ラブライブ!~太陽と月~   作:ドラしん

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どうもドラしんです!思いの外遅くなってしまいましたすいません!

自分が書きたかったシーンの1つだったのですがいざ書いてみると矛盾が生じたりおかしい展開になったりと意外と苦戦を強いられました。

最初の流れを大分変えたり沢山考えてる時間を掛けてようやく完成しました。

ちょっとそこ!時間を掛けた割に…とか言わない!

…という訳で第27話始まります。









謝っておきます。

ラブライブファンの皆様…特に穂乃果ファンの皆様、本当に申し訳ありません!

冬夜大暴れ回になります。

めちゃくちゃ嫌なやつです。本当にヤバいです。

でも、俺はこっちの冬夜も好きだよっ!




あ、本当にすいません。

心してご覧下さい。


第27話【失う光】

暗いとある一室。

 

ベッドの上で体育座りをしながら机の上に置かれているノートパソコンを見つめる少女がいた。

 

その目には光が無く、プラスの感情は何一つ感じられない。

 

「…凄いな…」

 

少女の見つめるノートパソコンに映るものはA−RISEのライブ映像。

 

その圧巻のパフォーマンスに少女の目には諦めの感情が宿る。

 

「…無理だよ…追い付くなんて…」

 

ため息をつく少女に声を掛ける者はいない。

 

静寂に消えるため息。重なる負の感情。

 

徐にスマホを開く少女。そこには誰かにLINEを送ろうとしたのか書きかけの文章があった。

 

しかし、その文章が完成する事は無い。

 

学園祭での失敗。親友との衝突。

 

心を砕くには充分すぎる現実が少女に襲いかかる。

 

少女の取り柄であった太陽のような明るい笑顔はもう、見る影もない。

 

「…私…何やってたんだろう…」

 

少女は悲しそうにそう呟くと、静かにノートパソコンを閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…話したのね?」

 

時を同じくしてとある一室。

 

こちらでも別の少女が暗い表情を浮かべながらスマホを見つめていた。

 

「…お母さん…うん…」

 

もう少し早く話していれば…

 

あのタイミングで言い出さなければ…

 

そして何より大切な親友との衝突。

 

大きな後悔を抱える少女もまた、心に深刻なダメージを負っていた。

 

「…納得してくれたの?」

 

「…」

 

母親からの質問に何も答えられなかった。

 

あんな別れ方をすれば当然。納得もしているはずがない。

 

連絡が誰からも来ていない事を確認すると、途中だった荷造りを再開する。

 

しかし、その手は何度も止まり一向に進む気配を見せない。

 

「…早く寝なさいよ」

 

その様子を見た少女の母親は、それ以上詮索はせずその一言だけ残し部屋を去っていった。

 

「…」

 

一人部屋に残された少女。

 

荷造りの手は完全に止まっていた。

 

「…どうすれば良かったのかな…」

 

そう呟く少女の声は、誰の耳にも入らないまま静寂に消えていく。

 

離れていく心の距離。

 

手を伸ばす事さえ出来ない現状。

 

嘲笑うかの様に時間だけが、ただただ過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果もう寝てるの?」

 

穂乃果とことりの衝突があった次の日。

 

俺が学校に到着すると、すぐ俺の目に飛び込んできたのは穂乃果に声を掛けるヒフミトリオと机に伏せる穂乃果の姿。

 

近くにことりと海未の姿は無かった。

 

「…起きてるよ…」

 

力無く手を上げる穂乃果。

 

その声には覇気が無い。

 

昨日の件がよっぽど堪えたらしい。

 

「今日はことりちゃんと一緒じゃないの?」

 

ミカが穂乃果に疑問をぶつける。

 

それは穂乃果にとって一番聞かれたくない事。

 

「…」

 

当然穂乃果は答えない。

 

「「「…」」」

 

穂乃果の様子に3人は互いに顔を見合わせると、真剣な表情に変わり再び声を掛ける。

 

「…海未ちゃんから聞いたよ?ことりちゃん、留学するんでしょ?」

 

「…!…」

 

ミカの言葉に穂乃果は思わず顔を上げる。

 

「寂しくなるね…でも、このままじゃことりちゃんも悲しむよ?」

 

「そうだよ!穂乃果らしくないよ?落ち込んでお別れするより笑ってお別れした方が絶対いいよ!」

 

