ラブライブ!~太陽と月~   作:ドラしん

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どうもこんにちはドラしんです。

何とか今月中にもう1話更新する事が出来ました。

間に合って良かったです。

さて、どんどん加速していくシリアスに伴って冬夜君もどんどん黒くなっていきます。

マジでそろそろ批判コメント来るんじゃないかっていうレベルですが、先に言っておきますと次回の冬夜はめちゃくちゃ嫌なやつになります。

どんな感じかは次回予告で少しだけ見せてますので、是非最後までご覧下さい。

それでは第26話始まります。






あ、活動報告にも上げましたが改めまして。UA10000アクセス本当にありがとうございました!

今後共ラブライブ〜太陽と月〜をよろしくお願いします!


第26話【不協和音】

「無理しすぎたのでは無いですか?」

 

学園長室。

 

ライブで穂乃果が倒れてしまった件でアイドル研究部の練習を管理しているコーチの太陽と、マネージャーの俺が呼ばれていた。

 

「はい。μ'sのメンバー…特に高坂穂乃果はラブライブや学園祭に目を向けすぎて明らかに練習量の度が過ぎていました」

 

「それがあの結果…あんな事になる為にあなた達はスクールアイドルを続けていたの?」

 

「…返す言葉もございません」

 

結局あの後ライブは中止になり、穂乃果は家族の迎えで早退。

 

他のメンバーも体調面を考慮され、学園祭参加の自粛を余儀なくされた。

 

全員部室で休息を取るも誰一人口を開かない。

 

当然だ。μ'sの支柱である穂乃果があんな事になってしまったのだから。

 

「申し訳ございませんでした」

 

太陽と俺が頭を下げる。

 

コーチである太陽は穂乃果が倒れた事に責任を感じ、さっきから暗い表情が取れない。

 

俺がもっとちゃんと見ていれば…

 

穂乃果の違和感に気付いていれば…

 

自分をここまで責める太陽は珍しい。

 

それ程までに穂乃果が倒れた事がショックだったのだろう。

 

「…皆の体調面を考慮して暫くスクールアイドル活動は自粛してもらいます。いいですね?」

 

学園長が真っ直ぐの瞳でこちらを見つめながら言う。

 

あんな事になったんだ。飲むしかない。

 

「で、でも皆は廃校阻止の為に一生懸命頑張っただけなんです!今回はそれが空回りしちゃってあんな結果になってしまいましたが…だから、スクールアイドル活動の自粛は勘弁して頂けないですか?」

 

活動の自粛は避けたいのだろう。頭を下げ学園長に懇願する太陽。

 

しかし、対する学園長は表情を一切変えず言い放つ。

 

「スクールアイドル以前にこの学校の生徒です。廃校阻止への頑張りは認めますがそれが原因で体調を崩し、学生の本職である勉学が疎かになるのでは元も子もありません。朝日君の気持ちは分かりますが、活動の自粛は決定事項です」

 

「…しかし!」

「諦めろ太陽」

 

往生際の悪い太陽の言葉を遮る様に口を開く俺。

 

太陽は驚く様にこちらを見つめる。

 

「冬夜は良いのかよ!μ'sの活動が自粛なんて…今の時期がどれだけ大切かお前も分かってるはずだろ!?」

 

「ああ分かってるさ。今がラブライブ出場出来るかどうかの瀬戸際な事ぐらい。でも、μ'sは学校生活に支障を来たすレベルの事をしたんだ。これくらいのペナルティは必要だよ。あいつらには頭を冷やす時間が必要だ」

 

「…冬夜」

 

「氷月君は本当に冷静ね。怖いくらいに」

 

「ペナルティを受けても仕方ない事をしたので。潔く認めるしかないです」

 

一切言い逃れが出来ない状況だ。

 

下手に抗議するとスクールアイドル活動自体を禁止され兼ねない。

 

「ラブライブは…ラブライブはどうなるんだよ!?」

 

19位という崖っぷちな状況での活動自粛。

 

これはμ'sにとって痛恨の一撃となるだろう。

 

学園祭の結果でランキングが落ちる事も予想される今、ラブライブ出場は難しい。

 

ことりの留学の件もあるしそれを知れば当然正常なライブを行える精神状態じゃ無くなるだろう。

 

これは諦めるしかない。

 

「太陽…残念だが…」

 

「嘘だろ…ここまで来たのに?…折角ここまで来たのに!?」

 

「μ'sは、ラブライブ出場を断念する」

 

「…!…」

 

「…そうね。それが妥当な判断ね」

 

泣き崩れる太陽。

 

追い打ちを掛けるように学園長が言う。

 

「…くそ…くそ!!」

 

「「…」」

 

何度も床を殴る太陽。その拳からは僅かに血が滲んでいた。

 

その太陽に対し、俺と学園長はただ見つめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、μ'sのラブライブが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。本決まりになりましたか」

 

それから数分。泣き止んだ太陽は部室に戻ると残し学園長室を去った。

 

学園長室に残った俺は、学園長から学校存続の知らせを聞かされる。

 

「ええ。入学希望者が定員より増えましたので一先ずは1年間は存続出来ます」

 

「最悪のケースは避けられたという訳ですか。良かった良かった」

 

実は学校存続になる可能性が高いという話は夏休みが終わった辺りから学園長から聞いている。

 

それが本決まりになり正式に存続が決定した訳だ。

 

マイナスな事ばかり続いてるからな。これで少しはあいつらも元気を出すだろう。

 

元々の目的は廃校阻止だった訳だからな。

 

