味を帯びたラブライブ出場によりモチベーションが上がる皆。
表情を見る限り皆やる気に満ち溢れているようだ。
「練習あるのみだよ!」
勢い良く立ち上がる穂乃果。
それに対し絵里は声を掛ける。
「とはいっても、今から何か特別な事をしてもしょうがないわ。だから…」
「勝負は学園祭…だな」
太陽が真剣な表情で言う。
「ええ。そうよ。まずは学園祭で最高のパフォーマンスをする事、これが目標よ」
数週間後に迫る学園祭。
3年生の最後であり重要なアピールのチャンスである学園祭はμ'sにとってとても大事なイベントになる。
失敗は許されない。
続いてにこが勢い良く立ち上がる。
「分かったわ!そうと決まれば早速この部長のにこに何か仕事を頂戴!」
にこの言葉に絵里はニヤリと笑うと、
「それじゃあにこ。うってつけの仕事があるわよ」
と言うのだった。
「やったー!!!」
「おめでとうございます!茶道部、午後15時からの1時間講堂使用の許可獲得です!」
生徒会室にやってきた俺達は、真剣にくじ引きに取り組む数々の部活動の様子を目にする。
どうやら講堂の使用はくじ引きで決まるらしい。
茶道部が講堂で何をするのか全く想像出来ないが…
「…何で講堂の許可がくじ引きなのよ」
「昔からの伝統らしいわ」
絵里が苦笑いで言う。
随分変わった伝統だな。
「という事は…もし外れたら…」
一抹の不安を口にする太陽。
言うな。俺も嫌な予感が止まらない。
「大丈夫だよ!ねぇにこちゃ…」
「…」
穂乃果が笑顔でにこを見るとそこには冷や汗をかきながら引きつった表情をするにこ。
まぁプレッシャーは凄いだろうな。
「それでは続いて、アイドル研究部!」
「呼ばれたぞ」
「…!…」
俺が声を掛けるとビクッと肩が跳ね上がるにこ。
…どんだけ緊張してるんだよ。
「頼んだよにこちゃん!」
「お願いね!」
「いっくにゃー!!」
メンバーからの声援が飛ぶ。
そしてにこはそれを背中で感じると、
「ふん、任せなさい!」
鼻息を荒くしながらくじ引きへと歩き出した。
…やばい、外れる気しかしない。
「そ、それでは…どうぞ…」
にこの圧に生徒会の人が圧倒されている。
そしてにこはゆっくり、少しだけ震えた手でハンドルを手に持った。
「見てなさい…」
ゆっくりハンドルを回すにこ。
真剣な表情で見つめる者、手を合わせて祈る者、あまりの緊張感に目を瞑る者、手を擦り合わせながら神頼みする者と皆も落ち着かない様子。
そしてついに、その時は訪れた。
「「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」」
ーーーーーポトッ。
「どーしよぉぉぉ!!!!?」
「終わった…絶望だ…」
結論、にこはくじを外した。
講堂が使えないショックでμ'sは頭を抱える。
「し、仕方ないでしょ!?くじ引きで決まるなんて知らなかったんだから!」
「あー!開き直ったにゃ!」
「うるさい!」
「ひっ…」
外れてしまったのはしょうがない。運試しである以上にこ自身には非は無いが、結果的にくじを引いたにこの責任になってしまっている。
…まぁこうなるんじゃないかって思ったけどさ。
「何で…外れちゃったの…」
涙を流しながらショックを受ける花陽。
にこの運が悪かったのが原因です。
「にこっち…うち、信じてたんよ?」
希も珍しく落ち込んでいた。
にこの運が悪かったのが原因です。
「どうしよーー!!?」
「まぁ…予想されたオチね…」
頭を抱える穂乃果に残念そうに髪の毛をいじる真姫。
他にも体の力が抜け絵里にもたれかかる海未や、俯くことり等μ'sへのダメージはデカイ。
「あー…ラブライブが…ラブライブが…」
太陽に至ってはこの世の終わりみたいな顔をしている。
絶望しすぎだお前は。
「うるさいうるさいうるさーい!!悪かったわよー!」
ダメージを受けたのはにことて同じ。
涙目で開き直る様子がショックを隠しきれていない事を証明している。
「外れてしまったものはしょうがないだろ」
「冬夜…」
「所詮は運試し。講堂が使えないなら他の手を打つまでだ」
俺はやんわりにこを庇うように言った。
さすがにこのままにこが責められるのは違うしな。
「そうね、切り替えましょう」
俺の意見にすぐ様反応する絵里。
そしてにこは疑問を俺にぶつける。
「でも、他の手ってどうするのよ?体育館やグラウンドは運動部が使うだろうし」