「そうそう!笑って笑って!」

 

優しく声を掛ける3人。

 

だが3人は知らない。穂乃果とことりが大きな衝突を起こした事。

 

その発言が穂乃果を更に追い詰める事を。

 

「…う…めて…」

 

「…穂乃果?」

 

「…ううん…何でもない」

 

一瞬見えた穂乃果の本音。

 

一瞬見せた苦痛の表情。

 

3人に聞こえたかどうかは分からない。だが、俺の耳はしっかりと捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もう…やめて…」

 

それは、もうその話をしないでと訴えている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

昼休み。

 

一人の少女が誰もいない旧校舎の廊下を歩いていた。

 

「…どうすれば…」

 

暗い表情をし、思い詰めた様子の少女は俯きながらただ宛もなく歩を進める。

 

1人になりたいから。考える時間が欲しいから。それは少女にしか分からないが、1つだけ言える事は、この場所は今の彼女にとって居心地が良い場所だという事。

 

答えの出ない問いに頭を悩ませる少女はまたため息をつく。

 

「…はぁ…」

 

後悔。葛藤。罪悪感。悲しみ。怒り。苦しみ。様々な感情が入り混じった今に何と名前をつけよう。

 

過ぎた時間は戻らない。だが、今までこれ程までに時間が戻ってほしいと思った事はきっと無い。

 

それ程までに失った物は大きい。

 

学園祭。ラブライブ。そして親友までも失おうとしている。

 

思わず少女はぽつりと呟いた。

 

「…何で…こんな事に…」

 

今にも消え入りそうな声。

 

静寂に投げかけた疑問の答えは、意外とすぐに返ってきた。

 

「穂乃果、俺は言ったはずだよ。見えなくなる物もあるって」

 

そこにいたのは、壁に保たれながら少女…高坂穂乃果を見つめる氷月冬夜の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…冬夜君…」

 

か細い声で俺の名前を呼ぶ穂乃果。

 

その表情は相変わらず暗い。

 

「…何でここに?」

 

「穂乃果が旧校舎に行くのが見えたから先回りした。ここなら絶対通るって思ってね」

 

俺が穂乃果を待った理由。それは崩壊のトリガーを引く為。

 

一度μ'sを…終わらせに来た。

 

「そんな事より穂乃果、今、君はどんな気持ちだ?」

 

俺は穂乃果を真っ直ぐ見つめながら質問をぶつけた。

 

「…え?」

 

よく分からないという表情を浮かべる穂乃果。

 

俺は続けて言う。

 

「君が今感じてる苦しみ、悲しみ、怒り、後悔。その他複数の負の感情。その状態を何て言うか知ってるか?」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「【絶望】だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!…」

 

俺の言葉に穂乃果の表情が変わる。

 

「予想通りだったよ。学園祭の失敗も、ことりの留学も、全てを知った後の反応も、君がこうなる事もね」

 

「…全部…分かってたの?」

 

「ああ、分かってたよ」

 

「…!…じゃあ何で!」

「だから忠告したじゃないか」

 

俺は穂乃果の言葉に被せる様に言う。

 

「周りを見る事。体調の懸念。俺は確かに言った。でも、君は聞く耳を持たなかった」

 

「で、でも!」

 

「でも?何がでもだ。私の気持ちなんて分からないと叫んで走り去ったのは誰だ?俺の忠告をそれでもやるしかないの一言で一蹴したのは誰だ?」

 

「…」

 

「俺の忠告を無視した結果がこれだ。君の中では俺はただ見てるだけの人。でもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【君には見えない物も、俺には見えるんだよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!…」

 

「君の気持ちなんて分かる筈が無い。でも、俺は君と違って現実が見えている。少し先の未来だって見えている。君はチャンスを…やり直せる最後のチャンスを自分で捨てたんだよ。君の言葉で。君の手で」

 

「…そ…そんな…」

 

「これで分かったはずだ。君の得意とする精神論がいかに脆いか。こうやって人は簡単に崩壊するんだよ」

 

「…あ…あ…」

 

「はっきり言おう。高坂穂乃果、君は学園祭の数日前から間違えていた。何もかも間違えていた。でも君はそんな自分を信じてひたすら間違った道を進んだ」

 

人は間違える生き物だ。

 

