今回も結構悩みました。何度か文章や展開を見直して何とか自分で納得出来る形に収まりました。
…まぁ文才や表現は別としてね?
という訳で第29話始まります。
ちなみに一番悩んだのはタイトルだというのはここだけの話。
「じゃあ穂乃果また明日ね!」
「うん!バイバーイ!」
それから数時間ゲームセンターで遊び続け、気付けば周りは日が暮れていた。
明日も学校だしというミカの言葉を皮切りに、今日はこのまま解散の運びになった。
手を振る穂乃果とヒデコ達。
穂乃果も楽しかったのか最後まで笑顔を絶やす事は無かった。
そして穂乃果の姿が消えた事を確認すると、ヒデコはホッと一息ついたように話し出す。
「ふぅ…とりあえず、成功で良いのかな?」
「うん。良いんじゃない?大分笑う様になったし」
「ダンスダンスレボリューションは効果覿面だったね!」
作戦通り…という言葉がこの場合は相応しいのだろう。どうやら今回の事は突発に行った訳では無く、予め計画していたものらしい。
他の二人もホッとしたように口を開く。
「にしても結構緊張したなー」
「こんな事初めてだからね」
大きな仕事を終え、安心した様に一息をつく3人。
一先ずは作戦は成功に終わり、満足そうにゆっくりと歩を進める。
少しすると、ヒデコが何かを思い出した様に声を上げた。
「あ!そうだ、報告しないと」
「あ、そうだね。すっかり忘れてたよ」
「うん。待ってるかもだし電話しよっか」
フミコの言葉を受け直ぐ様電話をかけるヒデコ。
数回コールが鳴った後、電話は繋がった。
「もしもし?作戦は無事成功したよ。これで良いんだよね?【冬夜君】」
「遅かったね。部活?」
「…ええ」
場所は変わりことりの部屋。
そこには暗い表情をした俯く海未と、その様子を心配そうに見つめることりがいた。
「…やっぱりまだ、引き摺ってる?」
優しい声色で海未に声を掛けることり。
ことりの言葉を受けた海未は力無く頷く。
「…そっか…」
穂乃果の脱退。冬夜との衝突。
ことりがいない間のμ'sの様子は海未から聞かされており大体の事情は知っていた。
「私も凄いショックだったよ…それは今も同じ。でも、実際にその場にいなかった私がこんなにショックなんだから本人から直接言葉を聞いた海未ちゃんはもっとショックだったよね…」
「…ショックです…でも、それ以上に自分が許せないんです…」
海未はそう言うと、俯いたまま握った拳を震わせる。
「ただただショックでした。まさか冬夜が穂乃果にあんな事を言うなんて…でも、冷静になった今なら分かります。冬夜は…冬夜は正しかった…言い方や穂乃果にした事は確かにやりすぎと呼べるものです。しかし、冬夜の言っている事に間違いは無かった…それなのに…それなのに私は…」
海未の脳裏に過るのは頭に血が上り冬夜にビンタをしてしまった瞬間。
大きな後悔となって襲いかかる現実に、海未の心のダメージはより一層深まっていた。
「…海未ちゃん…」
心配そうに漏らすことりの呟き。
ことりはそんな海未に掛ける言葉が見つからず、ただ立ち尽くすのみだった。
「…ごめんなさい。別に落ち込みに来た訳じゃないのに。これじゃいけませんね」
海未は少しだけ顔を上げると、心配させない様にと笑顔を作ってみせる。
「ううん。大丈夫だよ、気にしないで」
対することりも、同じ様に笑顔を浮かべながらそう返した。
「話を少し変えましょう。荷物の整理は大分終わったみたいですね」
海未はすっかり殺風景になってしまったことりの部屋を見渡しながら言う。
「うん。もう出発まで時間が無いからね」
「…そうでしたね」
ことりが日本を発つのは3日後。
迫るタイムリミット。着実と迫る親友との別れの時間に海未はまた表情を暗くする。
「あれから穂乃果とは?」
ーーーーこのまま終わらせたくない。
海未の中にある強い思い。
ここで終われば絶対に後悔する。
そう思った海未は、ひたすらに言葉を探す。
「…ううん、話せてない…」
「…じゃあ冬夜とは?」
「…話せてない…他の皆ともそれっきりだよ」
藁にもすがる様な思いで発した穂乃果と冬夜の名前。
しかしどれも不発で終わってしまう。
「…っ…」
穂乃果や冬夜だけでは無く他のメンバーとも話せていない。
となれば今、ことりと関わっているのは海未だけ。