「それを今から考えるんだよ」
そんなホイホイ解決策なんて出る訳が無い。
場所も時間も限られてるし9人が満足に踊れる場所を確保するのは今からは難しい。
「んー…部室とか?」
にこが言う。
部室か。部室でやると…
「いっくよー!!」
うん。窮屈すぎる。却下。
「狭いよ!…じゃあ廊下は?」
続いて穂乃果の提案。
廊下でやるとなると…
「μ's、ミュージックスタート!」
うん。シンプルに邪魔。却下。
「バカ丸出しね」
「何さ!にこちゃんがくじ外したから一生懸命考えてるのに!」
中々良い案が出ないなー…
俺も特別何も思いつかないし目ぼしい所は皆使われてるだろうし…
頭を悩ませるμ's。
その時、穂乃果が閃いた様に言う。
「じゃあ、ここ!!」
「…ここ?」
穂乃果が手を開きながら言う。
なるほど屋上か…屋上ならまぁスペース的には問題は無いな。お客さんもいっぱい入るだろうし。
使う部活もいないだろうし。
「ここに簡易ステージを作って、お客さんを呼ぶの!」
「屋外ステージって事?」
「カッコいいにゃ!」
まぁ部室や廊下よりは現実的だな。
天気に左右されやすいデメリットはあるけど。
「何より屋上は私達にとって凄く大事な場所でしょ?私達がライブをするにはうってつけじゃない!?」
満面の笑みで言う穂乃果。
メリットもデメリットもある場所だけど、屋上以外に選択肢は無さそうだな。
ここで絵里が穂乃果に疑問をぶつける。
「でも、屋上にどうやってお客さんを呼ぶの?」
そう。天気に左右されるデメリット以外にももう一つ。
それは集客の方法だ。
「確かに、ここならたまたま通りかかるって事は無いでしょうし…」
「下手したらお客さん0とかもあり得るわね」
屋上を見渡しながら海未と真姫が言う。
ライブのチラシを配るにしても当日はチラシ配りは出来ない。
外からくる人に屋上に来てもらう方法は正直難しいな。
あのヒフミトリオに当日のチラシ配りをお願いする手もあるが、自分のクラスの出し物もあるだろうしあまり現実的では無いな。
絵里達の疑問に対し少しだけ考える素振りを見せると、穂乃果は自信に満ちた表情で言う。
「じゃあ、大きな声で歌おうよ!」
それは予想斜め上の提案だった。
「大きな声で歌うって…そんな簡単な事で解決出来る訳…」
「校舎の中や外を歩いてる人にも聞こえるくらい大きな声で歌おうよ!そうしたらきっと皆興味を持って来てくれるよ!」
にこの言葉を遮る様に言う。
集客は自分達の歌声で。中々面白い提案するじゃん。
「穂乃果らしいな」
太陽が微笑みながら言う。
お前はそっち側につくと思ったよ。
「自分達の実力で客を集める…こんなワクワクする事は無いぜ?俺は賛成だな。穂乃果の案に」
「太陽君!」
続いて絵里が口を開く。
「確かに、穂乃果らしいわね」
「絵里ちゃん…ダメ…かな?」
「いつもそうやってここまで来たんだもんね。μ'sってグループは」
微笑みながら言う絵里。なるほど、絵里も賛成派か。
よく見たら他の皆も満更でも無さそうだ。
「確かに、それが一番μ'sらしいライブかもね」
希も絵里に続く。
「冬夜はどうなんだ?」
太陽が俺に話し掛ける。
それに吊られ皆の視線が俺に集まった。
「冬夜君…」
不安そうな表情をこちらを見る穂乃果。
却下される心配してるなさては。
俺は少しだけ微笑むと、皆に向けてはっきりと言った。
「俺は皆の出した答えに付いていくまでだよ」
それに穂乃果の案。面白そうだなって思ったし。
「決まりよ。ライブはこの屋上にステージを作って行いましょ!」
「よーし、凛も大きな声で歌うにゃー!!」
「が、頑張ります!」
「じゃあ各自次の練習までに歌いたい曲の候補を出してくる事。それじゃあ早速練習始めるわよ!」
「「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」」」
反対意見は無し。やる気充分。
このままいけば、学園祭は大丈夫そうだな。
俺は少しの期待を込め、μ'sの練習を見届けるのだった。
歯車はまだ、外れない。
「あーライブ楽しみだなー!!」
帰り道。テンションの高い穂乃果が笑顔を浮かべながら言う。
「ね、ことりちゃん!」
「…え?」
穂乃果がことりに話を振ると、ことりは戸惑った様に声を上げる。
…今、ことりが悲しそうにしてた様に見えたのは気のせいか?