誰しも間違う事は必ずある。

 

「皆は私達にも責任はある、連帯責任だと言うけどね」

 

μ'sは間違いなく強い。

 

短期間でのレベルアップ。乗り越えてきた困難の数々。

 

でもそれは、決して個々の強さでは無い。

 

「それは皆の優しさである事を忘れてはいけないよ」

 

いつだって先には穂乃果がいた。

 

μ'sの中心はいつも穂乃果だった。

 

辛い時に声を掛けるのも、皆を励ますのも、作曲を真姫に依頼する時も、スクールアイドルμ'sの始まりも、全て穂乃果だった。

 

それがμ'sの強さであり、最大の弱さでもある。

 

「皆は穂乃果に責任を感じて欲しくないから。早く元気になって貰いたいから。だから皆は君に優しく声を掛ける。でも、現実は違う」

 

μ'sの核は穂乃果。皆も穂乃果を頼りにしてる側面が強い。

 

だが、それは核である穂乃果が崩れた瞬間台無しになる。

 

「だって…学園祭の失敗も、ラブライブの辞退も、今の状態も…」

 

だからこそ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部…君のせいなんだから」

 

μ'sは弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ライブ?」

 

放課後。

 

昨日の今日で皆精神状態が不安定だと思い今日の練習を中止にしようと考えていた矢先、絵里から招集が掛かる。

 

冬夜を除いた10人が屋上に集まると、絵里は次のライブについて話し出した。

 

「そう。昨日私達で考えたの。折角ことりが自分の夢に向かって留学を決断したんだから私達は私達らしくライブで送り出ししようって」

 

「落ち込みはしたけど、やっぱり笑って別れた方がことりにとっても良いんじゃないかってなったのよ」

 

昨日、バイトだった冬夜と精神状態が最も不安定だった穂乃果。そして主役のことりを抜いた9人で話し合って決めた事。

 

それはことりの門出を祝う為にライブを開く事だった。

 

「μ's9人で歌う最後のライブ。最高の物にするわよ!!」

 

にこが握り拳を空に突き上げながら元気よく言う。

 

それを見た花陽や凛も一緒に「おー!」と言いながら気合いを入れた。

 

ことりがいなくなって寂しいのは当たり前。でもそれはこちらの都合でしかない。

 

ことりだって穂乃果や海未…μ'sから離れるのは辛いはず。でも、自分の夢…やりたい事の為に決断した。

 

となれば全力で応援しないとな!

 

「精一杯歌うにゃー!」

 

「私も頑張るよ!」

 

少しずつ皆に明るい表情が戻る。

 

辛い事が続いても皆前を見て進もうとしてる。本当にμ'sは強いな。

 

俺はまだ引き摺っているというのに…

 

 

 

 

 

「ああ、知ってたよ。何なら海未よりも前からな」

 

 

 

 

 

「だったら何だ?」

 

 

 

 

 

脳裏に浮かぶのは昨日の冬夜の様子。

 

確かに冬夜の言っている事はその通りだった。でも、それにしても興味が無さすぎる。

 

ことりの留学…それがどうした?行きたいなら行けばいい。俺には関係ない。

 

…昨日の冬夜の様子から俺はこう感じてしまった。

 

今この場に冬夜がいない事といい、この後またμ'sにとって辛い事が起きるんじゃないかと思ってしまう。

 

前から感じていた胸騒ぎ。ことりの留学の事だと思っていたが…違う。

 

もっと他の…大きい何か…

 

自分の勘違いであってほしい。そう願う俺と裏腹に、予感が的中したように辛い現実は襲いかかる。

 

「…私のせいだ…」

 

明るい雰囲気の中、ぽつりと放たれた穂乃果の言葉。

 

それは場の空気を変えるには充分だった。

 

「…穂乃果?」

 

「…もっと私がしっかりしていれば…体調管理を考えていれば…ことりちゃんの異変に気付いていれば…こんな事には…」

 

「ほ、穂乃果ちゃん…そんなに自分を責めなくても…」

 

「私が…私がもっと周りを見ていれば!!」

 

感情が溢れ思わず口調が強くなる穂乃果。

 

まずい…このままじゃ壊れる…

 

「穂乃果…そうやって何でも背負い込むのは傲慢よ?」

 

