本当は昨日仕事がお休みだったので公開するつもりだったんですがまさかの急な休日出勤で身も心もボロボロになってしまいました…
…まぁ暗い話題はここまでにして、遂に今回でμ'sが復活します!
アニメでは1期が終了する大事な局面ですね!
実は今回オリジナルを含め書きたいシーンが沢山あったんですが、展開がグダっちゃうのとここに来てそのシーンは違和感じゃね?という事態が多発したので結局半分程しか採用出来ませんでした。
前も言いましたが本当に原作にオリジナルを混ぜるのは難しいですね…
ですが全体的に楽しく打ち込めたので満足です。
μ's解散編完結!!
という訳で第30話始まります。
あ、そういえばもう30話突破したんですね。どんどん物語が進んでとても嬉しいです!
今後共何卒よろしくお願いします。
「…本当にお別れの挨拶しなくて良いの?」
次の日の朝。
空港にいたのは似たような髪型をした二人の親子。
暗い表情を浮かべる少女…南ことり対し、音乃木坂の学園長であることりの母である若い女性が心配そうに話し掛ける。
「…うん…泣いちゃいそうだから」
ことりにとっては新たな旅立ちの日。
しかし、まだ未練があるのか浮かない表情は一向に取れる気配が無い。
「そう…」
だが、ことりの母はそれ以上追及しようとはしなかった。
これは全て娘が決めた事。だったら最後まで娘に委ねよう。
これは紛れも無く娘自身の問題で、親の立場ではこれ以上は踏み込めない。
そう思ったことりの母は、ことりの表情の違和感に気付きつつもそれを口にする事は無かった。
「体調に気を付けなさいよ。ことりなら大丈夫だから」
代わりに出来る事は自分の娘にエールを送る事。
気休め程度ではあるが、少しでも気持ちが楽になる様になるべく柔らかい笑みを浮かべながら伝える。
「…うん。出来るだけ連絡もするから」
それに対しことりも、心配を掛けない様にと泣きそうになるのを堪えながら笑みを浮かべ返す。
「じゃあ、行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
背を向け、空港内へと歩き出す。
夢に向かって進む大きな一歩。
沢山の希望と、大きな決意を秘めた旅立ちになる筈だった。
「…」
しかし、その表情にはまだ迷いがあった。
「…穂乃果ちゃん…」
無意識に親友の名を口にする。
本当にこのままで良いのか…でも、今更戻れない。
膨れ上がる自分の本心。自分は本当に留学したいのか。
本当はまだ皆と一緒にいたいんじゃないのか。
でも、もう答えを出すのは遅い。
結局暗い表情は一切取れないまま、ことりは旅立ちの時間を待つのであった。
「…」
時を同じくして音乃木坂学院。
誰もいない講堂内には、一人の少女がぽつんと佇んでいた。
「…よし…」
決意を込めた小さな呟き。
迷いを捨てた少女…高坂穂乃果は、ようやく見つけた答えを抱え親友の到着を待っていた。
「…凄い…静かだな」
誰もいない朝の講堂。
講堂はおろか、休日な為学校内にすら人は殆どいない。
ファーストライブの時以上にがらんとした広々とした講堂に、穂乃果はただただ耳を澄ませていた。
ーーーーーコツ、コツ。
「…来た」
静寂に包まれた講堂。
こちらに近付く足音を、穂乃果の耳はしっかりと捉えた。
ゆっくりと近付く足音を聞きながら、穂乃果はただじーっと待つ。
そしてやがて、その足音は扉の前で止まった。
ーーーーーギィィ……
ゆっくりと開かれる扉。
そして一人の人物が中に入ってくる。
真剣な表情を浮かべたままその人物はそのまま穂乃果の元へ歩いていく。
「…」
その様子を穂乃果はただただ見つめていた。
一切表情を変える事無く。
やがて穂乃果の元へ近付く人物が中央辺りで足を止めると、穂乃果は静かに口を開いた。
「…海未ちゃん…」
講堂に来た人物…園田海未と久し振りに会った穂乃果は、少し緊張を含みながら話し掛けた。
そして、次の瞬間穂乃果は勢い良く頭を下げた。
「ごめん!本当にごめん!学園祭の失敗から始まって今まで本当に沢山迷惑掛けて、勝手にスクールアイドルをやめるなんて言っちゃって本当にごめんなさい!」
申し訳無さそうに頭を下げる穂乃果。
それに対し海未は表情を変えず真剣な面持ちのまま穂乃果の言葉を聞いていた。