「あのね、穂乃果ちゃん…」
浮かない顔をしながら口を開くことり。
そこからは何かに迷っている様な葛藤が見てとれた。
「…?…」
しかし穂乃果はそんなことりに気付く様子も無く、どうしたの?と言わんばかりの目で真っ直ぐことりを見つめる。
そしてことりはそんな穂乃果を見ると、
「ライブ、頑張ろうね!」
と笑顔を浮かべながら言った。
そして穂乃果は、
「うん!!いこっ!」
と満面の笑みを浮かべながら先に歩き出すのだった。
穂乃果の背中を見つめることり。
「穂乃果ちゃん…」
そして少し悲しそうな表情を一瞬だけ浮かべると、すぐに作り笑いに変えて穂乃果の後を追った。
…間違いない。ことりは何かを抱えてる。
脳裏に過るのは合宿後に南家に届いたエアメール。
「…これはもしかすると…」
ーーー俺の直感が当たるかもしれない。
そう思いながら俺は一人、帰路についた。
「どうしたの?冬夜君から電話なんて珍しいね」
その日の夜。
俺は真実を確かめる為、ことりに電話を掛けていた。
「ああ、ちょっと聞きたい事があってな」
「何?」
「単刀直入に聞くが、ことり。何があった?」
俺がそう聞くと、明らかにことりの声色が変わった。
「…別に、何も無いよ?」
嘘だ。
さっき見せた暗い表情の数々。
何も無い訳が無い。
「俺の前では誤魔化しは通用しないよ。さっき見たことりの暗い表情が物語ってるんだよ。皆にまだ言ってない大きな悩みを持ってるって。今日の帰り道、あの時穂乃果に本当は何を伝えようとしてたんだ?」
訪れる静寂。
今ことりはどんな表情をしているのだろうか?
ことりが抱えている悩みは分からないが、きっとそれはことりにとって…μ'sにとって重要な事なのだろう。
そして少し間を空けると、やがてことりは諦めた様に口を開いた。
「見てたんだね…やっぱり冬夜君は凄いな。すぐ気付いちゃうんだもん」
「…認めたって事で良いんだな?」
「…うん」
ことりはそう言うと、抱えていた事を全て打ち明けてくれた。
「…これが、あの時穂乃果ちゃんに伝えたかった事だよ」
結果、俺の直感は当たっていた。
元々装飾やデザイナーの道に興味があったことり。
あの衣装の完成度や毎度の努力からも本気さが伺える。
そんなことりに届いた1通のエアメール。
それは俺が思っていた通り、【留学】の誘いだった。
「なるほどな。留学の道を選ぶか、皆とスクールアイドルをする道を選ぶか迷っている訳だな」
「…うん…冬夜君、私どうしたら良いのかな?」
震えた声で俺に問う。
ことりからすれば留学はとても魅力的ではあるがその反面μ'sという居場所をそう簡単に手放す事は出来ない。
留学もμ'sもことりにとって必ず+になる物だ。どっちを選んでも正解。
どちらを天秤に掛けてもことりには同じ重さなんだろうな。
…でも俺には答えを出せない。
いや、出してはいけない。
「これはことり自身が答えを出さないとダメだ。ことりの人生が大きく左右する言わば大きな別れ道だ。留学を取るかμ'sを取るか。留学を勧めたり引き止めたりするのは簡単だけど、その簡単な事でことりの人生を変えかねない。俺には責任を持てない。だから悪いけど答えは出せないよ」
俺ははっきりことりに伝えた。
「…そっか…そうだよね」
弱々しい声でことりが言う。
相当ことりは辛いと思う。
留学とμ's。必ずどちらかを捨てなければいけないのだから。
「でも、この事をμ'sの誰かに打ち明けられただけでも良かった。ありがとう冬夜君」
「良いよお礼なんて。俺はただ話聞いてただけだし。それよりことり、他のメンバーにも早めに伝えた方が良いぞ。長引けば長引くほど伝え辛くなるし、関係性も悪くなる」
今は学園祭に向けてエンジンを掛けている状態。
当然このタイミングで留学の件を打ち明ければ学園祭どころじゃ無くなる。
だが、こうゆうのは早めに伝えるのが吉。取り返しのつかない事になり兼ねない。
俺の言葉に対しことりは、
「うん」
とだけ返した。
「新曲?」
次の日。