「いち早くあなたに話したのは、この学校に残るか戻るのかの意思を改めて聞きたかったからです。本当は朝日君も一緒が良かったですが…到底そんな事聞ける状態では無かったですし仕方ありません」

 

音乃木坂の廃校が無くなる。

 

それは俺と太陽のテスト生の意味が無くなるという事。

 

元々楠木坂に戻る為にμ'sに協力していた俺達は、これで協力する理由を失う。

 

…まぁ太陽はさっきの様子を見ると最後までμ'sに尽くすとか言い出しそうだけど。

 

俺は考える間もなく学園長に言った。

 

「意思は変わりません。楠木坂に戻ります」

 

「…そう…分かったわ。でも、いつでも音乃木坂に来ていいからね?」

 

女子高にいつでも入れる…ねぇ…

 

世の男子達が羨ましがる権利だけど、俺にはいらない。

 

一度ここを去ったらもう二度とこの学校に来る事は無いだろうよ。

 

「…分かりました」

 

俺はそれだけ言うと、学園長室を出ていく。

 

一先ず廃校阻止の件はまだ伝えない。近々大々的に発表されるだろうからな。

 

今はまず、ラブライブ辞退の話をあいつらにしなければならない。

 

きっと反感を買うだろう。皆悲しむだろう。

 

でも俺は現実を叩きつけなきゃいけない。

 

きっとそれが、μ'sの次に繋がると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり…そう言われるわよね…」

 

俺は部室に戻ると、ラブライブ辞退の件を話した。

 

皆にとって大きな目標となっていたラブライブ。ようやく目標を達成まで手が届きかけた矢先の辞退。

 

どんな罵詈雑言でも受け止めよう。そう覚悟を決めたのだが、皆の反応は予想外のものだった。

 

「…驚かないのか?」

 

絵里のさっきの発言といい落ち込んだ表情には変わりはないが誰一人として口を開かないこの状況。

 

もう既に喋ったのかと思い太陽に顔を向ける。

 

「…」フルフル

 

しかし太陽は直ぐ様首を横に振った。

 

「…実は、ある程度予想出来ていたんです。そうなるんじゃないかって」

 

海未が口を開く。

 

「学園長に冬夜と太陽が呼び出しをされて、その後皆で部室で話し合ったんです」

 

「…」

 

「あの時の学園長は怒っているように見えました。それで皆薄々感じたんです。ラブライブに出られないかもしれないって」

 

確かに学園長が俺らを呼んだ時の声は少なからず怒りの感情があった。

 

「氷月冬夜君。朝日太陽君。大至急学園長室まで」

 

俺も呼ばれた時は怒られるんだろうなって思ったし。

 

「今回の事は誰かだけのせいでは無く、μ's全体としての責任。そこで私達は1つの結論を出したの」

 

続いて絵里が言う。

 

…結論?

 

「私達μ'sは、ラブライブ出場を辞退した方が良いって」

 

絵里の言葉に皆の表情がより一層険しくなる。

 

本当は皆嫌なのだろう。そんなの当たり前だ。

 

「きっとこのまま続けても同じ事が起きると思うの。だから一度リセットしなくちゃいけない。ラブライブという大きな目標を手放す事で今一度、μ'sを…スクールアイドルを見つめ直す時間を作ろうって思ったの。反対意見は無かったわ」

 

…となればアイドルに対して人一倍熱量を持つにこや花陽も賛成したのか。

 

辛い決断だったろうな…

 

「学園長からもそうゆう意見が出ると思ってたわ。冬夜君と太陽君がもしかしたら…とも考えたけど、どちらにせよラブライブは諦めるつもりだった」

 

「何にせよ、冬夜君達の方でもラブライブを辞退するって事で話が纏まってるみたいやし、これで…」

 

「…決定ね」

 

暗い表情は消えない。

 

皆に掛ける言葉が見つからない俺は、ただただそこなの立ち尽くすのみ。

 

太陽も酷く落ち込み項垂れるのみだった。

 

「…もうこんな時間ね」

 

まるでお通夜の様な重たい雰囲気。

 

その中口を開いたのは真姫だった。

 

「そろそろ自分のクラスに戻った方がいいんじゃない?いくら体調面の心配で休んでるとはいえ、さすがに学園祭の片付けも任せる訳にはいかないでしょ」

 

暗い表情ではあるが、髪の毛をいじりながら真姫は言う。

 

真姫なりに気を遣っているのだろう。

 

「…そうね。いつまでもここで落ち込んでる訳にもいかないわね」

 

「…うん…前向かなきゃね」

 

真姫の言葉を聞き、絵里と花陽が立ち上がる。

 

真姫の気遣いは場の雰囲気を変えるには充分だった。

 

「じゃあ戻ろうか」

 

太陽も少しは立ち直れたのか立ち上がると皆に声を掛ける。

 

そして次々と部室を出ていくメンバー。

 

しかし、ただ一人動こうとしない者がいた。

 

「…にこ」

 

「…」

 

そう。アイドル研究部の矢澤にこだった。

 

いつも座ってる椅子から俯いたまま一向に立ち上がる気配を見せない。

 

「…戻らないのか?」

 

俺が聞くと、今にも消え入りそうな声でにこは言う。

 

「…もう少し…もう少しだけここに居させて…」

 

「…分かった。絵里達には俺から言っとく」

 

俺はそれ以上は何も聞かず部室を去る。

 

きっと他のメンバーには見られたくない感情があるのだろう。

 