「そうよ。それに前にも言ったでしょ?ラブライブだって次があるかもしれないんだから落ち込んでる時間は無いって」

 

絵里とにこが直ぐ様声を掛ける。

 

二人に続き俺も口を開く。

 

「これは皆の責任だ。穂乃果だけの問題じゃない。だから穂乃果、一人で抱え込むのはやめよ?」

 

何とか穂乃果の心を繋ぎ止めようと優しく話しかける。

 

しかし、穂乃果の曇った表情は一切取れない。

 

穂乃果は俯いた状態から顔を上げると、冷たい目をしたまま口を開いた。

 

「…ラブライブに出て、どうするの?」

 

「…!…」

 

希望を持つ俺達に突き刺さる冷ややかな目。

 

これがあの…高坂穂乃果なのか?

 

「…穂乃果…今、何と…」

 

「ラブライブに出てどうするの?って聞いたんだよ。廃校はもう阻止出来た。だったら出る意味なんてないじゃん」

 

穂乃果の口から放たれる拒絶の言葉。

 

しかもそれは、一番聞きたくない人物からの言葉。

 

皆の表情はみるみる内に落ちていく。

 

「A−RISEにだって私達じゃ敵わない。負けるのなんて目に見えてるよ。それを分かってて出場するの?それってただ恥をかくだけじゃん」

 

輝きを失った瞳。

 

ただただショックだった。

 

表情、仕草、言葉の一つ一つ。そして何より…

 

【それが高坂穂乃果だという事】

 

「…それ…本気で言ってるの?」

 

真っ直ぐ険しい顔で穂乃果を見つめるにこ。

 

一度スクールアイドルを挫折しているにこにとって穂乃果の今の発言は許せるはずもない。

 

「…」

 

にこの言葉に穂乃果は反応を示さない。

 

「本気で言ってたら許さないから」

 

2回目。再び穂乃果に声を掛けるにこ。

 

その口調には確かな怒りが含まれていた。

 

「…」

 

しかしそれでも穂乃果は反応を示さない。

 

その様子を見たにこの表情はどんどん険しくなっていく。

 

これはまずい…どうにかしないと…これ以上のメンバー間の衝突は避けないと…

 

でも、何て声を掛ければ…

 

頭を回転させ必死に言葉を探す。だが一向に相応しい言葉が出ない。

 

俺が頭を悩ませている…その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許さないって言ってるでしょ!!!」

 

「ダメっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に耳に入るにこの怒号。その直後に耳に入る真姫の悲痛の声。

 

目を向けるとそこには、今にも穂乃果に飛びかかろうとするにこを、真姫が必死に抱き締めて止めている姿があった。

 

「離して!」

 

「い、嫌!絶対離さない!」

 

もがくにこを止める真姫。

 

「…」

 

対する穂乃果はこの様子を見ても眉一つ動かさない。

 

「私はあんたが本気だと思ったから…冬夜が本気だって教えてくれたからこのグループに入ったの!!このグループに賭けてみようって思ったの!!」

 

「…」

 

「それを…それをあんたはこれだけの事で諦めるつもり!?」

 

屋上に響くにこの叫び。

 

何としてでもμ'sを壊したくない。その気持ちが痛い程伝わってくる。

 

「…っ…」

 

「…にこちゃん…」

 

にこのμ'sに対する熱い思い。そして決して見たくなかった穂乃果とにこの衝突。

 

思わず涙を流す花陽と凛…

 

…俺は何をやってるんだろう。

 

メンバー内での衝突が起きてて…今にもμ'sが壊れそうで…でも俺は何も出来ずただ見てるだけの俺…

 

後輩が涙まで流してるんだぞ!?何でそんな状況になっても言葉の一つも掛けてあげられない!?

 

早く…何か言葉を…

 

悪化していく状況に頭を悩ませる俺。

 

気付けば俺は、正解が分からないまま口を開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…じゃあ穂乃果は、どうしたい?」

 

搾り出した言葉はそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

流れる沈黙。

 

結局俺は穂乃果に委ねる事しか出来なかった。

 

当然穂乃果の今の状態じゃとてもじゃないがまともな判断をする様に見えない。

 

だが…すぐ穂乃果に頼ってしまう自分が…こうしようという案が全く出ない自分が…本当に情けない。

 

冬夜なら…何て声を掛けたのだろうか…

 

「…」

 

俺の質問にも一向に表情を変えない穂乃果。

 

誰一人として口を開かない…いや、開けないこの空間。

 

不釣り合いな小鳥の囀りだけが、虚しく響いていた。

 

そして俯いていた穂乃果は少しだけ顔を上げると、閉ざしていた口をついに開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やめます」

 

 

 

 

 

 

 

それは間違いなく穂乃果の声だった。

 

しっかり耳に入った【やめます】という言葉。

 

…やめる?何を?