部室に集まった俺達は学園祭で披露する曲の相談をしていた。
その最中、穂乃果が自信に満ちた表情で新曲披露の提案をする。
「真姫ちゃんの曲聴いたんだけどすっごく良くて、これをライブの最初に持っていけば絶対に盛り上がると思うんだ!」
「…ですが、振り付けとかもこれからですし他の曲のステップの再確認もあるのですよ?」
「私自信無いな…」
海未と花陽が難色を示す。
それもそのはずだ、学園祭まで後何日と迫っている中でこの提案はリスキー。
…穂乃果の提案が成功すれば大きなアピールになるのは間違いないが、失敗すればμ'sのかなりのイメージダウンになる。
「μ'sの集大成のライブにしなきゃ!ラブライブの出場が掛かってるんだよ!?」
熱のこもった瞳で皆を見渡しながら穂乃果が言う。
「まぁ、穂乃果ちゃんの言う事も一理あるね」
「だよねだよね!」
希が穂乃果の提案を肯定する。
「だけど、間に合うの?」
「大丈夫だよ真姫ちゃん!」
真姫の疑問に対しても自信満々に返す穂乃果。
「…その根拠はどこから来るのよ」
対する真姫は呆れた様に言う。
「でも、他のグループも勝負を掛けてる以上、確かに出場圏内ギリギリの私達が置きに行ったライブをする訳にはいかないわね。攻めるとすれば穂乃果の案…」
「…現実的では無いですが、そうゆう事をしていかないと生き残れないって訳ですか」
「やってやろうじゃない!」
次々と肯定の意見が飛び交っていく。
にこに至っては穂乃果に感化されたのかやる気満々だし、他の皆も満更でも無さそうだ。
畳み掛ける様に穂乃果が言う。
「ラブライブは今の私達の目標だよ!その為にここまでやってきたんだもん。このまま順位を落とさなければ本当にラブライブに出場出来るんだよ?沢山のお客さんの前で歌えるんだよ!?私、頑張りたい…その為にやれる事を全部やりたい!…ダメかな?」
穂乃果の熱い思い。
皆の表情にも段々とやる気が灯っていく。
「反対の人は?」
絵里が微笑みながら皆に問う。
反対意見を述べる者はいなかった。
「皆…」
「じゃあ決まりね。学園祭でのライブは1曲目に新曲を持ってくる。やるからには今まで以上に練習は厳しくなるわよ」
絵里はそう言うと、今度は穂乃果を見つめながら続ける。
「特に穂乃果。あなたはセンターボーカルなんだから皆よりも人一倍辛い練習になるわよ?耐えられる?」
「うん!頑張る!」
絵里の問いに対し、穂乃果は力強く頷いた。
「そうと決まれば早速振り付け考えましょう。まずは一度曲を聞聴いてから…」
どうやら話は穂乃果の提案を通す形で落ち着いたみたいだ。
…皆が納得してるなら構わないが、不安は残るな。
「冬夜」
話し合うμ'sを眺めていると、不安そうな表情を浮かべた太陽が話し掛けてくる。
「太陽。お前も感じてるか?」
「…ああ」
太陽も俺と同じ事を危惧している様だな。
「穂乃果…ランキング上昇と学園祭でより一層やる気が漲っている。漲っているが…」
「ああ、そのやる気だけが独り歩きしないか心配だ」
今はまだ穂乃果のやる気に皆着いてこれてる様子。
だが、ことりの留学の件も含めこれからのμ'sが心配だ。
「…何かアクション起こすか?」
「いや、あいつらに任せよう。俺らが手を出すべきではない」
太陽はまだことりの留学の件を知らない。
μ'sがどう進むかが重要な局面。
これはμ's自身が答えを出すべきだ。
「そうか。分かったもう少し様子を見よう。あ、そこの部分だけどこっちのステップの方が…」
太陽が話し合いに加わる。
穂乃果の提案が果たして吉と出るか凶と出るか。
今のμ'sの鍵は穂乃果だ。何事も無く学園祭を迎えればいいけどな。
止まらない嫌な予感を抱えながら俺は部室を後にした。
「…雨か」
それから数日。時間はあっという間に過ぎ、学園祭前日の夜。
厨房のバイトを終えた俺は、降りしきる雨の中一人自転車を走らせていた。
「…大丈夫かな…あいつら」
それからのμ'sの練習はバイトにより全く見れていないが、太陽曰く皆今までよりも張り切って練習に臨んでいる様だ。