頼れるのは自分しかない…
気付けば海未は口を開いていた。
「…ことり…本当に…行ってしまうのですか?」
今にも消え入りそうな海未の声。
しかし、それはことりの耳に入っていた。
「…うん…」
前からの夢。ことり自身が決めた道。
分かってる。そんな事はちゃんと分かってる…
だが、海未の込み上げてくる思いは止まらなかった。
「…!…それでも私は!」
ーーーーー行って欲しくないーーーーー
一番ことりに伝えたかったはずの言葉。
一番私が言いたかったはずの言葉。
でも、その言葉が私の口から出る事はありませんでした。
「…」
本当はことりから初めて留学の話を聞かされた時に言うべきだったのかもしれません。
私は遅かった。
本当の気持ちに気付くのが。そしてその気持ちに素直になるのが。
今更、私の口からは言えない。
もうそれは、【私の役目では無いから】
私が言いかけた言葉。きっとことりは気付いているのでしょう。
私の思いに。
そしてことりは悲しそうな表情を浮かべると、海未を見つめながら静かに呟いた。
「…無理だよ…今からなんて…」
「…はぁ…楽しかったなー」
ヒデコ達と別れ帰り道。
ゲームセンターで遊んだ余韻を感じながら私はゆっくりと歩を進める。
踊った時に感じた楽しさと高揚感。
それはとても懐かしいものだった。
「…似てるな…スクールアイドルを始めた時と…」
あれはまだμ'sが3人だけだった時。
あの時は何をしても楽しかった。希望が溢れていた。
かつて確かに持っていた感情。でも、それはいつしか忘れていた。
気付けば周りが見えなくなってて…
あの時持っていた純粋な楽しさと輝きを私は…
ーーーーーいつから、失っていたんだろう。
気付けば私の足は、とある場所へ向かっていた。
「…懐かしいな…」
目の前にある見慣れた長い階段。
それはかつて、スクールアイドル始めたての時からトレーニングでお世話になった思い出深い場所。
太陽くんと初めて出会った場所であるここもまた、私にとっては凄く大切な場所。
部室が広くなってからは殆ど来れていないけど、この場所…神田明神もμ'sの成長の手助けをしてくれた。
でもどうしてだろう…ここに急に行きたくなったのは。
「…折角だし、お参りでもしていこうかな」
私は一人そう呟くと、ゆっくりと階段を上っていく。
…思い出すな…ここでの練習…
階段ダッシュ辛かったな…
そういえば階段から足を踏み外して落ちそうになった事もあったよね。
その様子を見た太陽君達に笑われたっけ…
そうだ、にこちゃんから解散する様に謂われたのもここだよね。
あの時はビックリしたな…でも、そんなにこちゃんもμ'sに入ってくれて…
「…ここでもいろんな事あったな…」
思い出を噛み締めながら私は1段1段上っていく。
「…あ、もう終わる…」
気付けば階段も残り僅か。終わりはそこまで迫っていた。
お参りして帰ろう…そう思いながら一瞬だけ足元に目を移す。
そして階段を上り切るその時だった。
「かよちん遅いにゃー」
「はぁ…はぁ…やっぱり…久し振りだとキツイね…」
あれ?今の声…
「凛ちゃんと…花陽ちゃん?」
私は正体を確かめる為に階段を一気に上り切る。
そして私の視界に映ったのは、練習着を着た凛ちゃんと花陽ちゃんだった。
「…あ…」
「ほ、穂乃果ちゃん?」
私を見た花陽ちゃんが驚いた様に声を上げる。
私はすぐ様口を開いた。
「…練習、続けてるんだね」
私の脱退と冬夜君との衝突を受けたμ'sは活動休止になったとヒデコから聞いている。
だから少し意外だった。凛ちゃんと花陽ちゃんが練習しているのが。
「私が誘ったのよ」
今度は後ろから声が掛かる。
すぐ様声のした方に振り向くと、そこには少しだけ怒った様子のにこがいた。
「…にこちゃん…」
「何か用?こっちは練習で忙しいんだけど」
それはまるで出会った頃の様な冷たい反応。そりゃそうだ。私はにこちゃんを裏切ったんだから。
許してくれるはず…無いよね…
「…ううん。用事あって来た訳じゃないよ。たまたま立ち寄っただけ」
人一倍アイドルが好きなにこちゃんの事。きっとこのままじっとしているのが嫌だったんだと思う。
にこちゃんは本当に強い。
「…邪魔なるといけないから帰るね?ごめんね突然」
このままじゃ練習の邪魔になる。そう思った私は、3人に背を向けて歩き出す。