穂乃果は頭を上げると続けて言った。
「スクールアイドルをやめてから気付いたんだ。私、やっぱりスクールアイドルが好き。廃校阻止とか、ラブライブとかにずっと意識がいっちゃってて、始めた時には持っていた大事な事を忘れてた…こうなるまで私気付かなかった!」
「…」
「でも、いろいろ思い出したの。スクールアイドルを始めた時の事、ここでファーストライブをやった時の事、始めてランキングに入った時の事、皆がμ'sに入ってくれた時の事、9人で始めてライブをした時の事、路上ライブの事、合宿の事…全て」
「…」
「どれも笑顔だった。笑顔が溢れてた。そこでようやく気付いたの!これがスクールアイドルを続けたい本当の理由だって」
「…」
「踊る事が好き。歌う事が好き。皆の笑顔が好き。皆に私達のライブを観てもらえる事が好き。そして何より、大好きな皆で皆を笑顔にするライブを作り上げるあの幸せな日々が凄く大好きなの!!楽しくて仕方がないの!!」
「…」
「また、あの時みたいに踊ったり歌ったり笑い合いたい!皆とスクールアイドルをやりたいの!だから海未ちゃん本当にごめん!これからもきっと自分勝手な事をして迷惑を掛けると思う…誰かが悩んでたりしてても気付けなかったり、入り込みすぎて周りが見えなくなっちゃうと思う…でも、私追いかけていたいの!!」
海未に対して放った穂乃果の思い。
これが穂乃果がようやく見つけた答え。
やりたいから。好きだから続ける。にこも言っていたのに何故か気付かなかった、忘れていた。
近すぎて見えなかった本心。本当はすぐそこにあったのに。
だが、穂乃果は見つける事が出来た。
皆の助けもあって、答えに辿り着く事が出来た。
スクールアイドルへの熱い思いを話す穂乃果の目は、一切曇りが無く真っ直ぐ海未を見つめていた。
「…」
対する海未はまだ真剣な表情を崩さない。
そんな海未を穂乃果は心配そうに見つめる。
また間違っていたのか?そんな不安が穂乃果の中で込み上げて来る中、次の瞬間穂乃果の耳に入ったのは意外な物だった。
「…ぷっ…」
「…え?」
「…くっ…ふふっ…あははははっ!」
真剣な表情から一変。
涙を浮かべながら海未は急に笑い出した。
「え?何?何で?」
突然の海未の大笑いに穂乃果は困惑する。
まさかこの状況で海未に笑われるなんて穂乃果の頭の中には当然無かった。
「何で笑ってるの海未ちゃん!」
少しの怒りを含んだ口調で海未に問う穂乃果。
すると海未は落ち着いたのか涙を拭いながら口を開いた。
「ふふっ、ごめんなさい。穂乃果が真剣すぎてつい」
「なにさ、私が真剣なのがそんなに面白かったの?」
ムスッとした様子の穂乃果。
海未に笑われたのが結構ショックだったらしい。
「だから謝ったじゃないですか」
「…むー…」
一向に機嫌が良くならない穂乃果。
そんな穂乃果に対し、海未は柔らかな笑みを浮かべながら今度は自分の思いを伝えた。
「穂乃果の思いは充分伝わりました。でも穂乃果、これだけは言っておきますけど、穂乃果には今までずっと迷惑掛けられっぱなしですよ?」
「…え?」
海未からの予想外の返答に思わず驚いた様な声を上げる穂乃果。
そんな穂乃果の様子もお構い無しに海未は続けて言う。
「スクールアイドルだって最初は嫌だったんですよ?歌もダンスも素人で、体力すらまともに無い。廃校阻止の為とはいえ、時間もあまり残っていない中で0から始めるのは無謀すぎる。そして何より、人前に出るのが苦手な私に出来るはずが無いって本気で思ってました。何とか理由をつけてやめようとしてたんですよ?」
「…」
「でも、私はそうしなかった」
「…何で?」
穂乃果は思わず海未に問う。
対する海未は、笑みを崩さずにはっきりと言った。
「楽しかったからですよ」
「…!…」
「穂乃果やことりや皆と一緒に踊ったり歌ったりするのが楽しくて、それを観たお客さんが楽しんでくれている所見ると、スクールアイドルをやって良かったと本気で思えるんです。そうしていく内に気付けば人前に出る事が少し楽しみになってきたんです」
海未はそう言うと、ゆっくり歩き出し穂乃果と同じステージ上に上がる。
そして更に海未は続けて言った。