しかし、1つ心配な事がある。
それは日に日に穂乃果のやる気が暴走してきているという事だ。
太陽によるとこの前…
「そうだ!ねぇ皆これ見て!」
アイドル研究部部室。突如穂乃果が皆の前で新しいステップを披露する。
「っしょ、と…これどう?」
「どうって言われても…」
「昨日の夜徹夜して考えたんだ。盛り上がるし派手だし、絶対こっちの方が良いよ!」
「ちょっと、今から振り付け変える気!?」
「いやー、思い付いた時これだって思ったんだよねー。はっ、もしかして私って天才!?」
他にも…
「も、もう動けない…」
「にこちゃん早いよ!まだまだこれからだよ!」
「えー!?冗談でしょ!?」
「さ、時間も無いんだから早く行くよ!」
「ちょ、ちょっと待って穂乃果!勘弁してよー!!」
…という事があったそうだ。
更には家に帰ってからも何時間もランニングに取り組む等穂乃果の頭はスクールアイドル一色になっている。
学校での居眠りが増えたのもそれが原因だろう。
μ'sのメンバーが穂乃果のやる気に押されているのはマズイ。
何より、穂乃果の体調や勉学が悪化するのは大きな問題になる。
危惧していた穂乃果のやる気の独り歩きが起こりつつある今、穂乃果のクールダウンを行う必要があるな。
太陽の様子からもまだことりは留学の事を話せていないみたいだし。
「…やべ、雨強くなってきた」
次第に強くなる雨足。
いくら合羽を着ているとは言えどはみ出た前髪や守りきれない下半身等濡れている箇所は多い。
これは急いだ方が良さそうだ…
そう思いながら俺はザーという雨音を耳にしながら自転車の漕ぐペースを上げる。
その時だった。
「…ん?」
不意に俺の視界にランニングをしている人影が入る。
自転車を漕ぎながら近付く俺。そしてその人影に自転車のライトが当たる。
俺の目の前に現れたもの。それは…
「…穂乃果?」
「…冬夜君…」
薄手のパーカーにフードを被りながらランニングをするびしょ濡れの穂乃果だった。
「…穂乃果、こんな所で何してるんだ。明日本番だぞ?」
俺はすぐさま穂乃果に疑問をぶつけた。
ランニングをするにしてもコンディションとタイミングが悪すぎる。
あまりアクションを起こすつもりは無かったがこれは起こさざるを得ない。
穂乃果はバツが悪そうに答えた。
「…ランニングだよ」
薄暗く、フードを被って俯いてる穂乃果の表情は分からない。
しかし、少なからずこのタイミングでの俺との遭遇がとても気まずい物である事は分かる。
「そんなのは見たら分かる。何でこのタイミングで、このコンディションでランニングをしてるのかを聞いてるんだ」
少しだけ口調を強めて言う。
ここ最近の穂乃果の暴走も含め、申し訳無いが今この場で頭を冷やしてもらう。
「勿論学園祭とラブライブの為だよ。私達には時間が無い。順位を下げない為には常に成長し続けなければいけないし、学園祭のライブだって今まで以上に良い物にしなくちゃいけない。そう思ったらお家でジッとなんかしていられないよ!」
「穂乃果のやる気は立派な物だ。俺には眩しすぎるくらいにな。でも、今穂乃果がやってるのはリスクしか無い危険な事だ」
「…リスクしかない?」
「そうだ。第一明日は学園祭本番だぞ?本来ライブの前日の過ごし方は次の日の本番で最高のコンディションで挑めるように体調を整える時間だろ。無理な追い込みで次の日の本番で筋肉痛や取れない疲労でパフォーマンスに支障をきたしたらどうする?この雨の中びしょ濡れになってまでランニングして、次の日に風邪でも引いたらどうするつもりだ?そうなればライブどころじゃ無くなるんだぞ?」
「…」
「穂乃果少し落ち着け。確かに今スパートを掛けたくなる気持ちも分かる。だが、それで体調を崩したら元も子もない。それに、それが原因で見えなくなる物だってあるんだ」
「…見えなくなる物…」
きっとことりも話し辛いはずだ。
ラブライブや学園祭で切羽詰まってる状況。ましてや穂乃果もこの様子。