ーーーーーその時だった。
「あれ?どうしたんだ穂乃果」
階段下から不意に声を掛けられる私。
思わず立ち止まってしまった私の元へ向かい歩いてくる人物。
にこちゃんが呆れた様に言う。
「…はぁ…太陽、遅刻よ」
「ごめんごめん。ちょっと用事あってさ」
そこにいたのは申し訳無さそうにしているμ'sのコーチ。朝日太陽君だった。
「それよりもだ。珍しいお客さんだな」
太陽君が私を見つめ微笑みながら言う。
きっとここにいるという事は太陽君は今、にこちゃん達のコーチを引き受けてるんだ…
一番親しい冬夜君との衝突で一番辛かったのはきっと太陽君なはず。
それでも太陽君はしっかり前を向けている。…それなのに私は…
気付けば私は皆に言っていた。
「…何で?」
「…ん?」
「何で…アイドルを続けようと思ったの?」
無意識に口に出ていた心の底からの問い。
すぐ様にこちゃんが答えた。
「【やりたいから】」
「…え?」
当たり前だと言わんばかりのにこちゃんの様子に思わず驚きの声が漏れる。
「にこはアイドルが大好きなの。みんなの前で歌って、ダンスして、みんなと一緒に盛り上がって、また明日から頑張ろうって、そういう気持ちにできるアイドルが、私は大好きなの!」
そう言うにこちゃんの表情はとても自信満々で、迷いは一切感じられなかった。
「あなたみたいないい加減な好きとは違うの」
「…!…い、いい加減なんて…」
「何が違うの?自分から捨てておいて」
「…っ…」
にこちゃんの言葉に思わず反論してしまった私。
でも、返された言葉に私は何も言い返す事が出来なかった。
にこちゃんの言葉が…正論だったから。
「…」
「…」
訪れる何度目かの重たい空気。
もうこの空気に慣れてしまっている自分が怖い。
誰一人口を開こうとしない静寂の中、一番最初に破ったのは太陽君だった。
「まぁまぁまぁ、今はそんな事話してもしょうがないよ」
「…太陽君…」
太陽君は話題を変えるように更に続けた。
「穂乃果。実は明後日ライブやるんだよ」
「…ライブ?」
予想外の言葉に思わず私は目を丸くする。
まさかもうライブの日程が決まってるとは思わなかった。
「そう。音乃木坂の講堂でやる。もうチラシも配ってるんだよ」
「そうなんだ…」
講堂でのライブ…その言葉で思い出すのは私達が初めてお客さんの前で見せたあの時の一番最初のライブ。
今思えばあの時いたお客さんはお手伝いのヒデコ達を除けば全員後のμ's。
そんな私達を繋いだあの講堂でまた、ライブをするんだね。
「良かったら、穂乃果ちゃんにも来てほしいな…」
花陽ちゃんが少し恥ずかしそうに言う。
明後日のライブか…確かその日はことりちゃんが日本を発つ日…
…皆はお見送りとかしないのかな?
「穂乃果ちゃんが来てくれたら絶対盛り上がるよ!」
続いて凛ちゃんが笑顔を浮かべながら言う。
その様子からは当日のライブがとても楽しみである事が充分伝わってくる程。
…盛り上がるっていう発言にはちょっと引っ掛かるけど、さすがに今は水を差す様な事は言えないや。
「うん。考えておくよ」
私は出来るだけ何にも触れず曖昧にそう返した。
「元々はあんたが始めたスクールアイドルでしょ?絶対来なさいよ」
「…にこちゃん…」
そんな私の様子を見て来ない可能性があると判断したのか念を押すように言う。
「うん」
私はすぐ様頷くと、そのまま階段を降りていく。
ごめん…頷いちゃったけど、多分私はライブに行けない。
心の中で謝りながら神田明神を後にしようとしたその時だった。
「穂乃果」
「…!…」
後ろから掛けられる声。
私は振り向くと、そこには柔らかな笑みを浮かべた太陽君がいた。
「…一体なに…」
「待ってる」
「…え?」
「講堂で待ってる」
「【皆で】」
その時私は、少しだけ答えに触れた気がした。
次の日の夕方。
神田明神の出来事がまだ頭の中をグルグル回っている私は、まだ明確な答えが出せず悩んでいた。
あの時、私は間違い無く答えに触れていた。
アイドルを続ける意味。今自分が何をすれば良いのか。
もう少しで掴めそうな気がしたのに寸前の所で後一歩踏み出せない。
ことりちゃんの旅立ちまで1日。明日の今頃はもうことりちゃんは日本にいない。
このまま、終わってしまうの?