「いつだって穂乃果はそうでした。後先考えず自分がやりたいと決めた事に真っ直ぐ突き進んで行く。私とことりは、そんな穂乃果に引っ張られてここまで来ました。勇気が出せなくて踏み出せなかった場所も、穂乃果はいつだって連れて行ってくれました。いつも私達に新しい景色を見せてくれる穂乃果の提案の数々。どれも後悔した事なんてありません。スクールアイドルだって、今はやって良かったと心の底から思ってます」
「…海未ちゃん…」
「だから穂乃果はずっとそのままでいて下さい。穂乃果に振り回されるのはもう私達は慣れっこです。例えもしこの先また穂乃果が間違ったとしても、今度は私達がいます。ダメだと気付いたらきちんと言いますし、穂乃果にちゃんと付いていきます。だから穂乃果はそのままやりたい事に集中して、周りを巻き込んで、真っ直ぐ突き進むあなたでいて下さい」
迷いの無い瞳で真っ直ぐ穂乃果を見つめる海未。
柔らかな笑みを浮かべながら話す海未の言葉は、本心である事が充分伝わってくる。
熱い海未の思いを聞いた穂乃果は、すぐ様口を開く。
「海未ちゃん!私…」
「その代わり」
穂乃果の言葉を遮るように海未が言う。
やがて海未は、期待を込めた眼差しで穂乃果を見つめると満面の笑みで言った。
「また連れて行って下さい!私達の知らない世界へ!」
海未ちゃんから言われた言葉の数々。
それは全て予想外な物だった。
そのままで良い…海未ちゃんはそう言ってくれた。
一人で突っ走って学園祭のライブを台無しにしてしまった私を…
周りを見ずにことりちゃんを傷付けてしまった私を…
皆を巻き込んで迷惑を掛けてしまった私を…
スクールアイドルを一度やめてしまった私を…
海未ちゃんは許してくれた。私の全てを…
海未ちゃんの言葉は優しくて、暖かくて、どんどん心が満たされていく。
私は一人じゃない。皆がいる。
「良かったら、穂乃果ちゃんにも来てほしいな…」
「穂乃果ちゃんが来てくれたら盛り上がるよ!」
「絶対来なさいよ」
「講堂で待ってる」
フラッシュバックする皆の言葉。
手を差し伸べてくれた絵里ちゃん。踏み出す一歩をくれた希ちゃん。私達の為に曲をくれた真姫ちゃん。
皆が…私を待っててくれている。
気付けば私は笑顔で答えていた。
「うん!私、やるったらやる!」
「やるったらやる…ふふっ、穂乃果らしいですね」
私の答えを聞いた海未ちゃんはそう言うと満足そうに笑う。
そして海未ちゃんは私から視線を外すと、がらんとした客席を見つめる。
一度深呼吸を挟んだ次の瞬間、海未ちゃんは口を開く。
「だって可能性感じたんだ…そうだ、進め」
あれ?この曲って…
綺麗な声で歌う海未ちゃんに吊られ、私も口ずさむ。
「後悔したくない目の前に…」
【僕らの道がある】
「やはり、この曲はことりがいないとしっくり来ませんね」
「…そうだね」
真姫ちゃんが私達の為に作ってくれた曲。ススメ→トゥモロウ。
一緒に入っていた歌詞カードにはしっかりとパート分けもされていて、やっぱりことりちゃんを含めた3人じゃないと完成にならない曲だという事が改めて分かった。
「穂乃果、START:DASH!!はまだ踊れますか?」
「…え?」
予想外の質問に私は思わず目を丸くする。
何でこのタイミングでその質問なの?
「踊れるけど…」
「じゃあ話は早いですね。穂乃果も聞いてるでしょう?今日ここでライブが行われる事」
「…うん。知ってるよ」
「では迎えに行ってあげてください。【9人目の女神を】」
「…!…」
海未ちゃんの口から放たれた言葉に私は更に驚く。
9人目の女神って…まさか…
「え、でも…」
「きっとことりは待っています。穂乃果に我儘を言って貰いたいんですよ」
「わ、我儘!?」
「そうです。有名なデザイナーから誘われて留学当日にやめる様に言える人物。それは一人しかいません」
「…!…」
「私はことりに行って欲しくありません!もっとことりと…穂乃果と3人で過ごしていたいです!スクールアイドルも続けたい…また一緒に学校に行って、帰って、また些細な事で喧嘩したり、笑ったり…穂乃果は…穂乃果は、どう思って…」
「…っ!…」
気付けば私の足は動き出していた。
海未ちゃんが勇気を持って私に話してくれた本心…ことりちゃんへの思い…
一緒だよ…そんなの一緒に決まってる!だって約束したじゃん!