 

落ち込むのをやめる?うじうじ考えるのをやめる?自分だけ抱えるのをやめる?

 

…一体何をやめる?

 

「…穂乃果、今何と?」

 

穂乃果に再び問う海未。俺は気づいたら叫んでいた。

 

「やめろ!」

 

「…太陽?」

 

「もう…これ以上はやめよう…」

 

分かってる…穂乃果が何を言おうとしてるかなんて…

 

だからこそ絶対言わせてはならない。

 

その言葉だけは絶対に、穂乃果の口から言わせてはならない。

 

穂乃果が一番言ってはいけない言葉。言ってしまえば…今度こそμ'sは終わってしまう。

 

「私は」

 

しかし、穂乃果は止まらない。

 

「…!…」

 

嘘だろ…言う気か?

 

「もう決めたの」

 

ダメだ…

 

「私、高坂穂乃果は…」

 

それ以上は…言ってはならない!

 

「穂乃果!それ以上言うなっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音乃木坂スクールアイドル。μ'sを…やめます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

μ'sは完全に壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が止まった様な感覚だった。

 

分かっていた。穂乃果がスクールアイドルをやめようとしていたのは。

 

分かっていたはずなのに…

 

「…」

 

扉へと歩き出す穂乃果。

 

止めないと…声を掛けないと…頭では分かっているつもりでも体が全く動かない。

 

それは皆も同じだった。

 

「…」

 

そして穂乃果は最後にチラリと一瞬だけこっちを見ると、そのまま屋上を去っていく。

 

俺達の口が開かれたのはそれから数分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行かないと…」

 

気付けば俺は自然と呟いていた。

 

「太陽君…」

 

まだ状況を飲み込めていない、整理がついていないメンバーも多い。

 

でも、今やるべき事ははっきり分かる。

 

「…引き留めないと」

 

このまま穂乃果を1人にしてはいけない。

 

このまま穂乃果を失ってはいけない。

 

μ'sを…無くしてはいけない。

 

「…!…穂乃果!」

 

自然と俺の足は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ遠くへは行っていないはず…」

 

勢いそのまま屋上を出た俺は急いで階段を降りていく。

 

まだ追い付ける。まだ間に合う。

 

コーチとして何としてでも繋ぎ止めなければいけない。

 

俺はその一心だった。

 

そして屋上への階段を降りきったその時、不意に声を掛けられた。

 

「…何処に行くつもりだ」

 

何度も隣で聞いた声。

 

きっとこの人なら何とかしてくれる…そう思わせてくれる心強さ。

 

「…冬夜」

 

俺にとって一番の親友。氷月冬夜がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上でのやり取りはずっと聞いていた。

 

昼休みに穂乃果の心を砕いた事もあり、μ'sの脱退を穂乃果は決断した。

 

これはきっと皆にとって穂乃果の口から最も聞きたくなかった言葉だろう。

 

だからこそ当然皆はその言葉を良しとしない。

 

太陽辺りが穂乃果を追いかけて来るだろうと思ったら案の定だ。

 

よく見たら他のμ'sのメンバーも来ている。

 

だが、穂乃果の元へ行かせる訳にはいかない。

 

「大変なんだよ冬夜!穂乃果が!」

 

「ああ、聞いてたよ。やめるんだって?」

 

「聞いてたのか?なら話は早いな!今穂乃果の所へ急いでるんだ!冬夜も力を貸して…」

「行ってどうするんだ?」

 

「…は?」

 

俺の言葉に太陽の表情が変わる。

 

「…決まってるだろ?連れ戻すんだよ」

 

「どうやって?」

 

「そ、それは…話し合って…」

 

「何て声を掛けるつもりだ?」

 

俺からの質問攻めに次第に太陽の表情が険しくなっていく。

 