そう思った時、階段下から雪穂の声が聞こえた。
「お姉ちゃん!お客さん来たよ!」
…お客さん?
こんな時間に?一体誰だろう…
「今行く!」
私は雪穂にそう返した。
このまま一人で考えたくない。そう思った私は部屋を飛び出しすぐ様玄関へ向かった。
誰かは分からない。μ'sのメンバーなのかヒデコ達なのかはたまた太陽君や冬夜君なのか。
でも知り合いなら誰でも良かった。
このまま一人で考えていても答えには辿り着けないような気がしたから。
階段を一気に駆け下りる私。見えてくる玄関への扉。
そして玄関に到着したその時、私の目には2つの人影が映った。
「穂乃果、久し振りね」
「元気だった?」
夕方に訪れた来客。それは…
「絵里ちゃん…希ちゃん…」
柔らかい笑みを浮かべながらこちらを見つめる絵里ちゃんと希ちゃんだった。
「突然ごめんね?」
「ううん。丁度暇してたから全然大丈夫だよ。ゆっくりしていって」
絵里ちゃんと希ちゃんを部屋に通すと、お茶とお茶菓子を用意し寛ぐように伝える。
私は二人が座った事を確認すると、早速本題に入る事にした。
「今日はどうしたの?」
「ちょっと穂乃果ちゃんの事が気になってね。えりちと一緒に元気にしてるか様子を見に来たんや」
「ほら、スクールアイドルやめてから1回も話してないでしょ?きっと他のメンバーとも話せてないだろうしって事で希の提案で来たのよ」
…確かにあの時以降まともに話したのは昨日偶然会ったにこちゃん達だけで全く話せていない。
それを察知した絵里ちゃん達が私を気遣ってわざわざ来てくれんだ…
二人の優しさが本当に身にしみるよ…
「そうなんだ…ありがとね?わざわざ来てくれて」
「ううん。それで、あれから皆とは?」
「話せてないよ…あ、でも昨日にこちゃん達とは会って少しだけ話した。スクールアイドル続けてるって」
「そうなんや。じゃあ、講堂でライブやる事も聞いてる?」
「うん。聞いてるよ」
「穂乃果はどうするの?私達は行くつもりよ」
にこちゃん達のライブ…結局あれから考えても答えは変わらなかった。
本当は行きたい…行かなきゃいけないんだろうけど、私は行けない。
どんな顔で観たらいいか分からないから。
「…ごめん…行かないつもり…」
「…」
「…」
私の答えに二人は悲しそうな表情をする。
違う…二人にこんな表情をさせたい訳じゃ無いのに…
「理由は?聞いても良い?」
希ちゃんが言う。
私はすぐ様正直に答えた。
「分からないの…」
「…分からない?」
「うん…どんな顔をしてライブを…皆を観れば良いか分からないの。それに明日はことりちゃんの旅立ちの日だし…」
「…そっか…」
私の言葉に二人は残念そうに顔を見合わせる。
まだことりちゃんにどんな顔をしてどんな言葉を掛けていいのかも分からない。
ライブも言った通り、今の私じゃ観に行く資格は無いと思ってる。
…じゃあ私は…何をすれば良いの?