路上ライブの後、神田明神で3人で誓ったじゃん!
…ずっと3人一緒にいようって!
「穂乃果!」
後ろから聞こえる海未ちゃんの声。
海未ちゃんの気持ちは伝わった。後は私の番。
その気持ちを、私の気持ちと共にことりちゃんにぶつければ良い。
私は振り向かずにはっきりと言った。
「海未ちゃん。皆と一緒に講堂で待ってて」
「…!…」
「9人でもう一度立つよ!ステージに!」
【君が失った物に、取り戻せない物は無いよ】
冬夜君、君の言った通りだよ。
取り戻せない物なんて、何一つ無いんだ。
私は走り出す。
再び9人で輝く為に。
「えっと…飛行機の時間は…」
勢い良く講堂を飛び出し、足を止める事無く時間を確認する私。
あの後海未ちゃんがどんな顔をしていたのかは分からないけど、背中越しに聞こえた「はい!」という声はとても嬉しそうに見えた。
海未ちゃんの思いも乗せたことりちゃんを連れ戻すという大事な仕事。
きっと皆もそう。神田明神で私をライブに誘ってくれた時、皆は私に観客としてでは無くて同じステージに立つμ'sの一員として声を掛けてくれた。
あの時から皆は信じていたんだ。9人であのステージに立つ事を。
「絶対に…失敗出来ない」
皆の思いを背負って駆ける大きな決意。
私は空港の場所の確認も兼ね、スマホを開く。
しかしここで私は大きな問題に直面する事になる。
「今の時間は7時30分…」
確か飛行機の時間は…あれ?8時じゃなかったっけ?
ここから空港までは…
「…」
恐る恐る空港の位置情報を立ち止まって打ち込む私。
嫌な予感がするのは気のせいであってほしいけど…
そして位置情報を打ち込んだ後、スマホに出てきた数字に私は驚愕する。
【所要時間 30分】
「うそー!!?」
間に合わないじゃん!?ここからそんなに掛かるの!?
いや嫌な予感は感じてたけどさ…そこは外れてよ!!
何でこんな大事な時に当たるのさ!
「どうしよう…タクシー使う?…いや、お金無いからまず無理…一度お家に帰る?…いや、只でさえ時間が無いのにそんな余裕は無い…」
え…もしかして、詰み?
いやいやちょっと待って!ここまで来たんだよ!?ここまで来たのに物理的に無理なんて!
「どーしよー!!!ことりちゃん連れ戻しに空港まで行かなくちゃいけないのにー!!」
まさに八方塞がり。ただただパニックだった。
どんな方法を考えても間に合いそうに無い…
でもこの想いは止められない。あんな事言って海未ちゃんと別れたんだから間に合いませんでしたじゃ絶対に納得しない。
…こうなったら…
「走るしかない!」
私が出した結論はそれだった。
「所要時間を上回るぐらい早く走れば間に合う!」
それは一種の自己暗示みたいな物。
自分にそう言い聞かせなきゃまた心が落ち込んでしまう気がした。
そして何より考えてる時間がもったいない!
「よし、行こう!」
私はより一層気合を入れると、足に力を入れ勢い良く走り出す。
そしてそのまま校門を飛び出してその時だった。
「ばーか。そんなんで間に合うはずないだろ」
「…!…」
聞き覚えのある声に思わず足を止める私。
声のした方へと顔を向ける。
私の視界に映った物。それは…
「ま、穂乃果らしいけどな」
柔らかく微笑みながらこちらを見つめる、冬夜君の姿だった。
「な…なんで…」
私は思わず呟いていた。
でも冬夜君が何故ここにいるか分からなかった。一番無いと思ってたのに…
「説明は後だ。乗れ」
冬夜君はそう言うと、1台の自転車を指差す。
これ、いつも冬夜君が愛用している自転車じゃ…
「ことり、連れ戻すんだろ?」
「え、何で知ってるの?」
「学校前であれだけ一人で叫んでりゃ嫌でも聞こえるって」
…バッチリ冬夜君に聞かれてたんだ…あの独り言。
「いいから早く乗れ」
冬夜君はそう言うと自転車に跨り私を見つめる。
これってもしかして…二人乗り!?