だから気付くんだ。ことりの違和感に。
ことりの留学の件を一番知らないといけないのは穂乃果だと思うから。
「そう。だからもう少し周りを見よう。例えば他のメンバーにも練習のペースはある。体力だって皆同じじゃない。頑張ろうとか自分は出来る!ていう精神論じゃどうする事も出来ない場合だってある」
「…」
「穂乃果。今日は家に帰ってもう休め」
俺は真っ直ぐ穂乃果を見つめながら言った。
とりあえず言いたい事は大体言った。後はこれで穂乃果が変わるかどうか。
俺の言葉を聞いた穂乃果は相変わらず俯いたまま。まだ表情も分からない。
雨音だけが流れる無の時間。
互いに一歩も動こうとしない。
やがて暫く間が空くと、ぽつりと穂乃果が呟いた。
「…よ…」
「…ん?」
「…いけないんだよ…」
「…ごめん、雨の音で聞こえな…」
「それでも私はやらなきゃいけないんだよ!!!」
「…!…」
声を荒げながら顔を上げ真っ直ぐ俺を見つめる穂乃果。
表情、目つき、その全てから感じ取れる感情…それは、
【俺に対しての明確な敵意】
「μ'sの発端は私…学園祭のライブの数々の案も私が言い出しっぺ…私は、絶対に失敗したくない!!絶対に成功させたい!!怪我をしたって風邪を引いたって私はステージに立つ!絶対ラブライブに出て優勝して、廃校を阻止したいの!!やらずに後悔するならやって後悔したい…だから私は!!…っ…」
涙を流しながら走り去ろうとする穂乃果。
穂乃果も穂乃果で責任を感じていた。
音乃木坂スクールアイドルを作った張本人として、学園祭のライブを引っ張った張本人として、そして何より…μ'sのリーダーとして。
でも、ダメだ。この勢いのまま許す訳にいかない。
このままだと確実に壊れてしまう。
俺は直ぐ様穂乃果に声を掛ける。
「穂乃果!」
「分からないよ!!」
穂乃果は一瞬だけ立ち止まると、こちらを見ずに言う。
そして、ぽつりと呟いた一言を俺は聞き逃さなかった。
「…ステージに立たないただ見てるだけの冬夜君には、私の気持ち分からないよ…」
「…!…」
結果穂乃果は変わらなかった。
走り去る穂乃果。その後ろ姿を見つめたまま俺はただただ立ち尽くしていた。
…ステージに立たないでただ見てるだけ。
ああ、そうだよ。所詮俺は皆みたいにステージに立てる訳じゃないし太陽みたいに皆にパフォーマンスの技術を教えれる訳でも無い。
マネージャーという立場でありながらマネジメントの知識は無い。
穂乃果からすれば俺はただ見てるだけの人。
…あながち間違いでは無いな。
「…はぁ…終わったな」
顔を上げた時の穂乃果の顔の赤み、息遣い。
そして走り去った時の僅かなふらつき。
間違いなく穂乃果は風邪を引いていた。
そこから予想できるμ'sの未来。
「…絶望的だな…明日のライブ」
明日のライブはほぼ間違い無く失敗するだろう。
最悪の場合、穂乃果が途中で倒れて強制終了する可能性もある。
でも、それで良いのかもしれない。
このままだとμ'sは成長出来ない。
ラブライブ優勝?そんなのはまず不可能だ。ラブライブ出場すら怪しい。
穂乃果の状態。ことりの問題。心のすれ違い。
どちらにせよこれ以上μ'sが輝けないのなら…
失敗しなければ分からないのなら…
「…一度、0にしようか」
俺はこの瞬間、決意した。
俺は今から
音乃木坂スクールアイドルμ'sを
壊します。
ついに迎えた本番当日。
「…熱…いくつだったんだ?」
「…やっぱり…バレてるよね…」
μ'sの崩壊を決意した冬夜と本番当日に体調を崩す穂乃果。
最初で最後のこのメンバーで送る学園祭。
「…ことり、本当に良いのですか?」
「…ライブが終わったら私から話すよ…穂乃果ちゃんにも…皆にも…」
そしてことりの留学問題。
「「「「「「「「「…」」」」」」」」」
果たして、本番のライブはどうなるのか。
これはまだ、μ's崩壊へのプロローグにしか過ぎない。
〜次回ラブライブ〜
【第25話 雨のち絶望】
お楽しみに。