「うちな」
「…え?」
「穂乃果ちゃんがスクールアイドルを始めるって知って、その姿を初めて見た時、これやって思ったんよ。えりちは廃校だけに目が行って本当にやりたいことを見失ってる。このままじゃえりちはきっと後悔する。だからうちは穂乃果ちゃんが始めたスクールアイドルに賭けることに決めた。これがえりちを救う唯一の方法だって思った。久し振りやった。カードに頼らずに心の底からこれだって思えたのが。まぁ名前決める時はカードを頼ったんやけどね?そこからうちはスクールアイドルμ'sをサポートする事に決めた。最初はえりちの為にμ'sに入るつもりだったけど、関わっていく内に楽しそうに笑顔を見せる皆を見てたらうちもやってみたいと感じる様になったんや。そして、μ'sに入って実際にスクールアイドルを始めて思ったんよ。【心の底から楽しいって】」
「…!…」
希ちゃんの言葉を真剣に聞いていた。
スクールアイドルに対する希ちゃんの思い。それはとても熱くて眩しくて、私には無いものだった。
更に絵里ちゃんが続ける。
「私が最初にμ'sに抱いた感情は嫌悪だった。私がこんなに苦労して廃校を阻止しようとしてるのにあなた達はそんな簡単な事で阻止しようとしてるのが許せなかった。でも、次第にあなた達はレベルアップしていって順位も上げていって人気が出て来て、廃校阻止が現実味を帯びてきて、何よりその中でずっと笑顔だったあなた達が羨ましくなった。私は何をしてるんだろう…そう思ってしまうぐらいにね。そして私はそれから思う様になったの。私もスクールアイドルやってみたいって。バレエをやっていたから余計に思ったのかもね、あの時みたいに皆の前で踊りたいって。でも、その時にはもう後戻り出来ない所まで来ていた。私は気付くのが遅かったのよ。でも、希が…冬夜君が…皆が私に手を差し伸べてくれて、ようやく私は素直になれた。そしてやりたかったスクールアイドルを始めることが出来たのよ。スクールアイドルを始めたその時から皆と過ごしてて感じた事…それは、【幸せ】だったわ」
「幸せ…」
懐かしむ様に話す絵里ちゃんがとても輝いていて、μ'sの活動が本当に楽しい物だという事が伝わってくる。
幸せ…私は無意識の内にそう呟いていた。
「そうよ。μ'sとして皆と過ごしたあの日々はとても輝いていて、私にとって宝物よ。ねぇ穂乃果。一つだけ聞いても良いかしら?」
「穂乃果は、何でスクールアイドルを始めたの?」
絵里ちゃんの思いがけない質問に思わず目を丸くする。
何でスクールアイドルを始めたのか。
それは廃校を阻止する為…いや、きっと絵里ちゃんが望んでいる答えはこれじゃない。
廃校阻止はそうだけど、何でそれがスクールアイドルだったのか。
スクールアイドルが人気だったから?これなら出来そうだと思ったから?
…ううん、違う。
A-RISEを見て、楽しそうだと思ったから。やりたいと思ったから。
そうだよ…踊っているA-RISEが、歌っているARISEが、それを見て楽しんでいる皆が…とても幸せそうで…
私も、ああなりたいって思ったんだ。
「私は…楽しそうだと思ったから…やりたいと思ったから始めた…」
「実際に始めてどうだった?」
続いて希ちゃんが質問する。
私はすぐ様答えた。
「楽しかった!思っていた以上に、すっごく楽しかった!!」
なんでだろう…不思議と言葉が溢れてくる…
これが…私の本心?