「だ、大丈夫なの?」
「心配すんな。正直警察がいるかどうかは運だが、時間には必ず間に合わせる。俺がここ数年で培った土地勘を生かして最短距離で空港まで連れて行ってやる」
「…!…」
自信満々に言う冬夜君に思わず胸が高鳴る。
ーーーーーカッコいい…
そう思ってしまうくらいに。
本当にずるいよ…冬夜君は。
冷たく突き放したり暖かく手を差し伸べたり…
…あれ、何でこんなに私、ドキドキしてるんだろう…
「…本当に、連れて行ってくれる?」
気付けば私は冬夜君に聞いていた。
冬夜君に頼るしかないのは分かってる。分かってるけど、まだ自分の中でも半信半疑なんだ。
本当に自転車で間に合うのかって。
だからこそ聞きたかった。
もう一度、彼の言葉が。
「ああ、約束する」
彼が発したその言葉は、優しくて、暖かくて、自信に満ち溢れていて、私の不安を全て消してくれた。
ありがとう…冬夜君。信じるね。
私はすぐ様冬夜君の後ろに乗ると、がっちりと抱きしめる。
「…」
まずい…自分でも顔が赤くなってるのが分かる…
でも、これは不可抗力だもん!落とされない為には仕方ない事!
そう自分に言い聞かすけど熱を帯びた体は一向に冷めない。
冬夜君は…どんな気持ちかな?
「じゃあ行くぞ」
…あれ?意外と気にしてない?
それはそれで傷付くんだけど…
「…!…」
チラリと冬夜君の顔を覗き込んで見る。
そして、私は気付いた。
「飛ばすから、その手離すなよ」
ふふ、強がっちゃって。でもそうだよね、そう言うしかないよね。
私は冬夜君の言葉に返す様に抱きしめる力を強める。
「…っ…い、行くぞ!」
「うん!」
走り出す自転車。
次第に乗るスピード。
私は赤く染まった彼の横顔を思い出しながら、その小さくて大きい背中に身を委ねるのだった。
後悔先に立たず…とはよく言ったものである。
刻一刻と迫る旅立ちへのタイムリミット。
空港のロビーで一人待つ少女は、1枚のCDを手に持ちながらため息をつく。
「はぁ…」
時間が迫るに連れ膨れ上がる私の中の思い。
ーーーーー本当はもっと一緒にいたい。
分かっていた。薄々感じていた。
でも、答えを変えるのが怖かった。一度出した答えを変えてしまうのが。
本当に後悔しないか?皆は許してくれるか?
そんな不安がぐるぐると回って気付けば後戻り出来ない所まで来てしまった。
…おかしいよね…自分の事なのに決められないなんて…
「…」
ふと私は近くにあった時計に目を向ける。
7時55分…
もう…これ以上は…
「…行かなきゃ…」
結局最後まで誰も来なかった。
無意識の内に待っていたんだ。誰か、私を呼び止めてくれないかなって。
きっとそんな無茶な事を言ってくれるのは穂乃果ちゃんだけだと思う。
…でも、来なかった。穂乃果ちゃんなら来てくれるかもって勝手に期待してた。
そりゃそうだよね…そんな虫の良い話、あるはずない。
だってあの日以来、話せてないんだもん。穂乃果ちゃんが来るはず…
諦めてゲートまで歩き出した…その時だった。
「待って!!!」
不意に誰かに掴まれることりの腕。
ことりの耳に入る聞き慣れた声。
腕に感じる幾度なく救われてきた心地よい温もりと、込み上げてくる安心感。
気付けばことりは涙を流していた。
「…っ…」
「ことりちゃん…引き止めちゃって本当にごめん!でも、私もう決めたの!」
「…!…」
「私、スクールアイドルやりたい!ことりちゃんと一緒にやりたい!いつか別々の夢に向かうときが来るとしても…だから…」
穂乃果は一度そこで言葉を止めると、ことりを抱きしめながらはっきりと言った。
「ことりちゃん…行かないで!!!」
穂乃果が発した精一杯の叫びと最大の我儘。
涙を流しながら懇願する様にことり抱き着く穂乃果。
周りの視線なんてどうでも良い。ここは二人だけの世界。
無茶なのは百も承知。でも、そこまでしてでも穂乃果はことりを取り戻したかった。
やがて、ことりは穂乃果の叫びに対し返す様に抱き締め返しながら言う。
「ごめんね…穂乃果ちゃん…自分の気持ち、分かってたのに…」
抱き締め合いながら涙を流す二人。
二人の耳に入ったのは、互いの涙の音と飛び立つ飛行機の羽音のみだった。