μ'sの崩壊まで後僅か。悪いが目的の為なら容赦はしない。

 

「…何のつもりだ冬夜」

 

怒りを含んだ太陽の言葉。

 

俺の興味の無さそうな反応が頭に来ているようだ。

 

「…別にいつも通りだけど?」

 

「いつも通りだと?お前…どうしちゃったんだよ!そんなんじゃ無かったはずだろ!?」

 

そんなんじゃ無かった…か…昔からお前はそうだな。

 

「俺の全てを知っている訳でも無いのに知ったような口を利かないでくれる?」

 

本当にお前は考えが甘い。

 

今はそんな事を言ってられる状況じゃないんだよ。

 

「大体穂乃果を連れ戻すって正気か?穂乃果は自分でμ'sの脱退を決意したんだぞ?」

 

「それでも俺は納得出来ない!こんな別れ方は絶対にしたらダメだ。皆だって納得しない!」

 

「それは穂乃果の意思を無視する事になる。第一、今の状態の穂乃果を連れ戻した所で何になる?状況は一切変わらない。むしろ悪化するだけだ」

 

「そんなの分からないだろ!お前は納得出来るのか!?話を聞いていたなら分かるだろ!?あの穂乃果の様子!」

 

「ああ、分かるよ。その上で言ってるんだ」

 

「…何で…」

 

ヒートアップする太陽に俺は冷静に声を掛ける。

 

今の穂乃果を連れ戻すのは絶対にμ'sの為にならない。

 

むしろ穂乃果は一度μ'sを離れるべきなんだ。

 

「太陽、お前は甘いよ。掛ける言葉も見つかってないのにあの状態の穂乃果と会ってどうするつもりだ?思い付きの上辺だけの言葉を並べるつもりか?」

 

「それは…」

 

「いいか?はっきり言うが今の穂乃果じゃμ'sにとってお荷物でしかない」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

俺の言葉に皆の目の色が変わる。

 

「…お前、今何て…」

 

「μ'sのお荷物だって言ってるんだ。頑張るの脆い精神論1つで一人で突っ走って一人で失敗して皆を巻き込む。これをお荷物と言わずになんと呼ぶ?」

 

「お前…本気で言ってるのか?ふざけるな!!穂乃果がどれだけ一生懸命だったかお前だって分かるはずだろ!!」

 

今にも殴り掛かりそうな剣幕で俺に怒鳴る太陽。

 

だが俺は表情を一切変えず冷たく返す。

 

「ああ、一生懸命だったね。無駄に」

 

「!?」

 

「一人でああだこうだ悩んで勝手に結論を出して、ステップを相談無しに変えたり皆の練習量も勝手に増やしたり…話を聞いた時俺は思ったね。一人でやれよって」

 

更に俺は続ける。

 

「グループというのは全員が同じ熱量で同じ方向を向いて活動するものだ。そこに熱量の誤差、方向の違いがあるだけでグループは成立しない。にこのスクールアイドルの挫折が例だ。にこの熱量が強すぎたからついていけず皆離れた。今の穂乃果はそれだよ。今の穂乃果がμ'sに必要ないのはそこで、只でさえ学園祭失敗、ラブライブ辞退なんて事が起きてるのにそれに加えことりとの衝突。いい加減にしろよ。どれだけ皆を振り回すつもりだ」

 

そして俺は今までより冷たい声で太陽の目を見ながらはっきりと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の穂乃果に、価値はねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬夜ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

不意に掴まれる胸倉。壁に叩きつけられる体。

 

そして、怒りに染まった太陽の姿。

 

完全に目は血走り、険しい形相を浮かべ胸倉を掴む手にも力が入る。

 

当然非力な俺では動かす事なんて出来ず、ただただ壁に押さえ込まれたまま。

 

それでも俺は冷静だった。

 

「…」

 

「お前、自分が何を言ってるのか分かってるのか!?穂乃果に価値が無いだと…?…ふざけるんじゃねぇ!!!」

 

「た、太陽君!冬夜君!」

 

思わずそう叫んだのは涙を流している花陽だろうか。

 

不安に揺らぐ皆の瞳。悲しそうな表情、涙を流す者、ショックで唖然としている者。それは様々だった。

 

「ふざけてなんていないさ。俺は真面目だ」

 

「お前!!」

 