「私ね、よくしっかりしてるねとか真面目だね、いつも冷静だねって言われるんだけど、本当はそんな事無いの」
「…絵里ちゃん」
真剣な表情で話す絵里ちゃん。
私も真剣な表情で耳を傾ける。
「いつも迷って、悩んで、困って、泣き出しそうで、希に恥ずかしい所を見られた事もある。でも、隠してる。自分の弱い所を隠してる…」
絵里ちゃんは更に続ける。
「私は穂乃果が羨ましい。自分が思った気持ちを、そのまま素直に行動に移せることが凄いなって心から思ってるの」
「そんな事…」
「ねぇ穂乃果…私には穂乃果に何て声を掛けてあげれば良いのか分からない。私達でさえ、ことりがいなくなってしまうのがショックなんだから、海未や穂乃果の気持ちを考えたら辛くなる…でもね?私は穂乃果に一番大切な物を教えてもらった」
大切な物…
「変わる事を恐れないで突き進む勇気」
真っ直ぐ私を見つめる絵里ちゃん。
そして、そのまま絵里ちゃんは私に手を差し伸べた。
「私はあの時、あなたの手に救われた。だから…」
ーーーーー今度は私の番。
絵里ちゃんはそう言うと迷いの無い瞳で私を見つめていた。
あの時の逆だ…絵里ちゃんがμ'sに入ってくれた時と逆…
目の前に差し出された手。
次の瞬間、希ちゃんが1枚のCDを私の前にそっと置いた。
「これは…」
「真姫ちゃんが穂乃果ちゃん達の為に作ってくれたんや。3人に向けた新しい曲」
私達の為の…曲…
「真姫ちゃんもμ'sの事を大事に思ってる証拠や。真姫ちゃんなりの、穂乃果ちゃん達へのエールだよ」
真姫ちゃん…
置かれたCDを見つめる。
そこに書かれたタイトルはまるで、今の私が何をすれば良いのかを教えてくれる様だった。
そうだよ…こんな簡単な事、何で今まで気付かなかったんだろう…
答えは…すぐそこにあったのに…
私は気付けば差し出された絵里ちゃんの手を握っていた。
「ありがとう!絵里ちゃん、希ちゃん!」
答えは見つけた。もう離さない。
ありがとう…皆。
私を見つめる絵里ちゃんと希ちゃんは、満面の笑みだった。
真姫ちゃんが私達の為に作ってくれた曲…タイトルは…
【ススメ→トゥモロウ】
「…」
絵里と希が帰った後、部屋に一人いる穂乃果は押し入れを開き探し物をしていた。
「確かここに…あった」
そう言い押し入れから取り出したのは一着の服。
それは、かつて穂乃果がスクールアイドルの練習の時に身に着けていた練習着だった。
「…よし!」
練習着を手に持ち静かにそう呟く穂乃果。
その瞳からはもう、迷いは消えていた。
「…」
時を同じくして、繁華街を一人の少女が歩いていた。
「…」
手に持つ1枚のCDを見つめる少女。
そこに書かれたススメ→トゥモロウというタイトル。それは穂乃果が貰ったCDと同じ曲だった。
「…明日へ進め…ですか」
タイトルの意味を呟く少女。
親友の旅立ちを明日に控えた少女にとって、このタイトルはとても重要な物だった。
「…あれ…」
その時、ふと少女の視界に横断歩道にいる一人の人物が入る。
「…冬夜…」
ぽつりと人物の名前を呟く少女。
そこにいたのは、かつて少女にとって信頼できるマネージャーであった氷月冬夜だった。
「はい、足元気を付けて下さいね」
杖をついたおばあちゃんの物と思われる荷物を持ち、おばあちゃんを支えながら横断歩道を渡る冬夜。
歩幅、ペースその全てをおばあちゃんに合わせ、転ばないようにゆっくり歩いていく。
「…あなたが…あなたがそんな人だとは思いませんでした!!あなたは…最低ですっ!!…」
「…っ…」
ふと少女の脳裏に過るのはあの時、冬夜に言った言葉。
思わず表情が険しくなる少女。
「ありがとね…本当に助かったよ」
「いえいえ。気を付けて帰って下さいね?」
聞こえるおばあちゃんと冬夜の会話。
それを聞いた少女は思わず呟いた。
「…本当のあなたはどっちなのですか?」
ーーーーーピロン。
「…!…」
その時、少女のスマホが鳴る。
誰かからのメッセージだろうか。すぐ様少女はスマホを開いた。
「穂乃果から…」
スクールアイドルをやめたあの日以来話していないもう一人の親友からのメッセージ。
驚いた表情を浮かべたまま少女は親友からのメッセージを確認する。
「…穂乃果…」
そのメッセージを見た少女は思わずニヤリと笑う。
期待と胸の高鳴りを含んだ感情。直感が少女に告げている。
これはμ'sにとって新たなスタートになると。
少女に届いたメッセージ。それは…
【私、ようやく気付いたよ。直接海未ちゃんと会って話したい。だから、明日の朝7時に講堂に来て】
悩んだ女神は走り出す。
ついに立ち上がった女神。
沢山の決意と希望を抱え、勝負の明日へと進む。
「だって可能性感じたんだ…そうだ、進め」
「後悔したくない目の前に…」
【僕らの道がある】
女神達は再び集結する。
固い絆と、強い気持ちを持って、始まりの場所で再び輝く。
〜次回ラブライブ〜
【第30話 そして女神は再び羽ばたく】
お楽しみに。