アイドル研究部の部長だから。音乃木坂の上級生だから。宇宙スーパーアイドルだから。

 

人一倍プライドの高いにこは誰よりも辛いはずなのに冷静に振る舞っていた。

 

ラブライブに一番出たかったのは間違いなくにこだった。

 

本当は泣きたかったはず。でも、にこのプライドがそうさせなかった。

 

「…今は沢山泣くがいいさ。そして、現実を受け止めろ」

 

俺は扉越しに聞こえるすすり泣く声を耳にしながら、そのまま自分のクラスへと歩き出した。

 

今の辛さ、悔しさ、絶望を絶対に忘れてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日からは学校に行けると思うんだ」

 

「そっか。それは良かった」

 

学園祭から1週間。

 

冬夜を除いたμ'sの面々は穂乃果の家にお見舞いに来ていた。

 

どうやら一昨日から熱は下がっていたらしく、部屋に来ると穂乃果はケロッとした様子で笑いながらこちらに手を振っていた。

 

「…にしても凄い食欲ね」

 

絵里が空いたプリンの容器3つをチラッと見ると、4つ目のプリンを食べる穂乃果を見て苦笑いしながら言う。

 

学園祭の一件でかなり落ち込んでると思っていたが元気そうで何よりだ。

 

「そういえば、花陽ちゃん達と冬夜君は?」

 

穂乃果が首を傾げながら言う。

 

可愛い。

 

「全員で押しかけたら迷惑かと思って花陽と凛と真姫には外で待っててもらってます。冬夜はバイトがあって残念ながら来れませんでした」

 

「そっか…」

 

海未の言葉に穂乃果は残念そうに言う。

 

そんなに冬夜に会いたかったのか?あいつも順調に好かれてるな。

 

「そうだ。穂乃果これ」

 

絵里は1枚のCDを穂乃果に手渡す。

 

「…これは?」

 

「真姫がリラックス出来るようにピアノで弾いてくれた曲よ」

 

何それ!俺もめちゃくちゃ欲しいんだけど!

 

「真姫ちゃんが…」

 

穂乃果はCDを手に取ると、立ち上がり窓を開ける。

 

…何する気だ?

 

「真姫ちゃーん!!ありがとう!!」

 

「穂乃果!近所迷惑です!」

 

外にいる真姫に向かい叫ぶ穂乃果。

 

いかにも穂乃果らしいな。

 

「…全くもう…」

 

「ふふ、元気そうだね」

 

「あー!真姫ちゃん照れてるにゃ!」

 

「て、照れてなんてないわよ!」

 

お礼を言われた真姫は顔を少し赤らめながら髪の毛をクルクル弄る。

 

冬夜が真姫は分かりやすいって言ってたけど本当に分かりやすいな。

 

「何はともあれ、穂乃果も元気そうだし明日には復活出来るみたいだからこれで一安心だな」

 

「ごめんね…私のせいで。折角最高のライブになりそうだったのに…」

 

穂乃果が少し落ち込んだ様に言う。

 

それに対し絵里がすかさず口を開く。

 

「これは穂乃果だけじゃなく皆の責任よ。穂乃果も突っ走りすぎちゃったのも悪いし、穂乃果に任せっきりにしていた私達も悪い。だから喧嘩両成敗って事でもう誰のせいとかの話はやめましょう?」

 

「絵里ちゃん…うん。そうだね」

 

そう。誰かのせいとかでは無くこれはμ's全体の責任だ。

 

勿論穂乃果の変化に気付けなかった俺も悪い。

 

人一倍他人の変化に敏感な冬夜が気付かなかったのは少し気になるが、まぁそうゆう事もあるだろう。

 

絵里の言葉で表情が明るくなった穂乃果は、1つの提案を口にする。

 

「そうだ!学園祭の埋め合わせになるかは分からないけど、近い内にライブやらない?」

 

「ライブ?」

 

「そう!ほら、ラブライブまでもう時間無いでしょ?きっと順位も落ちてるだろうし…近い内に小さくても良いからやりたいなって」

 

穂乃果の発言に皆は表情を暗くする。

 

そうだ…穂乃果はまだ知らないんだった…ラブライブ出場を辞退する事…

 

「…?…どうしたの?」

 

暗い雰囲気を感じ取ったのか、不安そうな声色で皆に言う。

 

しかし、誰一人として穂乃果の顔を見る事が出来なかった。

 

ラブライブ出場辞退を知ったら…もうランキングにμ'sの名前が無い事を知ったら…

 

でも、伝えなければいけない。

 

皆で出したこの答えを、リーダーである穂乃果に。

 

一番最初に口を開いたのは絵里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラブライブには…出場しません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里の言葉に表情が変わる穂乃果。

 

何を言ってるか分からないといった表情を浮かべる穂乃果に、絵里は続けて言う。

 

「私達話し合ったの。きっとこのまま続けても何も変わらないんじゃないか…ラブライブに意識が集中しすぎて周りが見えなくなって、それが学校生活に支障にきたせば元も子もない。だとすればいっそ、ラブライブ出場を諦めて一度方向性を見直した方がいいんじゃないか、クールダウンする時間が必要なんじゃないかって。本当は穂乃果も交えて話がしたかった。でも、そんな時に学園長にも言われたわ。あんな事になる為にスクールアイドルを続けていたの?って」

 

「…」

 

「だから私達は決めたの。ラブライブ出場を辞退しようって。もう…ランキングにはμ'sの名前は…」

 

絵里はここで一拍置くと、真っ直ぐ穂乃果を見つめながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…穂乃果ちゃん大丈夫かな?」