今にも殴り掛かりそうな程の敵意。

 

そして俺の言葉に少なからず感じているだろう俺への不信感。

 

いっそこのまま殴られようか。

 

今の状況は俺にとって好都合だ。

 

「…冬夜君は、これからのμ'sはどうするのが正解だと思うの?」

 

そう俺に疑問を投げかけるのは希。

 

この状況でのその冷静さはさすがだな。

 

「それは君たちで決めるべきだ」

 

「でも、うちは冬夜君の意見が聞きたい」

 

真っ直ぐ俺を見つめる希の表情はいつにも増して真剣だった。

 

希のμ'sに対する愛情は強い。μ'sの未来を人一倍気にしているのは間違いなく希だ。

 

…仕方ない。意見を言うくらいは良いか。

 

「俺は、μ'sは一度活動を中止するべきだと思ってる」

 

皆思う所があったのか俺の言葉に対し驚く素振りを見せなかった。

 

「…」

 

胸倉から手を離し俺から離れる太陽。

 

次に口を開いたのは絵里だった。

 

「…理由、聞いても良い?」

 

「理由は2つ。まず継ぎ接ぎだらけの今の状態でまともなライブが出来るとは到底思えないのが1つだ。2つ目は、スクールアイドルをやる事の意味を考える時間が必要な事だ」

 

「スクールアイドルを…やる事の意味?」

 

「そう。廃校も阻止出来た。ラブライブも無くなった。そうなればスクールアイドルを続ける理由が無くなる。もし、この先もスクールアイドルを続けるなら、何でスクールアイドルをやるか皆の中で統一させないといけない。じゃなければこれ以上の活動は無理だ」

 

今のμ'sは完全に目的を失っている。何でスクールアイドルを続けるかの理由が無い。

 

これはスクールアイドルに対するモチベーションや熱量にも関係して来るもの。この統一が取れなければμ'sはいずれまた衝突する。

 

「…分かったわ」

 

俺の返答を聞いた絵里は、暗い表情でそれだけ言うと口を閉ざした。

 

「…」

 

訪れる静寂。皆の顔は俯いており誰も俺と目を合わさない。

 

…いや、まだ一人だけいるな。真っ直ぐ俺を見つめてる人。

 

「…希。まだ何か言いたい事あるのか?」

 

「…やっぱり…気付いちゃう?」

 

一人だけ真剣な表情でじーっとこっち見てたらそりゃ気づくわ。

 

だが、この希の様子だとこの場で話し辛い事なのかもしれないな。自分から口を開かなかったという事は。

 

「…本当は後にしようと思ってたけど…」

 

希はそこで一度言葉を止めると、一回の深呼吸を挟み俺に疑問をぶつけた。

 

 

 

 

 

「今日、旧校舎で穂乃果ちゃんと何を話したの?」

 

 

 

 

 

「…希…それ、どうゆう事?」

 

「うち、見たんよ。昼休みに穂乃果ちゃんが旧校舎に歩いていった後、冬夜君が追いかける所」

 

…まさか見られてるとはな。しかも希に。

 

まぁ特段隠す程の事でも無いし、話しても良いが。

 

「…本当か?冬夜」

 

太陽が怪訝しい表情を浮かべながら言う。

 

皆は薄々感じているだろう。穂乃果が何故スクールアイドルをやめると言い出したのか。それが俺と関係している事。

 

皆の表情の険しさが物語っている。

 

俺は一切表情を変えず、淡々と話した。

 

「ああ、本当だよ。穂乃果に直接言ったんだよ。全部君のせいだって」

 

「…は?」

 

その瞬間、皆の目の色が変わる。

 

「何で…何でそんな事を!」

 

珍しく声を荒げるのは涙を流している花陽。

 

当然だ。皆が散々穂乃果に責任を押し付けまいと必死に優しい言葉を掛けていたのにそれを台無しにしたからな。

 

「冬夜…お前!!!」

 

再び俺に掴みかかろうとする太陽。

 

しかしその前に俺は悪びれる事無く声を掛ける。

 

「現実を突きつけたまでだよ。本当の事を言って何が悪い」

 

「…!…」

 