「…!…そうだ、ことりちゃん時間が無いんだよ!」
「…?…」
それから数分。
暫く泣き続けた二人は、落ち着いたのかスッキリしたような表情を浮かべ少しだけ距離を取る。
そんな中、思い出した様に慌ただしく言う穂乃果にことりは可愛らしく首を傾げた。
「この後講堂でμ'sのライブがあるの!」
「ら、ライブ?」
「そう!急でごめんなんだけど、ことりちゃんにも出て欲しいんだ!μ'sの復活ライブに」
「…えっと…本当に突然だね。でも分かった。それで何時からなの?」
「確か時間は9時からで…あーっ!!後30分しか無い!どうしよー!!」
さっきまで泣いていたかと思えばこの慌て様。
コロコロ変わる穂乃果の様子に思わず周りから笑い声が飛ぶ。
「ちょ、ちょっと穂乃果ちゃん…」
さすがにことりは恥ずかしいのか一人慌ててる様子の穂乃果に歩み寄る。
そして穂乃果は歩み寄ることりをチラリと見ると、直ぐ様ことりの手を取り走り出した。
「え!ちょっと穂乃果ちゃん!」
「とりあえず行こう!ことりちゃん」
猪突猛進、無我夢中。
もはや彼女の頭の中にはライブの事しか入っていないのだろうか。
ことりの手を取ったままひたすら前へ走る穂乃果。だが、これが高坂穂乃果という人物だ。
「…ふふ…」
穂乃果に引っ張られる様に走ることり。
だが、その表情は笑顔でありまるで暴走する穂乃果を楽しんでいる様子だ。
短い様で長い時間。留学の準備の間は自宅に訪れた海未を除いて他のメンバーとの関わりが無かったことりにとっては、戻りつつあるこの日常は、とても懐かしく嬉しい物だった。
「とにかく走るよ!ことりちゃん」
「うん!」
焦る穂乃果と楽しそうなことり。
周りの目なんて気にする素振りも見せず、その足を止める事無く空港から飛び出して行く。
そしてそのまま二人が道路に差し掛かったその時だった。
「すいません!!」
「「…!…」」
突如何者かに呼び止められる声。
声を掛けられると思わなかったのか驚いた様な表情を浮かべ足を止める二人。
恐る恐る声がした方に振り返ると、そこにはタクシーの運転手だと思われる風貌をした30代半ばくらいの男性が立っていた。
「高坂穂乃果さんと南ことりさんでお間違えないですか?」
「はい、そうですけど…」
「良かった…あ、突然すいません。私、タクシーの運転手をやってる山本と申します」
「あ、はい…よろしくお願いします」
ただただ困惑だった。
知らない人物から声を掛けられ名前まで知られている良く分からない状況に二人は混乱。
急いでいる事もあり、痺れを切らした穂乃果が恐る恐る口を開く。
「えっと…私達に何の用ですか?」
「先程前髪の長い男性から頼まれ事をされたんですよ。オレンジのサイドテールをした女の子とベージュの鶏冠みたいな髪型の女の子が来るから音乃木坂まで送ってほしいと」
「「え?」」
男性の言葉に目を丸くする二人。
そして互いに目を合わせると、その表情は段々嬉しそうな表情へと変わっていく。
「前髪が長い男性って…」
「うん!間違いないよ!」
「「冬夜君だ!!」」
冬夜が行ったタクシーの手配。
その事に気付いた二人は手を取り合いながら喜ぶ。
「あ…でもお金…」
「あ、お代はもうその男性から頂いているので結構です」
「え!本当ですか!?」
「はい。きっちり二人分」
「嘘…冬夜君そんな事まで…」
冬夜の優しさに触れた二人の表情は、みるみる内に赤くなっていく。
ことりに至っては少し涙目になっている程だ。
「急いでいるんですよね?早速行きましょうか」
「…!…そうだ、早く行かないと!乗るよことりちゃん!」
「うん!後で冬夜君にお礼言わないとね!」
タクシーの手配と代金まで支払ってくれた冬夜に感謝しながら二人はタクシーに乗り込む。
車であれば時間には間に合う。
ホッと一息をつく二人に、男性は思い出した様に言う。
「そうだ、一つ言い忘れてました。先程の方から伝言預かってるんですよ」
「…伝言?」
「はい」
「【もう一つの夢、叶えてこい】」
男性の口から告げられた冬夜からの伝言。
もう一つの夢を叶える。この言葉には、確かな心当たりがあった。
「覚えててくれたんだ…」