 

「…凄いショック受けてたよね…」

 

帰り道。

 

その後は重たい空気を取り払えないまま時間だけが進み、穂乃果の「ごめん…1人にさせて」という一言をきっかけにお開きとなった。

 

落ち込んだ様子で穂乃果の様子を話す凛と花陽は、そんな穂乃果の状態を心配していた。

 

「穂乃果ちゃんが一番ラブライブに向けて頑張ってたよね…」

 

「でも、それが仇となった」

 

「…いくら何でも可哀想にゃ…」

 

俯いたままの1年生3人。

 

あの学園祭以降、μ'sの間には重たい空気が常に流れる様になった。

 

練習自粛の影響もあるのだろう。皆部室には顔を出すが会話は殆ど無い。

 

冬夜に至っては学園祭以来部室に来ていない状態だ。

 

穂乃果のお見舞いは少しでも重たい空気が晴れればと俺が提案した事。

 

…でも、まさかこんな結果になるなんて…

 

「いつまで落ち込んでるのよ」

 

そんな皆を見兼ねてかにこが口を開く。

 

「うじうじしたって仕方ないわ。前を見ないと」

 

にこだって辛いはずだ。

 

こうゆう所はさすがは部長といったところか。

 

「にこちゃんは辛くないの?」

 

凛がにこに言う。

 

凛の質問に対しにこは直ぐ様答えた。

 

「辛いに決まってるでしょ。ラブライブ出場は大きな夢の1つだったんだから」

 

一度スクールアイドルを挫折し、3年生という高校最後の時間に舞い降りたμ'sという大きなチャンス。

 

そのチャンスを掴みトラウマを克服してμ'sがようやく軌道に乗った矢先の出来事。

 

辛くないはずがない。

 

「あーあ…」

 

そしてにこは不意にそう言いながら空を見上げると、ぽつりと呟いた。

 

「後少しだったのにな…」

 

その言葉には、確かな重みがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、晩御飯出来たって」

 

とある家の一室。

 

一階から響く妹、雪穂の声を耳にしながら一人の少女はノートパソコンを見つめる。

 

「…お姉ちゃん?聞いてるの?」

 

反応の無い姉の様子に痺れを切らした雪穂は姉の部屋に向かうため階段を上り始める。

 

「今日はどうするの?部屋で食べるの?」

 

ひたすら声を掛けるも反応は無し。

 

そして姉の部屋に着いた雪穂はドアノブに手を掛ける。

 

「お姉ちゃん?」

 

扉を僅かに開く雪穂。そしてその手は止まる。

 

雪穂の目に写ったもの。それは

 

「うっ…くっ…」

 

一人、悔しそうに涙を流す姉。高坂穂乃果の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ…」

 

次の日。

 

学校に登校するやいなや目に飛び込んできたのはラブライブのポスターを見つめる暗い表情をしてため息をつく穂乃果の姿だった。

 

「…穂乃果復活したんだな」

 

「ああ、もう3日前から熱は下がってたみたいだ。行った時はプリン4つ食べてたわ」

 

「…へぇ…まぁ食欲も戻って良かったじゃんか」

 

昨日俺を除くμ'sのメンバーで穂乃果のお見舞いに行ったそうだが、どうやらそこでも何かしらあったみたいだな。

 

あの穂乃果の落ち込みようは普通じゃない。もしかしたらラブライブ辞退を昨日のお見舞いの時に知ったとかか?あれだけラブライブのポスターをまじまじと見つめてるって事は。

 

「…凄い落ち込んでるけど、もしかして昨日話したのか?」

 

「…ああ、ラブライブ辞退の事は話したよ。…酷い落ち込みようだった」

 

…だろうな。ラブライブに対しての熱量は凄まじいものだった。

 

それが自分のせいで無くなったと思えばあそこまで落ち込むのは無理もない。

 

「…そっとしておいた方が良いのかな?」

 

太陽が心配そうに穂乃果を見つめながら言う。

 

「さぁな。それは太陽に任せる。励ますのも良いし、そっとしとくのも良いし」

 

俺がそう言うと、今度は怪訝しい表情をしながら太陽が俺を見つめながら言う。

 

「…冬夜はどうするんだ?」

 

俺に対する違和感。太陽はそれを感じているのだろう。

 

練習に顔を出さなかったりとμ'sとの関わりを避けてるのはいつもの事だがそれに加え最近の俺はμ'sのメンバーと話そうともしない。

 

「…穂乃果に掛ける言葉が無いよ」

 

学園祭の中止以来穂乃果と会話は一切交わしていない。

 

励ますのは簡単だ。ただポジティブな事を言えば良いだけ。

 

でもそれじゃあ根本的な解決にはならない。

 

「…」

 

太陽はそれ以上何も聞いてこなかった。

 

「はぁ…諦めが悪いわね…希!」

 

「よし!」

 

…ん?今聞き慣れた声と知ってる名前が聞こえたな。

 

声のした方に振り返る俺達。

 

そこには…

 

「ふふふ…えーい!!」

 

「わ、わー!!!!」

 

穂乃果の胸をわしわしする希とそれをニヤニヤしながら見つめるにこと絵里がいた。

 

…何してんだあいつら。

 

「え、え、え!?の、希ちゃん!?」

 

当然驚いた穂乃果は怯えた様子で振り返る。

 

すると…

 

「ボンヤリしてたら次はアグレッシブなのいくよ〜?」

 

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

悪そうな顔をしながら手をわしわしさせる希がいた。

 