「学園祭前。土砂降りだった夜に俺はジョギングをしている穂乃果と会った。そこで俺は忠告したんだよ。今すぐ帰れ、体調管理、そして周りが見えなくなっている事。全て伝えた。俺には全て見えていたからな。学園祭の失敗もことりの留学で衝突する事も。でも穂乃果は目先の学園祭。ラブライブに気を取られて俺の言葉に耳を傾けなかった。その結果、俺の予想通りの事態になりその時点で俺の中での穂乃果の価値は無くなった。君たちの中途半端な優しさで穂乃果を慰めた所で穂乃果は変わらない。また同じ事が起きる。だから俺は穂乃果に全てを伝えた。穂乃果の心を砕いた。だから穂乃果はスクールアイドルをやめるって言い出したんじゃないのか?」

 

誰一人、言葉が出なかった。

 

穂乃果がさっきしていた表情によく似ている。μ'sは間違いなく絶望しているんだ。俺の行動に。

 

俺は更に続けた。

 

「μ'sというグループは強い。それでいて弱い。それは君達の精神的支柱が穂乃果しかいなかったから。いつだって穂乃果は君達の前を立っていた。率先して動いていたのはいつも穂乃果だっただろう?ここまでμ'sは確かな成長を遂げた。でも自惚れてはいけない。所詮μ'sというグループはその1本しかない支柱を崩せば今みたいに崩壊する程脆い。学園祭準備期間の穂乃果に誰一人疑問を持たなかったか?暗い表情を浮かべることりに誰一人気付かなかったのか?または話を聞いてあげなかったのか?太陽も分かっただろう?あの状態になっても出た言葉があれ。これ以上の高みを目指すならお前じゃ力不足だ」

 

「夏休みの合宿も、先輩後輩を取り払う目的でしかない。士気は高まっていたみたいだが君達はまだ繋がってないんだよ。君達は穂乃果という柱を気にして、穂乃果の熱に押されて、間違った道に進んでいる事にも気付かず、柱が間違っていても修正する人がいない。この問題はもっと真摯に向かい合うべきで考えてる時間が無い、前を向くしかないで解決なんて出来ないんだよ。ここまで君達が作り上げたμ'sはこんな簡単に壊れるんだ。応急処置で繕ったμ'sなんてすぐにまた壊れる。だから俺は終わらせない。この問題を終わらせない。精神論に頼りきって自ら崩壊する様な生温いグループ…俺がぶっ壊してやる」

 

思っている事を全て話した。

 

全て本心。彼女達はまだ自分の弱さを自覚していない。

 

例えこれが原因で彼女達が立ち直れなかったとしても俺は構わない。

 

それ程俺にとってもう穂乃果は…μ'sは…価値がどこにも無い。

 

「…」

 

静寂。誰一人口を開こうとも顔を上げようともしない。

 

ショックを受けているのか。怒りで体が震えているのか。

 

表情が分からない今では知る由もない。

 

そんな中、動いたのは海未だった。

 

「…」

 

静かに俺に歩み寄る海未。

 

その動きを見守るメンバー。

 

俺もまた、一歩も動かず真っ直ぐ海未を見つめている。

 

そして、海未は俺の前に立つと、右手を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシンっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響き渡る乾いた音。

 

熱を持つ俺の頬。

 

頬に走った衝撃に視界が海未から外れる。

 

そして直ぐ様目の前を向くと、そこには涙を流している海未の姿があった。

 

「…っ…」

 

俺を睨み付ける海未。

 

そしてそのまま海未はポツリと呟いた。

 

「…最低です…」

 

「…」

 

「…あなたが…あなたがそんな人だとは思いませんでした!!あなたは…最低ですっ!!…」

 

海未からのビンタ。

 

だが、ここまで言ってしまえば飛んでくるだろうと思っていた。

 

だから特別驚きもしない。

 

悪いな海未。俺にビンタは通用しないんだ。

 

「…最低…か…」

 

俺はぽつりと呟く。

 

そして、そのまま俺は真っ直ぐ海未の目を見つめながら冷たく言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気付くの遅いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




崩壊したμ's。

冬夜の言葉で心が折れたメンバーは活動の休止を余儀なくされる。

彼女達が信じたヒーローはいない。

だが、彼が残したヒントは間違いなくあった。

もう一度立ち上がる為に…

女神はひたすらに答えを探す。絶望の先に、光があると信じて。








〜次回ラブライブ〜

【第28話 堕ちた女神は何を思う】
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