二人の脳裏に浮かぶのは初めて講堂でライブをした時に穂乃果が言った言葉。
「この講堂を満席にしてみせます!」
あの時、穂乃果が絵里に放った約束。
冬夜はその時の誓いをしっかりと覚えていた。
「事情とかは良く分かりませんが…凄く良い人ですね」
柔らかい笑みを浮かべながら二人に言う男性。
その言葉を聞いた二人は満面の笑みを浮かべると、
「「うん!!」」
と返すのだった。
「本当に間に合うの!?」
ライブ開演数分前。
穂乃果とことりの到着を待つ冬夜を除いた8人が制服姿のまま舞台袖で待機していた。
「きっと間に合います。大丈夫ですよ」
そう自信満々に答えるのは海未。
迷いや悩みが吹き飛んだかの様な清々しい澄んだ表情。
そして何より皆で穂乃果とことりを待っているこの状況がμ's復活へ着実に進んでいる事を示している。
冬夜もこの場にはいないだけで学校内にはいる。
ライブも観ると言っていたし心配はいらないだろう。
「本当に制服で良いの?」
続いて口を開いたのは凛。
凛はライブでの衣装が制服である事に不安を抱えているようだ。
「スクールアイドルらしくて良いんじゃない?」
真姫が微笑みながら直ぐ様凛に返す。
珍しいな。真姫がそんな表情するの。
「そうしてる間にもう時間やけど…」
続いて希が時間を確認しながら不安そうな表情で言う。
開始時間はもうすぐ。そろそろステージに上がりスタンバイしなくてはならない。
「お客さんを待たせる訳にもいかないわ」
絵里も少し険しい顔で言う。
チラリと目を移した客席には今か今かとライブを待ち侘びている満員に入ったお客さん達。
立ち見をする人もいる程の人気っぷりだ。
…さすがにこれ以上は待てないか。
「お願い…間に合って…」
花陽が祈る様に言う。
だが俺は不思議と焦っていない。どうしてだろうな…
穂乃果達が間に合うって信じてるからかな。
「来るよ。今」
俺は扉の方を見つめながら自信を持って言う。
そして皆の視線が扉に集まったその時だった。
「ま、間に合った!?」
突如開かれる扉。
勢い良く入ってくる一人の少女。
少女の問いに答える様にホッとした表情で首を縦に振る俺達。
それを見た少女は満面の笑みを浮かべながら言う。
「良かったー…お待たせ!皆!」
「全く、ギリギリセーフだぞ穂乃果」
太陽の様に眩しい笑顔で自慢のサイドテールを揺らしながらこちらへ駆け寄る。
「えへへ…でも、ちゃんと連れてきたよ!」
そう言い穂乃果は入ってきた扉を指差す。
そして再び皆の視線が扉に集まると、柔らかな笑みを浮かべた久し振りに見る少女が入ってきた。
「ことり!」
「ことりちゃん!」
思わずその少女の名を口にする皆。
燥ぐ者、ホッと一息をつく者、笑顔を浮かべる者。戻ってきたことりに対してのリアクションはそれぞれ違う。
ただ、共通して言える事は皆心の底から喜んでいるという事だ。
勿論、それは俺も例外じゃない。
本当は皆と一緒に騒ぎたいくらいだ。
でも、生憎今はそんな時間は無い。
「感動の再会は後だ。もうライブが始まるぞ」
本当はもう少し余韻に浸りたい。話したい事も沢山あるが、それはライブの後にも出来る事。
だって、もう皆ここにいるから。
「そうやね。じゃあライブ始まる前に部長から一言」
いつぞやの無茶ぶりと同じ様ににこに振る希。
しかし、急な振りに対し余裕そうな表情を浮かべながらにこは言う。
「ふふん、そう来ると思ったわ。今回はちゃんと用意してるわよ!」
何!?ちゃんと対策してる!
いつものにこと違う!
「…何よ太陽その意外みたいな顔は」
「いえいえ何でもございません」
やべ、普通に顔に出てた。
この癖治そう…
にこはわざとらしく咳払いをすると、復活するμ'sの士気を高めるため笑みを浮かべながら高らかに言う。
「今日皆を、最高の笑顔にするわよ!!」
にこの言葉に皆にも笑みが溢れる。
その皆には勿論、俺達自身も含まれているんだろうな?
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9!」
皆が手を重ね、穂乃果から始まった点呼。
絵里が言い終わった途端、皆の視線が俺に集まる。
「…え?」
まさか、俺も?