「あ、アグレッシブ!?アグレッシブなのってなんだ冬夜!?」

 

「うるせぇ」

 

俺が知るか。

 

「あくまでも私達の目的は廃校を阻止する事よ?辛いかもしれないけど後ろを見てる余裕は無いわよ」

 

「…絵里ちゃん」

 

「穂乃果がそんな様子だと、私達まで気が滅入ってしまうわ。元気にしていれば皆も気にしない。それとも気を遣って欲しいのかしら?」

 

いたずらっぽく絵里が微笑みながら言う。

 

「そ、そうゆう訳じゃ…でも…」

 

諦めの悪い穂乃果に続いてにこが口を開く。

 

「はぁ…いい?いくら落ち込んだって時間は待ってはくれないわ。学園祭の事も、ラブライブ辞退ももうこれ以上考えても仕方ない。別にもう一度学園祭がある訳じゃないし、ラブライブだって次があるかもしれないわ。だから穂乃果、昨日も言ったけど今はもう前を向くしかないのよ。凄い責任感じてるみたいだけど、もう皆気にしてないから」

 

にこはそう言うと、穂乃果に笑ってみせる。

 

絵里と希も習うように微笑むのだった。

 

人一倍アイドルへの熱量を持つにこが言うと説得力があるな。

 

「そうだぞ穂乃果。練習だって今日から再開なんだ。また後輩にそんな暗い顔を見せるつもりか?あいつらが待ってるのは穂乃果の笑顔だよ」

 

続いて太陽も微笑みながら言う。

 

「皆…」

 

皆の言葉を聞いて穂乃果が呟く。

 

そして次の瞬間、

 

「ありがとう!」

 

と久し振りに満面の笑みを見せた。

 

「そう。それで良いのよ」

 

穂乃果の笑顔を見た絵里は、そう言いながら嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自粛長くなくて良かったね」

 

その日の放課後。

 

今日から練習再開して良いと学園長から許可を得た俺達は、屋上にて1週間ぶりの練習の準備をしていた。

 

「暫くとは言っていたけど、音乃木坂にとってμ'sは廃校阻止出来る可能性を秘めた大事は存在だ。学園長もそんな長く自粛させるつもりは無かったんだろう」

 

俺の言葉に皆は納得したように頷く。

 

とりあえずは体調面を考慮して1週間皆を休ませたって感じか。

 

「じゃあライブもやっていいの?」

 

「ああ。いいってよ」

 

「やったー!!!」

 

ライブの許可に燥ぐ穂乃果。

 

いつもの光景に戻ってきたな。

 

「そうと決まればいつライブしようか!?あ、でも無理は禁物だよね…」

 

穂乃果はそう言うと嬉しそうな表情から少し落ち込んだ表情に変わる。

 

まだ引きずってるんだな。学園祭の事。

 

「穂乃果…気にしてるのね」

 

「…うん…」

 

「まぁ、少し周りが見える様になったって事かしら」

 

少なからず学園祭前日の時より落ち着いているのは間違いない。

 

さっきみたいに酷く落ち込んでる訳では無いしこのままで問題無さそうだ。

 

「とりあえずライブの件は、皆が揃ってから…」

「た、大変にゃ!!!」

 

突如慌ただしく開かれる屋上の扉。

 

そこには息を切らしながら何やら興奮している様子の1年生組3人がいた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「何があった?」

 

心配そうに3人を見つめながら穂乃果と太陽が声を掛ける。

 

しかし返ってくるのはハァハァという荒い息遣いばっかり。

 

どんだけ急いで来たんだよこいつら。

 

そして少しの間が空いた後、花陽は顔を上げ口を開いた。

 

「た、助けて…」

 

「「「「「「「「…?…」」」」」」」」

 

はよ要件言わんかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来年度入学者受付!?」

 

結局その後、1年生3人に言われがまま掲示板の前まで案内された。

 

そこに張り出されていたプリントには、来年度入学者受付のお知らせと書いてあった。

 

「こ、これって…」

 

「おい…もしかして…」

 

目を丸くしながらプリントをまじまじと見つめる一行。

 

その様子を見た1年生3人は嬉しそうに口を開く。

 

「そうです!ついに存続が決まったんです!」

 

「凛達に後輩が出来るんだー!」

 

「さ、再来年は分からないけどね!」

 

そうか。ついに存続決定の件が今日明るみになったのか。

 

そりゃ1年生も興奮する訳だ。μ'sの一番大きな目標が達成出来たんだもんな。

 

「やった…やったよことりちゃん!ついに私達は成し遂げたんだよ!」

 

「…穂乃果ちゃん!」

 

喜びのあまりことりに抱きつく穂乃果。

 

ことりもさすがに嬉しいニュースだった為笑顔が溢れる。

 

そして続け様ににこが1つの提案をする。

 

「よーし!それじゃあ廃校も阻止出来た訳だし部室で祝賀会開くわよ!」

 

おおい…こりゃまた突然だな。

 

「賛成!」

 

「面白そうやん!」

 

「やりたいにゃ!」

 

「じゃあ決まりね!」

 

凄いな…勢いそのままにどんどん話進んでくじゃんか。

 

その祝賀会とやらは大丈夫なのか?許可とかどうゆう風にやるかとか纏まってそうには見えないけど。

 

とりあえず面倒くさそうだし断っとくか。バイトもあるし。

 

「あ、俺はパ…」

「冬夜は強制参加ね」

 

…いつから俺に拒否権は無くなったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「存続が決まったの!?」

 

場所は変わり校門前。

 

バイトに行くと言い足早に去った冬夜と別れた後校門を出ると、そこには絵里の妹である亜里沙が待っており、こちらに気づくやいなやキラキラした笑顔でこちらに駆け寄る。

 

「ええ。そうよ」

 

亜里沙の質問に対し絵里は微笑みながら言う。

 

「やったー!!!」

 

ガッツポーズをして飛び跳ねながら喜ぶ亜里沙。

 

よっぽど嬉しいんだな。

 

「良かったね!」

 

そんな亜里沙の様子に穂乃果が微笑みながら声を掛ける。

 

すると亜里沙は穂乃果を見つめると、

 

「来年からよろしくお願いします!」

 

と頭を下げた。

 

はは、さすがに気が早いんじゃないか?