「早く。皆待ってるわよ」
急かすようににこが言う。
…全く…俺はあくまでもコーチであってμ'sでは無いんだが…まぁたまにはこうゆうのも良いか。
実はちょっと混ざりたかったし。
俺は笑みを浮かべ、一番上に重ねる。
そして、期待の眼差しで見つめる皆に応える様に俺は言う。
「10!!」
「よし、行くよ!!μ's…ミュージック…」
「「「「「「「「「「スタート!!」」」」」」」」」」
復活した女神達のライブが、遂に始まる。
今までを凌駕する輝きと最高の笑顔を纏いながら。
「…始まったか」
μ'sの復活ライブがスタートしたその頃。
俺は一人アイドル研究部の部室にいた。
「良く撮れてるじゃん」
俺が見ているのは今、講堂で行われているμ'sのライブの様子。
ヒデコ達や学園長に協力して貰い、ネット上で生放送として現在進行形で動画を撮ってもらっている。
「…ここまで来たか…」
一度は崩壊したμ's。
だが、少しのヒントはあったが彼女達は自分自身で立ち上がった。
自分で動き自分で答えを見つけ、自分の意思でμ'sを再結成させた。
そこに俺の手は無い。
穂乃果が立ち上がったのはメンバーそれぞれが穂乃果を気にかけ様々な言葉を掛けてあげたから。絶望していた穂乃果を引っ張り上げたから。
それが無ければμ'sの再結成は間違い無く無かった。
皆が皆、心の底からこのメンバーでスクールアイドルを続けたいと思ったから穂乃果に手を差し伸べ、穂乃果がことりを連れ戻す事を信じて待っていた。
ことりも、自分の気持ちに気付きスクールアイドルを続けたいと思ったから留学を寸前でやめて戻ってきた。
夢の為の大きな一歩になる留学を飛行機に乗る寸前でやめるなんてよっぽどだ。この日まで沢山準備して沢山考えて時間もかなり掛かっただろう。
彼女達の原動力は、【ただやりたい気持ち】それだけ。
でも、それで充分。そこに目標なんていらない。
このメンバーでスクールアイドルをやっていたい。その気持ちが全員にあればきっと、μ'sはもう壊れない。
続ける理由を探せなんて言ったけど、実際はちゃんとした理由なんていらないんだ。
彼女達は、それを自分で気付けた。
コーチである太陽も、皆のサポートに徹していた。
にこ達と共に居場所を守り、復活する舞台を作った。
「講堂でライブをやろうと思う。μ'sの復活ライブを」
俺との衝突から数日後に来た太陽からのメッセージ。
今、μ'sが行っているライブは全て太陽が企画した物だ。
使用の許可からチラシ配り、音響や照明の確認。全て太陽が行った。
これでμ'sが復活しなかったらどうするんだと思うかもしれないが太陽の頭にはそんな考えは存在していない。
ただひたすらに信じていたんだ。誰よりもμ'sの復活を。
そんなコーチと、強い絆で結ばれた絶望を知る女神達がいれば、更なる高みを目指せるだろう。
3年生が卒業する前にもう一度ラブライブがあるかは分からないが、もし開催されるならきっと…
きっとμ'sは…
「…さて、始めるか」
俺は慣れた手付きでパソコンを動かしていく。
画面にはかつてμ'sの名が載っていたスクールアイドルの大きなサイト。
もう俺に出来る事は限られている。出来るのは…
「あいつらをもう一度、スタート地点に立たせてあげるくらいか…」
「私たちのファーストライブも、この講堂でした。その時、私は思ったんです。いつか、ここを満員にしてみせるって。一生懸命頑張って、いま、私たちがここに居る。この想いを、いつかみんなに届けるって!その夢が今日、叶いました!だから、私たちはまた駆け出します。新しい夢に向かって!」
耳に入る穂乃果のMC。迷いや後ろを振り向く気配など少しも無い。
俺は少しだけニヤリと笑うと、静かにクリックボタンを押す。
今日はμ'sのリスタートの日。
【音乃木坂アイドル研究部 μ's】
【Catch your Dream!】
再び女神達の名が刻まれる様を見届けた俺は同時に思うのだった。
今、この瞬間
【マネージャーとして最後の仕事が終わったのだと】
復活した音乃木坂スクールアイドルμ's。
しかし、その一方でまた1つ。何かが終わろうとしていた。
「…気持ちは、変わらないんだな?」
「ああ、変わらない」
交わらない二人の歩く道。
必死に紡いだ言葉も、そこでは意味を成さない。
「続けるよ。最後まで」
始まりと終わりは表裏一体。
終わりを告げる物…それは…
「約束…守ってくれますよね?」
〜次回ラブライブ〜
【第31話 二人の方向性】
お楽しみに。