 

「それにはまず、入試に合格しないとね」

 

絵里が亜里沙の頭を撫でながら言う。

 

「うん!頑張る!」

 

満面の笑みで答える亜里沙。

 

うん。亜里沙ならきっと大丈夫だろ。

 

「あ…あの…」

 

「…?…どうしたのことりちゃん」

 

続いて口を開いたのは何やら申し訳無さそうな表情をしたことり。

 

…そういえば最近ことりは暗い表情を見せることが増えた気がするな。

 

一体何があったんだ?

 

「私、買い物があるからここで…」

 

「買い物?何を買うの?手伝おうか?」

 

「ううん…大丈夫だよ!じゃあまた明日…」

 

ことりはそう言うと、足早にその場を去ってしまった。

 

「…ことり…」

 

その様子は、この場から逃げ出した様にも見えた。

 

「ことりちゃん…元気ないね」

 

「…えぇ。希も気にしてたわ。学園祭の前から何か迷ってる様子だったって」

 

学園祭の前から…

 

まさかそんな前から悩んでいたとは…

 

「…そうなんだ…」

 

「…ねぇ太陽君。冬夜君は何か知ってるのかしら?」

 

「…いや、冬夜からはことりについて何も言われてないよ」

 

「…そう」

 

でも、冬夜が気づかないはずがない。

 

…学園祭間近の海未の暗い表情もまさかそれに関わってるのか?

 

だけど冬夜は緊張してるだけだって…

 

「…何か…嫌な予感がするわね…」

 

絵里がぽつりと呟く。

 

「…」

 

…確かに、絵里の言う通り胸騒ぎが止まらない。

 

冬夜…お前は一体、何を知ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに私達はここまで来たわ!今思えばここまで辛い道のりだった…スクールアイドルを一度挫折してから1年…初めてμ'sを見た時私は…」

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

「って話聞きなさいよ!!」

 

という訳で時間はあっという間に経ち祝賀会が始まってしまった。

 

…とはいっても俺はバイトの時間までの参加ではあるが。

 

部室にシートを敷きその上で紙コップ片手に楽しそうに笑う穂乃果達。

 

更には大量のからあげやサラダといった食べ物もしっかり用意してある。

 

一体どこから調達したんだ?

 

「ご飯炊けたよー!!」

 

「ご飯にゃー!!」

 

炊飯器を持ちながら満面の笑みで言う花陽。

 

いつの間に炊いたんだよ…ていうかそれもどこから調達したものだ?

 

わざわざ家から持ってきたとかじゃないよな…

 

「冬夜さんに炊き方教わったんだ!食べて食べて!」

 

「そ、それ本当!?花陽あんたいつの間に…」

 

 

 

 

 

「…え?冬夜それマジ?」

 

「…ああ、合宿終わった途端花陽から電話掛かってきてさ。炊き方教えてって凄い熱量で言われたよ…」

 

あれはさすがに断れなかった。

 

教えた後実際にご飯を炊いてみて成功した時は泣いて喜んでたしな。

 

本当にご飯に対しての熱量が凄まじいわ。

 

「…意外と積極的なんだな…花陽って」

 

「米とアイドルの事に関してはな」

 

まぁあそこまで喜んでくれたなら教えた甲斐もあるってもんだ。

 

 

 

 

 

「ホッとしたみたいやね。えりち」

 

「…ええ。肩の荷が下りたというか」

 

ベンチに座り皆の様子を微笑ましく眺める希と絵里の会話が聞こえる。

 

「μ's…やって良かったでしょ?」

 

希が優しく微笑みながら絵里に聞く。

 

それに対し絵里は、少しだけ悲しそうな表情を見せた。

 

「…どうかな。私がいなくても結果は同じだった気がするけど…」

 

絵里の返答に対し、希は直ぐ様答える。

 

「そんな事無いよ。μ'sは9人それ以上でもそれ以下でもダメってカードが言ってる。そこに冬夜君と太陽君が加われば更なる輝きを手に出来るって」

 

「…そうかな」

 

「何より、冬夜君がえりちを選んだんよ?えりちに直接勧誘に来た時、間違いなく冬夜君はえりちを必要としてた。それって凄い事だと思うよ」

 

「…冬夜君に…必要とされてる…それ、凄い良いわね」

 

「あかん、自分で言ってて妬いてきた。やっぱ今のなし」

 

「え?ちょ、希!それはダメよ!しっかり受け取ったわ!冬夜君は私を必要としてる、私を選んだ」

 

「あんまりそれ連呼しないでえりち!!」

 

…はぁ…途中まで良い話だったのに何で俺の名前が出た瞬間そうなるんだよ。

 

ここの好感度の高さもどうにかしなきゃな…

 

「…お前、好感度高くない?」

 

「…俺が聞きたいよ…」

 

ジト目でこちらを見ながら太陽が言う。

 

こいつ明らかにヤキモチ妬いてやがるな。

 

「よし…廃校も無くなったんだ…気を取り直して頑張ろう!」

 

廃校阻止によりすっかり明るい雰囲気が戻ったμ's。

 

楽しそうに話す者。美味しそうにご飯を食べる者。過ごし方は様々でそこには確かな笑顔があった。

 

しかし、それはいずれ壊される。

 

この笑顔と明るい雰囲気はまた、失われる事になる。

 

俺はことりと海未の方に顔を向けた。

 

「ことり…そろそろ…」

 

「…でも、今は…」

 

そこには暗い表情をしたまま俯いたことりとその様子を見つめる海未。

 

長引けば長引くほど辛くなる。それはことり自身も分かっているはずだ。

 

「…ことり…」

 

海未はぽつりと呟くと、しびれを切らしたのか立ち上がり口を開いた。

 

「ごめんなさい。皆に少し話があります」

 

海未の言葉に視線が集まる。

 

…言うのか。ついに。

 

「…何か聞いてる?」

 

「…何も」

 

「冬夜…何か知ってるのか?」

 

「…」

 

海未の様子に良いニュースでは無いと皆察したのだろう。さっきまでの明るい雰囲気と笑顔は微塵も無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突然ですが…」

 

そして海未は口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ことりが、留学する事になりました」

 

もう一つの、残酷な現実を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

現実を知ったμ'sが最初に感じた感情。

 

それは悲しみでもショックでも無く、困惑だった。

 

「…何…それ」

 

「…嘘…」

 

「…どうゆう事?」

 

次第に溢れてくるマイナスの感情。悲しみやショックや混乱が入り混じった言葉にならない感情がμ'sを支配する。

 

「…2週間後には、日本を発ちます…」

 

暗い表情を浮かべたまま現実を述べる海未。

 

それに続いてことりが口を開く。

 

「前から、服飾の勉強したいって思ってて…そしたらお母さんの知り合いの学校の人が来てみないかって…」

 

誰一人口を開かない。

 

掛ける言葉が見当たらないのだろう。

 

ことりは続けて口を開く。

 

「…ごめんね?本当にもっと早く話そうと思ってたんだけど…」

 

「学園祭のライブで纏まっている時に言うのは良くないと、ことりは気を遣っていたんです」

 

海未がすかさずことりのフォローに入る。

 

これはことりの引っ込み思案な性格も災いしてここまで遅くなってしまった。

 

きっと、皆の中では突然すぎて整理出来てないのだろう。ましてや廃校阻止でまた雰囲気が良くなった矢先での報告。

 

決してベストなタイミングでは無い。

 

ただ、学園祭に向けた準備期間の様子を聞けばそんな雰囲気では無い事も理解出来る。

 

「…それで最近…」

 

希はことりの様子に気付いていたのだろう。悲しそうな表情で言う。

 

「…行ったきりなの?」

 

「…うん…高校卒業までは…多分…」

 

俯いたままことりが答える。

 

留学となれば当然何年単位。

 

高校在学中に間に合う事は無いだろう。

 

「…本当…なんだな…」

 

酷く落ち込んだ様子の太陽。

 

μ'sに対しての執着が強かった太陽からすれば、この現実へのショックは計り知れない。

 

「…」

 

太陽の言葉を最後に流れる沈黙。

 

誰一人として誰かと目を合わせることも無く、ただただ俯いたままの時間が続いていた。

 

そんな中、その沈黙を破ったのは穂乃果だった。

 

「何で…言ってくれなかったの?」

 

ゆっくり穂乃果は立ち上がると、そのままことりの方へ歩いていく。

 

「だから…学園祭があったから…」

 

海未が穂乃果の質問に答える。

 

だが、当然それでは納得しない。

 

「海未ちゃんは知ってたんだ」

 

海未を鋭い目付きで見る穂乃果。

 

この3人は小さい頃からの幼馴染。穂乃果からすれば自分だけ知らなかった現状に仲間外れにされた感覚に陥っているのだろう。

 

穂乃果はしゃがみこむと、ことりの目を見つめながら鋭い目付きのまま口を開く。

 

「どうして言ってくれなかったの!?ライブがあったからっていうのは分かるよ?でも、私と海未ちゃんとことりちゃんはずっと…」

 

「穂乃果…」

 

「ことりちゃんの気持ちも分かってあげないと…」

 

穂乃果の様子に絵里と希が直ぐ様声を掛ける。

 

だが、穂乃果は止まらない。

 

「分からないよ!だっていなくなっちゃうんだよ!?ずっと一緒だったのに…離れ離れになっちゃうんだよ!?なのに…」

 

ことりにぶつける自分の思い。

 

何で話してくれなかったのか。ことりの一番の親友であるはずの私に何ですぐ言ってくれなかったのか。

 

感情に身を任せ周りが見えてなかった穂乃果には、その答えを出せるはずも無かった。

 

穂乃果の言葉を受けたことりが、目尻に涙を浮かべながら口を開く。

 

「…何度も言おうとしたよ?…」

 

「…え?…」

 

「でも、穂乃果ちゃんライブやる事に夢中で…ラブライブに夢中で…だから…ライブが終わったらすぐ言おうと思ってた…相談に乗ってもらおうと思った…でも、あんな事になって…」

 

ここでようやく知ることになることりの葛藤。

 

穂乃果はこの言葉で気付く事が出来ただろう。いかに自分が周りを見ていなかったかを。

 

「聞いてほしかったよ?穂乃果ちゃんには、一番に相談したかったっ…だって、穂乃果ちゃんは初めて出来た友達だよ!?ずっと側にいた友達だよ!?…そんなの…そんなの……っ……当たり前だよ!!」

 

感情が溢れ次第に涙が零れることり。

 

爆発した感情のまま穂乃果を突き飛ばすと、そのまま部室を走り去ってしまった。

 

「ことりちゃん!!」

 

思わず全員が立ち上がる。

 

だが、初めて見たことりの剣幕と事態の深刻さに誰一人として追いかける事が出来なかった。

 

今のことりに、何て言葉を掛けたらいいのだろう?

 

穂乃果に何て言葉を掛けたらいいのだろう?

 

μ'sは、これからどうなるのだろう?

 

当然すぐに答えなど出るはずもない。

 

「…ずっと、行くかどうか迷っていたみたいです…むしろ、行きたくないようにも見えました…」

 

「…」

 

「ずっと穂乃果を気にしてて、穂乃果に相談したら何て言うかってそればかり…」

 

「…」

 

「黙っているつもりは無かったんです。本当にライブが終わったらすぐ相談するつもりでいたんです…」

 

唖然とした表情のまま海未の言葉を聞く穂乃果。

 

今の穂乃果が何を考えているのか分からない。ただ、1つだけ分かることは、今穂乃果は確かに絶望しているという事だけ。

 

「…分かってあげて下さい」

 

穂乃果は一向に反応を見せない。

 

他のメンバーもただただ立ち尽くすのみ。

 

それから誰一人として、口を開く者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「…冬夜?」

 

それからどれだけの時間が流れただろう。

 

数時間経った気もすれば、まだ少ししか経っていない気もする。

 

学園祭から幾度となく続いていた重苦しい空気は、μ'sから離れる素振りを見せない。

 

俺は立ち上がると、部室を出ようとした。

 

「…どこ行くんだ?」

 

そう俺に声を掛けるのは太陽。

 

他のメンバーも暗い表情のまま俺に視線を向ける。

 

「バイトだよ」

 

俺は誰とも顔を合わせないまま言う。

 

元々バイトの時間までの参加という約束だ。

 

俺はこの雰囲気もことりもどうこうするつもりは無い。

 

「…そうか…お前こんな時でも変わらないな。…なぁ、1つだけ聞いていいか?」

 

「…何だ?」

 

太陽からの質問。

 

この状況なんだ。決してプラスの質問では無い。

 

太陽は少しだけ怒りを含んだ声色で質問をぶつけた。

 

「…お前…留学の件知ってたろ?」

 

「…」

 

…どうやら太陽にはバレていたらしい。

 

このまま隠し通せると思ったがそれは甘かったみたいだ。

 

「どうなんだ?冬夜」

 

きっと太陽が言葉に含んだ怒りは、俺が何もアクションを起こさなかったものに対してのものだろう。

 

まぁしかしバレてしまったものは仕方ない。正直に話すか。

 

「ああ、知ってたよ。何なら海未よりも前からな」

 

「「「「「「「…!…」」」」」」」

 

「…やっぱり…そうなんだな…」

 

「だったら何だ?」

 

「そんな前から知ってたなら何で黙ってた?お前なら…皆に話す事ぐらい出来ただろ?」

 

「話す?留学の件を?俺から?」

 

俺は太陽の方を向くと、続けて言った。

 

「いいか?これはことりの問題だ。百歩譲ってことりとの関係性が深い海未がしびれを切らして代わりに話すのは分かる。だが、そこまで関係性の深くない俺が、ことりが学園祭の後に話すという決断をしたのにそれを破って話す訳が無いだろう」

 

「…でも!」

 

「早く話していればこうならなかったなんて理論はタラレバだ。第一俺が知った時はまだことりは留学するかどうか悩んでいた。そんな状態で話せば皆はことりをμ'sに残す方向で話を進めるだろ?それってことりの為になるのか?」

 

「…」

 

「先延ばしにした結果ことりは留学に行くという結論を自分で出す事が出来た。そして結論を出した時にはもう学園祭は迫っていた。俺が話す隙が何処にある?」

 

俺の言葉に皆は口を閉ざしたまま。

 

どうやら反論は無いみたいだな。

 

「いいか?南ことりにとって一番何が為になるか。それだけを考えろ」

 

俺はそう言うと、今度こそ部室を去った。

 

今度は呼び止める者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

μ'sの崩壊まで後僅か。

 

何もしなくてもここまで落ちる事は想定済み。

 

俺がやる事は最後のトリガーを引くだけ。

 

このままμ'sが消えてしまうか。それとも生まれ変わって復活するか。

 

それはあいつらの強さ、想いの強さ次第だ。

 

「…さぁ、振り出しに戻ろうか…」

 

止まった歯車は、不協和音を奏でながら回り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、

 

 

 

 

 

 

 

μ's崩壊へのカウントダウン。




「俺は言ったはずだよ。見えなくなる物もあるって」

μ's崩壊への最後のトリガー。

それは、μ'sの核を潰す事。

「俺の忠告を無視した結果がこれだ。君の中では俺はただ見てるだけの人。でもね」

【君には見えない物も、俺には見えるんだよ】

その引き金を引くため、冬夜は動き出す。

「冬夜…お前!!!」

「現実を突きつけたまでだよ。本当の事を言って何が悪い」






〜次回ラブライブ〜

【第27話 失う光】
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